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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
ウェーク島沖海戦
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第26話 航空隊猛攻

 「目標を改めて指示する。戦闘機隊は敵駆逐艦を狙え。その際、目標が重複しないよう注意せよ。

 艦攻隊のほうは甲部隊は巡洋艦、乙部隊は戦艦のうち一番艦から四番艦まで、五番艦は『甲斐』隊が攻撃せよ。『大和』隊と『武蔵』隊、それに『信濃』隊については追って指示を出す。それまでは敵の対空砲火の射程圏外で待機だ。

 攻撃はまず艦戦隊、次に艦攻隊とする」


 昨日に続いて攻撃隊を指揮する三宮中佐の声が受信機から流れる中、「伊吹」艦攻隊長の真屋大尉は自身が当たりくじを引いたことに胸中で快哉を叫ぶ。

 一四機からなる「伊吹」艦攻隊が指示された目標は敵戦艦三番艦。

 帝国海軍に二隻しかない現役戦艦である「長門」「陸奥」とともにビッグセブンに名を連ねた至高の存在あるいは天敵とも呼べる相手。

 四〇センチ砲を八門搭載する「コロラド」級戦艦だ。


 戦前、「伊吹」艦攻隊は三六機の一式艦攻を擁していた。

 しかし、昨日の戦いで四機を失い、さらに被弾損傷機が続出したこともあって、昨日の攻撃終了時点でその稼働機は一〇機を割り込んでいた。

 それでも、整備員らの夜を徹しての修理によって今では一四機にまでその戦力を回復させている。

 増勢してなお定数の四割にすら満たないが、しかし真屋大尉にはいささかの懸念も無い。

 米戦艦は攻撃力と防御力が優れている半面、機動力はたいしたことはない。

 自分たちは三〇ノットを超える「伊吹」を相手に猛特訓を重ねてきたのだ。

 二〇ノットそこそこしか出せない「コロラド」級であれば、静止目標とまでは言わないものの、それでも魚雷を命中させることに困難を覚える相手ではない。


 眼下に水上打撃部隊が映り込むのと当時に零戦が襲撃機動に遷移する。

 戦前には三八四機あったはずの零戦も激しい戦いの結果、未帰還となるものや被弾損傷する機体が相次ぎ、一晩の修理を終えてなお使える機体は二〇〇機を割り込んでいる。

 その零戦隊はもっぱら駆逐艦に的を絞って攻撃する。

 水上打撃部隊の無傷の駆逐艦であれ満身創痍の機動部隊の駆逐艦であれ、零戦は一切の選り好みをせず目についた駆逐艦に緩降下爆撃を仕掛ける。

 的が小さいせいか、命中したのは一割あまりの二〇発にしか過ぎなかった。

 急降下爆撃に比べればあまりにその命中率は低い。

 だがしかし、重巡が放つ二〇センチ砲弾の二倍の重量を持つ二五番を、装甲が皆無の駆逐艦が一発でも食らえばそのダメージは深刻だ。

 実際、被弾した駆逐艦は一隻の例外もなくその行き脚を奪われる。

 さらに、直撃弾とほぼ同じ数の二五番が至近弾となって水線下に少なからぬダメージを与えていた。


 すべての零戦が爆撃を終えると同時に一式艦攻がこちらもまた襲撃機動に移行する。

 真屋大尉も敵三番艦に向けて四機の部下とともに突撃をかける。

 その後方には第二中隊長率いる五機が、わずかに遅れて第三中隊長が率いる四機の一式艦攻が同じように敵三番艦に迫っている。

 雷撃の理想と言えば逃げ場の無い挟撃なのだが、しかし真屋大尉が選択したのは片舷攻撃だった。

 片舷攻撃は挟撃よりも回避が容易な半面で対空火器が半分しか使えない。

 だから真屋大尉は「伊吹」隊が一四機しかないことを考えあわせこの戦法を選択したのだ。

 それに、挟撃せずとも敵戦艦の脚の遅さを考えれば十分に成算は見込める。


 目標とした「コロラド」級戦艦が回頭の気配を見せる。

 こちらに艦首を向けることで被雷面積を最小にしようというのだろう。

 だが、そのことを読んでいた真屋大尉は機首を少しばかり右に回し、さらにわずかな時間を置いて今度は左へと捻る。

 「コロラド」級からはそれこそシャワーのような機関砲弾や機銃弾が吹き飛んでくるが、回頭中とあっては正確な射撃など望めようはずもなく、その火箭が一式艦攻を捉えることはない。


 「撃てェ!」


 射点に到達した真屋大尉が魚雷を投下すると同時に四機の部下もそれに続く。

 さらに、第二中隊長が率いる五機と同じく第三中隊長の四機もまた魚雷を放つ。

 白い航跡が敵戦艦に向かって一直線に伸びていく。


 「一本、さらに一本、二本、また一本!」


 戦果確認をしていた部下の報告を信じるのであれば、どうやら「伊吹」艦攻隊は「コロラド」級戦艦に四本の命中魚雷を与えたようだった。

 三割に満たない命中率ははっきり言って不満だが、それでも新型戦艦ならともかく旧式戦艦が片舷に四本の魚雷を集中して被雷すればまず助からない。

 実際、「伊吹」艦攻隊に狙われた「コロラド」級戦艦は行き脚を止め、左に大きく傾斜している。

 あれでは長くはもたないだろう。

 真屋大尉は「コロラド」級戦艦撃沈の報を打電するよう部下に命じるとともに全周を見回す。

 戦場では何が起こるか分からない。

 一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。


 一方、全体を指揮する三宮中佐は味方の鮮やかな手際に舌を巻いていた。

 「大和」と「武蔵」、それに「信濃」を除く艦攻隊はそれぞれ母艦ごとに五隻の戦艦ならびに四隻の「ブルックリン」級軽巡を狙った。

 そして、そのいずれもが相手に致命的ダメージを与え、半数近くがすでに海中に没している。


 「『大和』隊ならびに『信濃』隊は敵駆逐艦にとどめを刺せ。『武蔵』隊は別命あるまで攻撃を待て」


 お預けを食らい、いまだに魚雷を抱えている「大和」隊と「信濃」隊が散開し、洋上を這うように進むだけとなった米駆逐艦に突撃をかける。

 手負いの米駆逐艦からみれば、「大和」隊と「信濃」隊の合わせて四〇機近い一式艦攻は死神にも等しく思えたことだろう。


 「頼むから俺の部下の分も残しておいてくれよ」


 三宮中佐は胸中で「大和」隊と「信濃」隊に呼びかける。

 最後までお預けを食らわせてしまった直属の部下にはとても気の毒なことをしていると自覚しつつ、それでも三宮中佐は自軍の母艦航空隊の技量にかつてない手ごたえを感じていた。

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