第二十二噺 手合わせ
「なあ、モズ。俺と手合わせしてくれないか?」
「え、別に良いけどどうしたんだ。」
「俺は皆んなと違って圧倒的に経験不足だ。当たり前だけど敵よりも遥かに。ほんの少しでも人との戦いをしておきたい。」
モズはニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「あんだけ嫌々相撲をしてたお前が、手合わせなんてこんなに人は変わるもんなんだな!」
「やめろよ、恥ずかしいだろ。それに変わってねぇよ、変わらず怖いだけだ。」
「よくわからないけど、やってやるぜ兄弟!」
「助かる、実戦形式で頼むぜ。何でも有りだ、相手がどんな動きで戦うのか、それを見たいからな。」
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モズは納得して木刀を用意して刀を構えた。
俺もモズと同じように木刀を構える。
モズは剣術に長けている。何度も近くで見た。
モズの動きを見て学べばかなりタメになるはずだ。
出るだけ真似をする。
「こいっ、タンバ!」
モズは木刀を構える。
思えば俺も少しずつここに来て成長してきた。
相撲で体力や身体ができてきて、刀の使い方も教わった。
もちろんモズには遠く及ばないが、昔の俺よりは遥かにましな奴になってるはずだ。
俺はまずモズに正面から突っ込み、刀と刀で押し合う。
「少しは良い太刀筋になったじゃん」
「うるせぇ、思ってもないくせに!」
モズが刀を振り払って距離取る。そしてそこから斬撃が放たれる。
俺はそれを逸れて交わすが、その間にモズが一気に距離詰めて目の前に来て刀を振り下ろす。
これにはヒヤッとしたがどうにか受けることができた。
「おお、決まったかと思ったのに。」
そこから刃をぶつけ合う。モズは余裕で俺の刀を受けているがこっちには全くの余裕もない。完全に押されている。
このままじゃ負ける。
俺は隙をどうにか見つけて、全力で距離を取る。
「清流斬!」
妖気は少ないが斬撃を飛ばせた。
「俺の技か! すごいなできたのか」
モズが気を取られるのは予想通り、その隙に俺は
「いてっ、おい! 石投げんじゃねぇ!」
走り回ってひたすら石を投げつける。
「おい、やめろって!」
「俺は本気で勝ちにいくぞ!」
魔法が使えないこの世界で、妖怪だのサムライだの全然俺の理想の世界じゃないけどこれが現実だ。
こんな世界でも生きていかないといけない、なら手段は選べない。できることをやる。
「魔法、ロックアタック!」
「何だよそれ、ふざけんなこの野郎! 石ばっかり投げやがって。」
今だ! 俺は一瞬の隙をついて横からモズに飛びかかった。
しかし、モズは身体を捻りながら刀で流れる水のように受け流し俺はその勢い止まらぬまま茂みに突っ込む。
「何だよ今の動き。」
「普通に動いただけだ。刀同士を擦り合わせてそのまま受け流す、流水円舞だ。斬撃の前にこっちの基本を会得しないとな。」
剣技の基本なのか。受け流すイメージか、良いことが知れた。
「ここで勝負ありだな。そもそも妖気が無いんじゃお前も斬撃を撃てないだろ。」
「いやもう少し頼む、何か掴めそうだ。」
モズは嬉しそうにクチバシをカチカチッと鳴らす。
「いいねぇ、流石兄弟! かかってこい」
また俺は姑息な手を使いながら同じように戦い続けた。
でも一向に勝てる気がしない。勝つことはできなくても納得のいく良い戦いはしたいところだ。
モズの斬撃が飛び交う。俺はギリギリのところで交わしながら防戦一方だ。
モズが高く飛び上がり上空から遅いかかる。
俺は見様見真似で上からの太刀筋に下から刀を振り上げて、それを受け流した。
「タンバ! 今の受け流しできたぞ!」
「今の感じか!」
「次もできるかな」
やってやる、今ので少し感覚は掴んだと思う。
それにしてもモズの太刀筋や動きが速すぎる。当たり前だが実力差が激しい。俺が本気でこいと言っているけど実際は手を抜いてくれている。でなければ一瞬で勝敗は決まっているはずだ。だが、手を抜いているとはいえ速い。
目で追うしかない。できるだけ相手の動きを目で追って動きを見るしかない。
くそっ、目が痛い。目がしょぼしょぼしてくる。
そう言えば昨日はアメ達のせいで一睡もしてない。
ここで寝不足が影響するとは。
目のしょぼしょぼがキツくなってきた。
いや、それでも動きを見逃すな。
何でこんなに速いんだよ! 遅くなれよ、てか止まれ、むしろ止まってくれ!
あれ? 止まってみえる。てか、まるで静止してるように見える。
「ん、、なんだこれ、くそっ、動かねえぞ」
「そこだ!!」
俺の刀がモズの胴に決まった。
「いてぇ、何だよ! 今のもしかしてタンバの新しい技なのか!」
「いや、そんなわけないだろ。」
「でもなんか金縛りにあったような感じだったぞ。」
一瞬モズの動きが本当に止まっていた。
これは何なのか俺もよくわからない。
「おいタンバ、お前が真っ赤になってるぞ!」
俺の目は尋常じゃないほどに充血していた。
「通りで、目がすごく痛いんだよ。」
その時、オオカミが茂みから現れた。
「おい、こいつ気が立ってないか?」
「ガルゥゥ」オオカミは明らかに気が立っている。
オオカミの後ろには小さい子供のオオカミがいた。
今にも襲いかかってきそうだ。
「ちょっと待ってくれ、今目があんまり良くなくて、、聞いてくれるわけないか」
「タンバ、俺が斬ろうか。」
「ダメだ、後ろみろ。子供がいるんだ。」
モズはそれを見て刀を納める。
オオカミがついに飛び上がった。視界がおぼつかないがその動きは俺もわかった。
「やめろ、くるなっ、勘弁して! 止まれ!!」
もうダメだと思ったが、オオカミは空中で止まった。
オオカミ自信も理解できずに怯えている。
これはどういうことだ! 空中で止まってるなんて、モズの動きが止まった時と同じだ。もしかしたら、
「すげぇ、すげぇよタンバ! これ絶対お前の妖術だろ!」
「全く意味はわからないけど、もしかしたらそうなのか?」
すると突然オオカミは動き出した。
やはり、今ので確信が持てた気がする。
オオカミはまたさっきよりも怒り、こちらに走ってくる。
「タンバ危ないっ!」
やってみよう、、、(止まれ!) 俺は心の中でそう念じた。
するとオオカミは急に動けなくなった。
「お、おい、これってやっぱりお前なんだな! すげぇぜ兄弟!! どういうことだよ、説明してくれよ! こんなことできたのかよ、」
「いや、俺も今知った。俺がこいつに止まれって念じたら動きが止まったんだ。」
「まじかよ、すげぇなお前」
モズは目をキラキラさせている。
「ただ念じてもダメみたいだ。俺がこいつを見つめてないといけない。しかも瞬きをしたら解除されるらしい。」
「瞳力なのか!」
これはどうやら本当に俺の瞳力みたいだ。
今も瞬きを我慢してこのオオカミが動けないのが何よりの証拠だ。間違いない。でも何で急にこんなことが、、。
考えられのはこの異様な目の痛みとしょぼしょぼ感。
つまり寝不足!
「モズ、、そろそろ限界だ、目が死ぬ!!」
「おお、わかった! もういいぞ、俺がこのオオカミを気絶させる!」
「ああ、頼んだ、、」
俺はモズを信じて目を閉じた。我慢できないほど目がじんじんする。
モズは華麗に木刀でオオカミを気絶させて茂みの中の子供達の元へそっと返した。
「タンバ大丈夫か?」
「ありがと、、でもこれはやばいな、目の負担がデカ過ぎる。」
「でもすげぇな! 瞳力で金縛りができるなんて凄すぎるぜっ!」
自分でも驚くことだ。俺にはまだこんなスキルがあったなんて、、でもこれは明らかに諸刃の剣な気がするな。あまり使いたくないな。