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和の国異世界御伽噺〜妖気漂う異世界ファンタジー戦記〜  作者: 臣 治
第一章 伝説の始まり
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第十二噺 惨劇

何とも見事な流れ技。

サンズがモズや里の皆んなから一目置かれるのもわかる気がする。


だが,赤兎は予想以上にタフだった。

サンズの一連の攻撃で傷は負っているものの立ち上がり向かってくる。

さらに追い討ちをかけるもサンズの斬撃も強靭な肉体の前では致命的な一撃にはならない。

モズも加わり、斬撃を浴びせる。赤兎は傷が深く入っても何度でも立ち上がる。


「サンズ様こいつ異常ですよ、やっぱり。」

「ああ、あまりにもタフ過ぎるな。」

すると赤兎の頭上に大きな陰陽太極図の印が浮かび上がる。

「まずいな、」

サンズは阻止するために斬撃を放つが拳で返される。


印からは大きな杵と臼が出てきた。

ウサギは3本の腕で大きな杵を持ち上げて、臼につく。

辺りがその地響きで揺れる。


「何やってるんだ? あいつ」

「さあ、一体なにをやってるのかしらね。ってあんた、

なんでそんなにフラフラしてんのよ!」

「いやー、ちょっと朝から何も食べてなくて、、」

赤兎の地響きで吐きそうになり、滝は地面に座り込む。

「あの運動量とこの出血で、余計に腹が減るな。」

「しっかりしてよ、」

こんな時に何を呑気に餅なんかついてやがるんだ。何だあれは何かの攻撃なのか?

朦朧とする意識の中赤兎の行動が気になって半目を開けて伺う。


サンズとモズは次の攻撃を待ち構えている。

すると赤兎は自身の腕を2本ちぎり取った。

「なっ! あいつ何やってるんだ!」

するとそのちぎった腕を臼に放り込み、周りに倒れている仲間のウサギを片腕で担いでは次々と臼に投げ込でいく。


「みて、タンバ、あのウサギ何かやってるわよ」

ここからでも見えるが、まさかな、グロ過ぎは勘弁してくれよ。

「サンズ様、これってまさかあれを搗く訳じゃないですよね?」

「まさかな、、冗談だろ、」


赤兎は跳び上がって杵を大きく振り上げると、仲間達が入った臼目掛けて力強く腰を入れて振り下ろした。

グロテスクな音が聞こえる。

何度も戦慄の走る音を繰り返して臼をつく。


「こいつ餅つきみたいに、なんてエグいことしやがるんだ。」

吐き気がしそうだ。

皆が吐き気堪えながら唖然としていると臼の中が急に光り出す。

すると赤兎は搗くのをやめ、杵を放り投げた。

そして臼の中から光輝く白い玉をゆっくりと取り出した。


「何だあれ?」

「あれって餅ってこと? 気持ち悪すぎる」

アメの顔が青ざめていく。滝も吐きそうな限界まで達していたが、どうにか我慢していた。


赤兎はその玉を上に投げると大きく口を開けてキャッチした。

そのままごくっと音立てて飲み込む。


「グガワヮァァァァ!!」

突然の赤兎の咆哮にみんな思わず耳を塞ぐ。


「大丈夫ですか?」

サンズ達から距離をとっている俺たちのところに、化け狸たちがわらわらと集まってきた。

気絶していたシバ衛門とアカデもやってきた。

「アカデ! 大丈夫なの?」

「はい、私は大丈夫です。これくらい何ともありません。」

「そうだぜ、アカデ。おいら達が寝てる場合じゃねえ。おいら達の村を他人にばっかり守らせるわけには、」


「グブウーーーーーー」

こちらでも突然すぐ近くで低い大きい音が周囲に聞こえる。

「何だ?」「あのウサギの音?」「何の音だ!」

皆困惑している。


恥ずかしそうに滝がゆっくり手を挙げる。

「ごめんなさい、俺のお腹です。」

「お腹の音かいっ! こんな時に何なのよ!」

「サムライ様は頑張ってくれたからお腹が減ってるだべ」

「何か無事な食べ物あればすぐに持ってきますだ!」

「そうだな、お前らサムライ様に何か食べ物を探してこい!」「おう!」

ありがたい。貧血もあるし空腹も辛い。

こんなことなら、アメと一緒に畑の備蓄食べとけばよかったな。


俺が話をしていると何かが鈍い音と共に飛んできた。

「何だ! 攻撃か!」

俺は目を疑った。

そこには血を流したモズが投げ飛ばされていた。


「モズっ!」

「クハッ、、、。あいつ、あの玉食って急に強くなりやがった。はぁはぁ。」

モズはヨロヨロと立ち上がる。

どうやらまだ大丈夫そうだ。だがかなりの痛手を負っている。


どういうことだ。急に強くなったって、、

「グワァァァァァ!!」

赤兎はさっきまでと異なる姿になっていた。

身体が大きくなり、腕も再生され六本なり、耳も6本、

背中には真っ赤な羽根を生やしている。


「何が起こったんだ?」

「あのウサギ、あの餅つきでできた玉を食ったら突然あの姿になって妖気が膨れ上がりやがった。」

あの玉で全回復からのさらなる進化。

非常に絶望的な状態だ。

立ち上がったモズがまたサンズの元へ駆ける。


滝は赤兎の妖気に変化に目を凝らして観察する。

「あいつのモヤの量が増してやがる。」

先ほどまで纏っていたモヤ、すなわち妖気の量とは桁違いに膨れ上がっている。

「サムライ様、妖気が見えるんですか?」

「え、うん、、え、狸には見えないの?」

狸にはあのモヤは見えないみたいだ。

「違うわよ、普通は纏う妖気なんて見えないのよ。」

「え、そうなの?」

「鍛錬を積めば見えるようになる人もいるみたいだけど、基本的には河童族にしか見えないのよ」


初耳だ。てことは俺は河童なのか?

それとも、、異世界人だから変なのか。

でも河童ではないし、俺がこの世界で変わってる存在だという方があり得るな。


それにしてもすごいモヤ、妖気の量だな。

あんなのどうすれば。これは非常にまずいぞ。

今から河童の里に戻って援軍を呼んでくるか?

ツナやガアク、カントのサムライ達がくれば何とかなりそうだがおそらく間に合わないだろう。一体どうしたらいい。


赤兎は赤い羽根で空中に飛んだ。

「何をしようって言うんだ。」

サンズは赤兎の行動を観察することしかできない。

「しまった、皆んなここから離れろ!」

空中に先ほどの比べ物にならない数の印が浮かび上がる。

「おいおい、嘘だろ。」

モズが冷や汗をかく。


「アメ、アカデ、みんな逃げろ! えぐいのが来るぞ。」

咄嗟に滝はみんなに忠告する。

ダメか、もう遅い! でも頼む!

「逃げろー!」


空中の印から無数の人参の矢の雨が降り注ぐ。

降り注がれた人参は次々と地面に突き刺さっていく。

みんなの悲鳴と地面に叩きつけられる人参の音だけが耳に届く。

辺りは見えないほどの砂煙りが立ち込める。


音が止みアメが恐る恐る目を開ける。

するとそこには巨大化したシバ衛門がいた。

シバ衛門は巨大化して皆を覆い、人参の雨から体を張って守っていた。


「シバ衛門様!」

元の姿に戻ってぐったりとしているシバ衛門にアカデが駆け寄る。

「大将! おいら達のために、、」

他の狸達も泣きながらシバ衛門の元に集まる。


「嘘でしょ、なによ今の攻撃、、」

アメが周囲に目を向ける。

滝が倒れている。

「タキ! しっかりしてよ!」

「ああ、、大丈夫だ、奇跡的に直撃はされてない、、」

そして、そこより先に目をやると血だらけのサンズが今にも倒れそうだが立っていて、その足元には血を流して横たわるモズがいた。


「2人とも大丈夫!」

アメが遠くから声をかけるが返事はない。

声を張り上げる気力は2人には残っていなかった。


「モズ立てるか。」

「すみません、あんな人参ごときで寝てられませんよ、、」

モズが刀を支えにして立ち上がる。

「またすぐ来ないところから考えて、余裕をぶっこいてやがるか、連発はできないかの二択だろう。あいつはこれからまた何かしらの攻撃を仕掛けてくるな。まず厄介なあの羽根を切り落とす。俺があいつとやり合う隙にモズ、いけるか。」


「あなたって人は、そんなに血を流しても混乱もせず冷静に、、流石です、わかりました。」

モズが刀を構える。

「行くぞ!」


「昇龍斬!」

サンズが下から斬撃を飛ばす。放った斬撃は天に昇っていく龍のように真っ直ぐに空中の赤兎に飛んでいく。

しかし赤兎は空中の印から杵を取り出して、斬撃を受け止め相殺する。

「あの杵取り出すこともできるのかよ。」

サンズは赤兎の技の柔軟性にただ呆れて笑うことしかできない。


今度は赤兎がサンズに向かって急降下し、杵で叩きつける。

落下の重みと力が重なり辺りが地割れがする。

しかし、サンズはこれを刀で受け止める。

どうやら刀に妖気を集中させて衝撃に耐えているようだ。

「なかなかの攻撃だな、ウサギ野郎。」

赤兎は身体を反転させてサンズに蹴りを入れる。

「くはっ、」

サンズは瓦礫の中に飛ばされる。


「清流斬!」

羽を狙って陰からのモズの斬撃が赤兎の不意をつく。

が、赤兎が上手く羽を交わし腕の一本を飛ばしただけとなる。

「くそっ! 羽を守りやがって」


赤兎が腕を翳して身体の正面に印つくるとモズ目掛けて人参の矢を浴びせる。

モズは刀で受け流すが、その隙を狙って赤兎がモズの後ろに回り込み二本の腕で殴り飛ばす。

モズは地面に叩きつけられながら飛ばされる。


滝はこのあまりにも残酷な状況に居ても立っても居られないが、こんなフラフラな身体ではどうする事もできない。それに今の自分では何の力にもならないとわかっていた。

ダメだ、このままじゃ全員あのウサギに殺される。

「ぎゅるるるぅ」滝のお腹が鳴る。

「こんな時腹なんか減るなよ」

どうするんだ、こいつを。

解決策はあるのか、どうしたらいい、、





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