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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
インド洋作戦

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第35話 ロクな国じゃねえ

 「インド洋に帝国海軍の艦隊を送り込み、それらによって同地の英艦隊を撃滅するようドイツから要請がくることは俺も予想していた。だが、こんな早くにそれがくるとは思わなかった。欧州の戦況はそれほどまでに逼迫しているのか?

 ドイツは東部戦線でソ連に、西部戦線では英国を相手に戦っているが、現在のところは両戦線ともに膠着状態といったところで、特にドイツが不利だという話は聞いておらんのだが」


 ドイツから帝国海軍に対してインド洋に艦隊を推し進めるよう要請があったという堀大臣の言に、山本長官が少しばかり性急過ぎるのではないかと疑問を呈す。


 「貴様が言うように、ドイツは今のところ東部戦線ではソ連に、西部戦線では英国を相手に互角に戦っている。だが考えてもみてくれ。東部戦線では常時大兵力を展開させ、砲弾や戦車を大量消費している。西部戦線にしても同様に、毎日のように多数の航空機が失われていく。確かに、ドイツは日本の数倍の国力を持つ大国だが、それでも米国のようにはいかない。

 それと、大勢の将兵の動員と大量の兵器の投入はそれこそ金を湯水のごとく消費する。つまり、彼らの国庫はすでに危険なまでに払底しているのだ。もちろん占領した国から徴税を強化するなどして収入を確保しようとはしているが、だがしかしとてもそのようなものでは追いつかん。だからこそ、連中は早い段階でいかなる手段を使ってでも英国を打倒したいのだ」


 ドイツは金が無いという堀大臣の言葉に意外な感を覚えつつ、山本長官は質問を重ねる。


 「つまり、ドイツは二正面作戦を続けられるほどの経済力の裏付けが無いから、先に英国を始末してその負担を軽くしたいということか。そして、そのために帝国海軍を利用しようとしていると」


 「貴様の考えは間違ってはいない。確かに二正面同時作戦の解消はドイツにとっては悲願だろう。しかし、それがすべてではない。ドイツは英国が持つ資産を狙っている。同国が数世紀にわたって世界中から収奪したその富はあまりにも巨大だ。そして、それがあればドイツの戦費不足は一挙に解消される」


 堀大臣の説明に、ワルの上にはさらにワルがいるものだと山本長官は呆れかえる。

 戦争が始まる前、堀大臣や塩沢総長はインド洋作戦に際し、同海域にある英商船の無差別拿捕を企図していた。それは戦時略奪や海賊だといった非難あるいは誹りを免れない悪辣な行為だ。

 だがしかし、ドイツのやろうとしていることは控えめに見積もっても国家レベルの強盗だ。

 相手を武力によって屈服させ、その資産を奪い取る。

 おそらく、ドイツは日本に対して艦隊のインド洋派遣を要請する見返りとして何らかの飴を用意しているはずだ。

 そして、それは帝国海軍にとっても悪い話ではないのだろう。

 だからこそ、堀大臣はドイツからの要請を前向きに検討している。


 「実戦部隊の第一機動艦隊を預かる立場としていくつか聞いておきたい。インド洋作戦を開始するにあたって南方作戦の進捗度合いとそれに太平洋艦隊の動きだ。いくら一機艦が精強でも、さすがにフィリピンやシンガポールが陥落しないうちにインド洋に出張るのは現実的ではない。それと一機艦が不在の間、太平洋艦隊への備えはどうする」


 山本長官の質問に対し、それまで黙って三人の話を聞いていた吉田連合艦隊司令長官が、その件については俺の方から説明しようと口を開く。


 「南方作戦については間もなく決着がつくはずだ。当初、フィリピンもシンガポールも完全占領はどんなに早くても四月以降になると見込まれていた。しかし、南方攻略部隊の奮闘によって同作戦は想定をはるかに超えるペースで進捗した。

 なにより大きかったのは四隻の『金剛』型空母の存在だ。海での戦いにせよ陸における戦いにせよ制空権を握った側が俄然有利になるのは今となっては常識だが、四隻の空母は南方戦域の随所でその状況をつくり出してくれた すでに、陸軍からは数え切れないほどに感状をもらっている。

 それと、だ。太平洋艦隊については合衆国海軍にある一〇隻の旧式戦艦のうちのそのほとんどがどうやら太平洋に回航されてくるようだ。

 だが、真珠湾が使えない現在、これらは西海岸を本拠地にするしかない。

 そして、おそらくそれら戦艦は西海岸の防衛にあたるはずだ。

 一方、がら空きとなる大西洋については間もなく就役を開始する『サウスダコタ』級をあてるつもりなのだろう。

 で、それら太平洋艦隊に対する備えだが、まず基地航空隊の戦力を充実させる。

 哨戒に力を入れ、予想される敵の快速艦艇による通り魔的な艦砲射撃を未然に防ぐよう努めねばならん。

 特にウェーク島やマーシャル諸島といった最前線の孤島はこれを重点的に行う。

 それと、大型水上打撃艦艇については『長門』と『陸奥』、それにそれぞれ四隻の『高雄』型ならびに『妙高』型重巡があるが、このうち『長門』『陸奥』と『妙高』型で水上打撃部隊を編成、特別任務にあたってもらうことにしている。

 なので、残る『高雄』型の四隻が太平洋を守る水上打撃戦力となるが、米海軍の置かれた状況を考えれば当面の間はこれらだけで十分だろう。

 このため、一機艦には『古鷹』型と『青葉』型の合わせて四隻の重巡とそれに三二隻の駆逐艦しか配備してやれんのだが、そこは了解してもらいたい。

 なにせ、帝国海軍が保有する大型水上打撃艦艇は戦艦が二隻に重巡が一二隻の合わせて一四隻にしか過ぎないのだ。

 とてもではないが、機動部隊に多数を配備できるほどの余裕は無い」


 帝国海軍はどの海軍列強よりも早い段階で大艦巨砲から航空主兵へと舵を切った。

 だが、貧乏国ゆえに空母の数を揃えるのであれば他の軍備を削る必要があった。

 帝国海軍はそれを大型水上打撃艦艇に求めた。

 そのことで、帝国海軍は他の海軍列強に比べて極端に大型水上打撃艦艇の保有数が少ない。

 しかし、そのことは誰よりも山本長官が納得済みのことだった。

 彼は航空主兵主義者であると同時に戦艦不要論者、もっと言えば大型水上打撃艦艇不要主義者だったからだ。


 「それは構わん。空母とそれをエスコートする駆逐艦があれば俺はそれで十分だ。それよりも今回もまたこれまでと同様に空母は一二杯くれるのか? 東洋艦隊相手にはいささか過剰な戦力だとは思うが、しかし多いに越したことはないからな」


 空母の護衛艦艇について山本長官が納得してくれることは吉田長官もとっくに織り込み済みだったのだろう。

 小さく首肯しつつ、一枚の紙片を山本長官に手渡す。

 そこにはインド洋作戦に参加する艦艇の一覧が記されていた。

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