第十二話「油断」
次の日の朝のこと。
「ん、…もう。朝か?」
朝日に照らされた匠が目を覚まし、寝ていた切り株の上で起き上がった。その後に、悠子も目を覚まして立ち上がった。
「んー、はぁー。朝だー!気持ちいい〜!」
悠子が立ち上がって朝日に向かって腕を上げて伸びをする。
「にしても、よく寝れたな。ここで…。」
匠が自分たちに小さな声でツッコミを入れて起き上がる。
「よし!今日も頑張ろー!」
元気な声を出して悠子はガッツポーズをするが、まずは着替えることにした。
それぞれ、木の影に隠れてひっそりと着替えた。
「よし、じゃあ、行こうか。」
昨日のお陰で、なんとか好感度を取り戻せたような気がした匠は少し笑顔になる。
「じゃー、まず。あの壁を目指そう!」
悠子の指差した方向の目の前にあった壁の方へと向かうことにした。
少ししてからたどり着いて、上を見上げると相当な高さがあった。
それは登れるわけがなく、登れても落ちたらひとたまりもない。
「うわぁー、絶壁だな。こんなのは登れそうにないな。」
匠が壁を触りながら上をじっと眺める。
「ねえ、ここを登るのは無理そうだよね。」
悠子が袖を掴んで引っ張ってくる。まるで…子どものような…可愛い…。
「聞いてる?」
匠は悠子に大きな声で言われてハッとする。
「え、あ。いやぁ、うん。そうだね。」
「じゃあ、なんて言った?」
頬を膨らませて悠子は怒ってるかのように話す。
「ここ登るのは無理だねぇって…。」
「違うっ!ばーか!」
なんか頬を赤らめてどこかへ歩いていく。
「お、おい?待てよ!」
悠子がスタスタと歩いていく後を、匠は駆け足で追いかけていく。
「なぁ、さっきなんて言ったの?」
「言わない。」
髪の毛をひらりとたなびかせ、匠からそっぽを向いた。
その姿を見て匠は自然と真顔で見てから
「可愛い…。」
と割と聞こえるような声で呟いてしまった。
「え…!?」
突然、悠子が振り返って匠をじっと見つめる。
「な、あ!いや、あの…!」
自分が言ったことをやっと理解したようで匠は口元を両手で塞ぎ込む。
「ばか。」
少し頬を赤らめた悠子がジャングルの森の奥へと走って戻っていく。
「だから、なんですぐばかって言うかな〜。」
なんか納得いってないような顔をしながらすぐに悠子の後を追いかけた。
ジャングルの森の奥へと入って、少しずつ休憩しながらまた歩いてを繰り返した。
「ねえ、まだー?」
「いや、もうそろそろだろ。多分。」
大きな葉をかき分けてジャングルの森をぬけて目の前の崖にたどり着いた。
「…また崖か…。」
「あれ?あれって…。」
悠子が走って崖に近いところまで行く。そしてそこに落ちていた石を拾い上げる。
「…?それは?」
悠子の持ってる石を匠が覗き込むようにして問いかける。
「これ、雄翔の持ってた石のお守りってやつなの。大事そうにしてたから…もしかしたらここに来て落ちていったり…。」
悠子が下の方を見ようとして崖すれすれに近づく。
「危ないって。」
匠が悠子を引き留めようとした瞬間、地面が壊れて崖から落ちてしまった。
「うわぁあ!!!!」
そのまま匠と悠子は真っ逆さまに落ちていく。
それも物凄いスピードで…。
「ヤバい…!…嫌だ。お願い!神様!助けて…!!」
その瞬間、石に祈ったことになり、二人はそこで意識が途切れた。
気がつくと悠子と匠は道を間違える前まで来た。
「あ、あれ?」
「…え?」
二人とも何が起きたのか分からずに困惑する。
「…助かったの?」
「俺ら、崖から…落ちてたよな…?なんで…ここにいるんだ?…え?」
訳が分からなかったが助かったことをひとまず安心をした。
「…とりあえず、もう近寄らないでおこう。石はちゃんと持ってるから。」
「そ、そうだな。」
そして道を間違えた方向と逆の方向に行くことになった。
その頃、美奈と萌守はジャングルのような森を迷い続けていた。
「暑いねー、今日も。」
「うん、そうだね…。」
疲れ果てたようにダラダラと歩いていた。
「まだ抜けないのかな。」
「でも、かなり歩いた気がするけど…。」
大きな葉を横にかき分けた時、太陽が二人を明るく照らした。
そこはジャングルの森の外だった。
外に抜けると目の前に崖があった。それは悠子と匠のいた場所だ。
そして、そこにはもちろん、落ちたあとの欠けた地面がある。
それを見て萌守がそこへと向かって近づこうとする。
「ねえ、これ、崩れたあとがあるよ。」
「危ないよ、あんまり行き過ぎないで。」
そう言った時、突然、欠けていた地面が抜けて、近くにいた萌守が足を踏み外して落ちた。
「キャッ!!」
美奈が振り返った瞬間、萌守が落ちていくのが見えた。




