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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
インド洋作戦

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34/69

第34話 海軍大臣の謀略

 昭和一七年二月

 海軍御用達の某料亭


 年明けに行われたオアフ島強襲作戦、そこで陣頭指揮にあたった山本第一機動艦隊司令長官をねぎらうという建前で堀海軍大臣と塩沢軍令部総長、それに吉田連合艦隊司令長官の海兵三二期同期の四人は防諜の行き届いた海軍御用達の某料亭で一堂に会していた。


 「太平洋艦隊の拠点であるハワイへの遠征、誠にご苦労だった。一機艦の働きでオアフ島の航空戦力は壊滅、さらに真珠湾を文字通り火の海に沈めたうえに『ワシントン』と『ノースカロライナ』の新型戦艦を撃沈するというおまけまでついた。中でも真珠湾の軍港施設を焼き払ったことで米軍の、特に兵站に与えた打撃ははかり知れないものがある。まさに一〇〇点満点。いや、それどころか一二〇点でも足りないくらいだ」


 珍しく自分をほめそやす塩沢総長の言葉に照れ隠しの苦笑を返しつつ山本長官は俗にハワイ作戦と呼ばれているオアフ島強襲作戦のことを思い返している。

 戦闘の序盤は二度にわたる零戦隊による戦闘機掃討と、さらに同じく零戦によるオアフ島飛行場への爆撃によって同地の米航空戦力の覆滅に成功した。

 零戦の性能とそれを駆る搭乗員の技量は圧倒的で、米戦闘機相手のキルレシオは搭乗員たちの報告を鵜呑みにすれば二〇対一、さらに分析担当者らも最低でも一〇対一は間違いないと太鼓判を押している。


 米航空戦力の脅威を排除した後は戦艦「長門」ならびに「陸奥」を基幹とする水上打撃部隊をオアフ島に接近させ、同島を守る米水上打撃部隊のつり出しに成功する。

 そこへ檜貝少佐に仕込まれた一四四機にも及ぶ一式艦攻が夜間雷撃を敢行、同部隊に大打撃を与えた。

 その過程で「ワシントン」と「ノースカロライナ」の二隻の新型戦艦の撃沈に成功するとともに少なくない巡洋艦や駆逐艦もまた撃沈破している。

 さらに、翌日には軍事施設ならびに発電所や浄水場といったオアフ島のインフラを徹底空爆、同時に砲台群もまたこれを殲滅した。

 そして、オアフ島の反撃能力を完全に奪ったと判断した山本長官は水上打撃部隊を同島に差し向ける。

 水上打撃部隊はオアフ島に対して艦砲射撃を敢行、「長門」と「陸奥」それに四隻の「妙高」型重巡は合わせて三〇〇〇発を超える四一センチ砲弾や二〇センチ砲弾を撃ち込み、真珠湾に降り注いだそれらは重油火災を惹起させた。

 そのことで真珠湾に炎上した重油が流れ込み、港湾施設もまた燃え上がった。

 また、帰り際にはオアフ島周辺に機雷をばら撒き、さらに帰りがけの駄賃とばかりに復興途上のミッドウェー島にダメ押しの打撃も与えている。


 「太平洋艦隊の全滅に続き、今度はオアフ島が壊滅した。そのことでルーズベルト大統領は極めて困難な立場に立たされている。彼の支持率は今や危険水域に突入したと言ってもいい」


 堀大臣がその表情に少しばかり意地悪な色を浮かべて塩沢総長の後を受ける。

 山本長官も詳しいことは後で知らされたのだが、日本政府はオアフ島強襲作戦が終わった後で世界に向けて談話を発表していた。


 「日本政府はオアフ島で戦い、そして傷つき倒れていった米将兵たちに心より哀悼の意を表す。

 オアフ島を巡る戦いは激しいものではあったが、しかし、もし仮にルーズベルト大統領が欧州第一ではなく自国第一の考えを持ち、欧州向けの兵力をオアフ島に送り込んでいたら、あるいは我々は敗北していたかもしれない。それほどまでにオアフ島を守る将兵は精強だった。

 今回の戦いで我々は勝利したが、その最大の要因はあるいは同盟国に良い顔をしたいだけのルーズベルト大統領の誤った方針であったのかもしれない。彼は欧州、もっと言えば対独戦に合衆国の戦争資源のその八割以上を投入していたのだから。

 日本政府はルーズベルト大統領の誤った戦争指導のために寡兵での戦いを余儀なくされ、それでも愛する者のために戦い抜き、そして倒れていった将兵の遺族らに対し、合衆国政府が将来にわたって手厚い補償と保護を行うよう切に望むものである」


 山本長官はこの談話、紙爆弾を仕掛けたのが堀大臣だということを看破している。

 勇ましい言葉で国民を鼓舞するしか能の無い帝国陸軍にこのような真似が出来るはずが無い。

 だから、この真意について直截に尋ねる。


 「真意もなにも、近い将来に講和をしなければならない相手なのだから、その国民の日本に対する心象は良いに越したことはないだろう。

 だから、米国民に対して恨むなら日本ではなく太平洋よりも大西洋を優先、つまりは兵力配分を間違えたルーズベルトを恨んでくれと訴えただけだ。実際、我々の談話をネタに野党共和党がルーズベルトを吊るしにかかっている。

 まあ、今のところはこちらの狙い通りの動きになっているということだ。

 だが、もし仮に真珠湾奇襲なんて真似をしていたら、米国民の憤激を買って結果は真逆になっていただろうがな」


 かつて、山本長官が熱烈に推していた真珠湾奇襲構想に対する嫌味を交えつつ、堀大臣は話を進める。


 「それと、塩沢と吉田にはすでに話したが、ドイツから正式に帝国海軍の戦力をインド洋に派遣し、同海域を根城にする東洋艦隊を撃滅してくれとの依頼がきた。こちらもまた予想通りの動きだ」

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