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和の国異世界御伽噺〜妖気漂う異世界ファンタジー戦記〜  作者: 臣 治
第一章 伝説の始まり
20/26

第十九噺 葛藤

今何て言われた?

聞き間違いじゃなければ、出ていけって言われたのか

「ちょっと待ってくれよ、それってどういうことだよ」

サンズはしっかりと俺の目を見ている。

どうやら感情で言ってるんじゃないみたいだな。

こいつのことだ、これは何かあるんだろう。


「サイシ国との戦さに出て死ぬか、今ここで里を抜けて出ていくか、選ぶまでもないだろ」

「そういうことか、でも俺は妖気の使い方もわかった。それにお前の言った仮説が正しいなら俺は戦場では無限に妖気を吸収して使える。何で死ぬと決まってるような言い方するんだよ。」

「確かにお前は俺の推測通り空腹時に妖気を吸収できるようだ。でもな、お前は人を斬れるのか?」

唐突に突きつけられたその質問に俺は言葉が出なかった。

考えないようにしてきた。戦さに出ないで済むと、このままここで暮らしていけると思っていたから。

当たり前だよな、こいつらは死ぬかもしれない戦場に行くんだ、元々この里の住人でもない俺が何もせずのんびりと帰りを待つなんて虫が良すぎる。

でも、人が斬れるかなんて、そんなの斬ったことねぇのにわかるかよ。


「覚悟のないやつを連れてはいけない。出ていけ。」

サンズは顔色ひとつ変えずに続ける。

俺だってわかってる。俺がここにいるのもおそらくこの特殊な力を戦さで使わせるためだろうってことは。

「サンズ様、上が何て言ったのか知らないけど、このまま戦さが終わるまで匿っておこうよ! そして、戦さが終わってほとぼりが冷めたらまた今みたいに一緒に」

「甘いことを言うな!」

「だって、じゃあ何のためにタキの力を試すようなことしたんすか! 戦さに連れくのは危険すぎるっすよ」

サンズは黙って下を向く。


「出て行かないのであればお前も戦さに連れて行く。」

「ちょっと待ってくれよ! 俺はまだ未成年だぞ! そもそも人殺しなんてできないし、車の免許だって持ってないし、まだ童貞だし、それそれに刀の使い方だってまだ全然できてない、こんなやつを連れてってなんの役に立つんだよ!

あと、俺は体力も自信がないし、目の前で仲間が襲われても逃げるようなやつで、自分勝手で、ビビりで俺がどうして、、、どうしてそんなところに行かなきゃいけないんだよ、、。」

サンズは冷ややかな目をしたまま続ける。

「落ち着つけ、言ってしまえばお前はただの浪人だ。

敵か味方かもわからない存在だ。でも、あの時一緒に戦って、、あの狸村での一件、お前の力は戦場で大いに役に立つと考えている。

お前みたいな半端者を俺も戦さに駆り出したくはない。

だが、ダクリ様もタイゼン殿もそれを命じておられる。」


「それが使えるかどうかを見極めるために俺に相撲を取らせたのか、、。俺は戦さになんて行かないぞ。」

またサンズは黙り込む。

「おい、このくそ河童なんか言えよ!」

サンズは黙って俯いたままだ。

「そうっすよ、流石にそれは、、」

モズがサンズを諭そうとする。

「俺はこの村を出ても行くところがない。虫が良い話なのはわかってるが、戦さに出たところで何もできないかもしれない。それに、人が切れないかもしれない。」

俺の正直な意見だ。

戦さなんて危なすぎる。化け物退治とは訳が違う。


「なら、、」

サンズはゆっくりと腰の刀を手に取った。

「ここで俺が斬る。」

サンズが刀を抜いてこちらに向ける。

「なるほどな、戦さ前に不安材料は排除しろってことか。」

面白いな、これがやり方か。

まあ仕方ないことだろう俺には特殊な力があって、どこから来たのかもよく理解できない。殺すか味方として戦場に駆り出させるかだろうな。


「サンズ様! 無茶苦茶だっ、やめてやってくれ!」

サンズは刀越しに俺の顔を見ている。


◼️◼️◼️◼️


時は半日遡って、昨晩のこと。

ダクリの屋敷


「なるほどな。あの男がその赤兎(せきと)を討ち取ったのか。」

「はい、、」

「ならばなぜわしらにそのことをすぐ報告しなかったのだ。」

「それは、、戦さの前に変な心配事をお与えにならない方がよろしいかと思いまして、申し訳ございません。」


屋敷にはダクリとタイゼン、そしてその2人に呼び出されたサンズがいた。

宴会で狸達から赤兎の討伐がサンズたちではないことを知り、報告と違ったのですぐにサンズを屋敷に呼んだのだった。

「サンズよ、あの男はそのような力がどこにあったというのだ。確かに変わった男ではあるが、、」

「ダクリよ、変わったとはどういうことだ?」

「あの男は別の世界から来たと申しておったのだ。」

「なに!? 別の世界? はっはっはっあいつはアホなのか!」

「その証拠に奴には妖気が全くなかった。」

そのダクリの発言に嘲笑っていたタイゼンの表情が強張る。

「妖気がなかっただと? ならばなぜ今回そのウサギの化け物を退治したと言うのだ。」

「それは私が説明致します。」

サンズはダクリとタイゼンに赤兎との戦いの全てをありのまま話した。



「妖気がその者に集まった、、にわかには信じられんな。」

ダクリもタイゼンも信じられないように考え込む。

「して、その男いや、タンバタキの力は何だと思うのだサンズよ。」

ダクリがサンズの顔を覗き込む。

「そばにいたお主なら少しは何か気づくことがあったのではないか?」

サンズは口を詰むんだが、覚悟したように話し出した。

滝に説明したように、空腹と関係があるかも知らないという推測を話した。


「なるほどな、あの男がそんな力を」

ダクリが半信半疑にしている。

タイゼンは目を閉じて話を聞いていたが、片目を開けてダクリとサンズを見る。

「わしらはまだあの男を信用しておらぬ。

そんな力を秘めている者を警戒しない方が無理な話だ。

恐ろしい兵器を隠し持っているのと同じだ。」

「兵器ではない。」

サンズがタイゼンの言葉を否定する。

「これっサンズ、言葉は過ぎるぞ!」

ダクリはタイゼンの代わりにサンズを叱る。

「失礼しました。」


「その男も戦場に連れ出せダクリ。」

腕組みをしながらタイゼンが切り出す。

「それだけの力使わん手はなかろう。

上手く使えればそれで良し、使い物にならずに戦場で死んでもそれはそれで良し。

何せあいつは得体が知れぬ者だ、今後この河童の里にも脅かすことになるかも知れんからな。」


タキが戦さにでて何になるというんだ。刀も妖気も満足に使えなくては下手したら命を落としてしまう。

「タイゼン様ダクリ様、今回の件報告が遅れて失礼しました。タンバタキの件は今後の観察も含めて私が責任を持って報告させていただきます。戦さでは役に立たないでしょうから今回は私の家で隔離しておきます。」

「サンズよ、その者が本当にそのような力が使えるのか明日の朝試せ。わしの部下にも伝えておくので使って構わん。無論わしらにも判断させてもらうのでな。」

「ですがタイゼン殿、あの男は全くなんの役にも立ちません。連れて行く方がかえって迷惑になるかも知れません。」

タイゼンの言葉に慌てたサンズがタイゼンに意見を述べる。

「ならば、あの者が力を使えるのかどうか今見極めれば良いことだ。使えれば戦場に駆り出す。使えなければ、そのままわしが斬り捨てる。」


「待て、タイゼン。それは横暴だぞ。あの男は我々の捕虜だぞ。」

ダクリもタイゼンの提案に待ったをかける。

「お前らがその力を独占するというのであれば同盟も危うくなるぞ、ダクリよ。

あの男を匿う理由はその力を欲するためと見られても仕方あるまい。」

半ば脅迫と取れる発言にダクリも言葉が出なかった。

「タイゼン、もしタンバが力を使えなかったらどうする?ましてや力を扱えず暴走でもしてしまえば。」

そのダクリの発言にサンズは歯を喰いしばる。

ダクリもそのサンズの様子に横目を向ける。


「それは構わん。戦さ場で使えなければ死ぬ、暴走すればわしが斬る。それだけだ、それともやつを匿って置かないとならない理由があるのか? そうなればわしらカントへの裏切ると見られても仕方ないかものぅ。」

またしてもタイゼンはダクリ達に脅しのように詰める。

「仕方なかろう。」

そういうとダクリは目を閉じた。

「ちょっとお待ちください! タキは力の制御もできません! 刀もまともに使えない、ましてや人を斬ったことがないと言っていました、このまま戦さ連れ出しても死んでしまうだけです!」


「何がいけない。」

タイゼンは表情を変えずにサンズの目のを直視したまま淡々と答える。その無情さにサンズもたじろぐ。

「それではあまりにもタンバの命が軽んじられていると、私は思ってしまいます。」

「だからなんだ。奴はこの里の者でない。

「ですが、タンバはこの世界に来てもう何月もここにおりますし、」

「まさかあの者に情でもあるでなかろうな?」

「恥ずかしながらが、情ぐらい私にもあります!」

サンズはタイゼンの目を見て言い切る。

「はっはっはっ! 貴様正直でいいな。だが、その者がサイシの間者だったらどうする? いつ来たのだ? 奴が来た頃からサイシの動きを始めた。全く関係が無いと言えるのか?」

これにはサンズも言い返せない。


「サンズよ、お主が奴をこの里に連れてきて責任を感じていることも知っておる。だが、ここはタイゼン殿の言うとおりだ。それに、タンバの命とカントと関係が悪化するなどお主ならどちらが大切かわかるだろう。」

ダクリが興奮するサンズを諭すように説得する。

「しかし、、、」

「それに、万が一にもサイシと関係が無いとも言い切れん。ここは引け。里長としての命令だ。」

サンズは悔しそうに拳を握る。

「ならば、これで相違ないな。」

「ああ、無い。」

タイゼンとダクリの結論は出た。

「サンズよ、こっちを見よ。」

タイゼンに言われ、サンズはゆっくりとタイゼンを見上げる。大きな圧がタイゼンから伝わってくる。

「力が使えれば戦場に送り込む。力が使えないのであればそれはそれで戦場に駆り出す。死んでも仕方のないこと。

戦さでないとなれば、暴走してしまう危険もあり間者の可能性もある。その場で斬れ。決して里から出すな。」

サンズは目を背けた。

「サンズよ、わしは本気だ。わしの部下も成り行きを見ておる。抜かるなよ。」

「お待ちください! それは、あまりにも、!」

サンズは再度タイゼンに願い出るが、

「わかった、そうしよう。」

ダクリのこの言葉で議論はついた。


ーーーーー

タイゼンがダクリに頼むと言って席を立った後、サンズはダクリに詰め寄った。

「ダクリ様なぜあのような一方的な要望を呑んだのですか。」

サンズの眼光はダクリを捉えていた。サンズの静かな怒りが伝わってくる。

「今カントと同盟が無くなれば今後どうサイシ国と戦うのだ。それにカントすらも敵となれば我々の里はどうなる。皆を守ることができるのか。」

「しかし、あの状態で戦場に連れ出してもあいつには戦いなどできるはずがありません。どのみち殺すようなものです、、」

サンズは下を向き悔しそうに嘆く。

そんなサンズを見てダクリはため息をついて続ける。

「お前の妹の件もある。すまんがこれ以上抱えることはできない。」

これにサンズは一種目を見開き動揺し、そしてまた悔しそうにクチバシを噛み締める。

「、、、ですがそれではあまりにも」

「ならばお前がタンバを救えば良い。あやつが力を使えれば戦場でも生き残るだろう。それに、やつが逃げたとなれば仕方ないのかもしれんな。」

サンズは顔を上げてダクリを見た。そして部屋を出て行くダクリに一礼をする。


◼️◼️◼️◼️


そして、現在。


サンズは昨晩のことを思い出していた。

斬れと言われたが、斬ることはできない。

俺にもこいつに情が湧いてしまっているのか。


「サンズ様! やめてくださいよ! 斬るなんてあんまりだ! サンズの兄貴!」

「黙れ」

サンズは殺気に満ちた妖気を放つ。それを見てモズは萎縮する。

まさかこいつに殺されるとはな。でもここで死ぬわけにはいかない、俺は死ぬなんて選択肢にない。まだ何者にもなれていないのだからな。


するとサンズは急にモズを挑発した。

「こいつを殺されたくないか? だったら俺を止めろ、じゃないとこいつは今ここで斬られる。」

モズはその言葉を聞いて覚悟を決めた。

「悪く思うなよ、サンズの兄貴! 水突破(すいとっぱ)!」

モズは高くジャンプして手のひらから水の散弾をサンズに浴びせる。

それを刀で全て振り払う。

「甘いな。流水獏府(りゅうすいばくふ)。」

サンズは刀を地面突き刺すと地面から水が噴き上がる。まるで下から上へ流れる滝のようだ。

空中に飛んでいたモズにも直撃する。

「くそっ!」

辺りのあちこちから水が噴き上がり、周囲は噴水だらけになり周りが見えない。

「兄貴、やめてくれよー!」

モズの叫びのみ響く。


サンズが刀を俺の首元に当てて顔近づける。

「いいか、ここで斬られたフリをして後で逃げろ。質問はするな。」

耳元でそう囁くとサンズはあらかじめ腰に隠していた小動物の死体を斬りつけ、血を撒き散らす。

「まて、それって」

「いけっ」

「ふっ、そーゆーことか。」

「何してる! 本当に斬るぞ!」

「斬るなら斬ればいいだろ?」

なるほど、そーゆーことか。

「俺を斬ればいいじゃねえか。お前も立場があんだろ。

俺を斬るか戦さで使うかその2択なんだろ? 俺はそーゆー察しはいい方だからな。」

サンズは俺の言葉に呆気に取られる。

「サンズお前は本当にお人好しだよ。」

混乱していたが、俺はサンズの想いを悟り天を仰いだ。

サンズの起こした水飛沫が顔にかかる。俺を息を整えて落ち着かせ、再びサンズに向き直った。

「俺、戦さにでるよ。それでも斬らないといけないなら斬れよ。どうせお前に助けられた命なんだ。死にたくない、逃げてでも助かりたいけど、お前になら仕方ないのかもな。」

これは俺の本心だ。不思議とサンズに斬られるなら自然のことのように思えて受け入れてしまっている自分がいる。


そんな俺を見てなのか、サンズは急に意気消沈したように刀を腰に戻して噴水を解いた。

そして1人でどこかに去って行った。

モズは泣きながら俺に飛びついてきたが、それよりもサンズとそれを見るカントのサムライ達が気になる。

サンズは大丈夫なのだろうか。


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