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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

釣人A的黙示録(『転生勇者と転移してきた最強魔王』スピンオフ)

 ――山梨県某所……。


 とある森の奥地に存在する、都会の喧騒からかけ離れた美しい泉。それは、見る者に妖精でも住んでいるような幻想的な雰囲気さえ与える不思議な魅力を持っていた。


 朝生義亜鐘(あそうぎあべる)、そして彼の大学の同窓で親友の爆劉米牙(ばくりゅうべいが)もその噂を耳にし、訪れた一人だった。……と言っても初めて訪れたのは米牙だけで、亜鐘はもう何度か来たことがあるのだが。


「うわ……! すっげぇ絶景だ! よっしゃ帰ったら自慢してやろ」


 米牙が興奮した様子でスマホのカメラを泉に向け、亜鐘は釣りの用意を始めた。何年もの間世話になっている、父親からの誕生日プレゼントの釣り竿だ。それと、釣った魚を持って帰るためのクーラーボックスや購入した釣り餌、それとボートなどを乗ってきた車から取り出し、並べる。


「おい米牙。写真ばっか撮ってないで釣りするぞー」


 ボートを泉に浮かべ、亜鐘は軽い動作で乗り込む。米牙はまだ写真を撮り足りない様子だったが、すぐにスマホをしまってボートに乗った。


 竿を振って泉へ投げ入れる。少しすると、その釣り針へ数匹の小魚が素早く泳いでくるのが見えた。


「うわぁ……水が透き通って――ん?」


 亜鐘の動きが止まる。


 米牙も「どうした?」と視線を同じ方向へ向けると――何もなかったはずの水中奥深くから、妖しい紫の光が溢れ出していた。

 そして次の瞬間、地震のような衝撃と共に水面が大きく揺れる。


「何だいきなり!?」


「おいっ! ボート動かすぞっ!」


 先に動けたのは米牙だった。ひどく混乱しつつもなんとかボートを岸に向かって動かし始める。そしてすぐ光は消えてしまった。


「な、なんだったん……お、おい……!」


 そして、再び巨大な波が二人を襲う。ボートは二人の身長をも優に超える高さの波にのまれ、一瞬にして転覆してしまう。

 ボートを先ほどから動かしていたために比較的浅い場所へ来ることはできていたが、それでも二人の足は土へつくことはなかった。


 ――く、苦しっ……。


 ボートで蓋をされて息を吸うこともできず、薄れゆく意識の中亜鐘が最後に見たのは、一足早く意識を手放していた米牙と、泉の奥深くから盛り上がってくる巨大な何かの姿だった……。


 * * *


「……っはぁ!? はぁ、はぁ……ッ!!」


 亜鐘が次に目覚めた時、彼は小さなログハウスらしい場所でソファに寝かされていた。何度も何度も深呼吸し、周囲をざっと確認する。

 木製の床と壁と天井。童話にでも出てきそうな、かわいらしいログハウスだ。


 部屋も森の中の小屋とでも言うべきこぢんまりとしたサイズである。寝かされていたソファ、執務机、簡素なキッチン、そしてなぜかブラウン管テレビだけで部屋は埋まってしまっていた。


 そして、執務机にて書類とにらめっこをしている美女がいた。周囲の部屋の雰囲気と妙にマッチしていないジャケットとシルクハットを身に着けているが、その程度では減りようもない美貌を備えていた。


「お? 起きたか。いやぁクロスオーバーってのぁ珍しいね……俺が出されるなんて、これだからこういう面倒事は」


「……?」


 自分はこの人に救助されたのか? ならば、米牙は助からなかった……? ぐるぐると頭の中を苦しい思考が回り続ける。


「お、俺は……」


「落ち着け。焦ってもどうにもならないぞ」


「いや、で、でも米牙が……!」


「あー、そうだな。お前の相方は死んだよ。そしてお前も死んだ」


「は……?」


 米牙はやはり死んでしまったようだ。その事実を突きつけられて、亜鐘はそれに続いていた台詞は聞き取れなかった。

 眩暈がする。自分がわざわざ米牙を釣りに巻き込まなければ、彼は助かったはずだ……と、自責の念がきつく亜鐘の思考を締め付ける。


 美女はため息をつくと、どこからか取り出したタバコに火をつけ、口に咥えた。


「いいから話を聞け。深呼吸しろ、深呼吸」


「すぅ……っ、げほっ! げほっ、かはっ……」


「あーもう、最近は変わり者しか相手にしてなかったから感覚がバグってるな……一般人だとこうなるのも当たり前か。『鎮魂(ピュリファイ)』」


 その言葉と同時に美女の指先から暖かい光が放たれ、亜鐘を包む。すると気分が少し楽になり、余裕が戻ってきた。


「っ……すみません」


「いや、いい。ああなるのが当然だろ」


 すっ、と亜鐘の前に差し出される温かいカフェオレのマグカップ。それを受け取ると、緊張で渇き切った喉を潤すべく一気に飲み干した。


「とりあえず、俺の名前はM(エム)だ。いくつかの世界で神様をやってる。で、今回はお前の異世界転移を頼まれたわけだ」


「はい……? 神、異世界?」


「うん。本来ならお前の住んでる世界は……えーと、サティスだったかな。ソイツが担当するんだけど、まあ今回は込み入った事情があるんだ。聞きたいか? 俺も話したいしな」


 命の恩人の頼みなら……と亜鐘は「わかりました」と即答したが、その一瞬後にもう死んでるらしいことを思い出した。


「いや、でも……実感がないというか?」


「だろうな」


 Mはそういって手のひらをかざす。するとそこに青い炎が現れ、ゆっくりとその色を緑へ変えていった。炎色反応の実験のようだ。


「これが魔法だ。カラクリなんてないぞ」


「はぇ~」


 亜鐘がひとまず納得したので、話を再開するM。


「えー、地球は異世界から転移してきた魔王に侵攻されてるんだ。で」


「えええ!?」


「いいから話を聞いてくれ、魔王に関しては心配ないから」


 心配するななんて言われても……と亜鐘はあたふたし始めたが、Mは諦めたのか構わず話を続けた。


「そして魔王や眷属に殺された――あっちじゃ『魔害』なんて言ってるらしい――ヤツは転移か転生ができる! まあオタク大興奮の流れだな!」


「え、じゃあ俺は? いやでも魔王が……」


「ところがどっこい、だ。お前はなぁ、魔王に殺されたんじゃなくって魔王城が転移した影響で溺死した――つまり二次災害なんだよ。だから魔害には該当しなくて。だから、一般人と同様記憶も何もかもリセットしてから輪廻の輪っかに乗る……ハズだった!」


 こんな話をされた時からなんとなく察しのついていた亜鐘だったが、やはり何かしらあるらしい。転移と言われて少しドキッとしたものの、まだ油断はできない。


 と、亜鐘は心構えていたものの、すぐそれは解消される。


「そこで、今地球で魔害関係を担当してるサティスが俺に頼んできたんだよ。自分たちのルールじゃ輪廻だけど、それじゃ可哀想だからそっちで幸せを掴ませてあげてとか何とか……お前と米牙だったか? アイツは別々に転移することになるが、とりあえず異世界でふたりとも復活だ。よかったな」


「……は、はい! ありがとうございましたっ! でも日本に来た魔王は!?」


「そこは別のやつがなんとかするらしい」


「あ、そうですか……よかった? かな?」


 飲み終わったマグカップにおかわりにカフェオレを注ぐM。亜鐘は一瞬でまた飲み干したのでMも注ぎなおし、それが三回続いた。


「それとまだ感謝は過去形にするなよ、まだ話は終わっちゃいないぞ。まだ大事な『お約束』が残ってる」


「え……あ!」


「そう、『祝福(ギフト)』だ。まあ今回はひとつ固有魔法をこっちで決めさせてもらうが、自由枠もひとつやるよ。好きな能力、どんなのか考えとけよ」


 どうやら固有魔法をふたつくれるらしい。ひとつは選べないようだが、もうひとつは選択できるというのならそれだけで十分すぎる気もする。それとも命を削る系とかだったりするのだろうか?


「こっちで選定したのは『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』。お前と同じような転移者と転生者、そしてその仲間に対する特攻だ」


「え?」


 ――つまり別の転移者を倒すためにこの能力を?


 亜鐘の脳内をすぐに不安が満たす。


「これから行ってもらう先には、強い能力を持って調子に乗ってしまったヤツらがいる。そいつらに引導を渡してもらう……っつっても軽くお仕置きしてやれば良いんだけどな。できるか?」


「そ、それは……相手が、どれくらいの悪人かによるとしか……」


「そうだろうな。ま、第一目標は遠慮なく殺れると思うぞ。えーっとな、まず一国の王を殺して国を奪って? その妻を全員弄んで? あとは貴族から平民からも綺麗な娘をわんさか集めて逆らったら拷問の末処刑と晒し上げに、税金は八割ときた! 悪代官レベルの話じゃないぜ」


 それなら、あまり遠慮はいらなそうだ……という思いと、だけどやっぱり人を傷つけるのはどうなんだろう、という思いに分かれた。これもやはり平和な国日本の出身者であるゆえの思考だろうか?


 ただ、苦しんでいる人たちの実情を目の当たりにすれば、たぶん自分は怒りに燃えるんだろうな、と亜鐘は思う。本人が言うのもなんだが、彼は非常に正義感が強い――特に周囲の不特定多数に関して。もしかすれば、Mはこういう思考を持つ亜鐘をわざわざ選定したのかもしれない。


「気に食わないなら殺さなくていいよ。権威を失墜させるとか、そいつに成り代わってやるとかすれば十分じゃないか? また悪事を企てたらそれこそお前がまた出向けばいいだけだしな」


「それもそう、ですかね」


「ああ」


 Mは少し顔をほころばせた。


「『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』は強いからな。特攻とはいったが、単純なステータスの底上げなんかじゃなくて、相手の持つ固有魔法に対する有利を取れる能力へ姿を変えるんだ。説明、通じるか?」


「……つまり、相手が水を操るのなら、こちらは強い炎で蒸発させる能力……とか?」


「そんな感じで合ってる。まあ実際出くわしたらもっと鋭い特攻になりそうだけど……ま、それはいいか。じゃあ、決まったか? もう一つ欲しい能力は」


「はい、たぶん。……護る力をください。大切なもの、そしてみんなを護る魔法を」


「ほう? ……なら概念的なものがいいか。お前はどこまでも他人ファーストだな、亜鐘。為政者に適正があるのか? それにしちゃ優しすぎるのが玉に瑕だけどな」


 Mも亜鐘へ与える魔法を決めたらしい。


「『愛の紅き揚舞台ジャスト・フォー・ユー』……守るべきものを、必ず守れる力だ。お前にぴったりだよ。一点の曇りも迷いもなく願ったなら――俺は、必ずその願いを聞き届けると約束しよう」


 亜鐘の足元で魔法陣のようなものが輝きを放ちだす。そろそろ転移の時間だ。


「……ありがとうございます! Mさん!」


「おう。感謝を過去形にするのは天寿を全うしてからだぜ、いいな? それまで周囲への感謝を忘れるなよ」


「はいッ!」


 元気よく、希望に満ちた若者の声がログハウスへ響くと同時に、彼の姿は掻き消える。机からカロリーメイトを取り出したMが「あー、アイツにもやればよかったな」と息をついた。


 * * *


「へぶぅあッ!?」


 次に俺の意識が戻ったとき、俺は何かに滑って盛大にころんだところだった。いてて……突然過ぎて何もできず、顔面から石の地べたへ突っ込んだらしい。くそっ、散々だ。いたい。


「「ひゃわ!?」」


 次に悲鳴が二人分、まったくピッタリ重なって横から聞こえる。そちらを向くと、桃色と緑色の髪の女子が抱き合いながら俺のことをまじまじと見ていた。


 いきなりファンタジーな髪色だな……双子か。だいたい二十歳ってところだろうか、俺とも年齢が近そうだ。


 それにしてもここはどこだ? 公園か? それにしては人が少ないというか、目の前の双子しかいないが……俺の住んでたところよりも田舎なのかなここ。そんな事を言ったら失礼かもしれないけど……。


「お、お姉様! こいつトラップを台無しにしたよ!」


 緑髪の方の女子が俺を指さしながら糾弾する。足元の方を見てみると、バナナの皮が無惨に潰れていた。うーん、俺はこれで滑ったのか……あの神様、なんでこんなところに転移させるんだろう。


 ま、生きていただけで万々歳と思えばいいか。


「いきなりテレポートしてくるだけならまだしも、私達の三十分の努力の結晶を踏みにじるとはいい度胸ね? ……あら、それは?」


 双子で抱き合っていた桃髪の姉のほうが俺の方へ歩いてきて、高圧的な目線を向けてくる。俺のほうが身長高いんだけど。

 それはともかく、桃髪さんが視線を向けた先には、俺の釣り竿が転がっていた。……Mさん、釣り竿も一緒に転移させてくれたのか。優しいなぁ。


「それ……魔道具かしら? フフ、じゃあそれを私に頂戴。そうしたら許してあげるわ」


「うわぁ! 人の努力を踏みにじるクズの分際で、そんなもの持ってるなんて生意気だよ!」


 いや、誤解だ。……と言いたいが、トラップ――とはいってもただのバナナの皮だけしか見えないが――を踏み潰してしまったのは事実だ。

 いやでも、この釣り竿は親父からもらった大事なものだし……。


「……いいよ、やる。親父からの誕生日プレゼントだったんだ、大切に使ってくれよ」


「えっ?」


 なんだその顔。


「……お父様からのプレゼント!? そ、そんなもの気軽に渡すようなもんじゃないわ!」


「でも、これがいるんだろ?」


「えっ、いや、あの……と、ともかくっ! それは貰わないでおいてあげる! だからトラップの修理を手伝いなさい!」


「そ、そうだよ拒否権ないからね! いいね!」


「お、おう……」


 そういえばここ異世界だから、もしかしたら親御さんを大切にする風習が強いのかもしれないな。それなら気軽に渡さないほうがいいのかも。


 トラップの修理を手伝う間に、ここらへんの文化とか風習とかについていくつか聞いておくとしよう。




 それからトラップの修理を桃髪さん――本名はシルンと言うらしい――と緑髪さん――本名はエリン――と一緒に手伝った。


 なんとただのバナナの転ばせトラップと思われていたものは、実は非常に巧妙な仕掛けを使って作られた超凶悪なトラップだった。


 水魔法と風魔法を合わせるとどうなるとか、普通の三割でこの魔法を付与すると結果がこうなって面白いとか、エリンにいろいろ魔法の解説をしてもらったものの、俺にはさっぱりである。


「……なあ、こんなの作って誰を殺すんだよ? これ」


 そういえば俺、犯罪に加担してる? やめさせたほうがいい?


「殺す? 馬鹿なこと言わないでよ、これは私の弟をビックリさせるためだけだから! 私の弟はそんなやわじゃないの」


「いやでも顔面強打して上空に打ちあげられて瓦礫山に突っ込むとか、間違いなく死人が出ないか……?」


 すると、途端に驚愕の表情で俺を見る双子。


「い、いや、このくらい捻挫レベルだよ? その捻挫も治癒魔法で治るよ……?」

「あ、そっか……」


 そういや魔法っていう便利なものがあったな……肉体も魔法で補助すればうんたらとさっき言ってたし。

 さっき目の前でトラップ制作を実演してもらったばかりだと言うのに、すっかり忘れていた。


「ちなみに、その弟って?」


「ルルン。六歳よ」


「六歳だけど、剣の腕は大人もボロ負けするくらいなんだよ! めっちゃ強くって自慢の弟なの! まあ私の魔法のほうがすごいけど!」


「へ、へぇ」


 いわゆる麒麟児とかいうやつ?


 それにしてもどこからともなく鉄の棒が出現するとか、六歳児が剣で相手を打ち負かすとか、そういうのをを見聞きしてるとだんだん俺も、ここが異世界なんだなーっていう実感が強まってきた。

 景色だけ見ればヨーロッパかな? とかで済みそうな雰囲気だが、シルンやエリンが魔法でトラップを次々に組み立てていくのは壮観だったな。


 え、俺は何を手伝ったのかって? 物理的な組み立てをやったよ。あとはカムフラージュのための落ち葉集めとか。俺の中では、役に立ったとは思う。


「ふぅ、カンペキね。なかなかの傑作よ!」


「よかったな」


 落ち葉や植え込みによって完全に景色に溶け込んだ超凶悪トラップを見つつ拍手を送る。すると、すぐシルンにギロリと睨まれた。


「調子に乗らないで頂戴。あなたは私のトラップを破壊した償いでこれを組み立てたんだから、手柄なんてないわ!」


「え? 俺も別に手柄なんて主張する気はないんだけど……」


「あ、そう……っと、そろそろルルンがここ通るわよ! 隠れましょ」


 シルンは素早く近くの植え込みに隠れた。俺もエリンに手をぐいっと引かれ、その植え込みに潜んでトラップの様子をうかがう。


 五分もすると、道の向こうから銀髪の三つ編みの子供が歩いてくるのが見えた。


「あれか?」


「そう! あれがルルン! かわいいでしょ!」


「しっ、エリン、声をもう少し抑えなさい……」


「はぁい……」


 銀髪の少年は小さな竹細工のカゴを手に持っているようで、その中には大根やキャベツなどの野菜が入っているのがみえる。


「お使いの帰り?」


「そうよ。あ、でも、野菜のことは気にしなくていいわ」


「そうなのか?」


 人は魔法で強化されるとはいえ、野菜は流石に潰れるのでは?

 ……あ、もしや野菜も魔法で強くするのだろうか。だいぶ無駄な方向に魔法を使うんだな……と思っていたが、なんと野菜の安全確保はさらに斜め上を行っていた。


「うひゃーっ!?」


 トラップの起点である、巧妙に偽装されたバナナ皮を踏んでひっくり返るルルン。しかし、彼は受け身を取ると同時にカゴを安全な場所に置いたのだ。


 ああ、大人を剣でぶっ倒せるような実力者だよな、とっさの反応速度も化け物でもおかしくないか。


「ひゃわぁあああ!」


 しかし受け身をとってもトラップはまだ続いている。今度はスプリングによって上空へその体が打ち上げられ、すぐに落下を始める。見ているだけの俺でも心臓に悪いのだが、双子は声を押し殺して笑っている様子で、まあ大丈夫ではあるんだろう……それでも心配なのは消えないんだが。


 そして最後に、大きく地面にバウンドした際にもぶっ飛ばされ、道の奥に設置してあった瓦礫の山へ頭から突っ込むルルン。


「……大丈夫なのか?」


「大丈夫に決まってるでしょ! 早く見に行こう! おーいルルン!」


 飛び出していった双子に続いて俺も瓦礫山の様子を見に行くと、そこには目を回しながら体の右半分を瓦礫に埋もれさせているルルンの姿があった。


 ……目立った、どころか外傷がまったくないぞ。これで受けた被害といえば、せいぜい長い三つ編みがほつれたのと、服に泥がついたくらいか。本当に丈夫なんだな……。


「むきゅう……シルンお姉様にエリンお姉様、罠を仕掛けるなら予告してって言ってたでしょー……」


「予告なんてしたら警戒するじゃん」


「そりゃそうですけど……ん? あ! ついに工事屋を雇ったんですかー!? それはズルい!」


 工事屋……あ、俺のことか。


「ども、通りすがりの亜鐘だ。工事屋じゃないぞ」


「え? ……むむ! なんか、パワーがハイなオーラを感じまーす……!」


 途端にキラキラした目になって、俺を値踏みするようにじーっと眺めてくるルルン。

 すると逆にシルンは引いたような顔を見せ、エリンは俺に向かって手を合わせて何度もお辞儀した。え? 何?


「勝負を挑みます! 工事のお兄さん、強いですよね!? 御前試合です!!」


 ……ど、どういう展開……!?


 助けを求めてシルンの方を向いたが、「ルルン、バトルマニアなのよ、とだけ言っておくわ……」と返される。


 えぇ……。


「いや、俺、強くないし……あと工事屋じゃな――」


「謙遜したって無駄ですよ! 工事のお兄さんは僕のパワーメーターが赤色、つまりレベル七二を叩き出していますから! 僕の目からは逃れられません!」


「な、なにその指標……」


 いや、どういうことだよ。ここで逃げても別に悪くないよな俺。でもこの子どもの期待を裏切るのもそれはそれで罪悪感が……ぐう、運命よ、俺にどうしろと。


 いつの間に調達してきたのか、エリンが俺とルルンへ木刀を一本ずつ手渡す。さらにシルンが公園の敷地内に白線でフィールドを描いていた。準備万端じゃん。


「ルールは単純、このフィールドから出るか、骨折以上の怪我を負ったら負けね。あぁアベル、あんたは逃げられないように降伏禁止だから」


 じゃあ俺は自分か相手の骨を折らないと降りられないの? マジ?

 あ、外に放り投げてやればいいのか。


「一回だけだぞ。俺が弱くても何も言うなよ、頼むから」


「大丈夫ですよ! フッ、僕の実力がレベル七十台にどれほど通用するか……腕がなります!」


 フィールドの中心部へ、俺とルルンは向かい合って剣を構える。


 うーん、俺は剣術の心得なんてないしなぁ……釣り竿と同じように振ればなんとかなるか?


「よーい、はじめぇっ!」


「先手はもらいましたぁッ!」


 エリンの開始宣言と同時に車並みのスピードで突っ込んでくるルルン。

 ……いや、俺はこの速度を認識できているのか? なら……迎撃する!


「はあッ!」


 釣り竿を振るように上から下へ勢いよく木刀を振り下ろす。唐竹割りとかいうんだったか?

 すると、ちょうどベストなタイミングで俺とルルンの木刀が交差し――


「っ!?」


 ルルンの木刀だけを、勢いよく弾き飛ばした。

 俺は相手に大怪我を追わせるわけにはいかないので、剣を右手に持ち、左手でルルンの襟首を掴む。


「よいっ……と!」


 ぽいっ。


 軽くルルンを放り、フィールドの外へ飛ばす。一応ルルンもとっさに後転し受け身を取るが、彼の体はすでにフィールドの外へ出ている。


「しょ、勝者――アベル!」


「意外ね……」


「ほら、やっぱり強いじゃないですか!」


 負けたと言うのに、ルルンは先程まで以上に目を輝かせ、俺のそばにやってくる。しかもなんか移動が無駄に速い。


「工事のお兄さん……いや、師匠っ! 僕を弟子にしてください!! そして剣術を教えてください!! さっきの、僕の剣を唐竹割りで弾いた一見意味不明な対処……でも、相手の意表を突き優位性を得ることができる! 咄嗟の判断でそこまで考えることができるなんて、さすが師匠です! 僕にもっとその技、技術を――」


「ルルン〜?」


「へうっ」


 バシィン! と大きな音がした。どうやらエリンがルルンの頭へ木刀を叩きつけたらしい。


「俺、勘で動いてるだけだが……?」


 横薙ぎの一線を唐竹割りで弾き返すの、よく考えなくても意味不明と言うか、うーん……ただのバカなミスがうまいこと転がっただけで、強いとは言えないと思うな。運も実力のうちって言われればそれまでかもしれないけど。


 しかし、ルルンはさらに俺の発言を変な方向へ解釈する。


「それはもしや天性の才能!? 自然との調和を極めた武道の達人は、無心でも相手の行動を的確に読み、完璧な対処を行うと聞いたことがあります! やはり師匠は――」


「ル・ル・ン〜??」


「うわひゃぁ!」


 ――ドガン! バシン! バッゴォン!


 妙にリズムの良い三拍子でルルンの脳天が大きなダメージを受ける。ここまでやっても無事なのか……そうとう堅くなるんだな、魔法の補助って。使い方がわからないと俺ってこの世界で生存できなくないか? それともさっきの力は、無意識のうちにデフォルトで発動してるとか? Mさんにもう少し聞いておけばよかったかなぁ。


 とはいえお仕置きが効いたのか、ルルンは名残惜しそうにすごすごと引き下がった。


「はぁ、ごめんね! まったく、強い人を見るとルルンは自制が効かなくなるから……」


「いや、六歳であれだけ腕がいいんだから、すごいと思うぞ。それに、まだ子供だろ? 大人になればちゃんと自制もできるようになるさ」


「今も力を持ってるんだから今なんとかならないと大変なんだよ」


「そ、そうだな……」


 俺もこれ以上のフォローの文が見つからず、論破されてしまう。うーん、俺は一人っ子だったし、姉が弟に関して抱く感情はあまり察せない。姉特有の苦労があるんだろうというのだけはまあ分かるが。


 ――カァン! カァン! カァアン!!


「!?」


 突如として周囲一帯へ大きく銅鑼のような音が響き渡る。そして、それを聞いた三人は身構えるような姿勢を取った。


「なんだ?」


「知らないの? ……『雪羽警邏団』よ」


「通るときは道を開けて敬礼とかお辞儀とかしないと首をはねられちゃうんだよっ! どこ今どこ!?」


 ……もしかしなくても、Mさんの言っていた転移者がこれだったりしないか?

 念の為いくつか確認しておこう。


「最近国が乗っ取られたりしてないか? この辺り」


「しっ! そういう事言うと斬られるよ! ……事実ではあるけど。あ、その釣り竿、今のうちに茂みに隠しておいた方がいいよ!」


「やっぱりかよ」


 俺は釣り竿を手に取り、植え込みに隠す。それと同時に、音の響いてきた方の道から豪勢な行列らしい人だかりがやってきた。


「げ……やっぱりこっちを通るのね……」


「頭を垂れて蹲えェ! 平伏せよォオ!!」


 行列の先頭の、とりわけ豪華な鎧に身を包んだ男が叫ぶ。その声はビリビリと、大地を揺らすほど大きく、非常に耳障りでもあった。


 なんというか……第一印象がこれだったら、さすがに俺でも永劫好きになれそうな気がしないぞ……と思いつつも、無難に事を済ませるべくシルン、エリン、ルルンと同じように俺も土下座しておいた。

 え? プライド? 人のためならいくらでも捨てますよそんなもの。


 ……そんなこんなで通り過ぎていく、と思われた行列は、なんの悪夢か俺の前で立ち止まった。そして鋭い真剣を俺へ突き付けてくる。


「見ない顔だな? 名を名乗れ」


「亜鐘。朝生義――ッ!?」


「あ!」


 行列のリーダーが、その剣を振るい、俺の頬を切り裂いた。遅れて鋭い痛みが走り、血が飛び散る。……浅くないぞ、これ。


「だれが顔を上げろと言ったぁ!? これだから劣等人種は……んん!? なんだぁ、その釣り竿は! 魔道具か?」


「!」


 さらにそいつは隠しておいた俺の釣り竿を取り、下卑た笑みでそれを舐め回すように見つめる。


「運が良かったなぁ。これと引き換えでお前の命は見逃してやる」


「いや、返せ」


「あぁん?」


「お前にそれを使う資格はないよ。なんとなく、気に食わないから」


「「「アベル!?」」」


 すいません。勝つから許して。


「あぁあ!? ハハッ、怒らせたな……後悔したって遅いぜぇ!?」


 やけに三下臭いセリフを吐きながら、剣をブンブンと振って威嚇してくる。ついでに、周りを取り囲んでいた行列の兵士たちも剣を抜き放ち、臨戦態勢へと入った。


 俺も、先ほど使った木刀を持って三人の前で立ち塞がる。


「そんなモノで、数も装備も勝るこちらに勝てるとでも――」


「『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』」


 ――使い方は、分かる。


 一度漕ぎ方を覚えた自転車はいつまで経っても忘れないように、俺の体がこの固有魔法の発動トリガーを理解しているらしい。


 この魔法の効果は、転移者、転生者、そしてそれに近しい相手に対する特攻。そしてその魔法へ有利をとれる能力への変化だ。こいつがターゲットである転移者と近しいのかどうかはカンでしかなかったが……一応、目論見は当たってくれたらしい。


「『銀弾(シルバーバレット)北眺めの八面鏡バウンス・ジェイド・パック』」


 刹那、俺の体をうっすらと灰色のオーラが覆う。何者にも負けない鋼のような力強さ、そしてすべてを映し出す鏡のような、どこか美しさと儚さを見る者に印象付ける――そんな淡い灰色だった。


 しかし、これは見せかけではない。


「なんだ、それは!? ……フン、どう足掻いたところで数の差には勝てまいッ! 切り刻んでやるわ、『真鍮の霧雨(ブロードブラス・レイ)』ッ!!」


 Mさんが超強化を施してくれた俺の体でも、この行列のリーダーの速度にはついていけない。

 だが――俺があらかじめ展開しておいた魔法は、相手にはるかに有利を取れる。


「「ぎゃぁあああ――!?」」


 俺が打ち返せず、斬撃を受け入れた、と見えた次の瞬間に、切り裂かれていたのは奴の部下たちだけだった。


 信じられない、という表情で俺と剣と倒れ伏した部下を交互に見る男。ここでパニクって防御が疎かになるのは悪手だって、さすがの俺でも分かるぞ。


「お前の固有魔法は、所有する近接武器のポテンシャルを引き出す能力みたいだな……だけど、俺はその上を行ってるぜ」


 相手の能力から優位を取るついでに、固有魔法の詳細も得られるらしい。我らがMさんはかなりなんでもござれな固有魔法をくれたようだ。


「『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』は、お前のような悪だけを狙撃する。俺の使った魔法は――近接攻撃を、相手の仲間へ増幅して転嫁する能力だ!」


「な――!?」


「こ、ここは一旦引くべきです! 体制を立て直し、すぐに魔道士とともに――」


 早くも倒れた仲間を見捨て、撤退の用意に入る部下達。しかし、それを許さなかったのはなんと、シルンだった。


「『括られた悪夢アバウト・リテラチャーズ・ルーム』! さぁ、とっとと決めなさいよ!」

「ああ、感謝する!」


 一瞬にして結界が周囲を飲み込み、敵の退路を塞ぐ。それと同時にルルンが木刀を投げつけ、俺の釣り竿を持っていた男の手へと直撃させた。

 俺は釣り竿を手に取る。


「銀の弾丸は寸分の狂いもなく、標的だけを冷徹に貫く――!」


 すまんな相棒、そして親父。変な使い方するよ。


 俺が勢いよく振るった釣り竿は爆発的なソニックブームを伴い、衝撃波で雪羽警邏団のメンバーを叩きのめしたのだった――。


 * * *


 ――とある、純白の荘厳な城内。


「……何だって? 雪羽が全滅?」


 その玉座に座り、他の者達を高所から威圧的に見下ろしている一人の青年が、不機嫌さを隠そうともせずそう言った。


「ハ、ハハッ! 定時連絡が行われなくなった後、捜索したところ血痕及び見慣れぬ魔力の残滓が確認されております!」


 雪羽警邏団全滅の知らせを持ってきた兵士の一人が、真っ青な顔で頭を垂れつつ述べる。なにか少しでも気に触ることがあれば、彼の従う王にすぐ処刑――いや、それより遥かに大きな苦しみを伴う拷問をされると知っているからだ。そしてそれはこの謁見の間に並ぶ、国内の有力貴族たちもまた然りであった。


「ふーん……魔眼の人間も見つからないし、まだ盾突くやつがいるんだ? ねぇ、キミ」


「ハ!」


「そいつ、まだ捕まえてないでしょ?」


「ハ、その不届き者でしたら、現在捜索ちゅ――」


 次の瞬間、その伝令の右腕が宙を舞った。


「僕はDoesの質問をしてたんだけどなぁ? 短く、ハイかイイエで答えて? 無駄なことに時間を使わせないでよ」


「ぁあ、ぁぁあああああッ――!!」


 腕を失い、痛みに絶叫する。すると王はさらに眉間のシワを深め、すぐに伝令の喉を魔法の刃でズタズタに切り裂いた。


 通常であれば、間違いなく死んでいるはずの圧倒的重症。しかし、伝令は未だ死なず、その場で痛みにのたうち回っていた。否、強制的に生かされていたのだ。


「『朽ち果てた紅の鎖(ミリアド・ライヴズ)』。……ねぇ、さっさと答えてくんない? 僕さぁ、時間ないんだけど?」


「がぁッ……も、申し訳ございません……ッ! フゥッ、ハァ……ぐっ、は、ハイ……ッ!」


 自らの治癒魔法で喉の傷を癒やし、腕の最低限の止血を施して報告は続行した。


「じゃあ、よし。『鋼雹先鋭団』を向かわせよう。じゃ、帰っていいよ」


 途端にざわめきが広がる謁見の間。


 伝令は痛みを堪えつつ、間を出ようとしたが……王が彼の魂を現世につなぎとめていた魔法を解除すると次の瞬間、物言わぬ骸となってその場に倒れ伏すのだった。


「あ、いっけない。魔法で生かしてやってたの、忘れてた! でもまあ、僕の時間を無駄に食い潰すようなゴミはいくら殺したところで変わらないよね?」


「は、はい……! 仰るとおりでございますッ!」


 視線を不意に向けられた公爵の一人が平伏しつつ王の言葉を肯定した。


「じゃあ、パーティの支度でも始めようか! 明日と明後日やるから、みんな来てね?」


「「「仰せのとおりに!」」」


 王は玉座を降り、姿を消す。


 国を救った英雄でありながら、次は自らその国を滅ぼす逆賊へと成り果てた勇者。

 人は彼を、こう呼んだ。『堕天理神』カイン・コクラ――と。


 * * *


 ――翌日。


「申し訳ない。反省してる、本当に」


 俺は現在、三姉弟の住む家で説教を受けていた。

 もちろん理由はあの雪羽警邏団を倒してしまったからで、次国の部隊に見つかってしまった場合は間違いなく抹殺対象とみなされるのだという。そりゃ当然か……でも、相棒の釣り竿はあの下衆のことを嫌いだって言ってたしなぁ。


 というか、昨日ここに泊まらせてもらった時も同じ説教を頂いたと思うんだが。いや、一晩だけでもわざわざ寝る場所とご飯を提供してもらったのだから、文句は言うまい。


「師匠は悪くないんですよ! 正義の味方として当然の行いだったの――うぎゃぁあー!」


「ルルンは黙ってて頂戴!」


 シルンが勢いよくルルンの脳天へチョップを叩き込む。痛そー……。


「ま、俺が敵のボスごと全部倒してやれば済む話だろ」


「それがそんな簡単にできてたら私達もこんな惨めな生活を送ってないわよ! いい、この国の現王は英雄だったの! 今はアレだけど、何十年か前に伝説の邪竜を討伐してこの大陸を沈没の危機から救った英雄なの! いくら固有魔法に有利を取れるって言ったって、地のスペックが大違いよ! 現に、あなたあの警邏団の速度にもついてけてなかったでしょう!」


 それを言われるとすごく耳が痛い。


 でも、俺はそいつを倒すのがもともと目的で転移させてもらったんだしなぁ。巻き込んでしまって、すごく申し訳ないです。


 いやでもその割には逃げ道を塞いでくれたりもしてたけど……というのは、うん、黙っておこう。パニックになって混乱した状態でのとっさの行動なのだろう。


「スイマセン……」


「はぁ……もうっ! せっかく大家さんが家を貸してくれたのに、国外に逃げないと殺されるじゃない! あー!!」


「お姉様、過ぎちゃったことはもう仕方ないよ……も、もうさ、アベルに任せるしか」


 エルンが諌めると、シルンはひとしきり恐竜のように「がーっ!」と唸ってから頭を抱えてしまった。


「いいこと! 責任取って頂戴! 私達だってまだ未来があるの!」


「もとよりそのつもりです許してください! 俺の釣り竿も使っていいから!」


「釣りなんてしないわよ私!」


「え!?」


 じゃあなんのために俺の釣り竿をよこせと言ったんだ。

 ……ま、まさか。


「そ、そうよ! 質に入れて生活費を稼ぐつもりだったのよ! でも、お父様との思い出の品だなんて……なんであの時そんないらない情報を付け足すの! 売るに売れなくなったじゃない……」


「な、なんだってー……」


 質に入れて、そんなに金になるかな、これ。

 やっぱり、親父には悪いけどさ、俺が自分で売っ払ってきて生活費に充ててもらえばいいのかな。それともシルンはそれもダメって言うだろうか。


 と、ここまで考えたところで、俺の脳内にて紫電が迸った。


「生活が苦しいのって、税金のせいか?」


「……そうに決まってるでしょ。国が乗っ取られてから税金は七割を超えたの! だから私もエルンも一日中働いても、その日暮らしその日暮らしよ!」


「あ、アベル、もしかして」


「うん、なら、やっぱり俺がそいつを倒してやれば済むな」


「……はっ? ……あ、あなたねえ、話……」


 今度はもう絶句してしまうシルン。

 いや、三人が他の兵士に殺されてから俺が国を改革させたって遅いだろ。だったら、早いうちになんとかしておけば助かるよな?


 三人に限らず住民もみんな、この苦しい生活から抜け出したいって思ってるだろうし。


「じゃあ、行ってくるよ。地図を壁に飾っててくれて助かったぜ! またな!」


 俺は木刀と釣り竿を腰に佩いて、勢いよくこの家を飛び出すのだった。

 俺が死んでも、絶対なんとかするからな!




 わざわざ転移者である王と関係の深い人間が警邏団のリーダーを務めていることからも推測できたが、ここは城下町だったらしい。

 とはいっても三人の家は王城からとても遠いところに位置しているのだが。


 先程見た地図によれば、この城下町は、王城を中心として貴族街、高級街、市民街、そしてスラム街から構成されている。厳密にはスラム街は都市計画に含まれてはおらず、この苛政によって職と財産、そして住処を失った人々が市民街から追い出され、やむなく街の周辺にトタン屋根あるいはテントで家を作り、住んでいるというのが実情のようだ。


 そして三人の家はスラム街と市民街の境界辺りに位置する。若干市民街寄りの位置なのは、彼女らがかろうじてまともな職を持っていられたからだろう。


「……」


 なるべく堂々とした姿で怪しまれないように。しかし目立ちもしないように……なかなか難しいな、これ。


 しかも木刀と魔道具になったらしい釣り竿を腰に佩いているのでますます通行人の注目を集める一方だ。うーん、ダメだこりゃ。


「待てッ! そこの木剣を持った男、止まれ! 武器を捨てろッ!」


 ……し、しまった。まだ高級街にすらたどり着いていないのに、案の定巡回の警備兵に呼び止められたぞ。ちくしょう。

 俺は周囲をざっと確認しつつ、腰の木刀を地面に落とす。比較的細めの路地を通っていたため、俺と警備兵ふたり以外に通行人は見えなかった。


「おい? その釣り竿もだぞ! あくしろ――」


「一閃ッ! ハァー!」


 雄叫びを上げつつ釣り竿をブン! と振るい、衝撃波で正確に警備兵たちの額をぶん殴る。きちんと気絶させることに成功し、木刀を再度拾ってからそのままダッシュで高級街へと駆け抜ける!


 叫んだあとに妙に間抜けな声が出ていた気がしたが、幸い目撃者はもういない。


 少しすると、高級街との境界の目印である銅の石版が見えてきた。これはひとつひとつに何らかの至言――といっても現王が自らの言葉を元に作らせたようだが――が刻まれていて、高級街をグルッと囲むように合計三十ほど設置されているそうだ。


 似たようなものが、高級街と貴族街との境に銀の石版、貴族街と王城の敷地との境に金の石版があるらしい。


 無駄遣い極まりないな……シルンとエルンから搾取した税金がこんなくだらないことに使われていると思うと、ますます怒りが湧いてくる。


 すれ違いざまに見えた石版にも、ちょっと理解のしがたいナルシストなセンテンスが彫ってあった。

 勢いを殺さず、俺は黒い風となって街を駆け抜ける。しばしば突き刺さるような視線が俺の背を射抜くが、気にしている暇はない。誰かに追われているような気がしても、立ち止まる暇はない。だって立ち止まったら捕まるし……。


 ――そしてついに、王城の前に到達した……が。


「ハァハハハハハッ! 惜しかったなガキが!」


 すでに、その扉の前は多数の騎士たちによって固められていたのだった。


 彼らは曇りも陰りも見えないような、本当の純白の鎧に身を包み、洗練された佇まいで俺を射抜くように見つめている。……これは、強いな。雰囲気からでも強者オーラがビンビンわかるぞ。


 そしてそのリーダーらしい一人の若い茶髪の青年が、狂気的な笑みを貼り付け、俺に剣を向けた。


「我々は『鋼雹先鋭団』、そしてオレは団長のエノク! 貴様は! ここで死ねぇッ!」


 途端、地面に亀裂が入り、次の瞬間俺の目に飛び込んだのは、王城の地下に建造されたらしき巨大なコロシアムだった。……いや、魔法か何かで空間がゆがめられているのか? 少し、コロシアム内部から覗く外界が歪んで見える。その穴も、徐々に塞がっていった。


 そして俺と先鋭団の騎士たちはその場内へ落下した。


「くっ!」


 俺は木刀を地面に勢いよく叩きつけるように投げ、わずかでも落下の衝撃を減らしたあとに受け身を取る。体育の授業、高校の時もうちょっと真面目に聞いておくべきだったな……! 受け身の取り方がうろ覚えでしか出てこない!


 なんとか記憶からルルンの取ったような受け身を引っ張り出し、真似してみる。もともとの体力向上のおかげもあってか、あまり強烈な衝撃を受けることはなくて済んだ。


「まずはそうだな……ククッ、ヤバル! あのガキを殺せッ!」


 いつの間にか観客席へと移動していたエノクが、同じく観客席にいたひとりの騎士を差し向けてくる。

 現れたのはとても鋭い眼光を放つ壮年の男だった。


 ……先鋭団、というだけあってか、一団員にすぎないコイツでも『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』は強力に反応している。

 さて、それじゃあ調べさせてもらいますか。


「……空間を立方体のマス目として捉え、切削する能力ね……」


 これまた相当ユニークで強力な能力だな。要は、ヤバルのリーチ圏内であれば一瞬にしてごっそりと空間を消し去ることができる固有魔法である。接近戦は禁物……だが、俺の銀の弾丸はやはり、それを真っ向から封じ込める能力だ。


「『銀弾(シルバーバレット)飽く無き創造者ザ・クリエイターズ・ホープ』!!」


 これは、失った物を即座に補填する保険の固有魔法だ。この仕様上、失ったものと完全な同一物を得ることはできないものの、俺は心臓は血を送り出してくれればそれでいいし、腕も武器が振るえればそれでいいし、もっと言うのであれば俺の脳でさえも、この苛政を打ち倒す意志を存続できるのなら十分だ。何ら問題はない!


「ギラギラと……獣のように醜い眼だな」


「強い意志を秘めてると言ってくれよ。お前の王が敷いてる政治は、他の政の足元にも及ばないんだ……それを倒したいだけだぜ」


「……何が貴様をそこまで駆り立てる?」


「俺の、昨日知り合ったばっかりのヤツらだけどな。アイツらが浮かない顔をしてるとな……なんとかしてやりたくってな。ヒーロー気取りと思ってくれりゃいいぜ」


 ヤバルはツバを地面に吐き捨てると、俺の方へ剣を向けた。


「王の救国の恩をも忘れた逆賊めが……。我が神聖なる一太刀で斬り伏せてくれよう……『破壊の裏の色(ボード・ナインス)』」


 ――刹那、俺の視界を銀色の光が横切った。

 そして次の瞬間、俺の目の前にヤバルの姿はなく。


「ッ……!」


 俺が次に見たのは、胸部と脚部のみが残った無惨な己の肉体だ。

 だが、『銀弾(シルバーバレット)飽く無き創造者ザ・クリエイターズ・ホープ』のお陰で俺は無傷で立っている。若干、手の指先などの細かい動きがぎこちない気もするが……さほど気になるレベルじゃない。なら、戦闘は余裕で続行可能だ!


「しッ!」


 ヤバルの意表を突く形で突っ込み、俺の木刀を奴の脳天に叩き込む。


「効かん……!」


「分かってるに決まってんだろッ!」


 当然、純白の兜はヘコみも傷つきもしないが、それくらい予測して別の手も打っている。先ほど突っ込んだ瞬間に手放し、その場で高速回転させていた釣り竿が時間差でヤバルへ向けて衝撃波の連撃を送った。


 そして関節部の高さもきちんと見極めておいたおかげで、無数の衝撃波はは膝、腰の関節を滅多打ちにする!


「ッ……!? だが、この程度で怯むほどやわな鍛え方はされておらん……! 喰らうがいい、『破壊の裏の色(ボード・ナインス)』!」


 再び俺の体の一部が消し飛び、再構築された。

 ……んん? 今回は少し反応ができたぞ。お陰で消し飛んだのは右の胸部と右腕だけにとどまってくれた。


「そのような大規模な魔術……すぐ、貴様の魔力も枯渇するだろう……」


「悪いけど、魔力枯渇になったことないから分かんねえな!」


 掴み取った釣り竿を再度振る――今回は、本来の使い方もな!

 ソニックブームをまき散らしながら釣り針がうまく兜へ引っかかり、すぽん! とそれを奪い取る。


「ッ――がぁあっ!」


 そして遅れてやってきた衝撃波が、ヤバルの後頭部を強打。若干よろめいたら、チェックメイトだ。


「寝ッ……とけェエ!!」


「っ……」


 全力で防具のない脳天を木刀でぶん殴る。ようやくヤバルは意識を手放し、その場に倒れ伏すのだった。


 ……とはいえ、まだまだ終わるわけには行かない。まだ先鋭団ボスラッシュは始まったばかりなのだ。


「クハハハ、面白い! ヤバルを完全封殺するとはな! ならば、メトシャエルよ!」


「おうッ!」


 次に飛び出してきたのは、身長二メートル半を超えるような屈強な大男だった。


「『銀弾(シルバーバレット)我駕雅彗星ノワール・アンド・シフテッド』!」


「そんな小細工ッ! おれにゃ効かねぇよぉおおおお――ッ!!」


 龍が吠えたのか!? と錯覚するほどの強烈な衝撃だ。叫ぶだけでこれか……見た目からしてパワーバカだしなぁ。


 それで、こいつの固有魔法は攻撃時に全体重を自らの拳に偏らせる固有魔法だ。そしてそれに対応する銀の弾丸は、『我駕雅彗星ノワール・アンド・シフテッド』――ありとあらゆる衝撃を体を通さずに後方へ流す。つまり、打撃系の攻撃であればすべてを無効化できる……のだが、俺たちの睨み合いを眺めていたエノクは予想外の行動へ出る。


「そうだ、レメク……同時にかかれ!」


 メトシャエルとは別の騎士が闘技場へ降り立った。えぇ……。


「『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』……あっ!?」


 そこで、俺はこの能力に潜む重大かつ現在致命的な穴を発見してしまった。


 何を隠そう、この固有魔法が同じ時に敵に有利を取れるのはひとりだけ……つまり、タイミングを見極め、誰を相手とするのか切り替えつつ攻撃をいなさなくてはならないらしい。


「卑怯などと言うなよ! 精々気張れッ! クァハハハハ!」


「負けられるかよ! 畜生!」


 さらに相性の悪いことにレメクは剣を使うらしい。げぇ。

 いや、団長のエノクの采配が上手ってことだろうな。本当に騎士ですかあなた。


「そらぁッ!」


 メトシャエルが殴り、レメクは斬りかかる。メトシャエルの殴打はとりあえず俺の能力で衝撃を逃がし、斬撃のみを回避することに専念だ。


「俺の拳が効かねぇだとぉ!?」


「――メトシャエル、焦るな。我が剣が仕留める」


 分析眼もすごいもんですな……。さすがは先鋭団だ。


 木刀を前もって掲げておくと、ちょうどその地点にてレメクの斬撃が交差。全く反応できなかったが一応防ぐことはできたらしい。


「我が『曇空の臨刃(ブリーズ・バウンス)』をも見切るとは」


「まあな」


 この『曇空の臨刃(ブリーズ・バウンス)』は斬撃の過程を認識させない固有魔法。つまり、俺はレメクが飛び出してから剣を振るい終えるまでを脳が知覚できない……前もって斬撃を予測するしか対処法はない。


 今回はなんとなくの予想があたっていたから弾けたものの、次もそうかは分からない。キツいぞ……。


「せらぁ!!」


「うぉっ!?」


 突然背後から雄叫びが響き、『銀弾(シルバーバレット)我駕雅彗星ノワール・アンド・シフテッド』が膨大な衝撃を反対方向へ逃がす。


 メトシャエルはやっぱり殴ってきたようだ。レメクに専念して魔法を切り替えなくてよかった!


「喰らえッ!」


 咄嗟に突き出した釣り竿をメトシャエルは首をずらして回避。次のレメクの斬撃は横へ飛び退いてなんとか済まそうとしたが、左腕をざっくり斬られた。


「くっ……!」


「――やはり……先程の回復は魔法の本質ではなかったようだな」


 うわ、見抜かれたか!?


「レメクゥ! なんか分かったのか!?」


「――相手によって自動で変化する能力だろうな」


 うわ、見抜かれた!!

 まあ別に、だから何という話ではあるが……。


「……」


 直線上に俺を挟んでメトシャエルとレメクが立つ。片方を警戒すればもう片方に攻撃されるな。殴打はとりあえず受け流せるので、警戒すべきはレメクだろうが……腕が痛い。めちゃくちゃ痛いぞ。


 骨がくっきりと見えるほどの重症だ。それを負っても一応腕に力が入るのは十分異常だな。冷静に見てみると、俺の体は良いのだがまだ精神が痛みに耐えるのが難しそうだ。


 ……ま、それでもやるけど。


「よし、かかってこいよ」


 なんとなーく……解が浮かんだ。


「来ないか? なら俺から向かわせてもらうぜ、メトシャエルッ!!」


「舐めるなァ――!!」


 俺がレメクに背を向け、メトシャエルへ飛びかかる。

 メトシャエルは相変わらず殴打での迎撃を構え、後ろを向くとレメクもスタジアムの床を踏み込んでいた――完璧ッ!


 俺の視界からレメクの姿がかき消え、メトシャエルの拳が俺の腹へめり込み――


「がぁッ!?」


 ――バキィイイン!!

 レメクの剣が折れ、そしてレメクは大きく吹っ飛ばされた!!


「レメク!? 何をしたァッ!?」

「簡単だ――衝撃を後ろに流しただけだぜ」


 そう。これは、『銀弾(シルバーバレット)我駕雅彗星ノワール・アンド・シフテッド』の効果――受けた衝撃を、体を通さず『反対方向へ逃がす』!


 それによりメトシャエルと逆の方向へ、威力百パーセントのままの衝撃が向かい、ちょうどそこにいたレメクをぶっ飛ばしたのだ!


 レメクは観客席へ吹っ飛び、いくつもの椅子を粉砕しながらようやく止まる。そしてあっけにとられていたメトシャエルも俺の釣り竿でノックアウトした。


「……まだやんのか? 団長」


「ククッ……そうだな、次は――」


 ――ピコン……バリンッ!


「!?」


 とつぜん、後方から奇妙な電子音のようなものが響いた。

 そして同時に俺の立っていた床は大きな口を開く。団長であるエノクも驚いた顔をしていて、俺が落下する寸前、最後に振り向くとそこにいたのは――。


「助かりました!! 莫大な衝撃で空間の歪みを作り出す、師匠の計算ずくの行動には感激の念しかありませんよ――!!」


 右の瞳が炎のような赤へと変色し、同じく紅き剣を携えたルルンだった……!


 * * *


「ぐべっ!?」


「!」


 俺が吐き出されたのは、真っ白な硬い石の床の上だった。


 見渡す限り純白。床も壁もカーペットも玉座も何もかも純白……唯一色を持っていたのは、その玉座の上に鎮座していたひとりの青年だった。


 映画でよくあるゾンビのような、青白い肌である。瞳と髪は黒。顔付きもこれまで見た騎士たちとは異なる、俺がよく見慣れたアジア風の顔立ちだ。


 と、いうことは……。


「お前は転移者だな?」


「そういうキミも、転移者だよね?」


 やっぱりな……コイツが、Mさんの言っていたターゲットであり、三人姉弟を、そしてすべての国民を不幸へ陥れた諸悪の根源だ。


「エノクがこうも早く倒されるとは思わなかったよ」


「いや、そいつはまだ死んでない。いきなり仲間が助けてくれた」


「……」


 少し意外そうな顔を浮かべる。


「仲間か……昔は僕にも仲間がいたっけね。ああそうそう、自己紹介が遅れたね。僕は小倉椛印(こくらかいん)、暴走した古の海龍を倒した、英雄さ」


「俺の名前は朝生義亜鐘(あそうぎあべる)。お前を倒して英雄になる人間だ!」


 俺は釣り竿を手に握る。


「あははは、滑稽な武器だね! そんなもので僕の『魔剣ラグラ・ドグス』と斬り合えるとでも?」


 そしてカインがどこからともなく出現させたのは、やはり純白の剣だった。しかしそれはガラスのように若干透き通っている。装飾も精緻で、俺でも少し視線が奪われるくらい美しい剣だった。


「……その剣も剣だな」


 ラグラ・ドグスはカインと一緒にいたいらしい。物好きもいるものだなぁ。それを言ったらエノクあたりも物好きか。


「へぇ? このラグラ・ドグスの力を見抜いたのかい?」


「固有魔法付きだろ」


「はは! やるね」


 俺の『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』は魔剣ラグラ・ドグスに対しても反応していた。それはつまり、剣が固有魔法を持っているということ。


「そこまで読めたのなら、もう分かったんじゃないの? 君ごときが敵う相手じゃないって」


「……今は、な」


 カインが指をくるりと回すと、数多の魔法の雷が宙に現れる。


「今は、なんて、時間をかければ僕に敵うとでも思ったのかい? 何年もの厳しい鍛錬の末に龍をも討ったこの僕に? あははっ、笑わせてくれるね!」


 ……多いな、この雷……。


 バチバチ、と閃光を放っているそれは見ているのも辛いくらいに眩しい。というか、直視した太陽より明るいんじゃないか、アレ……。


「まずはこれくらい、全部避けれるよね?」


「無理ゲーじゃん」


 そしてとてつもないスピードで一斉に放たれる雷たち。電気の塊なぞ視認できるか! 反応できるかこの野郎!


 ……とはいえあの口ぶりだと、カインは全部避けれるんだろうな。


 ――ズドドドドドドォオッ!!


「ッ……!」


 巨大な爆発が何度も何度も発生し、俺を吹っ飛ばす。しかも床も壁も傷ついた様子はないのに土煙が発生し、視界を塞いでくるのもたちが悪い。

 ……予め後ろに大きく飛んでいたから直撃は避けたか。


「……あの速度に反応した? 少し……侮っていたかな?」


 土煙が晴れると、いつの間にかカインは玉座から降り、魔剣ラグラ・ドグスを携えて立っていた。


「いや……なにか違うな。君は固有魔法が二つあるのかい?」


「きっしょ……なんで分かるんだよ。お前の固有魔法は攻撃系のクセに」


 カインの固有魔法は『魂を剥奪、もしくは束縛する』能力。魂を生物から引き剥がせば一瞬で殺すこともできるし、束縛をすればいくら致命傷を負って肉体が死のうと動かし続けることが可能となる。


 さすがに、この魔法には制限が存在し、今の俺に使うことは不可能らしいが……。


「一般魔法を使えないってことは、こっちの世界に来てまだ日が浅いんだろう? それなのにふたつの魔法を使いこなすなんてね」


「え?」


 いや、ふたつ持ってるけど、『銀には銀の弾丸をツインスパーキー・ジャッジャーズ』しか発動していないんだが。


「さっきエノクから報告が届いたけど、相手の固有魔法に応じて変化する固有魔法だそうだね、ひとつは。……ふたつめが今のところ不確定要素か……」


 不確定要素っていうか……。


 もうひとつMさんから貰っていた固有魔法『愛の紅き揚舞台ジャスト・フォー・ユー』は大切なものを護りたいとき、心の底から願えば実現する魔法だっけ。


 まだ俺、そこまで極限状態に置かれた記憶はないんだけど。いや、ルルンと双子を救いたいっていうのは事実だが。


「なんだいその顔。僕を馬鹿にしてるの?」


「すまん、そんなつもりはない」


 どんな顔してたんだ俺。


「それじゃあまあ、サクッと逆賊を焦がし尽くしてあげようかな――『裁雷(ジャッジメントボルト)』」


「うぉ!?」


 カインが白い雷をぶっ放すと同時にこちらへ剣を投げつける。


 まさかの武器を手放すという予想外の行動に驚きつつもすんでのところで躱す――が、なんとラグラ・ドグスは壁にぶつかると正確に俺のいる方向へ飛んできた!


「物理法則ガン無視じゃん!」


「これはそういう魔剣だからね。純白の刃は標的を決して逃さない」


 うわぁ運命よ、俺にどうしろと。

 カインが固有魔法を使う様子がないから俺の銀の弾丸も死んでるんだが……。


 しばらくはギリギリ躱したり釣り竿で弾いたりしていたものの、すぐに集中が逸れ、その隙に腕を切り裂かれる。


「ッぁ……!!」


 すでに斬られていたのとは逆の右腕を深く斬られてしまう。それで釣り竿を取り落とすと、それを好機と見たかのようにラグラ・ドグスは更に加速し、ついには俺の心臓を深く貫いた――。


「がッ……ぐぁ……!」


「致命傷だね」


 パチン、とカインが指を鳴らすと、ラグラ・ドグスも持ち主の下へと帰っていく。大きく貫かれた胸部の風穴から、とんでもない量の血が流れ出した。ウワァ……これが俺自身の身に起きてるってやばいな。

 体がゆっくりと崩れ落ちる。が――次にカインは、ようやくその魔法を発動したのだった。


「『朽ち果てた紅の鎖(ミリアド・ライヴズ)』……『治癒(ヒール)』」


「……!?」


 俺の傷が中途半端に治癒する。


 血は流れるし痛みは強いしで全く良くなっていないのだが……なぜか、カインは間違いなく俺を回復させたのだ。


「キミはズタズタにして嬲り殺したあと、晒し上げにしよう。この僕に歯向かったらどうなるかの良い手本になるよ」


「オイオイ……」


 だが、まだ抵抗はできる……そう思って釣り竿を拾い上げ、立ち上がろうとした瞬間。


 ――バンッ!!


「で、伝令――!!」


 この玉座の間へ、ひとりの兵士が入ってきたのだった。

 その兵士は俺のことをチラリとも見ず、ただカインへ向かって跪く。


「ひょ、鋼雹先鋭団の団長エノク殿が死亡ッ! それ以外の団員もすべて戦闘不能に――」


「邪魔をするなっ!!」


 パァアアアン――と風船が弾けるような音が響いた。


 もちろん弾け飛んだのは風船ではなく、その伝令の兵士であり、頭から垂直にラグラ・ドグスに貫かれて爆破されたらしい。あ、あれってあんなエグいこともできるのか……ただ飛ばすだけじゃないのな。


 いや、それより、エノクが死亡!? つまり……ルルンがやったのか!?


 カインは魔法を使って兵士の死体を完全にかき消してしまうと、雑に扉を閉める。


「ハァ、邪魔が入ったね。もう二度と邪魔されないように、空間を切断しておこうか……」


 窓の外から見える景色が、青空から黒と紫の入り交じる不気味なヘドロのような色合いへ変化した。


「これで、もう誰にも邪魔できないよ。苦しんで死ね、逆ぞ――」


 ――ピコン!


「あっ」


 この音は。

 ――……バリィン!!


「だーっ!!」


「なんで来れるんだよ、おい」


 やはり――ルルンだった!!


 そしてルルンの両足に抱きつく形でシルンとエリンもやってきているが、どうやら二人は目を回してしまっているらしい。


「な……!? う、宇宙を移動したのにも等しい空間切断だ! ただの人間が、来れるはずがない……いや、まさか」


「いや……相当ムリしましたよ! でもね、師匠が死んだら! もう剣を教われないじゃないですかっ!!」


 ルルンの右の瞳はやはり紅い。よく見るとそれには複雑な模様とともに『#445』の文字が浮かび上がっていた。


「師匠! 魔力、借りますよ!」


「おう?」


 俺の魔力をだいぶ持っていったらしい。なんか、ふわっと体が一瞬軽くなったような感覚が……。ていうか今俺死にかけなんだけど。もう俺、外付けバッテリーとして死ぬのか?


 そしてそれと同時につぅ……とルルンの瞳から流れる赤い血。言っていたとおり、だいぶ無茶を犯してここまで割り込んできたようだ。俺のために……ありがたい。良い弟子だなぁ。


 カインはルルンを見ると、その表情をこわばらせ、そして徐々に狂気的な笑みを浮かべた。


「魔眼……!? っ、ご、五十年だ! 五十年探しても見つけられなかった『紅の魔眼(ミリオン・ブラッド)』の人間が! 自分から出向いてくるなんてね!!」


紅の魔眼(ミリオン・ブラッド)……?」


 確かに、ルルンの右の瞳は人間離れしている。通常の人間は眼に数字が浮かび上がったりしないが……それを探していたのか、こいつは?


 ルルンもそれを承知していたのか、緊張した様子の面持ちだった。


「あまり知られた話じゃありませんからね。紅の魔眼(ミリオン・ブラッド)は所有者の望みを叶えると言われています。まあ、そんな良いものじゃないんですけど!」


「何を今更!! 歴史を見てみろ! 魔眼の所有者が一体どれだけの栄華を極めてきたか……! 英雄! 救世主! ある人間は神とまで言われた!! 次は、僕が世界をこの手に収める番なんだよぉおッ!!」


「ふん! 僕から魔眼を摘出したところでその肉体が馴染むとは限りませんけどね!」


 なんか急に怖い話を始めたぞ。


 魔眼を摘出って……紅の魔眼(ミリオン・ブラッド)ってなに、持ってる人からえぐり取って自分の目玉にはめ込んだら使えるようになるの? ……こ、コワイ……。


「それに、師匠は! まだ負けちゃいない!!」


「え? 俺?」


 ――いつの間にか、俺の胸部、両腕は完全に治癒していた。そしてさらに、俺のそばの空間がジジジッ……と音を立てて歪み、ひとりの美女の肖像が出現する。


『お前は自分の心を理解したほうが良いな』


「え……Mさん!?」


 そこにホログラムのようなミニ肖像画として現れたMさんはやれやれ、と肩をすくめた。


『お前、無意識のうちになんでもかんでも護りたいって思ってるぞ。そのおかげで俺がお前の仲間を全部護ってやる羽目になった! 人選ミスった気がするよ』


 そうは言いつつも、Mさんは嬉しそうな顔をしている。


『……現時点でお前の『愛の紅い揚舞台ジャスト・フォー・ユー』効果対象は三人姉弟! 釣り竿! このあたりの罪のない国民全員! そしてお前自身の肉体だ! 遠慮するな、特攻しろ!! じゃあな!』


 ま、マジか。つまり俺の能力は常に発動してたのか……びっくり。


 だが、実際元気が湧いてきた気がする。俺は釣り竿を握る手に力を込めると、まっすぐカインを見据えた。そしてルルンも俺の横に並び立つ。


「『#387』――『単純強化(ストレングス)』」


 ルルンの瞳の文字が変化し、橙のオーラをまとう。色は若干薄いものの俺にもオーラが発生して、体の底から力が溢れてくるような感触を覚えた。それと同時に魔力もごっそり持っていかれたらしいが、まあ大丈夫だろ。


 俺は釣り竿をカインへ突きつける。


「やってやるぜ。俺は優しい市民だから殺しはしない、安心しろ」


「ええ! 師匠の言う通り、楽に殺しはしませんから!」


 ちょーっと意味が変わっているが、まあ大丈夫だろ。


「いい気になるなよ! 僕こそが世界の王なんだ!!」


 ラグラ・ドグスが投擲され、俺を貫かんと迫る。しかしルルンのオーラのおかげもあってか、割と容易に見切ることができた。


「パワーレベル九十台が今の師匠に敵うと思わないでください!」


「何を!」


「今の師匠は最強だ……! パワーレベル百!! これを超えた人間なんて指折り確認するくらいしかいませんよ!! 負けるなんてありえませんから!!」


 この前七十って言ってたけど、俺強くなったのか……。


 レベル云々はともかく、俺は躱した魔剣ラグラ・ドグスをひっつかんで動きを止めることができるまでになっていた。


 ガシッと柄を握ると魔剣は逃げようと必死にもがくが、しばらくすると諦めたらしい。割とかわいいな。


「な!? ラグラ・ドグス! そいつを切り裂けよ!」


「無駄だ。……それより、こっちばっか見てていいのか?」


 戦闘中に背を向けるなんてな。


「『#093』――『環状衝撃(ナイトリング)』」


「ぐぁっ!」


 背後に回り込んでいたルルンが紅い衝撃波をぶっ放し、カインを背中からぶっ叩く。

 俺はそれで吹き飛んできたカインへ、全力で釣り竿を叩きつける!


「『#641』――『重力超化(グラビティフォース)』」


「がァッ!?」


 カインにかかる重力だけが何十倍にも増幅され、俺の攻撃も相まって地面へめり込む。魔剣ラグラ・ドグスでも傷一つつかなかったこの城の素材だが、さすがに増幅された自然の暴威には耐えられなかったらしい。


「終わりだな」


「ま、だ……! 僕はッ! ここで死ぬ運命じゃないッ!!」


 ダンッ! と大きな音が響き、その場を離れるカイン。こ、こいつ、ここに来て逃げるのか。

 ルルンがすぐに追おうとしたが、俺はそれを手で止めた。


「『括られた悪夢アバウト・リテラチャーズ・ルーム』……!」


 意識を取り戻したシルンが固有魔法を操り、周囲に帳を下ろす。


 勢いよく窓から脱出しようとしていたカインはその帳へ激突し、フラッとよろめいて倒れこんだ。


「まったく、私が目覚めなかったらどうなってたと思ってるの」


「でも現実は上手く行ったからな」


「調子の良いことばっかり……」


 シルンは悪態をつくが、ホッとしたような感じだった。

 俺がカインを釣り竿の衝撃波で今度こそぶっ倒し、シルンがポケットから出したロープでカインを縛り付ける。


「――銀の弾丸は寸分の狂いもなく、標的だけを冷徹に貫く!」


 長かったようで短かったような、そんなひとつの正義の物語は、これにて幕を下ろすのだった――!


 * * *


 ――カインが失脚してから数週間が経った。


 それまで、今までの鬱憤を晴らすべく国民が白銀の王城を叩き壊しに来たり、ついでにカインへ従っていた貴族たちの住む貴族街も半壊し、逃げる貴族や家を建て直す貴族が業者を呼ぶも、業者も壊滅して……とこの国はとんでもない状況にあった。まあ、しゃーないな。


 あと、僅かな目撃情報から正確に割り出された救世主――つまりルルンたち三人の家に大勢の市民が集って聖地巡礼を行っていた。 家に急遽設置されたお賽銭箱は二時間おきに回収しないとまんたんになる有り様で、しかし一度外に出てしまうともみくちゃにされるしでかなり大変だったらしい。なんでか俺にはそういうのが一切来ないのだが、自由だと喜べば良いのか正当に評価されてないことを嘆くべきなのか。いやでも、みんなの笑顔を見れたら十分だな。よかったよかった。


 で、もちろんこんな家に秘密の関係者用通路などあるわけもなく、俺が三人へ会いに行くこともできずにいた。




 ……それからしばらく経って、ようやく混乱とお祭りは収まり始め、俺は久しぶりに三人の家を訪れることができた。


 いやぁ、それにしても家、ずいぶんきれいになったな。何週間か来てない間にリフォームをしたようだ。


 すっかり人が少なくなった――とはいえまだ十数名が聖地へ訪れているが――ので俺は家へ入る。救世主信仰者の方々が俺を突き刺すような目で見ていたが、気にしない気にしない……。


「よー。遊びに来たぞ!」


「し、師匠!!」


 だっ! と音を立てて家の奥からルルンが走ってやってくる。は、速いな。


 ルルンはこの間紅の魔眼(ミリオン・ブラッド)を使っていた右目に大きな眼帯をしていた。戦いの後しばらく眼から血が止まらなかったし心配なところだが、大丈夫なのか?


「眼ですか? あと一月もすれば治りますよ! へへん」


「ならよかった」


 すぐにエリンもやってきた。


「あ! アベルだ久しぶり! なんというか、私だけ役に立たなくてごめんね」


「おう、久しぶり。ルルンから聞いたが、エリンの魔力量が多かったから俺を助けにこれたらしいぞ。十分すぎる活躍だよ」


「えへへ。ありがと」


「師匠! 立ち話もなんですし入ってください! そして剣を教えてください!!」


「だから俺、剣の心得なんてないって……」


 とりあえずルルンに手を引かれてリビングへ入る。


 ……も、物が多いな。転移初日に泊まらせてもらったときはホテルか? と思うほど整理されていた一室だったのが、今ではなにかの部品で埋め尽くされている。

 一応隅にまとめる努力はしたようだが……何があったんだ。物が増えたら仕方ないのかもしれないが。


「そういえば、シルンがいないな」


「お姉様はね、地下で寝てるよ。地下が魔道具の工房? になってて、そこにあるのは失敗作なんだって。失敗作って言っても使えるものではあるから、今度どこかでまとめて売っちゃおうかと……これ以上お金があって持って感じだけどねぇ」


 ち、地下なんてありました? ここ。


「あ、リフォームしたときに地下二階まで作ってもらったんだよ。お賽銭? がすごい量で、無駄に贅沢品を買うのもなんだかなぁ、って感じだから部屋を増やすくらいしないと使えなくて……」


「ちなみに地下一階は工房で、地下二階はなんと師匠が来たときのための訓練場にしました!! さっそく行きましょう!!」


「だから俺剣の知識なんかないって何度言ったら」


「魔道具で自然環境を模倣したゾーンもあるので大自然の中で釣りもできますよ! さっそく行きましょう!!」


「よし行こう」


 そういえばこっちに来てから一度も釣りしてないぞ俺。ふはは、地元で魚マスターの称号を手にした俺の腕がなるぜ!


 ……と思っていたら、本当に大自然だった。


 いや、俺は便利な魔道具で森の中の泉とか、きれいな海と浜辺とか、そんなのを再現したと思ってたんだ。それがなんだコレ。


「ジャングルじゃん……」


「実戦経験を積めるように、複雑なジャングルを設定しました! そこの湖とかに魚がいますよ! さっそく行きましょう!!」


 その魔道具というのは範囲内の領域に特定の自然を作り出すもののようで、ホログラムとか幻覚とかではなく本物のジャングルだそうだ。スイッチひとつで環境を変更できるすぐれものだそうで。便利だなあ。


 あとスイッチを押して森の中のきれいな泉にしてもらいました。


 いつの間に買い揃えていたのか、これまた上質な釣り竿を取り出し、俺の隣でルルンとエリンも糸を垂らす。


「きたきた」


 俺が腕の感覚に従って釣り竿を振り上げると、一メートルを超えるような巨大な魚が釣れた。特徴からしてカツオか? うーんデカいな。


「さすが師匠です!!」


「私も負けないよ!」


 ……そんなこんなで一時間ほど釣りに熱中していたら、起きたシルンがやってきた。


「面白そうなことをしてるじゃない……ってあら? 諸悪の根源がいるわね」


「あ、ドーモ」


 いきなり諸悪の根源呼ばわりですか……まあ、家が信者に取り囲まれる原因を作ったのは俺だしなあ。すいません。


「まあ、収入が増えたし仕事もいいのにつけたし、なにより政治が良くなったからそこは感謝しておいてあげる。ありがと」


「それはよかったよ」


「迷惑がかかったのとトントンだから勘違いしないで頂戴」


 シルンも釣り竿を投げ入れ、すぐに釣り竿を上げたが餌だけ食べられていた。


「……」


「だははー! シルンお姉様、逃げられてるー!」


 そういうルルンはそもそも魚が近寄ってきてないんだがそこは良いのか。


「んしょ」


 エリンは釣りがうまいな。かなり釣れてる。


 まあ、一番多く釣れてるのはやっぱり俺だけどな。もう三つ目の魚収納ボックスな魔道具が埋まってしまった。


 こっちにきて向上した身体能力のお陰で釣りのタイミングとか魚の気配とかがより分かるようになったのもある。最初はどうなることやらと思っていたが、釣りを楽しめるのってありがたいなぁ。


 Mさんありがたや〜。


『感謝してくれたようで何よりだ。暇だったら次の司令とかもあるけど、いるか?』


「うわ!?」


 お、驚かさないでくださいな……。ああ、魚が逃げてしまった。


 いきなり宙に出現したミニ肖像画にルルンたちも注目しているが、ルルンは見たことがあるのでのんびり手を振っていた。


「もうお仕事はコリゴリですよ、当面……」


『だろうね、別の転移者に任せとくから安心しろ。……そういえば米牙とやらは見つかったのか? あの冒頭で一緒に溺死した相方』


「あー、米牙はずっと前から探し回ってるけど、全然見つからなくって……聞き込みとか、冒険者ギルド? に捜索願いも出してるんですけどね」


 Mさんはため息を付いた。


『やっぱりか……。いや、お前の相方も俺が転生させたんだが、こっちから急に位置が補足できなくなったんだよ。まあ原因は分かるんだが、こっちからはどうしようもないし、お前の方で頑張って探し回るしかないな』


 ありゃま。Mさんがどうしようもないくらいの原因ってなんなんだろ。


『気になってもあんまりツッコまない方が良い。ここらへんはまあ簡単に言えば、神様のお仕事だな』


「そうですか」


『ああ。それじゃ、またな』


「はーい」


 ゔぉん、とバイクのような音を出しながら消えるミニ肖像画。


「誰? さっきの人ちょ~美人だったね!」


「だろ」


 俺もそう思う。人形ぽくもなくて、自然な美しさっていうか。


「もしかして彼女さん? えー彼女いたんだぁ!」


「ちげーわ!」


「そうですよ! これだけ強い師匠のことです、女なんぞにうつつを抜かす暇があれば鍛錬してるに違いありません!」


「してないでしょ」


「うん、してない」


「そんなご謙遜なさらずに!」


 わいわいと賑やかな仲間たちに囲まれつつ、また新しい旅でも始まるか? と少し悩ましい俺だった……。

 えと氏の作品『転生勇者と転移してきた最強魔王』のスピンオフ作品です。(https://ncode.syosetu.com/n9488jr/)

 冒頭で沈んだっきりのかわいそうな釣人A(名前すら作者につけてもらえなかった)に焦点を当てています。

 原作をまだ読んだことない人はぜひ読んでみてください。これを最後まで読んでる人なら多分面白いと思います。しらんけど……。

 あとほぼオリジナルになっちゃってるのですが、えとくんの執筆がそもそも進んでいないので作品の内容をこちらでもほぼ把握できないのが大きい理由です。できれば仲間キャラの休日とかも書きたいけど。

 それと、今こちらでわりかし長めのやつも書いてます。ぜひお楽しみに。

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