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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
ウェーク島沖海戦

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第23話 一式艦攻

 第一機動艦隊の一二隻の空母から発進した四三二機の一式艦攻のうち、F4Fワイルドキャット戦闘機の手にかかって撃ち墜とされた機体は皆無だった。

 護衛任務にあたっていた一四四機の零戦は敵迎撃戦闘機を完封、まさに完璧な仕事を成し遂げてくれたのだ。


 それら四三二機の一式艦攻からほど近い海面に太平洋艦隊の姿があった。

 戦艦五隻を主力とする水上打撃部隊が一つ、さらに二隻の空母を基幹とする機動部隊が三群。


 「索敵機からの報告通りだな。事前に敵の正確な戦力構成が分かることがこれほどありがたいことだとは思わなかった」


 帝国海軍が航空主兵に移行して以降、特に大きく変わったのが情報通信の取り扱いだった。

 分秒を争う洋上航空戦において、迅速な情報収集と正確な敵情分析は勝利への必要条件だ。

 これを実践するために一機艦は実に三二機もの一式艦攻を索敵に投入し、そのことで自分は多大なる恩恵を受けている。

 胸中で索敵機の搭乗員への感謝と海軍上層部への尊敬の念を抱きつつ、第一次攻撃隊指揮官兼「武蔵」飛行隊長兼「武蔵」攻撃隊第一中隊長の三宮中佐は明朗な声で攻撃目標を指示する。


 「甲部隊は左翼、乙部隊は中央、丙部隊は右翼の機動部隊を攻撃せよ。攻撃法ならびに目標選定は各部隊指揮官にこれを委ねるが、目標が重複しないよう留意せよ」


 一呼吸置き、三宮中佐は指示を重ねる。


 「丙部隊の目標ならびに攻撃法を伝える。爆装の第三中隊は輪形陣を形成する巡洋艦ならびに駆逐艦を小隊ごとに攻撃、その後に雷撃隊が突入する。

『信濃』雷撃隊は前方の空母、『甲斐』雷撃隊は後方の空母、『大和』雷撃隊ならびに『武蔵』第二中隊は敵の巡洋艦を狙え。『武蔵』第一中隊については追って指示する。全機突撃せよ!」


 三宮中佐の命令一下、四個中隊四八機の爆装一式艦攻が編隊を解き攻撃態勢に移行する。

 さらに小隊ごとに分かれた同機体は輪形陣を形成する巡洋艦や駆逐艦に対して緩い角度で降下、投弾ポイントへと急ぐ。

 それらに対する米艦の反撃の砲火は熾烈だ。

 高角砲や機関砲、それに機銃の火弾や火箭が一式艦攻の周辺に群がり、運の悪い機体は至近弾や直撃弾を食らってウェーク島沖の海面へと叩き墜とされていく。

 それでも激しい対空砲火の割には墜とされる機体はそれほど多くない。

 九七艦攻に比べて遥かに充実した防弾装備のおかげでかろうじてではあるが致命傷を免れているのだ。

 もし、これが防御力に難のある旧式の九七艦攻であったならば撃墜される機体はあるいは数倍に達していたかもしれない。


 爆装一式艦攻はそのいずれもが腹に四発の二五番を抱えていた。

 従来の急降下爆撃機は二五番を一発積むのがせいぜいだったから、実に四倍の投弾量だ。

 その一式艦攻が行う緩降下爆撃は急降下爆撃ほどの精度は期待できないものの、それでも四分の一の命中率でも同数の命中弾が期待できる。

 しかし、実際のところ急降下爆撃と緩降下爆撃は命中率に四倍もの差があるわけでもなく、そのうえ緩降下爆撃はダイブブレーキを使って減速しながら投弾する急降下爆撃よりも弾速が速いからその分だけ威力もまた大きい。


 二〇〇発近い二五番の洗礼を浴びた三隻の巡洋艦と八隻の駆逐艦は一隻の例外もなく全艦が被弾、自慢の脚を奪われ対空火力も大きく減殺される。

 崩壊した輪形陣に「信濃」隊と「甲斐」隊の雷装一式艦攻が侵入、二隻の空母に向けて包囲網を形成する。

 他方、「大和」隊と「武蔵」第二中隊は二五番によって大打撃を受けた三隻の巡洋艦に迫る。

 二隻の空母にはそれぞれ二四機、三隻の巡洋艦のほうはそれぞれ一二機の一式艦攻に狙われる計算だ。

 このうち、挟撃を食らった二隻の空母は六乃至七本を被雷する。

 命中率を考えれば少しばかりもの足りない成績だが、それでも撃沈は間違いのないところだった。

 一方、三隻の巡洋艦は片舷からの攻撃だったことで二乃至三本の被雷で済んだものの、それでもすでに少なくない二五番を食らい、さらに初期型の二倍以上の炸薬量を誇る一〇〇〇キロ魚雷を片舷に複数撃ち込まれては助かる道理もなかった。


 空母ならびに巡洋艦に致命傷を与えたと判断した三宮中佐は直率する「武蔵」第一中隊に指示を出す。


 「『武蔵』第一中隊は小隊ごとに速力を著しく衰えさせた駆逐艦を狙え。敵は爆撃隊によって大きく対空火力を毀損しているが、それでもわずかばかりの反撃力を残しているはずだ。決して油断はするな」


 そう命じて三宮中佐は「武蔵」第一中隊第一小隊を率いて一番近くにある駆逐艦にその機首を向ける。

 初陣の相手が駆逐艦というのはいささか不本意ではあるものの、それでもそれが贅沢な不満であることも承知している。

 狙った駆逐艦は二五番によって機関かあるいは船体にダメージを受けたのか、その航行速度は遅く、さらに反撃の砲火もほとんど無い。

 悠々と理想の射点に到達した三宮中佐とその列機は必殺の九一式航空魚雷を投下する。

 少なくない煙を噴き上げている駆逐艦の機首をすり抜けたしばらく後、後席の部下から魚雷二本命中との報告が挙がる。


 敵の対空砲火の射程圏を抜けた三宮中佐は高度を上げ戦場全体を俯瞰する。

 二隻の空母のうち、一隻はすでに海面下に没し、残る一隻もすでにその船体の大部分を海中に沈めつつある。

 三隻の巡洋艦はそのいずれもが回復不能なまでに傾斜し、そのうちの一隻は無残な横腹を海面にさらしている。

 駆逐艦も半数がすでに沈没かあるいは転覆、残る四隻もまた無傷なものは一隻も無かった。

 丙部隊が挙げた戦果を確認する三宮中佐の耳に他の部隊からも報告が上げられてくる。


 「甲部隊、空母二隻ならびに巡洋艦三隻を撃沈。さらに駆逐艦を五隻撃沈三隻撃破」

 「乙部隊、空母二隻ならびに巡洋艦三隻を撃沈。さらに駆逐艦を四隻撃沈四隻撃破」


 他の二つの部隊もまた丙部隊と同等かあるいはそれを上回る戦果を挙げた。

 初陣としては出来過ぎともいえる結果に満足しつつ三宮中佐は機首を一機艦の方へと向けた。

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