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第9話. 毒を君に吐いて【中編】

今回はリバース描写がありますので、食事前の方や苦手な方はブラウザバックをお願いします。




そしてこの後、私と(ある)がどうなったのかなど自明だ。

私と或は今現在、今日まで送ってきた日常の中で過去一ギクシャクしていた。


あの一瞬、私は大人気もなく怒ってしまったが、その後すぐ様冷静になった。

所詮はあれはAIが導き出した結果なのだし、そもそも信ぴょう性があるかどうかも疑わしい。

だからこそ、当たるも八卦当たらぬも八卦と自分の精神を無理やり落ち着かせた。のだが、何故か或はずっと、どこか罪悪感に押し殺されたような顔をしているのだ。


罪悪感に押し潰されているというよりも、()()()()()顔が青白い。

というより、あの一件から或の白い肌は蒼褪めたままだ。まるで生身の人間が体調不良を起こしたときのように。


無論、私はそんな或を見て何があったのか気になったが、当の本人は触れないで欲しいといった態度であった。

こうなってしまうと、さすがの私でも迂闊に踏み出すことは出来ない。

結局ギクシャクした空気は変わらぬままこの日を終え、翌日いつものように出社し、いつものように日常生活を送っていた。



「おはようございまーす」



翌朝。既に出社している同期へ挨拶すれば、同期のフミちゃんに軽い挨拶の後に「ねぇねぇ」と言葉を継がれた。

普段からこの子——フミちゃんは明るく、社内ではいわゆるムードメーカー的な存在である。

めずらしく同期の中でも仕事ができ、周囲への気配りも忘れない。いわば社内に舞い降りた最終天使。



「おうおう、朝からどうしたよフミちゃん」


「えっとね……。じゃーん!」



そう言って、顔を明るくさせたフミちゃんは私の眼前に左手の手の甲を向ける。

私はじっくりとフミちゃんの左手を見てみると、薬指には銀色のリングが光っていた。

つまるところ、これはアレだ。



「なにィッ!? フミちゃん、いよいよ彼氏さんと婚約か!?」


「そうなの! 昨日プロポーズされたからオーケーしちゃった」



へへ、と愛らしく眩しい笑みを見せる最終天使(フミちゃん)。そんな幸せそうな彼女を見て、私は1人胸中でこうぼやく。


残念だったな、社内の男ども。そして残念だったな、私。

もうフミちゃんはこちら側ではないのだ。

可愛い可愛い我らが天使が愛しの婚約者さんに嫁ぐことを祝福し、なんとなく悲しい気持ちになる。


ただフミちゃんに幸せになって欲しいというのは偽りなどなく、私は「結婚式には呼べよ~?」と式への参加を表明しておく。

その瞬間だった。


背後からガタッ、と音がし、振り返れば或が膝をついていた。



「或!?」



私は思わず彼の名前を口に出しかけたが、すぐに我へと帰る。或の姿は私以外には見えてなどいないし、そもそもここは社内だ。


誰も或の存在を知らない以上、ここで私が下手な動きなど見せれず、或もそれを分かっているため、弱弱しく蒼い顔で大丈夫と頷き返す。



「……大丈夫、僕のことは気にしないで」


「でも……」



私は或が心配で仕方ないが、後15分もすれば朝礼がある。朝礼後に始業開始なため、或に割いている時間などない。


ともかく私は、或にいつも空いている休憩フロアにある自販機の横のベンチで休むように勧めた。

私は時々或のことが心配で、次の会議で必要な資料を打ち込んでいく手が留まりかけるも、幸いこの日は残業することもなく帰宅することになる。


道中、電車内で立っている或に対し「座る?」と私は彼を気遣うも、或はことごとく私の気遣いを断り、こう返した。



「今は君の顔だけを見ていたいんだ」



そういって、青い顔でこちらを見つめる或。

私は朝或が不調さを見せた瞬間から、まさかと昨日のタロット占いのことが気にかかってしまった。


一瞬、馬鹿らしい。そんなことある訳ないだろうがと私は自分自身を嘲笑う。

だが、もしもがあったとしたら? という疑念だけが消えてくれない。


昨日のことと、今の或の体調不良が関係していたとしよう。

そうなると、或は昨日の占いの結果と私の対応に対し、精神的にショックを受けたという結論に繋がる。


強引かつ滅茶苦茶な仮説だが、これが本当だとしたら彼の本心を無理に暴こうとした私にも非がある。だからこそ、私はなにも言えなくなってしまった。


そして帰宅した後に夕飯を食べるも、いつものように或が一緒に食事をとることはない。

彼はいつも寝ている場所に横になっており、もう私の方を見向きさえしない。

私は罪悪感と彼への心配で頭が混乱する中、いつも通り食器を洗っていた。そのとき。



(れん)



或がふらふらとした足取りで、キッチンへとやってきた。私は或の声が聞こえると、すぐさま彼へと視線を向け、脳内でこう叫んでしまう。



「或! 後で話は聞くから、今は寝ててよ!」


「いや、そんなことより話が……じゃなくて、どうか僕のお願いを聞いて欲しい。お風呂から上がった後でいいから」



珍しく「お願いを聞いて欲しい」と懇願する或に対し、私は一瞬らしくないと言葉を失うも「分かった」と頷く。


私は急いで皿洗いを終えようと必死に手を動かす。或はそのまま私の自室へ戻るかと思ったが、弱弱しく私を後ろから抱きしめる。そして消え入りそうな声で、こう呟いた。



「恋、もしかして不安かい? 僕の昨日の態度で」


「えっ、いや……」



まさか、ここでそうきたかと逡巡した脳に不安が差し込まれる。

やはり昨日のことが今の不調に繋がっているのかと疑惑が高まっていく。当然、私は或になにも返せずに黙り込んでしまう。

しかし、私の唇は反射的に再度開き、本来なら遠慮べきする言葉を口にしてしまった。



「……うん、正直にいえばね」


「やっぱり。君、おかしかったもん」


「そうだね」



普段と変わらない声のトーンと会話のテンポではなく、普段よりも重く歯切れの悪い空気と声音とテンポでこの場に気まずい空気が流れる。


こんなときに、こんな話をしてはならない。すべきではない――そう理解していても、私は追及を止めることが出来なかった。



「正直に話していい?」



自らそう切り出しておきながら、嫌に心臓が跳ねる。


なにせ私は知りたかった。ずっと或の全てが分からなかった。それに或が私の目の前に現れたあのとき――何故、或は私の傍にいたいと強請ったのか。この前提が、出会った引っ掛かっていた。


仮に或が私の妄想だとして、あの場で事情も素性も明かさずにただ「傍にいたい」とだけ言うのは突拍子すぎる。なにより、或が私の妄想であると吹き込んだのは或本人なのだ。


言ってしまえば、私の目の前にいる『或』という存在は彼自身によって固められた偶像(イメージ)に過ぎない。


それに、彼はあまりにも出来すぎている。


風貌はともかく、口調が普通の人間じゃない。どこか人工的に造られたものだ。

というよりも、なにかを演じているようなそんな口調で或は常時私に話しかけている。またもなにか真実を隠すように。


そう、本心を深掘りしていく程に私の心臓の鼓動は早くなる。

本当なら、こんなことなど聞きたくない。知りたくない。


けれども、私には或のなにもかもが『みえない』から不安になる。その先をどうしても知りたくなってしまう。

或もなにかを察したのか、「いいよ」と普段のように優しく答える。



「なら、話すわ」



止めて。そう、私は思い止まる。しかし、口は私の制止を聞きなどしやしない。



「そもそも、或は私をどう思ってるの? 今までは飼い犬とかなんとかいってるけれども」



聞きたくない。これ以上或に負担をかけたくないし、この幸せだった日々を自分の手で壊したくない。だと言うのに、私の舌は回る。



「なによりさ、胡散臭いんだよ。だから正直、時々或のことが信じられなくなる」



そんなこと言わないであげてと、心の中にいる私は私自身に泣いて縋る。

矛盾する言動と心。

今にも心臓は張り裂けそうで、冷静を装っていても、きっと或には分かっているだろう。私が動揺していることなど。

なにより、怖がっていることさえも。


けれども、知りたかった。でも、本当は見たくない。

もし或が私を最初から騙していたとしたら、どうしよう。

今までの輝かしく、優しく、木漏れ日のような日常が壊れてしまったら私はどうすればいいのか。

きっと、大好きなフミちゃんの結婚式に参加しても、私は心から祝うことが出来ないだろう。


そう、そもそも私はそういう女だ。

だから、誰も私を好きになるはずがない。

なにより或は、なにもかもみえないから、なにもみせてくれないから、歩み寄らないから、私に与えるばかりだから。


私はその優しさを当たり前だと享受し、勝手に彼の事情も気持ちも踏みにじる。最低最悪の酷い女。そしてそんな非道な人間は、こうして或へ止めを刺した。



「或。お前、隠していることがあるなら、全部吐いてよ」



そんな私の残酷で遠慮ない言葉に対し、或は頷き返す。



「……もちろん。そろそろ僕の本音を少しだけ吐かせて欲しい。少しだけ……すこ、——う゛ッ!」



その瞬間、或の口元から黒く、得体の知れないなにかが吐き出された。





長らく更新しておらず申し訳ありません。

まだ、この2人の腹の探り合い(?)は続きます。


結構、恋は自分が大事な人間なので、この喧嘩の前までは自分自身の欲を満たすために或を傍に置いておいたのは否定しません。

ただ、その自分勝手が徐々に変わっていく予定です。


ちなみに最後のシーンは、書いてて「お前マジで吐くか!?」と思わずツッコミましたが、そんなことしていられる場合じゃないんですよ。



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