6.やっぱり、ハイチュウ嬢は侯爵家の妻に相応しくありませんね。
…どうして、レナード様は私を愛している。でも、私の行動は妻には相応しくない…そうかもしれない。でも、想い合ってるのに…愛があれば、どんな障害だって乗り越えられるのではないの?
「…ハイチュウ嬢、貴女はアルフォート侯爵のどこに惹かれたのですか?」
突然の質問だった。けれど、私は考えるまでもなく口を開いた。
「格好良くて、美しくて、とても優しいところですわ! レナード様は、私を傷付けるような事は絶対に言いません。私の事を褒めてくれて、深く愛してくださるのです! ………妻に相応しくないという言葉には、傷つきましたけど…。」
「…それが理由の全てですか?」
「…そうですけど。」
何も変な事なんて言ってないわ。でも、ランカはまた何か文句を言ってくるかもしれない。
「では、もしアルフォート侯爵が侯爵ではなく、ハイチュウ嬢と同じ男爵だったらどうですか?」
「……へ?」
「…いいえ。いっそ、貴女よりも身分が下…平民であったとしても好きになっていましたか?」
…レナード様が平民? 平民のレナード様なんて想像できないわ。でも、服は安物になってだらしなくなる…いいえ、レナード様なら何を着ても似合うわね。言葉遣いは…私の方が身分が上なら敬うような口調になるのかしら? 「ブランチュ令嬢様、今日もとてもお美しいですね」なんて言われたら、素敵だわ! でも、付き合いだしたら言葉遣いは今と同じようになってるかもしれないわね…やっぱり名前で呼んで欲しいし。
「…やっぱり好きです!」
結局、私はレナード様を好きになるに違いないわ。あんなに素敵な人は、他にいないんだから!
ランカは少し驚いたように、目を丸くした。
「…地位や名誉は関係ないと?」
「私は男爵令嬢である事に不満なんてありません。レナード様が同じ男爵なら何も変わらない。レナード様が平民なら、婿入りすれば良いではありませんか!」
「…例え話をしたのは私ですが、貴族と平民の結婚なんて到底認められませんよ。」
「…そ、それなら、私が家出しますわ! 私が平民になれば関係ないですよね!!」
お金がなくなるのは困るけど、でもレナード様との愛があればきっと乗り越えていけるもの。いや、むしろ平民であったなら妻にふさわしくないとか、関係なかったのかもしれない…。
「…平民の方が良かった。」
思わず声に出してしまった。
「ハァ……なるほど。よく分かりました。」
そんな私を見て、ランカは溜息を吐いた。そして、
「やっぱり、ハイチュウ嬢は侯爵家の妻に相応しくありませんね。」
「っ!」
わざわざ質問に答えてあげたのに、どうしてまたそんな事を言われなければならないのよ! 思わず言い返しそうになった。
「…でも、侯爵がハイチュウ嬢を好きになった理由も、分かったような気がします。」
「…へっ?」
呆れたような、でも少し面白そうに微笑みながら、ランカ・ブランチュはそう言った。