第四話「天気」
雨が流れる中、匠と悠子は洞窟の中でじっといしていた。
「雨、降っちゃったね。」
「…そうだね。」
沈黙が続いてしまい、匠が堪えられないような顔をしていた。
「みんな、大丈夫かな。」
「大丈夫だよ、正憲や雄翔だっているんだから。」
心配する悠子に匠がなんとか安心させようと説得する。
「…それは分かってるんだけど。」
しかし、まだその安心はやってこないらしい。
「まだ朝だから良かったね。夜だったらここは真っ暗だっただろうから。」
「うん。」
…また沈黙が続いていた。
そして僕らの方はというと、
「ねえ、このまま皆がバラバラになっちゃったらどうするの?」
「その時は任せとけ。」
僕がカバンから自分の懐中電灯を取り出した。
「おいおい、任せても大丈夫なのか?」
正憲が笑いながらそう言ってきた。
「大丈夫、離れてても分かるようにこの懐中電灯で皆を僕の元に導いてやる。」
自信満々にそう皆に伝えた。
しばらく雑談しているといつの間にか雨が上がっていた。
「わー、すごー!」
「いつの間にか晴れたー!」
萌守と美奈が嬉しそうに空を見上げていた。
「えへへ、森は天気が変わりやすいから!」
愛琉が喜ぶ萌守と美奈に微笑んだ。
そして歩き始めて少ししてから。
「あつぅ〜。」
「凄く日が登ってる〜…。お昼だからだけど〜。」
萌守と美奈がだるそうに空を見上げて言った。
「…うぅ〜、森の天気は変わりやすいから…。」
愛琉が服をパタパタさせて風を仰いだ。
「天気変わりすぎだな…。」
正憲が木を見上げていた。
「何見てるの?」
隣からひょっこりと真実が覗き込んだ。
「え?いや、おいしそうな実があるなーって。」
「あ、それ毒。」
「うし、早く行くぞー!」
真実が言った途端に正憲が木を見つめるのをやめて歩き始めた。
「そうだ、海秀村ってさ、愛琉と真実の故郷?」
正憲がふと後ろを振り返って二人に聞く。
「うん、そうだよ!」
愛琉が元気よく笑顔でそう答えた。
「どんな街なの?」
「んーとね、食べ物が沢山あって〜、それから、遊ぶとこはそんなにないけど〜、海や山があるから楽しくって〜、それからぁ〜。」
淡々と話していくが途中から言葉が出なかった。
「…もう、ない?」
正憲が沈黙に耐えれず一言余計に聞いてしまう。
「で、でも!いいとこはたくさんある街だから!」
とても真剣な顔で鼻息を荒くして正憲に言った。
「わ、分かった分かった。あ、じゃあ、どんな食べ物があるんだ?」
まずいと思ったのか焦って話題を切り替えた。
「例えば…唐揚げとか、海鮮丼とか、ウインナーとか…。」
「…ジャンルとかバラツキあるな…。」
正憲がまた余計な一言を言った。
「で、でも美味しいもん!!!!」
また愛琉が正憲に近づいて言い放った。
「…わ、分かったってば…。じゃあー、彼氏とかいる?」
また正憲は別の話題へと切り替えた。
「…いる。」
真実が小さな声で言った。
「…め、愛琉は?」
恐る恐る正憲が聞いた。すると愛琉は頬を膨らまして
「…いない…。」
「いない?」
正憲が聞き取れなかったのか聞き返した。
「いない!けど!!魅力はあるもん!!絶対今年中には出来るもん!!絶対だもん!!!」
愛琉は泣きそうになりながら正憲にしがみついて叫んだ。
「真実はいるって?」
あまり触れないように正憲が真実に問う。
「いる、それ以上は答えないけど。」
「く、クールだな…。その性格で彼氏いるのか。」
予想通りまた余計な一言を言ったせいで正憲は真実に睨まれた。
「と、ところで、愛琉と真実ってさ、兄弟っているの?」
「え。」
真実に睨まれて怖くなった正憲が別の質問をしたが、それを聞いた愛琉と真実が固まった。
「…え?あ、聞いちゃまずかったのか?」
「…。」
真実がじっと愛琉を黙って見つめていた。
「お姉ちゃん…。」
「え?」
「お姉ちゃんがいたの。」
そっと口を開いて愛琉は正憲に微笑んだ。
「いいお姉ちゃんだったんだよ。」
「…そ、そっか。…なんかごめんな。」
気まずい空気が流れる。すると正憲がこっちに小声で話しかけてきた。
「なぁ、どうしたらいい?」
「…どうしたらって言われてもな…。」
考えても仕方ないが、このままっていうのもと思い、すっとポケットから石のお守りを取り出した。
「…使うか…。これ。…普通ならダメだろうけど。」
「ん?なんだ、それ。石?」
正憲が石のお守りを見て首を傾げた。
「あ、そっか。この正憲は知らねぇんだ。」
「は?」
意味がわからないという顔をこっちに向けてくる。僕は正憲の手を握った。
「なんだよ、急に、気持ち悪いな。」
「別に握りたくて握ったわけじゃねぇよ。いいから。」
僕は真剣に石のお守りに祈った。
そして僕と正憲の意識はそこで途切れた。




