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第16話 天界樹と聖女

 チャーリー君の言葉を聞いて、キャロライン様が頬を染めた。アレン様は嬉しそうに、二人をぎゅっと抱き寄せた。

「俺の番、俺の息子、家族みんなで一緒にロウド王国へ行こう」

 チャーリー君は嬉しそうに笑った。キャロライン様も幸せそうに微笑んだので、話はまとまったようだ。


「では、この件は話がまとまったということで、今後のことも含めて話し合いをしたい」

 キースお兄様がアレン様へ同意を求めると、覚悟を決めたようにアレン様は頷いた。

「まずは、タランターレ国に獣人が来ていた目的を聞かせて欲しい」

「……それは、天界樹の苗木を採取することと…聖女を攫うためだった」

「「は?」」

 お兄様とクリスティアン様が同時に声を上げた。私は驚きすぎて声も出なかった。聖女って私ですよね?

「俺たちは聖女に会おうと探していたが、タランターレ国に長く聖女は現れなかった。だから、最近までは苗木だけを採取していた。潜入したのは、戦争を仕掛けようとかそういう目的ではない」

「……聖女を攫ったら、僕は一人でも戦争を起こすくらいするけどね」

 クリスティアン様が冗談だとは思えないほど低い声で呟いた。

「白の魔法使い……そうか、新聞に聖女と結婚したと書いてあったな。貴殿の番が聖女か。それでは聖女の居場所も分かるのか?」

 期待に満ちた目でアレン様がクリスティアン様を見た。どうしよう、聖女を絶世の美女だとか思っていそうな雰囲気だ。まさか私ですとは言えないと思っていたら、皆が遠慮がちに私の方を見た。つられてアレン様も私を見てしまった。

「まさか、この少女が聖女なのか?」

「しょ、少女……、一応私成人していますし、結婚もしました」

 子供扱いされて、少し自尊心が傷ついた。確かにキャロライン様に比べたら、お子様扱いされても仕方ないとは思うけど。特に体はまだ発展途上だと信じたい。

「それは失礼をした。警戒しないでもらいたいのだが、攫うと言っても、用が済めば返すつもりだった。ロウド王国には天界樹がないからな。聖女は本来必要ないものだった。番として攫われてきた人間の中に、神官をしていた者がいて、その者から天界樹のことを聞いたそうだ。苗木の存在もその時に知った。もう100年以上前のことだ。苗木は10年ほど土地に根付き、瘴気を祓い魔物を遠ざけた。でも、それ以上経つと普通の樹になるんだ。俺たちは定期的に天界樹から苗木を採取するしかなかった。天界樹には聖女が必要だと聞いて、ロウド王国に植樹された天界樹の苗に、聖女が祈ればいいのではないかと探していたんだ」

 返すと言っているが、その話だと聖女の祈りに効果があれば、返さないのではないだろうか?私の思った疑問は皆も考えたようで、隣に座っていたクリスティアン様が、警戒するように私を引き寄せた。

「待て、誤解だ。俺たちの国には祈りを保存できる魔石がある。常に聖女がいる必要はない」

 クリスティアン様が、驚いたようにアレン様を見た。天界樹を有する5カ国で、そんな魔石が存在するとは聞いたことがない。もしそのような魔石があるなら、そもそも聖女をガレア帝国に花嫁として差し出すようなことはしてこなかったし、毎朝天界樹に祈りを捧げていなかったかもしれない。

「そんな魔石が存在するとは聞いたことがない。詳しく説明をして欲しい」

 アレン様曰く、攫われるようにして連れてこられた人間は、獣人に比べて力が弱く、自衛の術を待たない者が多かった。人間は自分たちが生き残るため、何か方法がないかと考えた。そうしてロウド王国にごろごろと落ちている魔石に魔力を保存する方法をあみ出したそうだ。魔石に保存した魔法は、魔力を持たない人間にも使えるそうだ。開発されてからすでに100年、魔石への魔力保存は改良を重ねられ、今では獣人の生活にも広く使われているそうだ。

「待て、今信じられない言葉が混じっていた。魔石がごろごろ落ちていると言ったのか?」

「ああ、俺たちは魔物と共存しているからな。倒した魔物から魔石が取れる時もあるし、魔物の屍が時間をかけて魔石になる事もある。魔石鉱山もあるぞ」

「確かにタランターレ国でも魔石を必要とするため、魔法研究所と魔法騎士団合同で魔物を倒すため、隊を編成して定期的に魔石を採取していた。それでも取れる魔石は微量で、魔石は高値で取引されているんだぞ」

 魔法研究所と魔法騎士団で合同討伐隊……もしかして、クリスティアン様とキャロライン様はそこで面識があったのだろうか?先ほどキャロライン様が戦っていた時、アレン様はかなり驚いていたが、クリスティアン様は気にする素振りはなかった。

「どうした、リア?僕の顔に何かついている?」

「……もしかして、キャロライン様とクリスティアン様は魔石採取の時に知り合ったのかと……」

「ん?ああ、そこか。結構魔法研究所と魔法騎士団は密な関係で、合同演習や魔物討伐で一緒になる事があったんだよ。彼女は若いのに強くてさ、面白いと思ったんだ」

「まあ、そんなこと言っていませんでしたわ。君がいればリアは安全だと、開口一言酷い言われようでした。魔法の腕は尊敬できますが、人間性は最低でしたわ」

 恨み言がキャロライン様の口から洩れた。アレン様が面白くなさそうな顔で、キャロライン様の腕をぐいっと引き寄せた。

「嫉妬ですの?長いこと待たせておいて、私が他の方と結婚していたらどうしていましたの?」

「もし結婚していたら、勝負を挑んで奪い返していた。キャロラインの側には常に監視の獣人を置いていたんだ。そんな報告は受けていないが、まさか縁談の話が来ていたのか?」

「監視の獣人……」

 不穏な言葉にキャロライン様が固まった。アレン様は気にした様子もなく頷いた。

「別邸付きのメイドがいただろう?アンという名だったか?あの者は猫の獣人だ。うちの公爵家が昔から雇っていた暗部の者だからな」

「アンがですか?確かに5年前に雇いましたが、ちゃんと紹介状を持っていましたよ」

「はは、そこはどうとでもなるな」

「……なるほど、我が国に獣人はかなり馴染んでいると、そう認識した方がいいということか……」

 キースお兄様が、頭をガシガシと掻きむしりながら溜息をついた。獣人は私たちが考えるより柔軟に、人間社会に馴染んでいるようだ。

「取り敢えず脱線した話を戻そうか。獣人は聖女を求め、天界樹の苗木を無断で拝借して獣人の国に移植していたということだな。そして我々はその事に100年間気づかなかった、と」

「ああ、そうなるか」

「では。どうして今更それを我々に告白したんだ?」

「俺たちの国は、タランターレ国と正式に国交を開きたいと考えている。反乱直後で国は少なからず混乱している。ここより北部に位置するロウド王国の冬は厳しい。獣人は体が強いが、人間はそうはいかない。魔物の肉を食用として狩っているが、草食獣人や人間はそれだけでは生き延びられない。食料自給率を上げるのは今後の課題だが、差し迫った冬には間に合わない。弱い人種は多く死んでしまうだろう。反乱後は人間の人権を守ると公約している。そこでロウド王国から一番近いタランターレ国と貿易をしたいと思ったんだ」

「貿易か。ロウド王国は何を売る気だ?」

「魔物の肉、それと魔石だな。そこ、引かないで欲しい。魔物の肉も加工すれば案外旨いんだぞ」

 その場にいた者は半信半疑の目でアレン様を見た。


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