第一話「閉ざされた空」
その日は8月30日。夏休み最終日。
「…めんな。…ゆ…。」
「…さ…り…!!!!」
「ダ…!…くんまで…ちゃう!」
「…んでだよぉ!!他に……なかったのかよ…。」
本当に長い長い夏休みだと僕は思う。
また…繰り返すんだ。あ、分からない人のために教えると、前回もこんなことがあったんだよね。あれから約1ヶ月くらい経った。
もうないと思っていた。でもそれは違った。
始まりは8月15日。お盆の日。これから長い2週間が始まる…。
「…に……ん。」
光の中から誰かの声が聞こえる…。
聞き覚えのある声だ…。そして僕は光が段々当たったり暗くなったりする。
「お兄ちゃん!」
ハッとその声で目が覚めると、ベッドの上で萌守がカーテンを開け閉めしていた。光が出たり出なかったりしたのはコレが理由だった。
「起きた!早く起きて準備して〜!」
萌守は部屋を出ていこうとした。
「待って、萌守。今日、なんかあった?」
「え!忘れたの?お兄ちゃんの友達たちを連れてお姉ちゃんの恋人さんの匠さんが車でキャンプ場まで連れてってくれるんだよ?あんなに楽しみにしてたじゃない。」
そうだ。そうだった。
昨日用意した支度、服装に着替え、リュックを持ち用意が完了する。
「用意できたー?」
萌守が丁度よく声をかけてきた。
「おう、できたよ。」
外にキャンピングカーを乗ってきた匠がクラクションを鳴らす。
「おーい。」
「バカなの?むやみにクラクション鳴らさないで!住宅街よ?」
真っ先に外に出たお姉ちゃんにすぐ怒られる匠。
「あ…ごめん。」
「あ、忘れ物。」
お姉ちゃんはそう言って家へと戻っていく。
「あーぁ、また好感度下がってんじゃん〜。」
後ろから正憲と僕がニヤニヤしながらそう言った。
「うるさいなぁ!…だ、だってしゃーねぇだろ。どうしたらいい?!」
すると正憲がすっと立ち上がり、車の天井に頭が当たる。
「っぐ…いてぇ…。とりあえず!今回のお泊まりキャンプにて、しっかりと好感度上げまくって告白するんだっ!!」
バシッ!と正憲が匠をシバいた。
「痛い痛いよ、もぅ…頑張るけどさ…。」
ハンドルに顎を付けながら悩んで顔をうずめる。その時、またクラクションが鳴って匠が驚いてから
「また鳴らしてるー!」
また匠はお姉ちゃんに怒られた。
そして僕らは匠の運転で遠いところまで来た。
景色が変わって海と森が見えてきた。
「わー、すごーぃ!」
「ここに来るまで何度も道に迷いかけたけどご苦労さん。」
お姉ちゃんが匠の肩をそっと叩いた。
「カーナビって便利〜!」
美奈が嬉しそうに海を見て言った。
「悲しいような嬉しいような…。」
そのあと、海が見えていた景色は一旦、森に囲まれた。
そしてしばらくして。
「ここ動物注意らしいよ。」
美奈が標識を萌守の横で見ながら言った。
「まぁ、動物って言ってもそう出ないからな。」
その時、女の子が突然、森から飛び出してきた。
「キャッ!!」
「うわっ!!」
匠が事故りそうになってカーブをせず直線で進み、森へと入り木にぶつかって止まった。
「…カーブで減速してたからそんなに早くなくて良かった。…てか、さっきの動物だけど人間?!」
先に起きた匠が、とりあえず皆の意識を確認する。どうやら全員無事らしい。
「…あの、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
ツインテールの可愛らしい女の子だった。
「大丈夫、だよ?」
全員優しいことから女の子を怒る人はいなかった。
「あ!おい、マジかよ…。エンジン丁度切れてる…。」
「どっちにしろ向かうのは足になりそうだね。」
「あ、私、案内しますよ!あ、私、水上愛琉って言います!」
僕らは愛琉に付いて歩き出した。
「お、おーい、愛車…どうしよ…。ま、待ってよー!!」
後から匠が愛車を気にしながら走って皆の元へ行った。
「愛琉ちゃんって何歳?」
「13です。」
にっこりと微笑んでそう言った。
そんなこんないろんな話をしていて、いつの間にやら僕らは道路に沿って歩いていたのが、森へ入っていた。
割と僕らは半袖だったから虫を気にして歩いていた。
「…あ、あれぇ?こっちだったかな…。」
不安の声が聞こえてくる。
「あ、あの、愛琉ちゃん。近くの街でいいから連れて行って欲しいんだけど…。」
お姉ちゃんが自然と愛琉に話しかけた。
「そうなんです、連れていこうとしてたんですけど…。ま、迷っちゃったみたいで…えへへ。」
その笑顔に僕らは怒る気力も出なかった。仕方ないから森を進んで抜けるまで歩こうということになった。
…どれくらい経っただろう。未だ、上を見ても木に覆われているような状態。そう、まるで木に閉じられた空のようだった…。




