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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
ミッドウェー海戦

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第64話 電星

 「さすがに電探搭載の機体であれば見逃すこともないか。索敵は数もそうだが、質も大事だね」


 電探搭載型流星から次々に入ってくる敵艦隊の情報に、第一機動艦隊司令長官の山本大将が幕僚たちに笑みを向ける。

 雲量が多く、索敵にはあまり好ましくない気象条件であったのにもかかわらず、電探搭載型流星、将兵らが言うところの電星は立派にその仕事をやり遂げてくれたのだ。

 あるいは、これが従来の九七艦攻やあるいは一式艦攻のように搭乗員の目視に頼った手段による索敵だったとしたら、敵艦隊を見つけられたかどうかは分からない。

 山本長官が言う質とはつまりはそういうことだった。


 その電探搭載型流星、略して電星は機体こそ日本製だが、電探は英国で造られたものだ。

 英国との講和が成り、同国の電探技術が枢軸側にもたらされた時、日本の技術者たちは驚愕した。

 こと電探に関しては、両国の技術の差が想像していたものよりも遥かに大きかったからだ。


 情報こそが航空戦の要諦だということに早い時期から気づいていた帝国海軍。

 海軍上層部やあるいは技術者たちもまた電探に関しても相応に関心を払い技術の向上に余念が無かった。

 電探の技術については他国に先駆けるほどではないかもしれないが、それでも後れを取っているとは考えていなかった。

 しかし、英国製レーダーを目の当たりにした日本の技術者たちは自分たちがいかに思い上がっていたかを痛感させられる。

 軽量小型化や信頼性はもちろん、計器の見やすさをはじめとしたユーザビリティもまったくもって足元にすらも及ばない。

 日本のAスコープと英国のPPIスコープを比べればそれは一目瞭然だった。


 さらに、IFFをはじめとした電子戦の技術にいかに立ち遅れていたかを思い知らされた帝国海軍はそれ以降、電探の技術向上と電子戦機の開発に邁進する。

 その文脈で開発されたのが電星だった。

 前席と後席の間に電子機器を詰め込むためにコクピットを延長、さらにアンテナをはじめとした突起物によって空力特性が悪化したこと、さらに電子戦機材の搭載による重量増によってオリジナルの流星より五〇キロ近く速度性能が低下した。

 それでも時速五〇〇キロ以上を余裕でキープしているから索敵機としては上出来の部類だった。

 現時点では帝国海軍に電子戦機と呼べる艦上機は電星しかないが、近い将来には現在開発最終段階にある六〇〇キロを大きく超える高速艦上偵察機を電子戦機にして配備することとしている。


 その電星は当初は「大和」型空母に六機、一機艦全体で四八機が配備される予定だった。

 しかし、電星は索敵や周辺警戒だけでなく対潜哨戒や空戦指揮にも使える。

 特に最近になって脅威度が増してきている米潜水艦に対する対策は喫緊の課題であり、現状においてそれに対抗しうる機体は対空電探とともに水上電探を搭載している電星しかない。

 空母としては破格の防御力を誇る装甲空母の「大和」型といえども横腹はさほど打たれ強くはない。

 全幅が大きい分だけ他の空母よりは沈みにくいが、それでも同時に魚雷を四本も五本も食らってしまえばまず助からない。


 それと、潜水艦の脅威もそうだが、何においても情報を重視する山本長官にとって四八機しかない同機体はあまりにもその数が少なすぎた。

 そこで、山本長官は「金剛」型空母の流星を一八機から一二機に減らし、その代わりに電星を増載するよう吉田連合艦隊司令長官に直訴する。

 結果として、この要求はあっさりと通った。

 吉田長官もその立場上、情報の重要性を誰よりも知悉していたからだ。

 当然のことながら、このことで「金剛」型空母は攻撃力が低下するが、電星の機能や利便性を考えれば十分に許容できるものであった。

 それに、「金剛」型空母は戦艦を改造したものだから、どうしても艦上機の運用能力が他の正規空母よりも劣ったものになる。

 それは、爆弾搭載能力や魚雷調整能力にしても同様だったから、この措置については特に問題とされることはなかった。

 そして、「金剛」型空母に配備された合わせて二四機の電星はもっぱら対潜哨戒にあたることとされ、それらは艦上対潜哨戒機の魁として歴史に名を残すことになる。


 「発見された敵機動部隊は四群。そのうちの一つは空母が五隻、残る三群はいずれもそれが四隻だ。これらについて、北から甲一、甲二、甲三、甲四と呼称する。

 第一艦隊目標甲一、第二艦隊目標甲二、第三艦隊目標甲三、第四艦隊目標甲四。

 ただちに第一次攻撃隊を発進させよ。第二次攻撃隊も準備が整い次第可及的速やかに出せ」


 敵艦隊発見の報で見せた笑みを消し、山本長官は厳かな口調で命令を下す。

 その山本長官の命令一下、「大和」型空母から二個中隊二四機、それ以外の空母から一個中隊一二機の合わせて三三六機の烈風が発進する。

 空戦指揮や誘導任務に携わる電星もまた飛行甲板を蹴って大空へと駆け上がっていく。


 一機艦の四個艦隊には合わせて二〇隻の空母が配備されている。

 このうち「大和」型空母は烈風七二機に流星が二四機それに電星が六機、「天城」型空母は烈風三六機に流星二四機、「金剛」型空母は烈風三六機に流星一二機それに電星が六機。

 常用機だけで一五一二機、そのうち烈風は一〇〇八機を数える。

 第一次攻撃隊が発進してすぐに飛行甲板上では第二次攻撃隊の準備が始まる。

 第二次攻撃隊は烈風一九二機に流星が四三二機で、流星の腹には初見参の新兵器の姿があった。

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