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第22話 魔物の森と山

 1日かけて、私たちは魔物の森へたどり着いた。乗って来た馬車と馬は国境の村に戻って、そこで待機することになっている。ここからはロウド王国の魔物に騎乗してロウド王国を目指す。

 交易が順調に進めば、5カ国にあるような転移門を設置する予定だそうだ。まずは浄化をして、安全を確保することが肝要だ。

 瘴気の澱んだ空気に、馬たちが怯えたように忙しなく頭を上下している。ここまでが限界のようだ。私たちは浄化の魔石をつけているから幾分マシだが、それでも少し息がし辛く感じる。ロウド王国からの迎えと合流するまで、この場所で暫し待機だ。私は皆が集まっている場所に、浄化の結界を張った。

「オーレリア様、大丈夫ですか?」

「はい、待っている間だけですから、それほど魔力も使いませんから、大丈夫です」

 護衛の為について来た魔法騎士団の隊長さんが、結界に気づいて体調を確認してくれた。出発前にクリスが隊長であるユリウス様を脅して、いや、私のことを頼んでいたので気遣ってくれたのだろう。


「おう、来たか」

 アレン様が手を上げて森の方を見た。私の目にはまだ何も発見できていないが、どうやら少し先に、迎えの獣人と馬のような魔物が来ているようだ。

 しばらくすると、ドッドッドッと地響きの音がして、大きな馬のような魔物が数頭現れた。馬よりも体は3倍ほど大きいし、足もかなり太い。これなら大人が数名乗っても平気そうだ。

「全部で5頭か。魔法騎士団、乗りこなせそうか?」

「いや、流石に少し練習させて欲しい。いきなり森へ行くのは自信がない……」

「まあ、それはそうだろうな。ミルバ、騎士団に乗り方を教えてやってくれ。乗れるようになったらすぐに出るぞ。日が暮れる前に安全な場所まで行きたいからな」

「私も練習していいかしら?」

 キャロライン様が、興味深く魔物を見ている。好奇心が疼いている様子だ。

「構わないが、大きいから腕力も必要だぞ」

 アレン様が心配そうにキャロライン様を見た。結果、一番早く乗りこなしてしまったのはキャロライン様だった。教えていたミルバさんもびっくりの腕前だ。

「流石、俺の妃だ。では、キャロラインのところにチャーリーとオーレリア嬢が乗り、残りは3、4名に別れて乗ってくれ」

「アレンはどうしますの?」

「俺たちは獣化して並走する。途中で魔物に遭遇した時、その方が対処しやすいからな」

「獣化?」

「ああ、俺たち獣人の中には、完全に獣化できる者がいる。戦う時は獣化した方が、力が強い。今回ここへ来た者は、皆、獣化できるからな」

 そう言ってアレン様たちは、何かを口の中で唱えた。呪文のような感じだろうか。見ている間に、アレン様たちは、獣の姿へ変化した。

「まぁ、アレン。大きい白いヒョウなのね。もふもふね」

 嬉しそうにキャロライン様がアレン様の首の後ろを掻いている。知らないものが見れば、卒倒ものだ。それほどにアレン様は大きい。普通のヒョウの3倍はあるように見えた。

 首を掻かれて、アレン様も満更ではないようで、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。キャロライン様にかかれば怖そうなユキヒョウも、大きな子猫に見えてしまうから不思議だ。

 他の獣人たちも次々と変化していく。ミルバさんは銀色の狼の姿だ。他の獣人は茶色の狼になった。

『よし、ではそれぞれ騎乗したら行くぞ。キャロライン、無理はしなくていいからな。疲れたら俺が代わる』

「ええ、ありがとう、アレン」

 仲睦まじい二人を見ると、1日しか離れていないのに、無性にクリスに会いたくなった。まだ出発したばかりなのに、先が思いやられる……

「オーレリア様、チャーリー。しっかり掴まって下さいね。大きいので不安定ですから」

 馬に跨るというより、大きな鞍の上に乗っかっている感じだ。足で踏ん張ることは難しく、腕の力で鞍に付いた取っ手を掴み、体を低くしてしがみつく。チャーリー君はキャロライン様の前に座り、念のためお互いの体をロープで固定してある。キャロライン様が支えながら騎乗しているが、流石元騎士団だけあって、操作が上手い。

 半日ほどかけて、私たちは国境にある砦に到着した。ここは元々アレン様が、反乱軍を率いて王位簒奪を行うまで、防衛の任についていた砦だそうだ。夜の移動は危険が伴うため、ここで一晩過ごし、翌朝一気に王城まで行くそうだ。

「贅沢は出来ないが、雨風、魔物は凌げる。食事は簡易なものですまないが、ゆっくり休んでくれ」

 獣人の姿に戻ったアレン様が、自ら部屋に案内してくれた。手渡されたのは3人分の簡易食だ。砦は堅牢な石造りで、魔物の侵入を阻むことは出来るが、宿泊施設としては最低限のものになるようだ。この部屋でキャロライン様とチャーリー君と一緒に暫しの休息だ。

 ここに来るまでに、小型、中型の魔物と数度遭遇した。アレク様の指示で、出来るだけ戦闘はせず、体力を温存したが、襲ってくる魔物は駆逐した。凶暴な魔物を初めて見た私は、少なからずショックを受けていたようで、ベッドに入ってからもなかなか寝付くことが出来なかった。

「オーレリア様、寝付けませんか?」

 隣のベッドから静かに声がかかる。

「はい、目が冴えてしまって……」

「初めて魔物との戦いを経験したのです。無理もないですわ。私も初めての時はそうでした」

「キャロライン様もですか?」

「ええ、魔法学園を卒業してすぐに魔法騎士団に配属されて、運悪く経験も積まないまま、魔物討伐隊に参加したのです。次々と現れる魔物に対応するだけで精一杯でした。その時に白の魔法使いであるクリスティアン様の存在を知りました。皆が混乱する中、彼だけが一人で涼しい顔をして、次々に魔物を駆逐していました。魔法の腕だけは本当に賞賛に値しますし、今でも尊敬できますわ」

 魔法の腕だけ、というキャロライン様に、私は自然と微笑んでいた。少し緊張が解れた気がしたら、眠気が突然やって来た。どうやら思っていた以上に、疲労が溜まっていたようだ。

「ゆっくりお休みください」

 スースーと眠るチャーリー君の寝息に耳を傾けながら、私も瞳を閉じた。


 翌朝は雲一つない快晴だった。

 アレン様の希望で、砦の側に天界樹の苗木を植え、祈りを捧げた。苗木はすぐに力を蓄え、淡く輝きだした。

「やはり聖女に祈りを捧げられた苗木は、清浄の力が広範囲になるようだ。苗木の根元に、祈り保存用に魔石を埋め、効果を持続させれば、10年の浄化の効果が20年に延びる、と予測させている。王城へ着くまでに、数ヶ所苗木を植える予定の場所がある。中には魔物の生息地に近い場所もあるので、警戒を怠らないで欲しい」

 私たちは昨日と同じように、それぞれ騎乗して移動を開始した。順調に進めば、今日の夕方には王城へ到着するそうだ。馬のような魔物は丈夫で大きいだけあって、走る速度も馬よりも早い。力も強いので、大きな荷物も運べるそうだ。それを聞いた隊長のユリウス様が、本気でこの魔物を欲しがっていた。


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