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第7話『路上』

「死ねー!!」


 軽自動車(ワゴンR)ってペッカ村へむかうズミ川街道のとちゅう、気狂きちがいピエロみたいなすがたをしたオッサンがヒッチハイクをしていたが、オレはブレーキとまちがえて? 思いきりアクセルをふんでしまった。

 バンッ! という音と衝撃しょうげきがあり、ピエロが竹とんぼみたいにクルクルとちゅうった。


「ん? 田中どうした?」

「え? アー、猫か人間でもいたんじゃねえかな? さきをいそごうぜ」

「ウワー! た、たいへんでやんす! な、なにしてるでげすか、はやく車を止めるだっぺ!」


 ドイメがかけよった先で、子どもにふり回された無力むりょくなオモチャみたいに、首と手足が変な方向ほうこうにまがったオッサンがたおれていた。

 タマシイが肉体にくたいという名のズボンをぬいでいるところなのか、ぴょんぴょんピクピクとカラダをけいれんさせて、この世から自由になろうとしている。

 アタマがフワフワしてるオレと佐藤は、くものうえでも歩くようにソーっと車からおりた。


「タナカ! あなたいま、死ねってさけんでただっぺ!?」

「アー、どうしたんだろう? そういえば上級国民の外国人なんかでないと、貧乏人びんぼうにんをぶち殺しても無罪むざいにならないんだっけ?」(※上級国民さまの手がける合法ごうほう殺人ショー! ウソみたいだけど、人殺ひとごろしとちがってドラッグは法律で禁止されてるんだよね。トホホ)ゴホッ、ゴホッ

「ドンマイ。ドンマイ。気にするなって! いい死に顔をしてるぢゃねえか。ヘイ! ポケットをしらべてみなよ、こいつわ金目かねめのものをもってるかもしれないぞ? (パチンとゆびらしクルっと回って、カラダをくねらせる) 落ちこんでないで、もっとポジティブなことを考えてバイブスをあげようぜ♪」


 キャア!


 ドイメがわめいて飛びのいた。

 よく見ると、ヨガの達人たつじんでも即死そくしするようなポーズをとったオッサンの、目だけがギョロギョロとうごいてメイド服のスカートの中をのぞいていたのだった。

 キリキリと、歯車みたいな音がして、

 交通事故の動画を逆再生するみたいに

 あやつり人形にんぎょうみたいに

 無重力むじゅうりょくのようなうごきで

 オッサンが立ちあがって

 カラダがもとにもどり、

 片足かたあしをひいて片手かたてをムネにあてた

 バカていねいなオジギをした。


『アハハ。こ、こんにチワ。ワタシは機械の、ロボットの、道化師ピエロのロエピと、いいマス。は、はじめまシテ。アハハ。よろしくおねがいしマス。ワタシたちトモダチ、なりましょ。トモダチ。アハハハハ』


「(おい佐藤! ドイメをオトリにして、今のうちに逃げようぜ!)」

「(へ、変だぞコイツわ。なんで車にぶっ飛ばされてヘラヘラ笑ってるんだ?)」

「(オエッ! ロボットって……さっきまでカラダがグチャグチャだったんだぞ)」

「(こんなやつトモダチぢゃねえや!)」


道化師ピエロさん、だいじょうぶでやんすか!? ケガはないだっぺ?」

『アハハ。ワタシ、機械よ。や、やさしい、おジョウさん、だね。名前は、なんてユウ? トモダチ、カワイイね。アナタ、もう、コイビトは、いまスカ? ワタシとコイビト、なりまスカ? アハハハハ』


 ロエピは見たところ、チビで小ぶとりなふつうのオッサンだ。

 オッサンは道化師ピエロの派手な恰好かっこうをしていた。

 こいつのカラダをホール・ケーキを切るみたいに四つにわけたら、もじゃもじゃアタマから時計まわりに、赤、青、黄色、ミドリになるだろう。

 顔はまっ白にられて、お手玉てだまみたいな赤い鼻、赤くてぶあついクチビル、赤い丸ほっぺ、ずるがしこそうな小さい目の下に涙の水色。いっけんゆかいな見た目だが、よく見ると性欲せいよくの強いオッサンじみたブキミな顔つきをしている。

 陽気なうごきで人をあつめながら、コッソリつまさきに細工さいくしたカメラで下着したぎ盗撮とうさつしているような、

 もしチカンのオリンピックがあったらヒーローになれそうな、

 1日じゅう女をレイプすることでアタマがいっぱいだというような、

 まばたきひとつしない変態へんたい中年男性の顔。


 かなりリアルな人間の見た目で、あの悪魔がよみがえったような悪夢みたいな光景こうけいを見ていなければ、とてもロボットだとは信じられないだろう。


 キャア!

 またドイメがさけんだ。


「どうした!」

「ひ、ひい。いまロエピさんに、クビすじを、ペロっとナメられただっぺ……」


 ロエピはピョンと飛びはね、手をひろげ口をすぼめると、くそでもらしたみたいにビックリした顔になった。カラダを左右にゆすり、手足を上げたり下げたりして、人をおちょくるようなフザケたうごきをくり返している。


『アハハ、ド、ドイメさん、あせ、かいてたカラ。カゼ、ひいちゃウヨ! ふいてあげたノヨ。ワタシ、やさしい道化師ピエロよ。アハハ。悪意あくいは、ないでスヨ、トモダチ。トモダチだっタラ、汗を、ふいてあげるヨネ? アハハ』

「おい、なんでコイツの名前がドイメって知ってるんだ?」

『さ、さっき、言ってタヨ。ミンナ、言ってタヨ! アハハハハ、タナカさん、たのしい人ダネ。サトウさんも、ステキだね。ウレシイね、こんなユカイな人たちとトモダチになレテ。みんなトモダチ、アハハ』

「な、なんだテメエ……」

『ワタシ、トモダチを楽しくするため、ムカシつくられた、ロボットよ。アハハ。みんな笑ウヨ。うれしいヨネ? 楽しいヨネ? 道化師ピエロのロエピだよ。みんなのロエピ、みんなのトモダチだよ。アハハ。キ、キキキ、キャハ。キャハハハハ!』


「もしかしたら、ロエピさんはハグレ機械かもしれないだっぺ」

 ドイメはヒジをだきながら、まゆをしかめて道化師ピエロのオッサンをにらむ。

「ハグレ機械?」

「機械にも不良品ふりょうひんがあって、たまに帝国の仕事から逃げだすロボットがいるらしいでやんす。それがハグレ機械とよばれて、帝国の結界が無く、人のすまない山奥やまおくやダンジョンには、かれらがあつまる町もあるというウワサだっぺ」

 ロエピのアタマのまわりに、二~三匹のハエがたかっている。


 そのとき街道のむこうから黒雲くろくものように、はたをかかげたものものしい男たちがやってきた。



☆☆☆



「ちょっと、ちょっと。旅のかたがた。おちください。すまないだべ、ちょっと教えてほしいんだが。アンタら、どこへ行くつもりだべ?」


 見た目とはちがうやわらかい声で、男たちの先頭せんとうのジジイがハゲあたまをさげた。小柄こがらなゴブリンのジジイははだがミドリ色で、耳と鼻と歯がとがり、ギョロついた目つきをしていた。その男ばかりの数十人の集団しゅうだんにはゴブリン族が多かったが、なかにはヒト族、カラダの小さなチビ族、豚みたいなオーク族、猫耳のついたネコ族もまじっているようだった。

 そして連中れんちゅうはなんとなく、しゃべりかたがドイメにている気がする。ここらへんの方言ほうげんなんだろうか?


「どこへ行くだべ?」

「え? ペッカ村だけど」

「ホオ。じゃあアンタら、ペッカ村の人だべか?」

「ちがうけど……てか、あんたらは?」

「ワシらはこき村だべ。屁こき村にすむ村人だべ」


 顔を守る面頬めんぼおの無いかわかぶとびついたよろいけた剣やきずだらけのたて。屁こき村のヤツらはそまつだが、みんな武装ぶそうをして、なんだか殺す気マンマンといった顔をしていた。

 ヤツらがかかげる旗には、マンガみたいなオシリとオナラの絵が描いてある。

 バカがあつまるイベントでもやってるのか?


「ワシらはこき村の戦士せんしだべ! 旅のかたがた、聞いてくれるだべか? 屁こき村の悲しいストーリーを!」


 屁こき村のあたらしい村長そんちょうだというゴブリンのジジイが、駅前の新興宗教しんこうしゅうきょう勧誘かんゆうみたいに、口のはしにあわをためていきなりしゃべりはじめた。

 オレが口をポカンとあけると、佐藤はグルリと目を上にあげてみせた。


「そのまえに、ワシらはノドがカラカラだべ。なにか飲まないと、話したくても話せないだべよ!」


 オレたちがすすめると、屁こき村の連中は軽自動車(ワゴンR)につんだ大量たいりょうのワインの革袋かわぶくろを、田舎者風いなかものふう遠慮えんりょのなさでかたっぱしからからにしていった……



☆☆☆



「と、ところで、どこまで話しただべか? う……オエー!」


 そう言って屁こき村の村長ゴブリンがピュッとゲロをいた。

 村長のうめき声はズミ川の水の流れにけてゆく。

 きらきらひかる川の浅瀬あさせは、星や月、ハート、魚、クチビルなんかのカタチをした、博物館はくぶつかんの骨みたいに美しい流木りゅうぼくでかざられていた。

 そんな中をスライムの親子おやこか、ねばりけのある水晶すいしょうたちが散歩さんぽしている。


 っぱらった屁こき村のヤツらは、土手どてにすわりこんだり、おどったり、小便しょうべんをしたり、一発芸をしたり、歌ったり、ねむったり、ツバをはいたり、いきなり立ったり、いきなりすわったり、屁をこいたり、大声をだしたり、ムニャムニャしゃべったり、飛びあがったり、ケツをけったり、ケツをけられたり、小便をしたり、おどったり、ゴロゴロころがったり、動物のマネをしたり、アクビをしたり、ベロをだしたり、片足で立ったり、しゃがんだり、酒を飲みすぎてブルブルふるえたり、スモウをとったり、逆立さかだちをしたり、アグラをかいたり、じっとしたり、クルクルまわったり、バンザイしたり、歯をむきだしにしたり、笑ったり、怒ったり、泣いたりしていた。


「うー。と、ところで、どこまで話しただべか? う……」

「いやあ? アンタ、まだなにも話してねえよ」

「アンタらわただ酔っぱらって、みんなで大さわぎしてるだけぢゃねえか」


「ああ! 涙、涙、涙なしでは語れない、ひと月まえまで村長だったワシのあにの、ワシら屁こき村の悲しいストーリーが今、いよいよ語られるだべ!」



☆☆☆



 ワシらの屁こき村はここから近い、ズミ川からはちょっとはなれた、山のふもとの盆地ぼんちにある小さな村だべ。


 まわりにはワシらとおなじような小さな村がポツポツとあって、いちがたったり、家畜かちくをやりとりしたり、道や建物の工事を手伝てつだったりして、村はおたがいなかよくやっていただべ。


 それぞれの村には村長がいるだべ。その村長たちがあつまって、村のらしぶりや冒険者から聞く他国のウワサ、土地の治安ちあん、その年の天候てんこう作物さくもつなんかについて、酒とご馳走ちそうをかこんで話しあう村長会議がたびたび開かれただべ。


 ワシらの村はそのころ屁こき村じゃなくて、モイガヤジ村という名前だっただべ。そしてモイガヤジ村の村長が、ワシの兄だっただべ。


 ワシのところは代々つづくゴブリン村の村長一族で、兄はその長男ちょうなんとして村のいっさいをとりしきっていただべ。

 責任感せきにんかんの強く、たよりがいのある兄で、モイガヤジ村の人びとからも一目いちもくおかれた、何十年に一人の名村長としてしたわれていただべ。


 そんな兄にもよわみがあって、ワシらの家系かけいにはまれなことだが、酒を飲むとオナラが止まらなくなるだべ。だから集まりや宴会えんかいがあってもつきあいでひとくち口をつけるだけで、あとはニコニコと笑ってすわっていたり、すこしはやめに切りあげて帰ったりしていただべ。


 さて、ひと月まえの村長会議のとき、他の村ではたまたま村長の交代こうたいが多く、新顔しんがおの村長がたくさん来ていただべ。ふだんならことわるところだが、やさしい兄は気をつかったんだべなあ、酒をすすめられて、いつもよりたくさんの酒を飲んだだべ。


 兄も久しくそんなに酒を飲んだことがなかったから、酒を飲みすぎたらどうなるか、自分でも分からなかっただべなあ。たちまちオナカがふくらんで、オシリの穴がピクピクしだしただべ。兄はゆでたタコみたいに顔を赤くして、ひたすらアタマの中でスライムが一匹、スライムが二匹、スライムが三匹とかずをかぞえたらしいが……抵抗ていこうもむなしく、ブーっとイッパツ、他の村の村長たちのまえで、どでかい屁をこいてしまっただべ。


 プップップップとせきを切ったように、それからも兄のオナラは鳴りやまなかったそうだべ。それはまるで若いママにりにされた赤チャンのせつない泣き声のように。しかし他の村の村長たちもオトナだべ。村長になるくらい立派りっぱ人物じんぶつたちで、兄をきずつけないような、むしろはげますような冗談じょうだんを言ったあと、なごやかに笑って、それからはまたこまごまとした村の仕事なんかについて、おいしい料理をつつきながら話しあって、その日はほかになにごともなく村長会議は終わっただべ。


 しかし村長会議のあと、兄のオナラの話は、まわりの村の村人たちみんなの知るところになっただべ。


 ワシらモイガヤジ村の村人が通りかかるとヒソヒソ話をしたり、気づくとジーっと見られて、見かえすとサッと目をそらされたり、

 ときには他の村の村人たちは、ワシらの目のまえで鼻をつまんで、ウチワのように手であおいだり、

 ワシらのまえで無言むごんでオシリを左右にふったり、

 手のこうに口をつけて、プーっと、オナラみたいな音をだしてみたり、

 直接ちょくせつオナラについてからかった、あからさまなひどい悪口を言ってくる者もでてきただべ。


 だれだって屁をこくのに、やさしい兄がささやかな間違まちがいをおかしただけなのに、ワシらモイガヤジ村はまわりの村から、非常ひじょう残酷ざんこく仕打しうちをうけたんだべ。


 アンタらだったら、ゆるせるだべか?


 名誉めいよきずつけられてアタマにきたワシらは、村の名前をモイガヤジ村から屁こき村へと正式せいしき改名かいめいし、

 ワシらのことをバカにした村々をひとつずつ、バカにしたヤツらから順番じゅんばん

 ブッころしてまわっているだべ!


 そうじゃないと、アア。兄がかわいそうだべ。兄が。兄が。ウ……ウウウ……



☆☆☆



「兄がかわいそうだべ。兄が。兄が。ウ……ウウウ……」

「ま、まさか、アンタの兄ちゃんは、死……」

「ウ……ウウウ……オエーッ!」


 ゴブリン村長はまたゲロをいた。


「いや、死んではないだべ」

「(ズ、ズコー)」

「だけど兄はヒキコモリになってしまっただべ。ワシらの家はメシどきによくいろんな人がやって来るだべ。そして親戚しんせきの子どもがやって来たとき、女の子が、いっしょにご飯を食べていた兄にむかって「おい、ヒキコモリ!」と絶叫ぜっきょうしただべ。兄はおこって、テーブルをひっくり返そうとしただべ。しかしりごたつで、テーブルとゆかがくっついてるものだから、卓上たくじょう醤油しょうゆやみそしるがすこしゆれて、茶碗ちゃわんのうえのはしがかたむいただけだっただべ。それから兄は食事しょくじも自分の部屋でとるようになって、みんなのまえに顔をださなくなっただべ。それから弟のワシがあとをついで、屁こき村の村長になっただべ」


 おもむろに佐藤が立ちあがり、岩にこしかけたゴブリン村長にむけて大きなオシリをつきだすと、ブボボボと、でかくてくさい屁をこいた。


 とたんに村長は目をカッと見ひらき、ミドリ色の顔はウルトラマリンブルーになって、死体が死んだままさけんでいるような顔で、ノドのおくからつきでた長いした滑走路かっそうろに、村長のタマシイまで飛びでてきそうなくらいアングリと口をあけた。


「ア、アンタ。今まで、ワシの話を、なにひとつ、聞いてなかっただべか……?」


「ヒッヒッヒ!」

「へっへー! やめろよ佐藤、屁こきジジイはマジメに話してるんだから。またオナラ話が屁みたいに止まらなくなるぞ!」

「おいヂヂイ、おまえの兄ちゃんつれてこいよ。いっぱい酒を飲ませて、オナラで空が飛べるか実験じっけんしてみようぜ! ケツに火をつけたら、ロケット花火みたいに飛んでいくんぢゃねえかな?」


 おっとっと。

 カラダがよろけてふらついたが、ちょうど空気を切ってつきさる音がして、足もとを見ると、オレが今まで立っていたところに銀色ぎんいろの矢が生えていた。

 よく見ようとかがむとちゅう、頭上ずじょうで命をりとるような風が吹いて、目のはしにあったドクロにたカタチの岩に、村人の棍棒こんぼうがめりこんでこなごなにくだけた。


 オレはしりもちをついた。


「コイツら殺すだべ」

 ゴブリン村長の顔がキノコ雲みたいにどす黒くふくらんでいた。

「ブッ殺してパクパク食べて、ワシらのウンコに転生させてやるだべ!」

 そして屁こき村のおたけびがえあがる。



☆☆☆



「もしかして……イイワカ様だべか!?」


 炎みたいに激怒げきどした屁こき村の人びとにとりかこまれ、ジリジリと川岸においつめられる中、目のパッチリと大きな、猫耳のネコ族らしい少年が一人ひとりとびだしてドイメの手にとりすがった。


「おお、イイワカ様! よくぞ、ご無事ぶじで……」

「ひ、ひとちがいでやんす……はなしてけろ」

「あなたのおかげで、ボクらは……」

「イ、イイワカって、ダレだっぺ? オラは、ドイメという名前の、しがないメイドでやんす。アソレ、だっぺ、だっぺ~……」


 ネコ族の少年の目は涙をためていた。ドイメも少年の手を強くにぎりかえし、せつなく歯をくいしばっている。


「モイガヤジ村の……屁こき村のみんなは、難民なんみんのボクでも、こころよく受けいれてくれただべ。すこしバカだけど、すごくいい人たちだべ。だけど、イイワカ様を傷つけるなら……」


 な、なにをするんだ、裏切うらぎもの! ほうぼうからあわてふためく声があがる。

 ネコ族の少年が剣をぬいて、屁こき村の村人たちにむけて必死にふり回したのだった。


「イイワカ様! はやくお逃げくださいだべ!」

「なにしてるだっぺ!? そんなことしたら、あなたは……」

「われわれネコ族には……クロ国には、イイワカ様が必要ひつようだべ!」

「そんな。オラは…オラは……」

「フレ、フレ、イイワカ! ガンバレ、ガンバレ、イイワカ!」


 エンジンのうなり声。

 どつくようなクラクションの音。

 軽自動車(ワゴンR)()(ぬし)を守る大型犬(おおがたけん)みたいにひとりでに走りだして、ドリフトしながら屁こき村のヤツらをなぎはらった。土ケムリがあがり、ふいをつかれた村人たちがバラバラになってさわいでいる。


「イイワカ様! お逃げくださいだべ! アナタは、ボクたちの希望きぼうなんだべ!」


 佐藤といっしょに、棒立ぼうだちのドイメのかたをだいて、ドアのひらいた軽自動車(ワゴンR)に飛びこんだ。

 するとうしろのせきに、いつのまに乗りこんだのか、ロエピが座ってニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべていた。


「ウワッ! おまえ勝手に、なにやってんだ!?」

『アハハ。ト、トモダチ。ワタシも、いっしょに行クヨ! 旅は道ヅレ、ロエピがいたほうが、きっと楽しくなルヨ!』

「田中! 話わあとにして、はやく車をだすんだ!」

『アハハ。トモダチだよ! みんなのロエピ、道化師ピエロのロエピだよ!』


 オレは軽自動車(ワゴンR)のアクセルをべたみした。

 ネコ族の少年の声は、遠くはなれてもまだ聞こえていた。

 フレ、フレ、イイワカ。ガンバレ、ガンバレ、イイワカ。

 少年の声にあわせて、ルームミラーにうつるドイメのクチビルがしずかにふるえていた。





第八話『カトマンズでLSDを一服』こうご期待!

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