第六話「絵」
雨が降る少し前、匠と悠子はというと、
洞窟で沈黙が続いてしまい、いつの間にか眠ってしまっていた。
「…ん、あれ、…晴れたか。」
ゆっくりと起き上がった匠が外へ出て空を見上げると太陽が出ていた。それも暖かい。
昼だからか太陽は真上にあって森の葉が透き通るように照らしていた。
「悠子。晴れたぞ。」
洞窟にまた入ると悠子はまだ眠っていた。
その顔はとても可愛らしくほっぺもぷにぷにしてそうで…。
何を考えてるんだと言わんばかりに匠は首を横に振った。
「あ、そうだ、道具整理しとくか。」
匠は自分の持ってきたカバンをすっと開いた。
中には色んなサバイバル道具が入っていたが、これといって使えるものは少ない。
なぜなら、まず、懐中電灯。これは使える。そしてサバイバルナイフ。これも使える。そしてコンパス。…これはさっき壊したやつなので使えない。それから着替え。…あんまり活用は出来ないが必要ではある。…あとはタオル1枚に貴重品、地図にたこ足配線。ぐらいか。
たこ足配線なんてこんな場所で使えるはずがないが、ホテルで使おうと思ってたヤツだ。
そっとカバンにしまい込んで閉じた時、悠子がちょうどよく目を覚ました。
「…あれ、もう雨止んだ?」
「おう。止んだよ。行こうか。」
「うん。」
未だ少し気まずい空気が流れている。いざ二人きりになると匠が緊張してるのか上手い会話が出来ない。他に人がいる時は出来るだろうに。
しばらく森を歩き続けていくと、分かれ道が出来ていた。
「どっちが正しいかな。」
「んー、…看板も無さそうだから分からないね。」
「まあ、目指す方角は分かっているから大丈夫だろ。」
自信満々にカバンをおろした匠がそう言った。
「なんでそう言えるの?」
「なぜなら地図があるからだ!」
広げると地図は地図だったが、世界地図だった。
「…間違えた。」
「間違えたどころの騒ぎじゃないよ!…はぁ、もう。私も萌守に頼んでカバンに入れてもらった地図があるから大丈夫。」
悠子のカバンから地図を取り出した。しかし、それは萌守の手書きの日本列島だった。
「…なんで。」
「ダメだ〜。なんでまともな地図を持ってきて…あ!!」
突然、匠が大きな声で何かを思い出した。
「何?」
「車だ!車の助手席の下のボックスに地図あるんだよ!」
「どうせ、また世界地図やら日本地図じゃないの?」
呆れたような顔をして悠子がじっと匠を見つめた。
「なわけないだろ。大丈夫、日本地図でも縮小された日本地図だからさ!」
とても胸を張って偉そうにそう言ったが
「でも車、どこよ?」
「あ。」
またも振り出しに戻ってしまった。
結果的にジャンケンで悠子が勝ったら右で匠が勝ったら左に行くことにした。
「ジャンケン…ポイ。」
そして悠子が勝ったので右に行くことへ。
右に向かって進んでいくと奥の方に少し大きめの小屋が見えた。
「あ、あそこ!」
悠子が真っ先に見つけて走り出すが匠が辛そうに棒を杖代わりにして歩いていた。
「な、何してんの?」
「い、いや、お腹すいて…。なんかない?」
「…ごめん、食材は全部、萌守のカバン…。」
もはや声も出なかった。
仕方ないので小屋に何かあるということを願って歩いて向かうことにした。
中に入ると結構普通の小屋だった。
「…誰も使ってないのかな。」
「…そうじゃない?蜘蛛の巣張ってるし。」
匠が辺りを見渡していくと、何かにつまづいて転んだ。
「大丈夫?!」
悠子が匠の手を握って立ち上がらせると、つまづいた場所に取っ手があることに気がついた。
「お、食料庫?!」
嬉しそうにその取っ手に触れて匠がゆっくりと開けた。
しかし、食料庫というよりは地下へ続く階段があった。
「…こ、小屋なのにしっかりしてんな…。」
行かない手はないと二人は地下へと向かっていった。
階段が終わると広めの地下室へと出た。
「わ、すげぇな、ここ。」
その地下室にはたくさんの絵があった。それも子どもの手描きだろうという絵。それだけじゃなく、人形や縄跳び、遊べる道具もたくさん置いてあった。
「…子どもが住んでたのか?ここ。」
「分かんないけど、名前がここに書いてある。」
ひとつの絵を手に取った悠子が読み上げた。
「んー、読みにくいけど『厶川…メラ…。』あとひとつがなんか読めない。」
その絵を匠が見てみるが全く読めない暗号のような形をしていた。
「確かにこれは分かんねぇや。…ま、子どもが書いたからか。」
他の絵にも書いてあったが、人の形をした絵の隣にそれぞれ名前が描かれていたことから、絵の人物の名前で間違いはなさそうだった。
「…食料はなかったけど、なんかすげぇ場所だったな。」
二人は欲しいものがなかったから小屋の外へ出ていこうとした。
しかし、外を見ると雨が降っていたため、二人はここで雨宿りすることになった。