第四噺 相撲
河童の里、カッパドルキアは大きな川とその水を幾つにも張り巡らせた地上と地中の大きな街だ。
地上には石造りの家があり、地下には土をそのまま活かして建物を作っている。
領主が住む宮殿は石造りと金箔で覆われた華びやかな建造だ。
川の水が地下にも流れ込むように、上の穴から地下へ滝のように水が流れ込む設計技術。
宮殿の入り口には鳥居が設けてあっていかにも日本ぽい。
街に出ると皆、サンズと同じような格好をしているが中にはどう見ても人間にしか見えない人もいる。
河童の里はいいところだ。
川を中心に畑が広がり集落ができている。川の下には高い技術で作られた地下都市が形成され、河童達もとても幸せそうだ。高層ビルに囲まれて死んだ目をして往来を繰り返すあの世界とはまるで空気が違う。
友達になったモズの話では、今では妖人と人間のハーフも多くいるようで、人間の見た目なのだが、よく見ると頭の上に皿があり指の間には水掻きがある。
「タンバあれ見ろよ!美味そうだぞ!」
俺は今、モズと一緒に街を案内してもらっている。
と言ってもモズがどうしても言うので半ば仕方なくだ。
それにしても、河童はこうも皆んなお人好しなのか?
こんな見ず知らずの俺を受け入れてくれている。ここに来て誰からも冷たい視線を感じない。
それどころかみんな暖かく向かい入れてくれる。
海外の旅行者が親切にされてそのままその国に住みつく気持ちがわかる気がするな。
モズは特に俺に気さくに接してくれて、こうして俺に河童の里を案内してくれている。
見た目は河童でもいい友達になれそうだな。ちょっと厚かましいけどな。
本当いうと、河童の里に来て治療してもらい足の骨は脱臼だったので痛かったけどすぐに戻ったが、身体の傷はまだ完全に癒えていないので休みたいところだ。
「あったあった! これだこれ!」
モズが興奮しているのは、干した魚の口にキュウリを丸々突っ込んだ食べ物だ。
やはり、河童は河童だな。
「ほれ、お前のも買ってやったぞ」
「おお、ありがと」
「友達だからな! 気にすんな! ほら早く食え! 美味いだろ? な?」
親切なやつで憎めないがこの数時間でわかったことは少しめんどくさい。
「うまっ! ただのきゅうりかと思ったら何だこれ! こんな美味いきゅうり食ったことねぇ! さっぱりしててでもちょっとした塩加減!」
「だろ〜? 俺らが育てるきゅうりは最高なんだよ」
ちょっと舐めてたな。本当に美味いな、これならこいつらの舌も信用できるぞ。
食は生活していく上で一番大事で妥協ができないところだからな。
干し魚きゅうりを食べながら歩いていると突如目の前に大胆なボディが現れた。
女性版の河童だ。
ワンピースのような服を着てざっくりと開いた胸元から谷間がこちらを誘っている。
確かに肌の色は青や緑だが髪の毛はオレンジや茶髪で顔立ちも悪くない。キュートな丸いクチバシが逆に魅力的だ。
俺に気づいた女河童がウィンクをして来た!
明らかに誘っている! 思わず見惚れてしまう。
「タンバ〜好きだね〜、あの子達は河童の里の酒場で働いてるのさ」
「うるせぇよ、えっ、酒場!? そんなのあんの!?」
日本版のファンタジーも捨てたもんじゃないな。
「でも俺まだ17だし。」
「13からオッケーだよ!お酒なんて。俺なんかよく行くよ」
「まじか! そりゃあ早速行こうっ!」
郷に入れば郷に従えって言うしな!ここなら俺成長できちゃうもんねーー!
酒とか興味ないけどー! アハッアハハハッ!
俺は何を隠そうまだ童貞だ。彼女が欲しくてたまらなかったが、できた試しはない。
もちろん作ろうとはしたが、、、。
丹波滝のラブエピソード
滝は勇気を出して学年でも人気の愛菜ちゃんへの告白。
まず、教室に1人でいるところを待ち伏せて
「あのさ、なんか先生が音楽室に来てって」
さりげなく告白の舞台となる音楽室に誘導。
そこで完全に密室をつくり、ソワソワしている愛菜ちゃんへ
「先生私に何の用なのかな?」
「う、嘘何だ。愛菜ちゃんに伝えたいことがあって。愛菜ちゃん彼氏いないよね、この前好きな人もいないって話してるの聞いて。俺は、愛菜ちゃんのことずっと好きでだから! えっと、その、俺と付き合って欲しいなって彼女になってください!」
滝が頭を下げて突き出した手が握り返されるのを今か今かと待っている。
その手の先で汚いものを見るような愛菜ちゃんの眼差しは滝には見えていなかった。
「ごめん、私高校生活で彼氏は作らないって決めてるんだよね〜。気持ちは嬉しいけどごめんね。」
愛菜ちゃんが音楽室のドアを閉める音が聞こえて初めて顔を上げることができた。
その後1ヶ月後に愛菜ちゃんに彼氏ができたことは気づかないフリをしようと決めたのだ。
「おい、タンバ〜。大丈夫か?」
フリーズして過去の忌まわしい記憶を回想する滝を心配してモズが声をかけるが滝は涙で顔をへちゃげている。
「うぉおおーー!! よし、女の子達がいる酒場に行くぞっ! ハメを外すぞ!」
「落ち着けよ。昼間っからしてねぇよ」
「、、、、わかってるよ、夜な! 別にどっちでもいいし、気が向いたらな!」
謎に強がりを見せた。
次は地上を散策してみる。
元の町じゃ見れなかったのどかな風景がそこにはある。
川沿いに畑が広がり、川では泳ぎながら魚を摂ってどんどん竹籠に入れている。
昔話に出てきそうな古き良き日本のまさに懐かしい光景だ。知らんけど。
「うおぉーーーー!!わー!!!」
すごい大声が突如聞こえてきた。
「ん?なんだ騒がしいな。はっ!巨大蜘蛛か!!」
モズの後ろに素早く隠れる。
「いや、あれは相撲だな。」
なんだ相撲か、河童といえばのやつか。
「なんてな、だと思ったぜ。」
何の強がりだよ、完全に怯えてただろ、蜘蛛と言ってたし。
モズはあえて言葉には出さずに内心で呟く。
そう言えばサンズの張り手はすごかったな。
滝を助けた時のサンズの姿を思い浮かべながら声のする方へ向かった。
すごい熱気に包まれた異様な光景で多くの河童の達のギャラリーが輪を作っているようだ。
ドスンッ!!
大砲のような体の中に響く音がする。
目の前で河童同士のぶつかり稽古を見ている。
何だかレベルが違う。
モズ曰く、イチオシはツナという河童らしい。
体格は180以上はあるであろう身長だ。身体も太く巨漢だ。見た目通りの、とてつもない安定感とどっしり感。
ツナの相手もなかなか強そうだ。
「はっけよーい、のこった!」
ツナが強烈な体当たりを相手にかます。
相手は後ろに押されて電車道を作るが土俵際で止まる。
そこから相手の掛け技が始まる。
ツナも負けずと相手の体を持ち上げる。
緊迫した中レベルの高い攻防戦になり、そこからお互い張り手の嵐。
巨大蜘蛛にサンズがしていたあの張り手を河童同士で連打!
生で、しかもこんな近くでここまでの相撲を見れるなんて、すっごい迫力じゃん!!
ツナは目を閉じクチバシを食いしばり腰を捻り右手を引いた。その時ツナの右腕に青いモヤが纏わりついていた。
「あれは、」
巨大蜘蛛が蜘蛛の巣を空中に発生させた時と同じ、モヤのようなオーラだ。
相手はまだ連打を浴びせている。
その連打を浴びながらも右手を引いたままじりじりと土俵際に寄せられている。
するとツナの目がパッと開いたかと思った瞬間右手を突き出した!
「心中ツキィィ!」
鈍い音と共に相手は一発喰らっただけで、白目を剥いてその場に倒れた。
「さすがツナ!!」
モズが興奮している。
「今のは、?」
「あれは心中ツキだ。あの心中ツキは体の内側に衝撃波を与える、強力な一撃だ。」
「体内に直接ダメージなのか、やべぇな」
「ツナは相撲じゃほぼ敵無しさ」
モズは自分のことように自慢げな顔をしている。
「あの、モヤみたいなのは何なんだ?」
「お前妖気が見えんのか!」
妖気?サンズが前に言っていた魔力っぽいやつか
「あれは妖気を右腕に集中させて妖力を一点に込めているんだ。」
「今のは魔法の応用なのか、なるほどふむふむ。」
「何言ってんだお前、、」
「おお!サンズ様!」
サンズが俺を探してやってきたらしい。
こいつは巨大蜘蛛を張り手で仕留めたよな。
あの張り手も心中ツキみたいなやつなのか。
でも、こいつもあのツナってやつには勝てんだろう。
サンズはツナと違って細身だ。
なぜか俺はサンズが偉ぶっているのが気に食わなかった。
「なあモズ、こいつそんなに偉いやつなのか?」
「そりゃサンズ様は領主様の右腕!キリッとした顔立ちで女人気もあるんだぜ。」
女人気だと!?益々勘に触るやつだ!
「サンズさまぁ〜サンズ様ならあいつにも勝てますよね?ちょっとおれサンズ様の相撲見てみたいな〜」
逃げ出すか、それともボロ負けするのか。
「わかった。暇じゃないがひと勝負付き合おう。」
おお!乗ってきたか!
それを聞いたツナがやる気の顔をしている。
「サンズ様、かしこまりました。でも、刀抜きの真剣な相撲の勝負、俺は負ける気は、」
ツナが片足を大きく上げて四股を踏んだ。
ツナの足元の地面にひびが入り、地鳴りが轟く。
「ありませんよ。」
それを見てサンズもニヤッとした。
「ああそれでいい。俺も久しぶりに真剣勝負の相撲をしてみたいところだ。」
「あのさ、ちなみにツナとサンズってどっちが強いの?」
気になって横にいた河童に聞いてみる。
「2人は今、相撲では完全な引き分けなんですよ。」
ええー! 強いんかい!
少しは予想してたけど、やはりそうだったかぁ。
華を持たせてしまうかもしれない。
「はっけよーい、、のこった!!!」
その瞬間2人の脅威の張り手の応酬が始まった。
声を張り上げながら、お互い繰り出すその張り手は
俺の知っている相撲ではなかった。
ツナとサンズの妖気が溢れ出ている。
2人とも身体に張り手を喰らいながらも相手に繰り出す。
その時ツナの張り手がサンズの顔面にヒットし、サンズが怯む。その瞬間ツナが右腕に妖気を纏い心中ツキの構えを見せた。
「心中、、ツキィィ!!」
サンズは咄嗟にしゃがみ込みこれを回避。
逆にツナの突き出した腕を取って投げの姿勢をとるがツナはサンズの横に移動して回避。
少し距離を取り睨み合う。
おいおい何だよ! めっちゃすげぇ試合じゃん!!
少し興奮して手汗をかいてきた。
周りの観客は叫びながら興奮状態だ。
サンズが動いた。
ツナの懐に正面から潜り込み身体をホールド。
そのままツナの巨体を持ち上げ上へ投げ飛ばした。
投げ飛ばされながらもツナは空中で心中ツキの構えをしている。
サンズもツナの元に跳ね上がった。
ツナが心中ツキを放つ。
そしてサンズはそれを左肩に喰らいながらツナの腕を右腕で掴んだ。
「うおぉぉぉお!!」
雄叫びを上げながら空中から地面にツナを投げつけた。
凄まじい音と共に砂埃りが舞い、皆んなは沈黙し固唾を飲んだ。
ツナは地面に背をついていた。
「くそっ。」とツナが声を洩らす。
「うわああぁぁぁああ!!!」
大喝采が湧き上がった!
サンズの勝利だ。
ツナは悔しそうにも笑みを浮かべてサンズと握手を交わした。良い心得である。
「くそっ、またお前に負けちまった。」
「肩が取れたかと思ったぞ。」
あれ?敬語は?なんか仲良さそう。
「あの2人は友人なんだよ。」
なるほど、通りであんなに称え合ったいい目をしているわけだ。
「お前もやってみるか。」
サンズが汗を拭きながら恐ろしい発言をしている。
「えーこんなに大きなダンゴムシがいるんだ。うわぁすごい。」
無視だ。
「聞こえてんだろ、俺を焚き付けて恥をかかせようとしたもんな。なあ。」
サンズの恐ろしい視線をビシビシ感じる。
「いや、俺はほれ、怪我人だし。」
「怪我はとっくに治ってる。さあやってこい!」
背中を強く押されて前に出された。
「お、やるか人間のあんちゃん!」「いいねー!!」
ギャラリーはとりあえず盛り上がる癖があるから嫌いだ。
できるわけない。死ぬぞ。
「そう震えんな。お前には1番下っ端の相手だ。」
「はい!子供にしてください!めっちゃ細い子!」
「最低のやつだな。」
そう言ってサンズはたしかに弱そうな相手を前に出す。
意外といけそうな気がしてきた。
いけいけと声援と歓声が上がる中土俵に入る。
要はあの闘いの真似をすればいいんだろ。
張り手は痛そうだ。
「はっけよーい、、のこった!」
相手の河童が俺に向かって突っ込んできた。
俺は正面から受け止めるしかない。
よし、ここで、相手の体をがっしり掴んだ。
あとは持ち上げてぶん投げれば。
あれ、あれれ!?
持ち上がったのは俺だった。
そのまま土俵の外に投げ飛ばされ、呆気なく勝負はついた。ギャラリーは静まり返った。
相手の河童もえっ?という感じだ。
お前は喜べよ!せめて!
惨めな俺の肩にサンズがそっと手を置き
「よかったぞ。」
ニヤニヤしてやがった。
「うるせぇ!やりたくなかったんだ!」
サンズは高笑いしやがった。
「これはしばらく稽古が必要だな。なあツナ」
え?
「ああそうみたいだな」
ツナがやる気満々の顔でこちらを見ている。
「無理無理無理!!!」
「どのみち今のままじゃまた蜘蛛にやられるぞ。鍛えることは必要だ。」
まあ、それは大いにその通りなのだが、、
必死に断り続けたが、こうして俺は地獄の稽古をさせられるのだった。
「うそーーーーっん!!」
情けない叫び声が青空に消えていく。