第十一話「女の子」
その頃、美奈と萌守は焚き火をじっと見つめていた。
「…はぐれちゃったね。」
「…私たち、どうなるのかな。」
萌守が心配そうに焚き火を見つめているのを美奈は見て決意する。
何があってもなんとしても萌守を守ると。
「大丈夫!私に任せて!萌守ちゃんは守るから!」
そう言って立ち上がった時、お腹が『ぐー』と鳴り響く。
「あ…、恥ずかしい。お腹すいちゃったや。」
萌守がそう言った美奈を見てクスリと笑った。
「何か食べる?」
萌守が鞄を取り出して中身を確認する。しかし、すぐに食べられるものはない。
「作るか。」
美奈が立ち上がって鞄からエプロンと三角巾を取り出して、髪の毛を後ろでくくってから三角巾をつけエプロンをまとい、気合いを入れる。
「コレで何か作れそう?」
カレーの残りが少量とお肉やらジャガイモやら野菜が入っていた。
「んー、なんかは作れるだろうけど、凄い贅沢なのは作れなさそう。」
美奈は考え込んで萌守を見つめてそう言った。
「まぁでも、贅沢は言ってられないもん。お願いします。」
にこっと笑った萌守がペコリと頭を下げてお願いをする。
「任せて!」
頼られているんだと美奈は微笑んでレジャーシートの上に並べた材料に向き合う。
「…なんか作れるかな。」
そして美奈が奮闘した結果、特製美奈煮込みが完成した。
「…ごめんね、何の料理かすら分からないものが出来ちゃった…。とりあえず、私が毒味するね。」
美奈がそっとスプーンですくい上げて口へと運ぶ。
「…。」
モグモグ食べていると、ハッとした顔になる。
「おいしい…。」
「ホント?!」
「自分が言うのもアレだけど…おいしい。」
萌守がすぐにスプーンを持ち、すくい上げて食べる。
「ホントだー!!おいしい〜!!!!」
見たこともないような笑顔を萌守が見せてほっぺを触りながらモグモグしているのを見て、美奈は嬉しくて釣られて笑顔になる。
「美奈お姉ちゃん、料理人のセンスある!」
「いや、ないよ〜!」
笑いながら言い合う二人はジャングルのような森の中では全く似合わない美しさだった。
「ふぅー、ご馳走様でした!」
「お粗末さまでした。」
「ううん!お粗末じゃないもん!」
萌守が必死に首を振って否定する。
「そういう事じゃないんだけど、ありがとね。」
美奈が萌守に首を傾げて微笑んだ時、萌守がその顔を見て少し下を向いて考える。
「ん?…どうしたの?」
「いや、なんでもないよ?」
「なんでもなくないでしょ?ほら、今は私たちだけだから、何を言っても大丈夫だよ?」
美奈が近づいてニコリと微笑んで言った。
「…それが羨ましい。」
「え?」
萌守の小さな声が聞き取りにくくて美奈が聞き返した。
「…美奈お姉ちゃんはさ、好きな人いるの?」
「え?んー…、いるかな…?どうだろ、分かんない。」
質問に対して笑いながら美奈が曖昧に答えた。
「教えて。本当に、いるのか、いないのか!」
萌守が笑顔から一変して、真剣な顔で美奈に体を近づけて問いかける。
「え、うーん…。」
難しい質問をされている訳では無いが、美奈は深く考えてから頷いた。
「いる。」
真剣な顔の萌守に真剣な顔で答え直した。
「それって、お兄ちゃん?」
「え?」
質問の後にまた質問が飛んできて美奈は戸惑うがその質問の内容に気がついて顔が赤くなった。
「な、なんで?!」
驚いているからか声が裏返りかけてしまう。
「動揺してるからそうなんだ。」
あっさりと萌守にバレてしまい、美奈の顔がまた少し赤くなる。
「動揺なんてしてないもん。」
「でも顔も赤いよ? 」
「か、顔は!この焚き火のせいだもんっ!」
顔を両手で隠せないけど隠しながら焚き火を指差した。
「へぇ〜。別にいいと思うよ。お兄ちゃん好きなのは。」
「だから…。」
「でも、一つ、お兄ちゃんと恋人になる前に約束して欲しいの。」
静かに近寄った萌守がまた美奈に顔を近づける。
「な、何?」
恥ずかしくて赤くなっている美奈はもう自然と恋人になる前提の話を進めてしまう。
「絶対、離さないで。お兄ちゃんを。」
思っていたのと違うようなお願いをされて美奈は戸惑ってしまう。
「え?それってどういう?」
「気にしないで。ただ、お兄ちゃんを離さないでくれたらそれでいい。」
何のことかサッパリだったが美奈は切り替えて真剣な顔で頷いた。
「うん、絶対、離さない。」
そう言った瞬間、萌守が吹き出して笑った。
「え?」
「お兄ちゃんのこと好きって認めちゃってるじゃん。」
「あ。」
ふと萌守に言われて美奈は我に返り、顔が再び赤くなった。
「でも、その意気でお兄ちゃんを離さないでね。好きでいるなら。」
「う、うん、まぁ。うん。」
美奈の顔は焚き火に照らされているからか、また頬が赤く染まっていった。




