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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
ミッドウェー海戦

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第59話 ミッドウェー

 昭和一八年一二月

 海軍御用達の某料亭


 長期遠征に臨む山本第一機動艦隊司令長官の壮行会という建前で堀海軍大臣と塩沢軍令部総長、それに吉田連合艦隊司令長官の海兵三二期同期の四人は防諜の行き届いた海軍御用達の某料亭で一堂に会していた。


 「年末だというのにもかかわらず、これからミッドウエーに赴く働き者の貴様には頭が下がる思いだ。だが、此度の戦は米国との講和が成るかどうかの、つまりは皇国の興廃をかけた戦いでもある。本土に残る我々も最善を尽くすが、それでも帝国の未来は貴様の双肩にかかっている。そこはくれぐれも忘れんでくれ」


 堀大臣の言葉に、あまりプレッシャーをかけてくれるなと山本長官が苦笑を返す。

 軍政を司る海軍省のトップとして、そして非戦派の長として次官の井上中将とともに継戦派との暗闘に明け暮れる日々。

 並みの人間であれば、とっくの昔に精も魂も尽き果てているはずの激務だが、しかし堀大臣は涼しい顔をしてこの任にあたっている。

 そんな堀大臣に対して山本長官がしてやれることは、次の作戦で太平洋艦隊を撃滅して彼が動きやすい環境を整えてやるくらいのものだ。

 海軍大臣の重責に比べれば、一機艦の司令長官などそれこそ気楽なものだと山本長官は本気で思っている。


 「それよりも、米軍は本当に餌に食いついてくるのか、正直言ってそちらのほうが心配だが」


 次期作戦において、その主戦場となるのはミッドウェー島周辺海域だ。

 二度にわたるオアフ島攻撃によって太平洋艦隊はサンディエゴ基地を新たな拠点に定め、現在は主力艦隊をそこに配置している。

 一方、オアフ島の出城とも言うべきミッドウェー島はオアフ島に比べてその規模が小さいことから比較的早期に復旧し、以前にも増して航空戦力を充実させていることが分かっている。


 「連山の開発成功については、すでにドイツとイタリアには伝えてある。そして、このことはドイツはともかくイタリアからは間違いなく米国に漏れ伝わるはずだ。米軍はこの存在を看過することは出来ない」


 連山は帝国海軍で初めてとなる、最初から渡洋爆撃を意識してつくられた四発重爆だ。

 その航続距離は六〇〇〇キロを大きく超え、もし仮にミッドウェー島の航空基地に連山を進出させれば余裕でオアフ島を往復することが出来る。

 もちろん、このような機体は完成などしていないし、そもそもとして現在の日本の技術力でそうおいそれと造れるような代物ではない。

 しかし、開発最終段階にある米軍のB29も爆弾搭載量を妥協すれば六〇〇〇キロ以上の航続性能を持つと言われているから連山の諸元は決して荒唐無稽なものではないし、実際に日本からの情報を真に受けたドイツとイタリアからは祝電が送られてきている。


 その連山はルーズベルト大統領にとっては脅威以外の何物でもないだろう。

 一度や二度ならず、三度までもオアフ島を、しかも連山の爆撃によってやられてしまうようなことがあれば、それこそルーズベルト大統領はその政治生命が決定的な危機にさらされる。

 すでに合衆国全体には厭戦気分がはびこり、ソ連がドイツ軍の猛攻によって国家的継戦能力を喪失して以降は特にそれが顕著だ。

 さらに、西海岸に至っては住民のみならず与党民主党の議員からでさえ戦争反対の声が日々大きくなっている。


 「こと、ここにおよんでは、人気回復の特効薬は大きな戦果しかない。ルーズベルトもそれが分かっているからミッドウェー島で大勝負をかけてくる。

 それに、ルーズベルトは賭けに必要なチップをその懐の中に十分に積み上げている。太平洋艦隊は最低でも大小合わせて一五隻、多ければ二〇隻近い空母をもって一機艦の前に立ちはだかるはずだ」


 山本長官は堀大臣の説明に対し、小さな首肯をもって同感の意を示す。

 米海軍はウェーク島沖海戦の直後から空母の建造促進に拍車をかけた。

 それは量よりもスピードに主眼を置いたものだった。

 なにせ、ウェーク島沖海戦で七隻しか無い正規空母のうちのその六隻をいきなり失ったのだ。

 そのことで「エセックス」級空母の建造は加速され、起工から竣工まで早いもので一年半、遅いものでさえ二年とかかっていない。

 帝国海軍が昭和一五年の春に建造を開始したマル四計画における「大和」型空母は、そのいずれの造船所もマル三計画で同型艦を建造していたこと、それにすでに戦争に突入していたこともあって異例のペースで建造が進められた。

 しかし、それでも完成までに三年もかかっている。

 一方、装甲飛行甲板を持たないとはいえ、それでも堂々たる大型正規空母の「エセックス」級を一年半で造り上げるのだから、米国の建艦能力は恐れを通り越して呆れるしかなかった。

 それでも、山本長官は負けるとは思っていない。


 「大和」型空母の五番艦と六番艦、それに七番艦と八番艦がすでに慣熟訓練を終えて戦列に加わっている。

 それに、待望だった零戦の後継となる一五試艦上戦闘機もまた烈風という二つ名を携えて参陣している。

 そして、一式艦攻の後を襲って主力艦攻の座についた流星は、ドイツの技術をベースに日本人技術者が改良を加えた新兵器とともにその出番を待っている。

 そうなれば、後は情報だ。

 航空戦において、機動部隊同士の戦いにおいて何より重要なのは正確な情報だ。

 そして、そのカギを握る男、軍令部総長の塩沢大将に山本長官はその視線を向けた。

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