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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
ウェーク島沖海戦
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第21話 機動部隊

 「敵に先んじることは出来なかったものの、かといって敵に後れを取ることもなくその存在を探知出来たのは、まずまずの成果だと考えるべきなのだろうな」


 丙部隊の「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「甲斐」の四隻の空母から二波に分かれて放たれた、合わせて三二機の一式艦攻はその数の多さによって広範で濃密な索敵網を形成、あっさりと太平洋艦隊の所在ならびにその戦力構成を把握するに至った。

 一式艦攻が発見したのは五隻の戦艦を主力とした水上打撃部隊と、さらにその後方に二隻の空母を基幹とした機動部隊が三群の合わせて四個艦隊。

 このうち、六隻の空母については「ホーネット」が大西洋にあることが分かっているから、発見されたのはそれぞれ二隻ずつの「レキシントン」級と「ヨークタウン」級、それに「ワスプ」ならびに「レンジャー」で間違いのないところだろう。


 「索敵機を大量に投入したことが奏功したのでしょう。攻撃力が低下するからと言って一式艦攻を出し惜しみしていれば、あるいは太平洋艦隊を発見出来なかったかもしれません。もしそうなっていたとしたら、敵は我を知り我は敵を知らずという最悪の状況が現出していたはずです」


 敵艦隊を発見したことで少しばかり肩の荷が降りたのだろう、第一機動艦隊司令長官の山本大将の独り言のような問いかけに、参謀長の志摩少将がこちらも表情に少しばかり安堵の色を滲ませつつ、だがしかし索敵の重要性つまりは情報の重要性を強調する。

 志摩参謀長は通信術の権威であり、敵情分析にもまた優れた能力を発揮する。

 当然のことながら、志摩参謀長は分析のための情報収集もまた決して軽んじることはなく、索敵に対する一式艦攻の大量投入はその彼の意を強く表したものだ。


 「機動部隊にとってなにより大切なのは空母でも艦上機でもなく、優れた情報収集能力とその分析力。つまるところ、参謀長がいつも話している戦場における有機的な情報ネットワークの構築だな。

 戦闘機や攻撃機もまた戦闘端末であると同時に情報端末の一つだと言われたときにはピンとこなかったが、実際に一式艦攻が太平洋艦隊を発見、さらに詳しい戦力構成を報告してきたことで参謀長の言わんとしていることがようやく理解出来た。そして、なによりその情報端末を出し惜しみしてはいかんということもまた併せてな」


 志摩参謀長に感謝の笑みを向けつつ山本長官は命令を下す。

 自分たちが敵を発見したのと同様、こちらもまたすでに敵に発見されているのだ。

 分秒を争う機動部隊同士の戦いにおいて、悠長に会話をしている余裕などあるはずも無い。


 「発見された三群の機動部隊については北から甲一、甲二、甲三と呼称する。また前衛の水上打撃部隊についてはこれを乙一とする。

 攻撃隊はただちに発進、甲部隊は甲一、乙部隊は甲二、丙部隊は甲三を攻撃せよ。

 目標の選定は各隊指揮官に任せるが、爆装の機体は巡洋艦や駆逐艦といった護衛艦艇、雷装の機体はもっぱら空母にその的を絞って攻撃せよ。

 また、護衛の戦闘機隊は敵の迎撃機の撃滅よりも友軍攻撃機の防衛を第一とせよ。

 いくら敵の戦闘機を撃墜しようとも、一式艦攻を墜とされたらその時点で敗北と思え。

 乙一には構うな。搭乗員の中には戦艦を撃沈したくてうずうずしている者も大勢いるだろうが、まずは経空脅威を排除するために先に空母を始末せよ」


 山本長官の命令一下、まずは「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「甲斐」からそれぞれ二機の一式艦攻が飛行甲板を離れ東の空へとその機首を向ける。

 これら機体は接触維持あるいは先行偵察の任を負っている。

 さらに続いて甲部隊と乙部隊、それに丙部隊の一二隻の空母からそれぞれ一個中隊一二機の零戦と三個中隊三六機の一式艦攻が、こちらもまた次々に飛行甲板を蹴って大空へと舞い上がっていく。

 「大和」型空母も「天城」型空母もいずれも立派な正規空母だが、大型の「大和」型空母ならともかく、中型の「天城」型空母のほうはさすがに自力滑走だけでは四八機の同時発艦は不可能だ。

 航空戦力は集中してこそその威力を発揮するから、同時発艦が不可能だからといって攻撃隊を二波に分けることも避けたい。

 そこで考案されたのがカタパルトの装備とその運用だった。

 欧米に対し、工業力や化学力にいささかの後れを抱える日本といえども、それなりの予算と人員を充てれば多少の時間はかかっても形にすることは出来る。

 あるいは帝国海軍が従来の大艦巨砲主義のままで、航空関連予算をけちっていればひょっとしたらカタパルトは日の目を見ることが無かったかもしれない。


 一二隻の空母から飛び立った五七六機の攻撃隊は艦隊上空で後続機を待つことなく東へと進撃を開始する。

 従来であれば、先に発艦した機体は艦隊上空を旋回して後続機と合流、編隊を整えたうえで進撃を開始するのだが、これだと燃料や時間のロスが大きい。

 そこで、先に発艦した機体は速度を落としつつ進撃し、後続の機体は速度を上げて先発した機体との合流を急ぐ。

 これだと、燃料や時間はさほどロスせずに済む。


 ただ、これも優秀な無線機をはじめとした装備と、なにより戦場ネットワークの重要性を知る志摩参謀長をはじめとした通信あるいは情報畑の将兵らの創意と工夫、それに努力と献身による賜物だ。

 飛行機や空母の性能、それに戦技にばかり目がいってしまいがちな飛行機屋では残念ながら機動部隊のシステム化という絶必の作業は成し得なかっただろう。

 だが、早い段階で航空主兵主義に転換したことで戦闘機隊や爆撃機隊といった正面兵力だけでなく、今では通信をはじめとした支援部隊もまた充実している。

 それらのサポートを受け、進撃途上で編隊を組み終えた五七六機の攻撃隊は一路米機動部隊を目指す。

 激戦は間近に迫っていた。

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