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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
航空主兵
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第9話 マル三計画

 軍縮条約の軛から逃れての初の建艦計画となったマル三計画は、帝国海軍が完全に大艦巨砲主義から航空主兵主義へと転換が果たされたことを証明するかのような内容だった。

 主力艦については表向きは「金剛」型戦艦の代替艦として一億円の主力艦を四隻建造することになっている。

 だが、実際のところ建造されるのは戦艦ではなく四隻の空母で、その艦体の巨大さから一隻あたりの建造費は一億円を超える。


 この決定を下したのは伏見宮元帥だった。

 彼はマル一計画やマル二計画と同様に、マル三計画もまたその策定に当初から深くかかわっていた。

 伏見宮元帥はマル三計画において、世界に先駆けて三〇〇〇〇トンの排水量を持つに至った戦艦「扶桑」に続き、空母のほうもまた三〇〇メートルを超える全長を持つ世界初の軍艦にせよと指示していた。

 このことについて、一隻の空母に多数の艦上機が集中する危険を訴える関係者もいた。

 しかし、今後の艦上機の大型高速化は避けられない趨勢であり、空母のほうもまた弾薬庫や航空燃料庫をはじめとした諸設備もそれに対応すべく発展性あるいは冗長性が求められるとして伏見宮元帥はこれら関係者を説得していた。


 だが、造修施設の貧弱な日本において大型艦を建造できる施設は四個所しかなく、まして三〇〇メートルを超える空母が建造できるものに限れば呉海軍工廠のみだし、それも拡張工事を前提とした話だ。

 もちろん、帝国海軍も造修施設の貧弱さは自覚しており、現在は佐世保と横須賀に三〇〇メートルを超える大型船渠を造成中だが、しかしそれらはどんなに工事を急いでも完成するのは昭和一五年以降になる。

 それに予算や資材の問題もある。

 もし、仮に三〇〇メートル級の装甲空母を造るとすれば、とても一隻あたり一億円で収まるはずもなく、また必要とされる資材も膨大なものになる。

 一隻乃至二隻ならともかく、三隻も四隻も建造出来るほどの国力は残念ながら今の日本には無い。


 そんなこんなで建造が開始されるまでにいろいろとあった四隻の新型空母だが、それらはそのいずれもが飛行甲板に鋼鉄を張り巡らせた装甲空母となる。

 これは、伏見宮元帥が飛行甲板全面に装甲を施した空母を建造するよう強く主張したからだ。

 しかも、その耐弾能力については急降下爆撃機から投じられる八〇〇キロ爆弾に対応できるものとされていた。

 空母が脆弱な艦種と認識されている中、それでも限りなく不沈艦と呼ばれる存在を彼は欲したのだ。

 そのうえ、伏見宮元帥は一五〇機以上の搭載能力を要望していたから、さすがに世間知らずというかあるいは贅沢を言うにも程があった。

 八〇〇キロ爆弾に耐えうる防御要件を満たそうとすると装甲厚は一〇〇ミリ程度ではとてもおさまらない。

 そのうえ全面装甲となるとトップヘビーも著しいし、そこに一五〇機もの艦上機を搭載しようと思えば否応なく艦体は巨大になり、その排水量は最低でも四五〇〇〇トン、下手をすれば六〇〇〇〇トンに近くにまで膨れ上がってしまう。

 さらに、前代未聞ともいうべきその巨艦は当然のことながら建造にも相応の時間がかかるから、マル四計画以降に予定されている艦艇の建造も大幅な遅延を余儀なくされる。


 これらのことを指摘された伏見宮元帥は、さすがに欲が過ぎると思ったのか耐弾要件に関しては八〇〇キロ爆弾を五〇〇キロ爆弾に、搭載機数は可能な限り一〇〇機に近づけるという妥協案を示す。

 結局、装甲は艦の中心線の幅二〇メートルにわたって施し、その下に格納庫を設けるということに落ち着くが、それでも三〇〇〇〇トンを大きく超える巨艦となった。

 八〇〇キロ爆弾に耐える飛行甲板装甲と一五〇機の艦上機を運用出来るという夢の空母の建造は断念した伏見宮元帥だったが、だがしかしその一方でマル三計画で建造する空母については不穏な世界情勢に鑑み、一刻も早い完成を厳命している。


 それと、予算の限界から空母以外の大型艦や中型艦については一隻も建造されない。

 マル三計画では一〇〇〇〇トン級敷設艦が予算計上されているが、こちらは高価な装甲空母を建造するための架空計上であり、他の艦種についても同様の措置が講じられたものがいくつかあった。

 それと、一隻も建造されないという冷遇極まりない戦艦や巡洋艦とは裏腹に駆逐艦や潜水艦それに海防艦や駆潜艇といった小艦艇はそれなりに充実している。

 駆逐艦は万能型駆逐艦の先駆けとなった「朝潮」型駆逐艦の改良型とも呼べる「陽炎」型で、それら艦にはいずれも新しく開発された新型の高角砲を装備することにしている。

 もちろん、それらは夜間水雷決戦のために整備されるのではなく、あくまでも空母の護衛を第一としていた。



 <メモ>


 「大和」型空母(同型艦「武蔵」「信濃」「甲斐」)

 ・基準排水量三七〇〇〇トン

 ・全長二七二メートル、全幅三二メートル

 ・飛行甲板二七二メートル×三四メートル

 ・八缶四軸、一五二〇〇〇馬力、三一ノット

 ・一二・七センチ連装高角砲八基、二五ミリ三連装機銃二〇(増設予定有り)

 ・搭載機数 常用九六機

 ・飛行甲板装甲 20ミリDS鋼板+75ミリCNC甲板。(格納庫上面のみ)

 帝国海軍初の装甲空母である「大和」型の飛行甲板の形状は長方形に近く、また急降下爆撃機が投じる五〇〇キロ爆弾にも耐える装甲を格納庫上面部分に施している。

 格納庫は上下二段で幅はいずれも二〇メートルを確保、上部格納庫は艦の全長いっぱいで下部格納庫は前後エレベーター間のみとしている。

 その格納庫は、デコボコが少ないスクエアゆえに搭載効率が高く七〇機余を収容することが可能で、さらに二〇機余を飛行甲板に露天繋止することでその搭載機数は常用機だけで一〇〇機近くに迫る。

 エレベーターについては昇降速度を維持するために軽防御にとどめている。

 また、搭載機数が多いために前後エレベーターとは別にサイドエレベーターを左舷中央に設けているが、こちらは浸水対策のために上部格納庫にしか通じていない。

 「大和」型空母はトップヘビーを避けるために従来の空母よりも甲板を一層減らしているが、全幅を大きくとることで艦内容積の確保に成功している。

 さらに、乾舷の低さを補うために艦首はエンクローズドバウとしている。



 「陽炎」型駆逐艦(小改良型も含め同型艦三八隻を予定)

 ・基準排水量二〇〇〇トン

 ・全長一二〇メートル、全幅一〇・五メートル

 ・一〇センチ連装高角砲三基六門、二五ミリ三連装機銃四基

 ・六一センチ四連装魚雷発射管二基(予備魚雷無し)

 ・二缶二軸三四〇〇〇馬力、三一ノット

 前級の「朝潮」型駆逐艦と同じ船体を持ち、主砲を八九式一二・七センチ連装高角砲から新型の九八式一〇センチ連装高角砲にしたことで対空能力を大きく向上させている。

 また、機銃も「朝潮」型では連装機銃だったものを三連装機銃とし、こちらもまた相応にその能力を高めている。

 機関出力もまた「朝潮」型に比べてわずかにアップしているが、速力は変わらない。

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