第八噺 化け狸
どうする?逃げるか。
いや逃げてもこの熊は追って来そうだ。
なら、この刀でやるしかないか。
あの巨大蜘蛛に比べたら、大きさは普通だしいける、、はずだ。やっぱり怖いっ! 何なんだよこの世界の生き物は!
滝は目の前の見たこともない恐怖にあの時の巨大蜘蛛の妖怪を思い出して足が震えていた。
しかし、それと同時にあの時の巨大蜘蛛を倒したサンズを思い出した。
そうだ、少しは河童達の相撲で俺は鍛えてる!
いける、今の俺ならこんな奴圧倒してやるさ。
そしたら子ども達も俺を見直してこの子も俺に惚れるかもしれない。そして俺は河童達からも一目置かれて、、。
「ちょっと何ひとりでドヤ顔してるのよ! 早くどうにかしてよ」
「よし、俺がこの熊をやる!」
滝は角熊に一直線に走る。
角熊は突っ込んでいく滝に容赦なく鋭い爪を振り降ろす。
「あぶねっ」
その鋭利な爪を後ろに飛んで避ける。
「ふぅー、間合いを見ないとな。正面からぶつかればこっちが負けるな。ん、、、あれ?」
よく見るとこの熊は血を流している。
「お前何かにやれたのか?」
熊と目が合う。
熊の目を見て初めて分かったが、何だか怯えているような目をしている気がした。
さらによく見ると、耳が茶色くて丸い。
何であんな耳なんだ? あの耳は、あれじゃまるで、狸?
「お前は一体、、」
「風よ我に力の末端を宿したれ、さすれば汝の是非にあらず。」
角熊に気を取られていると突然後ろから何かの呪文が聞こえた。
後ろを振り返るとアメの体が光っている。
「えっ何だよ! それ!」
光を発したアメはそのまま熊に向かって腕を突き出す。
「吹き荒れろ、神颯爽突風」
「ちょっと、待て!」
彼女の後ろから急に突風が吹き荒れる。
角熊はその突風に飛ばされ、岩に背中を打ち付ける。
滝も軽く飛ばされた。
「お姉ちゃんすごーい!」
「えへ、今のは何でもないよ! まあ、そうかな、すごいかな?」
「おい、何を照れてんのかしれないが」
滝が頭から血を垂らしながら怒りの形相で立ち上がる。
「あれ、ごめん。ちょっと力が、、」
「てめえ、ふざけんなよ! 何だよその魔法!」
「ごめんなさいっ!、、、え、まほう?」
「お前すごいじゃん!!」
滝は目を輝かせてアメに詰め寄る。キラキラした少年のような目でアメを見る。
「どうやったんだよ! 俺も魔法使いたいんだよ!」
「私がすごい?」
「すごいだろっ! てかてか、魔法教えてくれよ! さっきの詠唱みたいなやつをさ。」
私がすごい、、こんなにキラキラした目で見られたのは初めて。私なんて落ちこぼれだし、何でこいつはこんなに輝かしい目で見てくるのよ。てか、まほうってなによ。
「べ、別に、これはただの風よ。それにあなたには今のはできないわ。てか、あなたはどんな妖術を使うの?」
「えー、ケチ! そう言わずに教えろよー。妖術って言われても何も使ったことないな。」
「何言ってるの使ったこと無いなんてあり得ないでしょ。」
「俺には魔力が、じゃなくて、その妖気とかってのがほぼ無いらしい。」
そんなことあるの?妖気がないってどう言うこと?
「タンバは、異邦人何だよ! 別の世界から来たんだよ」
「異邦人?」
「ねータンバ、あれ見てよ!」
「何だコウ太?」
話の途中に割って入ったコウ太が飛んでいった熊の方を指差す。
そこには熊ではなくもっと小さい何かが倒れている。
「何だあれ、熊は?」
「さっき倒れてた熊が急に小さくなったんだよ。」
「なにっ! 魔法か!」
滝は興味津々でその横たわったものに駆け寄る。
するとそこには茶色い体の狸が横たわっていた。
「あ、化け狸さんだ。」
子供達が指差す。
「化け狸? てことはこいつがさっきの熊なのか。」
見るとさっきの角熊と同様に傷がある。間違いなさそうだ。
化け狸ってそんな生き物もいるんだな。
河童がいるしな、これぐらいは居て当然か。
ますますファンタジーだな。
「いてて、」
化け狸が頭を摩りながらゆっくりと顔を上げる。
「しゃべった! 化け狸だからそんな気はしてたけど」
化け狸はそのまま起き上がると、目の前を囲まれて見られていることに気がついた。
「キャッー!」
びっくりして胸と股を押さえた。
「まさかお前、メスなのか? てか、何を隠してるんだ。」
「だって私裸なんですよ!」
どう見ても、見た目は二足歩行だかその他は普通の狸と同じく茶色い毛で覆われている普通の狸だ。
「裸って言っても毛があるだろ。」
「うわぁ、そんなにまじまじと見ないでくださいよ。」
何だこいつ、変態扱いしやがって。
「あの犬を見ろ、お前は俺からすればあそこにいるワン助と同じだ。あいつも裸だが何も隠してないぞ。むしろ丸出しだ。見習え。」
「あんな動物と一緒にしないでください! 私は由緒正しき妖狸族のアカデですっ!」
化け狸はほっぺを膨らまして何やら怒っている。
そんなに犬と一緒にされるのが嫌なのだろうか。人間の場合チンパンジーと一緒にされるようなものなのか?
「まあそんなことは知らん。」
「ちょっと! だから私はその辺の動物ではなくて妖人で、私はそこの、、」
「でもただの二足歩行の狸にしか見えないな。」
「だからーーーっ!」
化け狸のアカデは涙目になりながら理解してくれない滝に怒っている。
「だったらこうしたらわかってくれますか。」
そう言うと化け狸のアカデは落ちていた木の葉を頭に乗せた。
「バケ。」
と呟くと煙に包まれた。
「なになに〜?」
子供達も俺も気になって見ている。
これは俺の世界での化け狸と同じく変化の術なのか、そのまんまだ。
モクモクと湧き上がった煙が消えると煙の中から女の子が出て来た。
よく日焼けした褐色の肌に、金髪のセミロング。
垂れた大きな目。
そして、先がピンク色の綺麗なおっぱ、、
「って、待て待て! お前らは見るな!」
咄嗟に男の子達の目を手で覆い隠す。
「わかってくれましたか!」
「わかった、わかったから今こそ隠せよ!」
「キャーーーっ!」
「自分から見せといてキャーじゃねぇよ。」
アカデは変化の術で見事に狸の姿からボーイッシュな黒肌美少女に変身した。
「いやゃ〜〜!」
慌てて胸と股を隠しながら地べたにしゃがみ込む。
「何回やるんだよそれ。」
「わ、わかってくれましたか?」
涙目を浮かべながらこちらを睨みつけて理解しかどうかの返事を求める。
「わかったよ」
あの狸がここまでの可愛い子になるとは驚きだったな。
垂れ目な狸顔の女の子か、悪くないな。
「何この変態狸?」
アメが引いた目で見る。
「いや、お前が言うなよ変態女。」
「その耳と尻尾はそのままなの?」
アメの発言で今気がついたが、確かに熊になっていた時も狸の耳と尻尾はついたままだった。
今も可愛い女の子に変身はしているが、耳と尻尾は狸が残っている。
「狸のお姉ちゃん傷ついてるよ。」
カルミが傷に気づて心配する。
「そういえばお前アメに飛ばされる前から傷だらけだったよな。」
「こ、これはですね、」
言いにくそうにアカデは傷を隠す。
「もじもじしてないで教えてよ」
アメが少しイラついている。
「これは襲われたんです。」
「襲われた? 誰に?」
「、、、ウサギに」
「ウサギ?」
みんな目が点になる。
狸がウサギに襲われたなんて、何かの絵本で読んだことあるような。
「何して襲われたんだ?」
「何もしてないですよ!」
こんなに傷を負わせているなんて、ましてや化け狸に。
ウサギって、やっぱりただのウサギじゃないんだろう。
「なあ、もしかしてそのウサギって、強いのか?」
「はい、剛力兎という、怪力のウサギの妖怪です。」
やっぱりかー、バケモノかー、こえぇなこの世界。
この世界には規格外のバケモノがよくいるみたいだ。
あの時の巨大蜘蛛といい、角の生えた熊といい、今度は怪力のウサギかよ。
「私は助けを求めて逃げて来たんです。こうしてる間にも私の村は襲われて。」
アカデは悔しそうに拳を握り締めてまた涙目になる。
「よし、私達が助けてあげる。」
「たちって誰だよ?」
アカデの怒りと悔しさに満ちた表情を見たアメが微笑みながら救いの手を差し伸べる。
「誰ってあなたと私でしょ!」
「いや、ちょっと待て。何で俺も何だよ。ウサギのバケモノだぞ。俺は妖気を使えないし。お前はさっきの風で一瞬だろ。俺が出るまでじゃないぜ。」
「あれは、別にたまたま上手くいっただけで。てか、あんた妖気使えないくせに守ってやるとか偉そうなこと言ってなかった〜?」
言い訳したいが、たしかにハッキリと発言した言葉をなかったことにはできない。
それより、あの魔法みたいな攻撃はまぐれで突風を発生させたような口ぶりだな。
でもあれは詠唱だった。例え妖気だとしても魔法と何も変わらない。
「落ち着けよ、俺に何ができるんだよ。せいぜい囮になって逃げ回ることだけだ。」
「あんたさっきは刀で熊倒そうとしてたじゃない。」
「それは時間稼ぎぐらいはできるかと思って。いざ倒すとなればそれは別の話だろ。」
「ありがとうございますー!!」
アカデが話も聞かず、滝とアメに抱きついてくる。
「お二人とも、ありがとうございます。」
泣きながらもう感謝の言葉を述べてらっしゃる。別に力を貸すなんて言ってないぞ。
「サムライの方と私を吹き飛ばしたあなたに方に助けに来ていただけるとあいつらを蹴散らせそうですー。」
サムライ? 俺のことか? そんな逞しいやつに見えてんのかな。俺にはそんな妖怪を倒すなんて芸統できるわけがないぞ。
アカデは泣きながら、とても安心した様子でこちらを見て微笑んでいる。
そんなアカデの表情をみていると自分を必要だとされた気分になる。
ほっとくわけには行かないか。
滝は仕方ないと諦める。
「わかったよ、俺も行ってみるよ。どっちにあるんだその狸の村は」
不安ながらも村に行くことを決意した滝をアメが見て見直したように微笑む。
「ここからそう遠くもありません。では早速ご案内いたしますっ!」
「怪我はもういいのか?」
「はい、ゆっくりしている余裕なんてないですから。」
アカデの強い眼差しに気合いを感じる。
おそらく村を救いたいという強い意志だろう。
一体そのウサギの妖怪に何をされているのか分からないがアカデの強い想いは感じ取れる。
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