第十一噺 妖気と刀
もう一度攻撃を喰らえば致命傷になる
それは滝もわかっている。
こちらの攻撃は全く致命傷になっていない。
どこか急所はないのか。
あの長い耳か、心臓か、どれも今の俺の刀の使い方じゃ切り口も浅いしかすり傷で終わってしまう。
滝は敵に近づくことができないまま思考を巡らせる。
剛力兎の重い拳をスレスレで交わす。
慣れない動きで脚がもつれて転けては立ち上がりを繰り返して致命傷を避ける。
ゲームや小説だと、与えられた武器や力でモンスターを狩って英雄だ。
でもこれは、人生はそう簡単にはいかない。傷だらけになって命を賭けないと擦り傷すら相手に与えられない。
一瞬の判断ミスで死ぬ。常に死と隣り合わせだ。
俺は前の世界で何となく生きてきた。
死なければ、平凡に暮らせばそれでいいと思っていた。
違った。ここも向こうも変わらない。
人は常に生と死と隣り合わせだ。だからこそ少しでも、ほんの少しでもいい、後悔しないように、生きるしかない。
よく観察しろ。俺の力で相手の動き封じられる場所。
どこだ。この化け物ウサギの腕は強靭過ぎて俺の刀じゃ擦り傷にしかならない。胴体も足も同じことだ。他にどこかないのか!?、、、あるじゃねぇか。
「ここだ!」
無我夢中で突き出した滝の刀が剛力兎の黒い目を刺す。
「グガァァア!」
剛力兎は目を抑えてフラフラとよろけながら暴れ出す。
よし、今だここしかない!
滝は素早く、確実に距離を詰めて敵の後ろに周り、後頭部から斬り込んだ。
近づけたこともありその一刀が深い一撃となり、剛力兎は声を上げて沈んだ。
「勝った、、」
滝は勝ちを確認すると力が抜けて膝から崩れる。
「タキ! 大丈夫?」
「勝った、勝ったんだ。」
目の前で血を流して倒れ込み動かなくなった剛力兎を見て、過去の自分を断ち切ることができた気がした。
「アカデは安全そうなところに連れて行きましょう。」
アメが狸姿のアカデを背中に担ぐ。
滝は初めての刀の感触が不思議で堪らず、手の痛みをかんじている。
「タンバ様ー!」
狸達が戦いをみて駆けつけてきた。
彼らも血は流しているが、どうやら動けるようだ。
「他のウサギたちは?」
「他の奴らも赤兎の攻撃に巻き込まれて半数近くは倒れました。おら達も多くの被害が、、家はご覧の通りです。」
「女子供は無事避難させていますだ。」
よかった、まだ元気そうな狸もいるようだ。
グウゥゥゥ
「何だ今の音は!?」
何かの鳴き声のような音が聞こえた。
「わりぃ、俺だ。」
「なんだタンバ様の腹の音だったのか。ビックリしただ。」
そういえば、今日はセンコがいなかったので朝ご飯から食べていない。もう日が暮れる、そりゃお腹も減るだろうな。
お腹が空き過ぎて痛くなってきた。
「グウゥゥ」
「またお腹の音ですかい。」
「いや今のは違うぞ。」
「皆んな危ないっ!」
皆の頭上から振り下ろされる剛力兎の拳をアメの注意でかわす。
「くそウサギがっ! 金玉袋」
狸の強烈な一撃が敵の頭を地面に沈める。
流石だ。俺には一撃で倒すなんてできない。
周りからゾロゾロと剛力兎が出てくる。
「くそ、まだこんなに。やっかいだな。」
狸達もボロボロの状態でこの数は部が悪いようだ。
「清流斬!」
ウサギ達に斬撃が飛ぶ。
「大丈夫か!」
この斬撃、それにこの聞き慣れた声、あれは!
モズとサンズ!
あいつらが物凄く頼もしく見える。
どうしてここに、よくわからないがこれで何とかなりそうだ。
いきなりサンズのゲンコツが滝の頭を襲う。
「いてぇっっ!」
「てめぇ、大人しくしてろって言っただろ!」
「狸が困ってるって言うから仕方なかったんだよ。」
「里が忙しい時にこんな厄介ごとに首を突っ込みやがって。」
サンズは終始怒っているが、仕方ない。
カントのサムライ達に警戒されている俺の立場上、こんなことをしている場合ではないのは最もだ。
「よかったよ、タンバが生きてって、タンバ血まみれじゃん!」
モズは滝に肩を貸しながら滝の出血の多さにびっくりする。
それもそのはず、滝は頭から血を垂らし口から吐血しているのだ。
「ああ、ちょっとな。」
サンズは滝の様子から状況を察する。
「今度は少し頑張れたみたいだな。」
無愛想なサンズの言葉だが素直に嬉しかった。
「まあな」
「剛力兎の群れか。サンズ様、ひと暴れしていいですか?」
モズはサンズの返事も待たずに刀を握って斬り、あっさりとあの強靭な腕を切り落とす。
続けて構えるモズの刀に青いモヤが集中する。
「清流斬。」
モヤが斬撃となって刀から放たれる。
それはまるで穏やかな川の流れような斬撃だった。
剛力兎の身体は綺麗に縦真っ二つに斬り裂かれる。
サンズも刀で別の個体を既に仕留めていた。
こいつらこんなに強かったのか。
あんだけ苦戦した化け物ウサギをこんなあっさり。
河童がつよいのか、この2人が強いのかわからない。
「大将っ! しっかりしてくれよ!」
離れたところで声がする。
駆け寄るとそこには倒れたシバ衛門を抱きかかえる狸がいた。
サンズはシバ衛門を見て呟く。
「シバ、、。こいつはまだ、生きている。気を失っているだけみたいだ。」
「サンズこいつと知り合いなのか。」
「まあな、俺らの里も近いからな。」
「それにしても村が酷いねこりゃ。」
気づけば村は瓦礫の山と化していた。モズは辺りを見渡すが酷い現状だった。
「お前らがこんなウサギの妖怪如きに易々と負ける筈がないだろう。」
サンズの疑問の答えはすぐに分かった。
滝達の場所が急に影になる。
太陽の光が陰り、頭上に何かいる。
風を切る音を立てながら奴は飛んできた。
みんな一斉に散って避ける。
「何だこいつ。」
モズが凝視している。
サンズは咄嗟に抱き上げたシバ衛門を他の狸に渡す。
「どうやら、こいつのせいみたいだな。」
「なるほどね、サンズ様こいつなかなか強そうですね。」
「図体はそんなにはないが、妖気が他のウサギと段違いだな。」
赤兎の身体から黒いモヤが大量に溢れ出ている。
「ここはまず、俺が腕の一本でも」
モズが突っ込んでいく。
素早い動きだったが、赤兎の拳がモズを直撃する。ギリギリで体勢を変えて刀で受け止める。
「いい拳だなうさちゃん。たが、甘いぜ、流楼斬」
刀の斬撃がいくつもの小さな流れとなりそれが集まり、球体の形を成して飛んでいく。
赤兎はその球体となった斬撃を拳で粉砕しようとしたが、その斬撃を殴りつけた途端、球体が破裂し腕が切り刻まれ飛ばされる。
「なんだあれ!」
「すごいわね、これが本当のサムライなのね」
そう言いながら、アメが横目で滝をみる。
「何だよてめぇ」「別にー」
完全に俺のこと馬鹿にしやがって。
でもこれは何だ、俺の知るサムライはこんな魔法みたいなことはできるわけがない。これが妖気なのか。斬撃をコントロールしているのか?
「あれは自身の妖気を刀に流しているんだ。」
不思議そうにしている俺にサンズが説明する。
「妖気の練り方やなんかは今はいいとして、重要なのは刀に妖気を送ることで刀の強化にもなる。そして極め付けはその力を斬撃として放つことができるところだ。」
難しいが何となくは理解できる。
要は自分の妖気を刀を通して外に放出しているってことか。
「魔法の応用か」
「あんた何言ってるの、、」
「やべぇ、皆んな避けろ!」
モズの声が聞こえた、とも思ったら突然巨大な人参が矢のように飛んできた。
サンズがその人参を見事に正面から縦に真っ二つに斬る。
「何だ今のは!」
「あれはあのウサギの妖術だな。妖気を練って作り出すまさに妖気を形にしたって技だ。」
「しかも何あれ!」
アメが指差したところを見ると赤兎の背後の空中に陰陽太極図のような印がある。
「あれは厄介だな。」
サンズが怪訝な顔をする。
「どう厄介なんだよ。」
「あれはただの妖術じゃない、さらに妖術の応用を効かせた強力な呪術を使うための印だな。」
「なんか、めっちゃかっこよさそー!」
「馬鹿言え、こりゃ手を焼くぞ。まさかこんな野良ウサギの妖怪如きがここまでとはな。」
サンズは赤兎の背後にある印を睨みつける。
モズがサンズの元に掛けてくる。
「サンズ様、こいつただの野良妖怪じゃなさそうですね、」
「ああ、だが今はこいつを狩ることに専念しろよ」
「分かってます、」
モズが相手目掛けて斬りかかる。
「よっ!」
赤兎は拳でモズの刀を受け止める。
そこから高速でモズが斬りかかり、刀と拳の乱れ打ちが繰り広げられる。
赤兎が突如後退し、その間にモズを取り囲むように空中に六芒星印が浮かび上がらせる。
そして、その印から一斉に無数の人参がダーツの針のようにモズに降り注いだ。
モズは刀で斬り、受け流すが、あまりの数の人参の集中砲火で痛手を追う。
「くそ、ウサギの分際で、、、」
「しっかりしろ、モズ。人参ぐらいでへばるなよ。」
すかさずサンズが加勢し、敵の攻撃も落ち着く。
「当たり前じゃないですか。」
サンズが赤兎に向かって走り出すが、赤兎はその動きを目で追う。
次は走るサンズ目掛けて人参の集中砲火が降り注ぐ。
止まることなく走り抜けながら、それらを斬りつつ避けつつあっさりと赤兎に刀が届く距離に詰める。
サンズが高速で動きながら、赤兎の身体を直接斬りつけていく。
赤兎も4本の腕でガードはしているが身体の表面は刀傷だらけだ。その間も人参の矢はサンズを襲うが、モズがそれをカバーしながら連携している。
そしてそのまま今度は体を反転させると素手で
「心中ツキィ!!」
強力な一撃をかます。
正面から喰らった赤兎は声を上げながら前のめりに倒れ込むが、間髪を入れずそのままサンズお得意の張り手の連打が繰り出される。
「おらおらおらぁあっっっ! 終わりだっ!」
最後の一発で赤兎は吹っ飛ぶ。
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