第八話「ないものねだり」
その瞬間、時がゆっくりになったように感じた。最悪なことに正憲と愛琉が崖から転落してしまったんだ。
「正憲!!愛琉!!!」
叫ぶが、二人の姿が下の森へ消えてから声が聞こえなくなった。そして返事もない。
「まずい…!!」
急いでポケットから石を…。
しかし、ポケットに石はなかった。いつ、どこで無くした?
意外と真実と美奈は冷静な顔をしていたが萌守と僕が真っ青な顔をしている。
「…正憲と愛琉を…見殺しにしちまった…。」
「ねえ、今、雄翔くんのすべきことって何?」
美奈が僕の肩を掴みながら真剣な顔をして言った。
「すべきこと…?」
「…石でしょ?」
「…それが…。」
どこかで落としてしまったことを皆に伝えた。伝えるとさっきまで冷静だった二人も少し顔が変わった。
「え…。落としたってどこに?!」
「…それが分からないんだ。」
これじゃ、変えるモノも変えれないし、蘇る者も蘇れない。
「…どこにあるか探しに戻らないと!」
美奈が焦ってそういうが、僕が首を横に振った。
「無理だ。もしかしたら落ちかけたあの時に落としたかもしれないし。」
「…あ。そっか…。」
仕方なくなり皆が静まり返る。
まさかここまで一気にこうなるなんて誰も予想なんてしてなかった。あと数歩のところで落ちるなんて…。
「…じゃあ、正憲と愛琉ちゃんは生き返らないの?」
美奈が涙を浮かべながら気持ちを堪えてそう言った。
「…あぁ。そういうことになりそうだ。」
深刻な話だが、どう足掻いても無いものは無い。あれば全く問題ないんだが…。
「こうなることが分かってたら大丈夫だったのに…。」
悔しそうに美奈がしゃがんで呟いた。
でも未来なんて分からない。それが普通。しかも、あの石が未来にも行けると言えども、いちいち、どんな未来かなんて見に行こうとは思わない。
「石を探しに行こう。」
僕が全員に提案をする。
「…賛成。やっぱりこんな別れは嫌だ。」
しゃがんでいた美奈が立ち上がって少しだけ出た涙を拭った。
「…私も愛琉お姉ちゃんとまだ遊んでない。」
萌守がカバンを背負って立ち上がる。
「運命を変えようなんて考えない方がいいと思うけど…。」
真実がそっぽを向きながら聞こえる程度に呟いた。
確かにそれもそうだ。これは決まっていた運命かもしれない。だけど、その悲劇の運命は変えたいという考えが浮かんでいた。
「真実は来ないのか?」
僕が座り込んでいる真実に聞くと、真実はしばらく考え込んでからため息をついた。
「行かなかったら全員死んでそうだから行くよ。」
そう言って立ち上がってくれた。
そして意見のまとまった僕らは戻るのは危険なので回り道して石を探すことにした。雨はやっと止んでくれた。
もしもなかった場合は崖から落ちていったか、もしくは誰かが手に入れた…としか考えられなかった。
「暑い…。」
美奈が舌を出しながら疲れ果てて言った。
「疲れた…。」
美奈の次に萌守が舌を出しながら地面に力強く座り込んだ。
「…もう少し頑張って。」
真実らしからぬ発言だった。応援なんて一言も聞いたこと無かったはずなのに。
「んん、、、。分かった。」
萌守は真実に励ましてもらい再び立ち上がる。もちろん、それを見て美奈も頑張らないとと歩き始めた。
回り道をしてなんとか戻ってこれたが、石なんてすぐに見分けることなんてできず、手分けして探すことになったが、結果的に夕方になり、見つかることはなかった。
「見つからないね。」
萌守が僕の落ち込んだ顔を覗き込んでくる。
「まぁ、うん。」
「明日はきっと見つかるよ。」
夕焼け空を見上げた萌守が噛み締めるように優しく言った。
その頃、匠と悠子はというと、
雨宿りを終えて森をさまよってた。
「また同じ場所か。」
匠の持っていたサバイバルナイフを利用して木に目印を付けていたが、結果的に何度も戻ってきてしまっている。
「目印の付け方、分かりやすいから大丈夫だと思ってたのに。」
ちなみに、匠の付けていた目印の付け方はなぜか海賊旗のマークだった。
なんでなのかは本人もなんとなくとのこと。
「同じ場所を回ってるって事になってるから、他の方向に行けばいいかも。」
悠子がじっと見つめる先はもはや森というよりはジャングルのような方向だった。
「え、まさか、あっちに?」
「同じところを回っても仕方ないでしょ?あれを切り抜けれたら、もしかしたら外に出るかもしれないし。」
結局、賭けだった。人は途方に暮れると賭けに出るんだなと匠は心の中で思った。
「分かった、行こう。」
匠と悠子は真っ直ぐ歩いてジャングルのようなところへ奥へ奥へと進んでいき、見えなくなったあと、その前をカラスが降りてきて一声鳴いてから瞬く間に飛び立っていった。