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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
インド洋作戦

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第41話 後悔

 「第一艦隊から発進した攻撃隊は二隻の『イラストリアス』級空母を撃沈、さらに巡洋艦二隻と駆逐艦六隻を撃破。その後、接触機より撃破したうちの駆逐艦一隻が沈没したとの報告が入ってきております。

 第二艦隊のほうは『ハーミーズ』と思しき空母とさらに『クイーン・エリザベス』級戦艦を撃沈、それにそれぞれ四隻ずつの巡洋艦と駆逐艦を撃破しています。

 現時点において東洋艦隊で無傷を保っているのは『リベンジ』級戦艦が四隻に駆逐艦が同じく四隻の合わせて八隻のみとなっております」


 山本長官が小さく首肯したのを確認した航空参謀はさらに報告を続ける。


 「一方、こちらの損害ですが、東洋艦隊攻撃に参加した零戦に被害はありません。敵戦闘機による迎撃が無かったことで空中戦が生じず、このことで全機が無事に帰還しております。一式艦攻のほうは未帰還が一九機、さらに少なくない機体が被弾損傷しています。

 英艦上機を迎え撃った直掩隊の零戦ですが、こちらは二機を失いました」


 三一二機からなる友軍攻撃隊が東洋艦隊を空爆していたのとほぼ同時刻、第一艦隊と第二艦隊もまた四〇機近い戦闘機とさらにほぼ同数の雷撃機による英艦上機隊の攻撃を受けていた。

 おそらく東洋艦隊は持てるすべての艦上機を攻撃に全振りしたのだろう。

 しかし、八隻の空母には当時それぞれ二個中隊、合わせて一九二機の零戦が直掩隊として残されており、それら機体は英艦上機隊をそれこそ鎧袖一触で撃滅してしまった。

 ただ、パーフェクトゲームとはいかず、二機の零戦と同じく二人の熟練搭乗員を失うことになってしまった。


 「敵戦力の過半を撃滅したとはいえ、単純な水上打撃戦力でいえば東洋艦隊のそれはいまだ我々を遥かに上回る。これらを完全に排除しない限りインド洋の制海権の奪取は絵に描いた餅のままだ。

 当然、攻撃は継続するが、二点確認したい。現時点で攻撃に投入出来る一式艦攻はどれくらい残っているかということ。それと、もうひとつは東洋艦隊の現状についてだ」


 戦闘開始前、第一艦隊と第二艦隊にはそれぞれ常用機として一五六機の零戦と一一四機の一式艦攻が配備されていた。

 二二八機の一式艦攻のうち、三六機は索敵や接触維持任務にあたり、残る一九二機はそのすべてが第一次攻撃に投入され空母三隻を撃沈するなど大戦果を挙げた。


 「攻撃から戻ってきた一七三機の一式艦攻のうち即時出撃可能な機体は七六機、それと索敵の任を外れた機体のうちで被弾損傷したりあるいは発動機不調に陥った機体を除く二五機がこちらもまたすぐに使えます。

 それから東洋艦隊についてですが、機動部隊ならびに水上打撃部隊ともに現海域からは動いておりません。おそらくは溺者救助にあたっているものと思われます。さらに先程申し上げました通り、東洋艦隊はそのほとんどの艦が損傷を受けていることでその活動は困難を極めているはずです」


 即答する航空参謀に、今度は満足の意を示す大きな首肯をしつつ、山本長官は脳内で算盤を弾く。

 東洋艦隊には四隻の戦艦と同じく四隻の駆逐艦がいまだ無傷で残っている。

 さらに六隻の巡洋艦と九隻の駆逐艦が二五番を食らい、そのいずれもが深手を負っている。

 おそらく対空能力は大きく低下、機動性もまた同様のはずだ。

 一方、こちらもまた搭乗員の疲労が心配されるが、距離を詰めて攻撃隊を発進させれば多少はその負担も軽減することが出来るだろう。


 「一式艦攻は使える機体はすべて出す。装備は全機雷装だ。空母二隻ごとに一隻の生き残りの戦艦を狙わせろ。

 零戦のほうは直掩隊は一個小隊だけを残し、使える機体は二五番を装備させたうえですべて攻撃隊に組み込む。それと、出番の無かった攻撃隊の護衛にあたった零戦もすべて出撃させる。これら零戦のうち、特に爆撃技量に優れた者は無傷の駆逐艦を叩いてもらう。残りの者たちについては手負いの巡洋艦や駆逐艦を攻撃、これらにとどめを刺す。

 それと、攻撃隊が発進した後は損傷の軽微な機体の修理ならびに予備機の組み立てを行わせろ。被害の大きな機体は放置で構わん。整備員や兵器員には苦労をかけることになるが、ここが正念場だ。東洋艦隊を完全に撃滅するまでは手を緩めるわけにはいかん」


 攻撃に使える一式艦攻は一〇一機で、残る英戦艦は四隻。

 つまり、戦艦一隻あたり二五機ほどの一式艦攻が攻撃を仕掛けることが出来る。

 これだけの数があれば、腕利き揃いの第一艦隊と第二艦隊の艦攻乗りであれば、十分に英戦艦を葬ることが出来るはずだ。

 零戦もおそらく二五〇機程度は攻撃に投入出来るはずだから、無傷の四隻の駆逐艦と被弾して脚の衰えた一五隻の巡洋艦ならびに駆逐艦を撃滅するには十分な数だろう。

 二五番であればそれなりの防御力を持つ重巡洋艦の装甲すらも貫徹出来るし、船殻の薄い駆逐艦であれば至近弾ですら時に致命傷を与えることもある。


 「あるいは、零戦の数を減らして一式艦攻をもっと用意しておくべきだったか」


 ふと脳裏に浮かんだ後悔のような念を、しかし即座に山本長官は振り払う。

 零戦が多すぎたことも、一式艦攻に不足を感じることもそれはすべて結果論だ。

 まさか、ここまで英空母の艦上機隊が弱体だったなど、誰も予想していない。


 「嬉しい誤算で悔やんでしまうなど、戦場においてはそれこそ贅沢というものだ」


 苦笑が表情に出ないように気をつけつつ、山本長官は次々に命令を出していく。

 最高指揮官として彼には成すべきことが山積していた。

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