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航空主兵の連合艦隊  作者: 蒼 飛雲
航空主兵
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第2話 特権活用

 「どうか、お考え直しいただけませんか。もし御身に万一のことがあれば、帝国海軍の損失は計り知れません」


 そう懇願する海軍高官に、だがしかし伏見宮大将はしれっとした表情で軍人としての建前を投げつける。


 「未来ある若者ばかりに死と隣り合わせの危険な任務を押し付けて、年寄りの私が大将でございと言って後方でふんぞり返っているわけにもいかんだろう。

 それに指揮官先頭は帝国海軍の伝統だ。だからこそ、下士官兵も士官についてきてくれる。このことは戦時だけではなく平時においても言えることだ。危険だからこそまずは高位の者が、老い先短い者がこれを率先して行わねばならん」


 口ではそう言いつつも、伏見宮大将は別のことを考えている。

 伏見宮大将が軍事参議官になってから結構な日が経つが、そもそもとしてこの職は暇なことおびただしい。

 軍事参議官は海軍内での人事抗争や派閥争い、俗に言うパワーゲームにおいては極めてその権能を発揮しやすいポストではあるのだが、しかしそのような機会などそうそう訪れるものでもないし、海軍に限らずどのような組織であっても諍いなど無いに越したことはない。

 それに、対米英六割という主力艦保有比率を押し付けられたワシントン軍縮条約、その時に巻き起こったコップの中の嵐もすでに収まっている。

 世界を見ても大きな戦争は起こっておらず、帝国海軍も表面上は大艦巨砲主義とともに艦隊決戦主義で一枚岩となっている。


 そのような太平の世にあって軍事参議官に与えられる仕事など人事に関するもの以外はほとんど無いし、細々とした案件はすべて副官が処理してくれる。

 だからと言って暇な時間を無駄にあるいは無為に過ごそうなどとは伏見宮大将も考えていない。

 これまでも海軍大将として何かを成さねばならないという焦りにも似た使命感はあったのだが、しかし何をやるべきかが見つからなかった。

 しかし、先日立ち聞きした若手士官らの会話によって今後の帝国海軍のあるべき姿がおぼろげながら見えたような気がしたのだ。


 もちろん、がちがちの大艦巨砲主義者でもある伏見宮大将だから、飛行機が戦艦に勝つという話を鵜呑みにしているわけではない。

 それでも戦艦や飛行機が敵に砲弾や爆弾をぶつけるための運搬手段にしか過ぎないことは自明であり、もし仮に近い将来において進化した飛行機が水上艦艇がもつ魚雷や砲弾に匹敵する破壊力をもって戦艦に殺到してくればどうなるかくらいの想像は働く。

 それになにより飛行機に乗ってみたいという気持ちが強くなった。

 突然の衝動と言ってもいいかもしれない。


 それと、世界の海軍には王族や皇族、それに貴族出の軍人が数多くいるが、それでも水上艦艇での実戦経験を持ち、さらに飛行機を乗りこなせる者など一人もいないはずだ。

 ついでに潜水艦も経験しておけば、それこそ海上と海中、それに空中の三次元立体戦闘というものを世界中の誰よりも先駆けて体得することが出来る。

 その経験と知見は帝国海軍内における自身の地位と発言力を今以上に高めてくれることだろう。

 長年の海軍生活が影響を及ぼしたのか、皇族にしてはわりと庶民的というか俗っぽい考え方をする伏見宮大将にとって飛行機に乗ることへの誘惑はその小さくない権勢欲と結びついて断ち切りがたいものがあった。


 最終的に伏見宮大将の要望は通る。

 宮様と呼ばれる海軍の絶対権力者にノーといえる者はいない。

 準備には半年程度が必要だと言われたが、伏見宮大将は待つことにした。

 この時代、国産機はすでに産声を上げていたが、それでも信頼性に不安があるとのことで外国からしかるべき機体を参考資料を建前として購入するのだそうだ。

 その間、伏見宮大将は潜水艦に乗せてもらうことにした。

 空中を経験する前に水中の経験を積んでおくのも悪くなかった。

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