第十五噺 深謝
狸達は不安ながらも、優しく接してくれる河童達に次第に安心していた。
大鍋で作られた食事に皆夢中で飛びついた。
俺たちはサンズの家に入った。俺を警戒しているカントのサムライ達に詰め寄られないためのサンズの計らいみたいだ。
「センコちゃん! 俺頑張ったよー、まじで!」
「まじ?」
「あ、本当にすごく頑張ったってこと」
「大変でしたね、流石ですねタンバ様」
センコちゃんに褒められると優しさで全身の緊張がほぐれるような落ち着きをもらえる。
「傷の手当てをしてやってくれ、俺はダクリ様に狸達の件を報告しに行く。しっかり休めと言いたいが、ここも時期サイシの軍勢が来るかもしれん。せめて今晩はゆっくりしていろ。」
サンズも騒々しいやつだな。
まあこいつの立場があるだろうし、呑気に休んでいられないんだろう。
「おい、女」
「え、あ、はい。」
「お前、どこかで、、、まあいいお前もここで休め。」
「お前がどこの者かは知らんが今お前のことで皆を混乱させたくはない。タキの件で手一杯だ。俺もお前を斬りたくはないしな。」
アメは顔を隠す。
そういえば、アメってどこから来たんだ。何のために。
まさか俺と同じ異世界じゃないだろうし。
「お前はここで隔離する。怪しい行動をすれば俺が容赦なく斬る。わかったな。」
「、、、わかった、何もする気ないし大人しく休ませてもらうわ。ありがとう」
照れくさそうにアメが礼を言う姿が妙に面白いな。
「なによ、何でニヤニヤしてるのよ」
「してないって」
「またニヤニヤしてるじゃない!」
ーーー
「どこに行っておった、遅かったな。」
ダクリの元へサンズは狸達の一件を伝えに行った。
「ほぅ、なるほどな。」
「だったらあの男も無事連れて帰って来たのだな。」
ダクリとタイゼンは考え込むように話を聞いたあと、今後の戦さに備えて議論を交わす。
「狸達についてですが、彼らをここに置いていただきたいと思っております。」
狸達の議題になったタイミングを見てサンズが発言する。
「ダクリよ、狸とも同盟を結ぼうというのか。」
タイゼンが嘲笑する。
「サンズよ、何か考えがあってのことか。」
「はい、今はサイシとの戦さに備えて軍を整えていますが、敵は大国です。我々の軍がサイシの軍勢に数で負けることは想定できること。ならば狸達にも里へ住むことを条件に軍として参陣してもらおうと思います。」
それを聞いたタイゼンが高笑う。
「サンズよ、お主は我が軍の加勢があっても力及ばないと申すか。」
「恐れながら、私は今回策を立てても数は多いに越したことはないと考えます。」
「ふんっ、ダクリどうするのだ。」
タイゼンはゆっくり湯呑みを口にする。
腕組みをしながら目を閉じるダクリはサンズの顔を見て質問をする。
「確かに、狸の数はこの里に置いても畑を耕してもらうことなど条件はいくつかあるが移住は問題あるまい。しかし、、その問題のない数が加わったところで戦力になるのか。」
「やつらは変化の術を持っています。敵の不意をつけると考えます。」
またダクリは考え込む。それを見てタイゼンが質問する。
「して、戦さで共に戦うということは信用が肝心だ。その狸共はしかと信用のおける者達もなのか。」
「信用できる者達です。」
サンズは真っ直ぐな眼光でタイゼンの目を見る。
タイゼンもその目を見つめる。
「ハハハッ、わしはわかった! 狸達の参陣を認めよう。」
「ありがとうございます」
「しかし、この戦さでどのような犠牲がでるか、これからどうなるかまだわからん中で、里の民を増やすことは苦しむことになるかもしれん。」
ダクリが今後を案じているがサンズがすぐ様答える。
「その時は私が責任を持って、対応と対策を致します。」
ダクリもサンズの覚悟を見届けたのか、「よかろう。」
と首を縦に振った。
これで正式に狸達の里への移住と戦さへの参陣が容認されたのだった。
ーーー
家で大人しくしてろと言われても、じっとしていられるわけない。
俺はシバ衛門達のいる広場に向かった。
カッパドルキアの広場では狸達の歓迎会が盛大に行われていた。
すごい楽しそうだな、サンズのやつも呼べよな。
カントの連中も河童達も火を囲んでお酒を飲んで大いに盛りがっている。
狸の腹芸や河童の踊りやら戦さが迫っているとは思えないくらいに楽しそうだ。
「サンズ殿、今回は本当にありがとうございました。」
シバ衛門がサンズの盃にお酒を注ぐ。
「サイシ国との戦さの件、おいら達も話し合ったがもちろん加えていただきたいだ。」
「よかった、感謝する。」
「何を言うだか、ウサギどもから皆を救ってもらってこちらこそ感謝しかねぇだ。」
サンズが一気に酒を飲む。
「本当にありがとうございました」
「頭を上げてくれ、今回は俺らもこんな取り引きみたいな真似をして申し訳ないと思っている。」
「いや、村を失ったおいら達を住まわしてくれて、こんな盛大に歓迎してもらって皆のためにおいらは何もできなかった、、」
シバ衛門の涙が盃に溢れ落ちる。
サンズがシバ衛門も盃にお酒を注ぎ返す。
「其方が狸の長のシバ衛門殿かな」
「あ、これは里長殿!」
ダクリが声をかけて横に座る。
「心中お察しいたす。村があのようになってすぐにこのような戦さに巻き込んで申し訳ないな」
「いえ、おいら達はご恩をお返ししたいだけですだ」
「ありがとう。もう我々は同じ里の住人だ。これからもよろしく頼む。」
シバ衛門とダクリは盃を交わす。
「おお、ダクリよ。話はまとまったようだの。」
「タイゼン様! こちら狸長のシバ衛門でございます。
こちらはカントの国の領主代理、タイゼン様だ。」
シバ衛門は慌てて頭を上げる。
「狸殿よ、其方らの変化の術大いに期待しておるぞ。
ここに3国同盟ができた、サイシなど捻り潰してくれようぞ! のう皆ども!!」
「おおーー!!」
場が活気付く。さすがは軍のトップだ、士気が高まっている。
俺もそろそろ帰るかな
「タンバ様!」
「お、アカデか」
誰かに見つかったのかと思ってちびりそうだったぞ。
褐色肌の美少女姿のアカデがモジモジして立っている。
「あの、その、タンバ様、命を救っていただきありがとうございました。」
「よしてくれよ、俺はそんなお礼言われても困惑するだけだから。」
「いえ、私は、あの、、、」
早くこの場を離れないとまたサンズにドヤされてしまう。
「悪いけど、またあした、」
「私は! 、、、タンバ様にあの時出会え本当に嬉しかったです。」
そうか、あの時化け熊に変化したこいつに出会ってなければ狸の村にサンズやモズが来ることなくもっと被害が出ていただろう。
「あそこで出会ったことは運命だったのかもな。」
アカデの顔が突然赤らむ。
「俺もお前に出会えよかった。」
「いえ、そんな、そこまではっきりと言われても、そんな」
何をそんなに恥じらいでいるのかわからないがこれで俺は帰られせてもらおう。
「じゃあ、また明日な。」
なんか聞いてなさそうだが、まあ一応挨拶はしたし良いだろう、うん。
俺はサンズの家に戻った。
 




