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和の国異世界御伽噺〜妖気漂う異世界ファンタジー戦記〜  作者: 臣 治
第一章 伝説の始まり
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第二十四噺 生きて帰る

いよいよ、サイシ国との戦さが始まろうとしていた。

河童の里では、河童達600人、化け狸達150人、カントのサムライ1200人が各小隊に分かれて各々準備をしている。


まず先陣を切って敵の注意を引く小隊は隊長に河童の里のサンズ。そして、モズと俺だ。まずは河童の隊で対抗し、敵と程よく交戦したらすぐに引き、敵を油断させてそのまま敵を湿地帯へと誘い込む役回りだ。

さらに四つの隊もそれぞれの役割を担う。

まずはカントのサムライ、ホセノツネマルとナクノサキが率いる遊撃部隊。湿地帯に敵を誘導する一方で敵軍の横をつき、一気に敵を分断する。

敵軍がすぐさま分裂の編成を組んで戦力の分散を図ると化け狸達の揺動隊が敵を威嚇し、混乱させる。

そして、ツナの率いる隊がさらに追い討ちをかけ、タイゼンの率いる本陣が正面から一気に叩くという筋書きだ。

この戦さは敵をどれだけ分散させられるかが鍵になってくるだろう。


俺も今サンズ達から鎧を借りて装備しているところだ。

「似合ってるじゃないか」

既に武装しているサンズが少し揶揄う。

サンズは黒色の鎧を身に纏っているが、頭には被り物はしていない。

「サンズ、頭は何も被らないのか?」

よく見るとカントのサムライ達は兜を被っているが河童達は誰も兜は被っていない。

「俺たちはこの皿から妖気を循環させて、時にはこれが武器になるからな。」

前に蜘蛛の妖怪に投げつけていた皿のブーメランのことだろう。

「さすが河童だな。」

「お前こそ、大丈夫なのか? 落ち着きは取り戻せたか、なにやらモズと特訓をしたらしいが。」

「特訓ってほどじゃないけどな、ちょっと相手になってもらっただけだ。」

「まあ、無理はするなよ。お前は初陣だ。俺とモズがお前を援護するが何があるかわからない気を引き締めておけよ。」

「ああ、頼りにしてるぜ参謀さん。」

「やめろ、俺らの策はあくまでもただの想定でのことだ。実際の戦場では何が起こるかわからない。敵もまた策を考えているだろうしな。」


するとアメがサンズの家からやってきた。

顔を頭巾で隠している。

「何やってんだお前?」

「いや、ちょっと気になって、、」

なにやらモジモジしている。

「あんだけぐだぐだ言ってたのにちゃんと行くのね。」

「やめてくれ恥ずかしい、俺を揶揄いに来たのか。」

今思うとだいぶ恥ずかしいことをこいつに言った気がする。

「お前は何で武装してるんだ?」

サンズがアメ質問する。

確かにアメは鎧を着ていた。まさか戦さにでも行くつもりなのか。

「別に、これは何かあった時のためよ。」

「一応ここには100人ほどの兵とダクリ様が陣を構えているから安心しろ。」

そうか、ダクリのおっさんは里にもしものことがあった時のためにここで陣を構えるんだっけ。安全なところで呑気なもんだな。俺もできればそちらに加わりたかったな。

「あたしも、できることはするからもう自分の力に悩んだりしないから、、」

アメが俯きながら俺に囁く。何やら覚悟しているのか、ここは安全だって言うのに。

「俺も自分にできることをやってくるよ。それにな、俺は新たな能力を得たんだぜ! 魔法っぽくないけど、でも新しい技はかっこいい魔法なんだ!」

ドヤ顔で自慢してみる。

「ま、ほう? よくわからないけどお互い頑張りましょうね。」

完全にスルーされたが、ここはとにかく頑張るしかない。


ちょっと離れた先にセンコちゃんがいる。

「センコちゃ、、」

駆け寄っていくと、センコは兄であるモズと話している。

「大丈夫だ、サイシ国の奴らは俺がちょちょいと蹴散らしてくるぜ!」

モズは相変わらずのノリの軽さでセンコの不安を和らげる。

センコは不安そうな顔したままモズに話しかける。

「お兄ちゃん、調子に乗って無茶するから心配なのよ。多少の怪我ぐらいなら大目に見るから、無事に帰ってくること!」

「わかったって、余裕余裕!」

こちらにモズが気づいて手を振ってくる。

「兄弟! 様になってるじゃねえか!」

その兄弟呼び、少し恥ずかしいんだがそう呼んでくれるだけでも俺は自分の居場所ができたみたいでホッとする。

こいつは頼もしいやつだ。


センコがサンズの元に駆け寄って行く。

「サンズ様、絶対に無事で帰って来てください!」

「ああ、無事に帰ってくる。」

「必ずですよ、絶対に帰ってきてくださいね! 美味しい魚ときゅうりを用意して待ってますから。」

何やら怪しげな空気だな、センコちゃんの目が男を見ているような目だ。

「お前もわかるか?」

怪しそうにサンズとセンコを見ている俺にモズが耳元で囁く。

「あいつ、サンズ様のこと慕ってるんだよ。」

え、嘘だろ?

「おい、それマジなのか!!」

「そうなんだよ、サンズ様も気づいていると思うんだけどな。」

「嘘だろ! センコちゃんが、あの偉そうな河童のことを!? 嘘だろ、、」

「何でお前が落ち込んでんだよ。さてはお前もセンコに惹かれてたのか?」

モズがニヤニヤしている。

「うるせぇし、違うし、そんなんじゃないし!」

思わず悲しみと怒りが込み上がる。

あのくそ野郎偉そうにしてるだけならまだしもセンコちゃんをたぶらかせやがって。

俺は終始サンズを睨みつけてやった。せめて戦場でうんこを踏んでしまえと呪いを込めて。


「タンバ様〜!」

この声はアカデだな。

アカデは褐色肌の美少女人間の姿でおっぱいを揺らせながら俺に抱きついてくる。

狸だとわかっていながらもこれはこれで良いものがある。

「どうしたんだよ?」

「絶対無事で一緒に帰って来ましょうね! 約束です!」

「ところでお前も戦さに出るんだろ?」

「はい、私もシバ衛門様と一緒に揺動隊として参陣します!」

とても気合いの入った顔をしている。揺動隊の動きからしてそこまで危ない役回りではないが戦うことには変わりない。

「気をつけろよ。」

ここで頭をポンポンすればよりかっこいいんだろうが俺にはそんなスキルは無いので肩をポンポンする。

アカデは満足そうに微笑んでいる。

「絶対死んだら許しませんから!」

「縁起でもない当たり前だろ、みんな死ぬことなく無事に帰ってこよう。」


初めての戦さだ。本当に皆無事に帰ってこよう。何があるかわからないが誰一人欠けることなくこの大戦さに勝利してここに帰ってくる。絶対に。

俺は皆んなの顔を改めて見渡す。そして、拳を強く握りしめた。


ーーーーー


戦争に出ない女子供をカッパドルキアに残して、その上の地上には武装を整えた軍が集まっていた。

「皆共!」

前で話し出したのはカントの国のサムライ、領主代理タイゼンだ。その横にはカントの幹部達とダクリをはじめとする河童の里の連中が並んでいる。


「よいか、これからサイシと戦さになる。奴らは数ではわしらより上かもしれん。だかまさかそんな情報に惑わされているものはいまいな? 怯えておるのか、死ぬのが怖いか、貴様らは死より怖いものはないのか。失いたくないものはないのか。」

タイゼンの言葉を聞く、皆の顔が緊張から決意の表情に変わっていく。

流石だな、一気に士気が高まっている。

「わしらには河童の同胞と一度サイシとやり合ったわしらカントの者がおる、そして地の利がある! 確実に勝てる! お前らは一人一人が強く気高い戦士だ! 奴らに取られるな、命も土地も、家族も! わしは奴らをボコボコに捻り潰す! お前らもやれ、そして皆で美味い酒を飲もうぞ!」

『うぉーーーーー!!』

大歓声が湧き上がる。これで確実に士気が上がった。


いよいよだ。敵は妖怪みたいな化け物じゃない、人だ。

でもあまり気にしないようにするんだ。

戦さには色んな覚悟が必要なんだな。

腰に刺した刀を握りながら俺は不安と決意を再確認した。


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