第二十噺 戸惑い
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主人公(丹波 滝)は魔法ファンタジーを夢見る高校2年生。
丹波の父親は警察だったが犯人と交戦し殉職。その父の死から死への恐怖だけが強く残り、進路も生き方すらもわからないでいた。
ただ一つの夢はいつか異世界で勇者として転生し、悠々自適に暮らしていく妄想だった。
地元の川には神隠しの伝承があった。
雨で川は濁流となっていたが自身の不注意で川に落ちて流されてしまう。
流れ着いた先で目を覚ますとそこは見慣れない森の中。
怪我した足を引きずって森を彷徨うとそこには巨大蜘蛛の妖怪がいた。襲われる彼を助けたのは河童のサムライだった。
河童は曰く、この世界はどうやらここは夢にまで見ていた異世界だった。
しかし、理想と違っていたのはこの世界には魔法はなく憧れのエルフもいない、中世の日本を思わせる世界だった。
さらに、ここでは皆妖気という力を持っていたが丹波にはその妖気が使えない。
刀の才能も妖気という力もない状況で妖怪や戦さに駆り出される。
そんな彼にも特殊な力はあった。それは三大欲求の食欲、睡眠欲、性欲を断つことで周囲の妖気を吸収し、瞳力を扱えるといった力。
だが、欲求を我慢することはかなりきついものだった。
河童やサムライ、タイプの女性、異世界で色んな人や妖怪、そして苦悩と出会い彼は自分の生き方を見出す。
そんな彼はこの理想とかけ離れた異世界で勇者となることはできるのか。
◼️◼️◼️◼️
「サンズよ、タンバはどうした。」
カッパドルキアを俯いて歩くサンズにダクリが声をかける。
何も言わずに立ちすくむサンズを見て続ける。
「兵器として利用するのか、殺すのか、その2択しか今は無いのだ。お主はそれが1番嫌なことであることはわしも知っておるが、ここは覚悟を決めよ。」
サンズは何も言わずに拳を握りしめる。
そこへ、先ほどの相撲にいたカントのツネマルが駆けて来る。彼は滝を斬り殺そうとした男だ。
「おい、なぜ斬らなかった! 奴に情でも湧いたのか!」
「情ぐらい、情ぐらい湧くだろっ!」
サンズはその言葉に激昂した。
それを見てダクリは頭を掻く。
「なに、情が湧いただと? あいつは放っておけばこちらを危機を招くかもしれないのだぞ!」
「あいつは俺が見ておく。、、、あいつは戦さに出ると決めた、俺らの仲間として。」
「なっ、あいつが戦さに出て何になるのだ! 何を企んでいるのかわからぬ、俺があいつを斬っておこう。」
「おい、貴様。」
滝を斬り殺さそうと戻るツネマルにとてつもない殺気と妖気が重圧となって、その足を止めた。
「なんだ、これは」
「ダクリ様、、」
サンズの横のダクリから放たれたものだった。
そのあまりの圧にツネマルは動けない。
「タイゼンとの話で、戦さで使うという選択を話をしておる。その上でうちの参謀が決めたこと。貴様がそれを無下にしようというなら止む終えん、わしが責任を持って貴様を止めるしかあるまいな。」
くっ、なんだこの圧はこの俺が圧如きでこんな、、何なんだ河童の長は伊達ではないのか。
「申し訳ありません、私が出過ぎた真似をしてしまいました。」
ツネマルがそう言うと急に圧が解かれ、体が動いた。
「分かればいいのだ。それではわしはこの事をタイゼンに伝えてくる。戦さに備えて手を考えねばな。そろそろ奴らも迫って来ておるようだしな。」
ダクリはそのままタイゼンのいる地下のカッパドルキアに向かった。
「待て、サンズ殿」
ツネマルがサンズを呼び止める。
「俺が悪かった、サンズ殿の判断を信用していなかった。無礼であった、申し訳ない。」
「別にいい事だ。ツネマル殿も皆を案じてのこと、皆戦さに備えて気が立っている。私も声を荒げてしまい申し訳ない。」
「だがしかし、くどいようだがもしもあの男が戦さ場で暴走したらどうする?」
「、、、責任を持って俺が斬る。」
「なるほど、サンズ殿はあの男を大切にしておられるのだな。」
「はっ、あいつを!? まさか、あいつはただの居候に過ぎん。だがまあ、あいつは俺が守る義務がある。では、私はこれで、タイゼン様に説明して来る。」
「ああ、見直してぞサンズ殿。」
「ふっ、ぬかせ。」
サンズは何か吹っ切れたように清々しい顔をした。
◼️◼️◼️◼️
俺は戦さに出ることになった。
サンズのやつ、遠回しなことして来やがって、ストレートに言えばいいのに。
俺だって、戦さに出ろと言われたら出る覚悟はしていたつもりだ。こんだけ里にはお世話になっているんだ、ピンチの時に1人だけ素知らぬ顔はできないだろう。
俺は一人川沿いの茂みで、この不安に満ちた気持ちを落ち着かせていた。
にしても、サンズは責任感が強いんだな。
俺を呼んだ自分に責任を感じてたな、俺が死ぬことも万が一俺が味方の不利益になることにも。
確かにまだ妖気の吸収は上手くできるのかわからない。
空腹がトリガーとなっているとはいえ、ずっと空腹だと妖気がないと死にそうなぐらい腹が減る。
敵はいつくるんだ、まだ何日か余裕があるなら今飯を食っても大丈夫だろう。いやもう来るのか。
どっちだよ、チクショー。
逃げるか、このまま? いや流石にここで本当に逃げたらみっともないな、なさ過ぎる。けど怖い、震えてくるほどに。
そうだ、なぜみんな当たり前のように戦さをするんだよ。
逃げればいいのに、、
一瞬だけ、アメの言葉が蘇る。あの冷たく人として見られていなかったあの目を。
どうして戦うんだろうか、、、
でもこのままじゃ俺はまともに戦えそうもない。
どうにかしてレベルを上げないとな。
俺の憧れていた魔法はないが妖気は魔法と言えるだろう。
でも魔法と違って式を覚えるのではダメだ。
自分の妖気のコントロール、それだけだ。
何か練習しておくか。
戦さで少しでも生存率を上げておきたいところだな。
ここまでくれば、周りにも人もいないし存分に妖気を使える。とはいえ今の俺には妖気が無いみたいだな。
刀でも振るって慣れておくか。
実戦を想定して妖気を斬撃にするイメージで、振る!
勢いよく刀を振り下ろすと斬撃が出た。
「焦った〜、まださっきの妖気が残ってるのか。だったら何か、かっこいい技でも考えてみるか。」
俺はそれからイメージを大切にして、試行錯誤を繰り返しながら刀を振り続けた。
ーーーーー
「よし、できた」
かなり疲れて妖気ももう残っていないが、お陰でそれなりにかっこいい技ができたと思う。我ながら上出来の技だ。
周りには粉々になった木々が散在している。
まあ、ちょっとやり過ぎたかもな。
でもこれで妖気を斬撃として放つ感覚は掴めた気がする。
この技が斬撃と呼ぶのかはわからないが、まずまずの出来だ。
「でもなー」
今気分は憂鬱だ。考えれば吐きそうになる。
戦さに出ると言うことは、殺すか殺されるか。
死ねば何も残らない。俺にはとても踏み入るところでは無い。
「人を殺せるのか、、死にたくないな。」
木陰で風にあって寝そべりながら独り言を呟く。
ガサッ、草むらから音がした。
「うわぁっ、なんだ!」
するとすると1匹の犬が出てきた。
「ここにおられましたかタンバ様」
「その声は、もしかしてアカデか?」
犬は変化の術特有の煙を生じさせながら、人型のアカデに変わった。
「驚かすなよ」
「すみません、、あの〜タンバ様は戦さに出られるのですか?」
「ああ、出るって言っちまったよ。超怖いよ。俺ここで死ぬのかな。」
「おやめください!」
急にアカデが大声を上げたので驚いた。
「どうしても戦さに出られるのですか?」
「正直言って出たくないよ。でも色々とあるらしいからな。何もしなくても殺されるなら戦さに出て適当に逃げ回ってる方がいいだろう。」
「しかし、、死ぬかもしれないとなれば私は怖いです。」
俯いて不安そうな顔を浮かべている。
「お前は里に待機なんだろ?」
「いいえ、タンバ様が出るなら私も戦さに出ます」
「おい、ちょっと待て、何でお前が出るんだよ」
「私にも変化の術も戦闘もできます。シバ衛門様に許可はいただきました。」
「行くなよ、お前には死んでほしくない。」
アカデは頬を赤らめながら嬉しそうにしている。
「何でニヤニヤしてるんだ?」
「し、してませんよ! でも私は戦さに出ます。今回村が襲われて私は何もできませんでした。仲間も何人も亡くなりました。もうじっとして何もしないで待つのは嫌なんです。」
アカデにしては見据えた顔をしている。
彼女は覚悟を決めているのだろう。
それに比べて俺は、、、。
アカデの真っ直ぐな顔を見ると思わず顔を背けてしまう。
「アカデは強いな、俺は変われた気がすると勘違いをしているだけだ。」
アカデがきょとんとした顔をする。
「何でもない、ちょっと気持ちを整理してくるよ」
そう言って俺はその辺りを歩くことにした。




