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和の国異世界御伽噺〜妖気漂う異世界ファンタジー戦記〜  作者: 臣 治
第一章 伝説の始まり
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第一噺 始まりの始まり

◼️◼️◼️◼️


今日は珍しく目覚ましよりも前に起きてしまった。

相変わらず外は雨の音でうるさい。


「行ってきまーす」

「もう行くのか」

弟の蓮が既に玄関で靴を履いていた。

「朝練があるからさ」


滝は頭をぼりぼりとかいて、何時起きなのか気になった。

「珍しいじゃん、もう起きたの? あんたも朝練?」

母が部屋の奥からせせこましく動きながら顔を覗かせる。

「雨だから朝練ないよ」

「雨で朝練休みっていいね」

嫌味のように聞こえるが無視しておく。


着替えて、父の仏壇に手を合わせる。

「行ってくるわオヤジ」


またいつもと同じ日常が始まる。

進路について、自分の生きる意味を見つけないといけない。

そう思いながら玄関のドアを開けるといつものように大雨が降っている。

家の前の庭は大きな水溜りができている。

その水溜りを慎重に跨いで家を出た。いつもより風が強い。


スマホを見ながら登校するのが日課になっている。

今日も隆史たちから連絡がきている。

冬休みにカラオケに行こうとか、年越し友達の家で遊ぼうなどと話している。

楽しいようでなんか心から楽しみにならない。

でもこうしてまた来年がやってきて、受験が終わってまたこの時期には同じような会話があるのだろう。


ネットニュースも見ておこう。

若い俳優が交通事故で死んだらしい。

最近公開されたばかりの映画の主演を務めており、誰もが憧れる女優と結婚したばかりの俳優だ。

不運なことだ。誰でも突然死ぬことがある。

父もそうだった。

あそこに歩いているお年寄りもあと10年後にはいないだろう。いつかは死ぬ。

だったら何のために生きるんだろうか。


かつて、全校朝会で国語の先生がこんなことを言った。

『あなたたちは日々成長していますか。何を目標に部活動に勉強に励んでいますか。何か目的を持って生きてください。息を吸って吐くだけでは生きていないことと同じです』


橋の下で生きているホームレスも夢もなく生きている俺も何も変わらないのかもしれない。

ただ彼らはこの大雨の中住む場所に困っているのだろう。

そこは違うが親のお陰でしかない。

俺もこのまま生きていけば息して吸って吐くだけの生きていない人間になるのか。


滝は河川敷を歩いていた。

何年も使っている黒い傘の上で雨の音が増していた。すぐ下では川が濁流のように流れている。

大きな木がビニール袋が流されるようにすごい速さで流されていく。

川の流れは見えているより凄まじいと聞くが見えているだけでも物凄い。


その時強い突風が雨と共に吹き上げた。

傘はもろに突風を喰らって浮き上がる。

傘を片手で持っていた滝もよろけて煽られる。

「うわっ、やべっ!」

よろけた時にはもう遅かった。


ぼーっとスマホを見ていたせいだ。

突風に対応できなかった。

右足で踏ん張ろうとしたが既に右足は斜面にあり、芝も濡れていて踏んばれない。

そのまま身体は川に吸い込まれるように斜面を転がり落ちる。

痛いという感覚よりも、死ぬという感覚が一瞬にして込み上げる。


え、このまま川に落ちる?

俺もあの木みたいに流されるのか?

え、てかここで俺は死ぬ?


いつか死ぬかもしれないと思っていたけどこんなところで?まだ俺やりたいことも見つかってないし、何も達成感かもないまま死ぬ?まだ童貞なのに?


死にたくない、やだやだやだ!死ぬ!!

ボスンッ!


俺はその瞬間溺れていく感覚もなく身体が強く打ちつけられる痛みと共に意識を失くした。



ーーーーーーーーー


夢かどうかもわからない意識の中、一面真っ白い場所にした。完全に死んだのかもしれない。


死について痛みがあるものだと思ったが全く痛みがない。

これが死なのか。

小説やアニメで見たような転生などなくこのまま意識も消えていくのか。

だんだん意識が遠のいていく。

告白できなかったな。彼氏がいたし俺には無理か。母さんも蓮もびっくりするかな。


父さんみたいに俺もあんなにあっさりと死ぬのか。遺伝かもな。そんなの遺伝しない、、、か、、、、

意識が完全に無くなった。



ーーーーーーーーーーー


「痛いっ! ゴホッ、ゴホッ、ゲボッ」

声を上げながら滝は飛び起きた。

全身がものすごく痛い。水も飲んでる。

「え、俺生きてる!?」

全身を触って身体を確認する。

「俺、川に落ちたよな!!」


水の音が聞こえる。寝そべっていた場所には砂利石が大量にあり、その横には川が流れている。

周りを見渡すとどうやらここは森の中らしい。

この川から流れ着いたみたいだ。

「よくわからんが、俺は生きている!」

もう一度と砂利石に仰向けで寝そべった。

今まで生きてきてこんなに安心と嬉しさを感じたことがない。


無性に生きていたことへ感謝が湧き起こる。

「やった。俺生きてる。身体中が痛い。間違いなく生きてるわ」



しばらく寝転がった後、とりあえず濡れた身体を乾かそうと服を脱ぎ立ち上がった。

その時足に痛みを覚えた。

「うわっ!」

足があらぬ方向へ向いている。

「え、うそうそっ!足が!」


とりあえず病院に行こう。その場に都合よく落ちていた流木で支えて立ち上がって歩き出した。

とは言ってもどこに向かって歩けばいいのか。

「とりあえず、川下に向かって歩けばどこかに出るだろ」

命があっただけマシだ。

これで童貞のまま死ぬことは回避された。

やりたいことやって死んでやる。


にしてしも、さっきから街の音が聞こえない。

それどころが何だか周りの森が不気味に思えて仕方ない。

大体あの川で流されてこんな森に出るのか。

あのまま流されれば海沿いの町か海に流されてるばすだ。

どういうことだ。



そんなことを考えていると森の奥から何か地響きが聞こえた。

何だ今の音は?

足音というより木が倒れるようなそんな音だ。何か来る。

何が来ている。


滝は森の茂みの奥を見る。直感で何かヤバいものがこちらに近づいていることに気づく。

とにかく急いでこの場から立ち去ろうと、折れた足を引きずりながら駆け足で進んだ。

すぐ近くの木が倒れる。

「ヤバい、まじでヤバい、何だ! くそっ!」

後ろの川沿いの木が物凄い音を立てて倒れる。

思わず後ろを振り返る。

すると黒い大きな影が川に入ったのを見つける。

すごい水しぶきの中に黒い巨大な蜘蛛がいた!

「蜘蛛っ!? でかっ!? なになに!?」

訳がわからないがこのままでは殺されると思った。

あれは間違いなく化け物だ。

しかし、折れた足が言うことを聞かない。


「死ぬ死ぬ死ぬ!!」

巨大蜘蛛は滝を見つけてこちらに向かってきた。

やばい! 森に逃げ込もう!

滝は横の茂み入り込んだ足を引きずりながら飛び跳ねるように走った。


キコキコキコ

巨大蜘蛛が気持ち悪い音を上げながら追いかけてくる。

身を隠せるかもしれないと思った樹木も巨大蜘蛛にかかれば軽々と薙ぎ倒される。

このままじゃ確実に死ぬ! せっかく生きてるんだ、このままやられるか!


滝は大きめの草陰に飛び込んで息を殺した。

巨大蜘蛛は滝を見失って立ち止まってキョロキョロしている。

あれは何だ。あの蜘蛛3メートルはあるぞ。

そもそもここはどこなんだ。

信じられないがここは普通の場所じゃないぞ。どうする。

正面から向かってあいつに勝てる訳がない。この足も使い物にならない。


巨大蜘蛛がお尻から白い糸を辺りに飛ばし始めた。

その糸を樹木につけると身体を捩って糸を引っ張り樹木を引き抜いて投げた。

「おいおい、まじかこいつ」

俺を探してる。このままあいつが暴れて糸で探り出したら隠れていても次期に見つかる。


蜘蛛の引きちぎった木は幹を折っている。その幹は鋭い。

「これだ!」

あいつをあの幹にブッ刺せば動きが止まるはずだ。

所詮は蜘蛛、知恵はないはず。


だが身体が動かない。恐怖を前に全身が震えている。

どうした俺の身体! 動け! 動かないと次こそほんとに死ぬぞ!


蜘蛛は糸で木々を振り回して暴れている。

ここでやらなきゃ、死ぬだけだ!やるしかない。

覚悟を決めろ!

滝、お前は告白のチャンスの時も目の前でいじめを見ても動けなかっただろ!

悔しかっただろ! 今動け! とにかく動け!

「うぉおおおおお!!」

かっこ悪い雄叫びと共に滝は飛び出した!!


足は折れているがこの時は気にならなかった。

そのまま滝は幹の中に突っ込んだ。

蜘蛛が俺に気づいて猛スピードで突っ込んでくる!

「こいこいこい!!」

蜘蛛が突然立ち止まった。


その瞬間蜘蛛から何かが伝わってきた。


身体が痺れるような感覚が伝わる。

蜘蛛の身体に黒いモヤのようなものが見えたような気がした。

すると蜘蛛の出していた糸が突如空中に集まって綺麗な蜘蛛の巣を描いて、滝の上に落ちてきた。

上から締め付けられ、幹に叩きつけられる。


滝の身体に蜘蛛に刺すはずだった鋭い幹が突き刺さる。

「ぐはっ!!」

終わった、死ぬ。今度こそ死んだ。終わった。



読んでいただき大変ありがとうございます。


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