男飯専門、気まぐれ一家
ちょっとリアルで色々企画やってて、色々な出会いに頭がズンガズンガされて書いた←
反応が良かったら親ドルリメイクや公開予定の他の作品のあとなりで連載したいなと。
これぞ町のごはん屋さん、といったカウンターとテーブルが少しの小さな店。
午前11時。昼時にこの店は開く。
「店主よ、3番にチャーハンじゃ」
「店主殿、野菜塩のもやしとチャーハンを8番に。あ、セットではなく単品のチャーハンです」
「店主様、こちらの机に月見そばと肉うどんの牛をお願いします!」
開店して数分で今日最初の客たちがやってきた。
近くのスーパーの店員や老夫婦など顔なじみの客が挨拶を交わすと席について店員に注文をする。
「はいよ」
どこか眠そうな顔をした店主がそう言うと厨房のコンロの火を入れる。
そうしてこの店の1日が始まった。
◆チャーハン
店主が炊飯器からごはんを器に移すと、冷蔵庫を開けてベーコンと刻みネギ、生卵を取り出す。
卵を割ってごはんの上に落とすと味の素を3振り4振り。ついでに鶏ガラスープの素も少し。
手早く混ぜて、コンロの横へ。
ベーコンはブロックを毎朝開店すぐのスーパーから買ってきて、それをサイコロ状に切ったものだ。
刻みネギも同様にスーパーで買ってくるパックのものを使っている。
「来栖さまも変わらぬ様子でいらして……」
「なんのなんの、じい様ばあ様も健やかなようで何よりじゃ」
「天海さん、このあと俺外回りあるんだけどさ。雨大丈夫そうかな?」
「ええ、夕方までなら大丈夫ですよ。そうですね、6時でしょうか? そこまでならなんとか」
「稲穂ちゃん、これ食べるかい? エアコン効いてても厨房周りは暑いだろ、ほら塩飴」
「え、よいのですか!? ありがとうございます!」
店員たちも料理ができるまでは暇だ。
こういう時はだいたい相手が常連の場合に限り、しばし雑談をする。
予め油を入れてコンロの上に置いた深めのフライパンにも、しっかり熱が通ったのか煙が出始める。
フライパンを軽く回し、もう1度油をフライパンに馴染ませるとそこにベーコンを入れた。
ジューっと心地よい音を立てながら火を通すとそこに刻みネギも入れる。
軽く混ぜ合わせたらそこに玉子かけご飯を投入し、コンロの火を中火に落とす。
そして竹製のしゃもじで切るように混ぜながら炒め始めた。
中華鍋もあるにはあるが、シーズ二ングが面倒で2代目以降はまだ使われていない。
しばらく炒めて、米がパラパラになったことを確認すると、塩コショウ少々、鍋肌に沿って醤油を1回し。
「ふわ~……」
醤油が焼ける匂いに稲穂が思わず声を出す。
それを見た来栖と天海は苦笑い。客はそれを微笑ましく見つめている。
そんな様子を見ることもなく店主は目の前の料理に集中する。
最後に器に盛りつけて、開店前に仕込んでおいたスープを小さなカップに。
それらを盆に乗せたら完成だ。
「チャーハン2つ、あがったよ!」
◆月見そばと肉うどん
この店で1番提供が早いのはそばとうどんである。
開店前に大鍋に作ったそば、うどん用のつゆを温め、そばを茹でて盛り付けるだけ。
天ぷらはメニューに入れてないため、割と作りやすいものだけがメニューにある。
月見そばも例に盛れず、つゆを温め、茹でたそばの入った器に注ぎ、刻みネギとかまぼこ、そこに生卵を落としてやれば完成だ。
しかし、今日は少しだけ手間を加えることにする。
確かばあ様は少し風邪気味だった。生卵でも別にいいんだが、と思っても少し気になる店主。
つゆを1人分別の鍋で温め、そこに刻みネギと卵を落として火を通す。
茹であがったそばの湯切りを済ませて、器に。そこへ具材の入ったつゆを入れてやれば完成だ。
「月見あがった~!」
さて、肉うどんだが。この肉うどんだけはつゆが違う。
いつものそば、うどん用のつゆに砂糖と生姜を入れたものだ。
そこに牛肉の切り落としなどを入れて肉吸いのようにして、茹でたうどんと合わせる。
それでも元のつゆができていればそれほど時間のかかるものではないため提供は早い。
「肉うどんできたぞ~!」
◆野菜塩
野菜塩。塩だけで味付けされた野菜炒め、ではない。
野菜炒めの乗った塩ラーメンのことだ。タンメンといってもいいはずなのだが、
「いや、これをタンメンって言ってしまうと色々なところが怒りそうで……」
と店主が言うから、この店では野菜塩ラーメン。
ざく切りにしたキャベツと白菜、豚肉を炒めるキャベツ、と呼ばれているものとそこにもやしを追加したもやしの2種類があり、もやしになると少し値段が上がる。
フライパンにラードを入れて熱すると、白く固形だったラードが溶けだして透明な油に変わる。
そこにキャベツと白菜を入れて少し炒めると切った豚バラのスライス肉を入れて再度炒め始める。
ある程度火が通ったら水とスーパーで買ってきた塩ラーメンスープの素を入れて、軽くかき混ぜ煮込み始める。
その時にもやしもついでに入れて、塩コショウを軽く振る。
ここで1分から2分麺を茹でて湯切りして丼へ。フライパンの火を止めると、持ち上げて丼の上で傾ける。
先にスープを注いで、麺を馴染ませる。その後残った具材を麺の上に移したら完成だ。
「野菜塩のもやしね~」
出来上がった料理たちはすぐに客の元へと運ばれて、腹の中へと収まっていく。
チャーハンとそば、うどんを同時に作り、最後に野菜塩。
火の前に立ち続けた店主も注文が途切れたためしばし休憩。
冷蔵庫に入っている、カラダに1番近い水とされているものを飲む。
いわゆるスポーツドリンクの類も飲むには飲むが、仕事中はもっぱらこちらを飲むのが店主のこだわりだ。
「いただきます」
男は注文したチャーハンが目の前に置かれた瞬間、手を合わせてそう呟く。
皿に添えられたレンゲを手に取りまずは一口。
うん、うまいことはうまいんだけど。いつもの雑な味だ。
口に入れたチャーハンは米がパラパラとほどけ、大きめに切られたベーコンは歯ごたえを生み出す。
炒めたネギの匂いが鼻を通って、食欲を刺激する。
ここでスープを一口。客はみんな知っている。
何の変哲もない、お湯に鶏ガラスープの素を溶かして、ネギと少し醤油と酒を入れただけのありふれたスープであることを。なのに何故か他では味わえない、説明できないうまさがある。
正直に言って、スープが付くからチャーハンを頼んでいる。
ただ、汗をかいて塩が足りない身体には助かる塩気と、気取ることもなくレンゲひとつでがつがつ口に運べる気楽さは認めるところではあるが。
「いただきます」
そう言ってチャーハンを半分ほど食べたあたりで届いた野菜塩。
全く想像通りの味で、それ以上でもそれ以下でもない。
野菜のシャキシャキ感と、豚の油が混ざった野菜炒めも、どこか雑な味。
うまいことはうまいんだけど。
それよりもスープだ。うちのスーパーで売ってる塩ラーメンのスープの素なのは間違いない。
なのになんでこんなにうまいんだ? 家で試してみてもこの味にはならなかった。
不思議で仕方ない。麺にうまい具合に絡んでずるずる入っていく。
一度食べたら食べきるまで止まらない。なんかヤバいものでも入っているのか心配になるくらいだ。
「「いただきます」」
妻に遅れること1分か2分。ワシの頼んだ肉うどんも手元に来た。
2人で手を合わせて早速一口。
……うん、いつも通りのうまいはうまいが雑な味だ。
それでもつゆがやけにうまく感じるのはきっと気のせいだろう。
妻の月見そばはいつもと違って、玉子とネギが煮込まれてる。
店主に尋ねようとしたら
「ばあ様が風邪気味だって聞いたからの。それで生は不味いかもと気を遣ったんじゃろ、柄にもない」
と手持無沙汰の来栖さまが笑いながらおっしゃられた。
ちらりと店主を見ると次の料理を熱心に作っておる。
ありがたいことだ。
それにしてもなんでこんな店に来栖さまや天海さま、稲穂さまがいらっしゃるんじゃ。
姿形は人と同じでも、人ならざる神仏に似たお方。
先日、妻が原因不明の病に苦しんだ時、お救いくださったのが来栖さまだった。
夢枕に立ち、よくわからんもやを来栖さまが祓ったと思えば、弱った身体を天海さまと稲穂さまが癒し、妻は元気を取り戻した。
礼を言おうと色々な神社を息子に探してもらったがどれも少し違う。
あの世で礼を言うしかないのかと思っていたところ、この店から出てくるところをお見かけして思わず声をかけてしまった。
せめてもの礼と週に1度はこの店で食事を摂ることにしておるが……。
おそらく正体を知っているのはワシらだけだ。
店主も知らんだろう。
他の客も来栖さまや天海さまの美しい姿、稲穂さまの可愛らしさに釣られて来ておるだけだ。
絶対にこの秘密だけは守らねば……。
しかし、この店に来るようになってなんでか身体の調子がいい。
まさか食うことで加護をいただけるのか?
……ならば、週に2回に増やそうか?
「ふぅ~、今日も疲れたの」
時刻は午後1時半。ラストオーダーの時間を過ぎたタイミングで客が全員帰り、少し早めに店じまい。
客席の片付けも終わって、椅子に座った来栖が自らの肩を叩きながらそう言うと
「それにしても相変わらずこの店は殿方しか来ませんね。やはり品書きに姫君やご婦人向けのものが必要では?」
「でも、優しい人が多いですよ! 今日もほら、塩飴をいただきました!」
と天海、稲穂が思い思いの言葉を紡ぐ。
「みんな、今日もありがとう。腹減ったろ? 今から賄い作るよ」
店主が奥から声をかけると途端に3人の目が輝く。
「おっ、今日はなんにしようかの。……よし、今日はナポリタンとやらを食おうぞ! まだ棚に缶があったじゃろ。コーンと玉ねぎのスープとサラダもつけるのじゃ。ナポリタンには焼いた玉子も忘れるな?」
「私はそうですね。チャーハンに豚の唐揚げと焼いたウインナーを乗せてください。あ、納豆があればそれも。もちろんスープもいただきますよ?」
「私は、おそばを所望します! 玉子とネギとかまぼこと、お肉の入ったおそば! あとはおにぎり!」
3人の注文に店主は笑って答える。
「はいよ! 水飲んで待っててな」
裏の井戸から汲んできて冷蔵庫でしっかり冷やした、客にはそのまま出さない水を3人に渡すと厨房へと戻り料理を始める店主。
それをちびちびと、まるで酒のように水を飲ながら見守る来栖たち。
何故彼女たちがこの店で働いているのか、それは店主たちしか知らない話。
これはきっとしばらく繰り広げられる店主と彼女の日常の物語。
男飯専門、気まぐれ一家。
営業時間は毎週月曜から金曜の昼11時から14時まで。
たまに土曜も開店いたし〼。
作中の料理はだいたい作れます。
なんか料理したくなってきた笑
リアルで気まぐれ一家いつかやりたいもんですな。