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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
航空主兵

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第6話 面従腹背

 「面倒なことになった」


 胸中でそうつぶやき、伏見宮大将はこの日何度目になるか分からないため息をつく。

 ロンドン海軍軍縮会議が終わってほどなく、帝国海軍は軍縮賛成派と軍縮反対派の真っ二つに割れていた。

 そのうえ事は帝国海軍の中だけでは収まらず、統帥権干犯問題として政治の世界にまでその波紋を広げている。


 世間一般には海軍省は軍縮賛成派、軍令部は軍縮反対派と思われているようだが、実際はそんな単純なものではない。

 海軍省にも軍縮に反対する人間はいるし、逆に軍令部にも軍縮に理解を示す人間はいる。

 いずれにせよ、当人たちの主観による主義主張の違いをもって派閥を形成、同じ海軍組織の中で互いにいがみ合うのは国益を損ねる行為ではあるのだが、そのことを指摘しても双方ともに引く気配を見せない。

 組織内での予算獲得競争において、鉄砲屋と水雷屋、あるいは鉄砲屋と飛行機屋がいがみ合うことは日常茶飯事だが、しかし今回の件はそれらとは次元が違い過ぎる。

 ここに至り、伏見宮大将は決意する。

 これまで帝国海軍内にしこりあるいはわだかまりといったものを極力残さないように努めてきたつもりだったが、さすがにこの状況は看過出来ない。


 伏見宮大将は帝国海軍から軍縮反対派の一掃を図ることにする。

 ロンドン海軍軍縮会議の結果に不満を持つ軍縮反対派のほとんどは鉄砲屋かあるいは水雷屋で占められている。

 同会議における補助艦比率が米国や英国に対して七割に満たなかった、あるいは夜戦部隊の主力となる重巡の比率が対米六割に抑え込まれたことに対する水雷屋の不満は根深い。

 また、空母保有枠を対米英同等とする代わりに戦艦比率を対米英六割から四割にしたことに鉄砲屋は怒り心頭となっている。

 日本側代表団が狡猾極まりない米英の代表団相手にようやくのことでまとめ上げたはずの軍艦の保有量に不満を持ち、そのあげくに面倒極まりない統帥権干犯問題まで惹起させた。

 さらにあろうことか軍縮反対派は日露戦争の英雄である東郷元帥を神輿にかつぎあげ、大艦巨砲主義から航空主兵主義への脱却を図ろうとしている伏見宮大将の構想に掣肘を加えようとした。


 この動きに対し、伏見宮大将は皇族という立場を最大限に活用、東郷元帥に関しては陛下に苦言を呈してもらうことで黙らせた。

 いかに海軍の神様といえども、マジもんの現人神には太刀打ちできない。

 あるいは、このことがよほどこたえたのか。

 これ以降、軍縮反対派の動きは目に見えて衰えていく。

 陛下が東郷元帥を諫めた以上、軍縮賛成派は官軍であり軍縮反対派は賊軍と認定されたようなものだったからだ。

 賊軍に属していては出世の目が無くなるのだから、目端の利く者たちは軍縮賛成派に次々に鞍替えしていった。


 いずれにせよ、伏見宮大将から見れば、軍縮反対派は航空主兵への転換を妨害するだけにとどまらず、帝国海軍の組織そのものを散々にかき回す逆賊にしか思えなかった。

 ロンドン海軍軍縮会議の結果については伏見宮大将は満足している。

 だが、一方で同会議において「扶桑」型戦艦と「伊勢」型戦艦の廃棄を阻止しようとした動きがあったことも複数の腹心の部下から聞き及んでいるし、そのことを伏見宮大将は無視するつもりはない。

 そして、この動きに関してはおそらくは軍縮反対派に属する大艦巨砲主義の大物が裏で糸を引いているのだろう。

 それも、東郷元帥を担ぎ出せるほどの大物だ。

 それが誰なのかは伏見宮大将も分かっている。


 「軍縮反対派の大掃除が必要だな。

海軍戦力の充実や拡大に関しては彼らとの見解の相違は無いが、しかしそれが大艦巨砲主義を温存し航空主兵への転換の邪魔になるということであれば話は別だ」


 伏見宮大将は断を下す。

 今すぐに連中をどうこうすることは出来ないが、それでも手段はある。

 帝国海軍の将来のためにも可及的速やかに行動に移るべきだった。

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