77話 夏休みと海②
そして、日焼け止めを塗った後、みんなは海に飛び込んだ。
楽しそうな雰囲気の中、1人だけ海に飛び込まず、強張った表情で、少しずつ、少しずつ、海に入っている者がいる。
「....」
俺は思わず言葉を失ってしまった。
海に入る際、浮き輪にしがみ付いていていたのだ。
あんな可愛いらしい生き物が存在しても良いのか?
三つの浮き輪に俺は、釘づけ状態だった。
ん?...三つ?違う!浮き輪は一つだ、俺は一体何と間違えたんだ。
「みーちゃん?もしかして、泳げない?」
コクコク
美音は真剣な眼差しで、俺の問いに頷いた。
そんな美音の姿に本当に可愛いと思った。
どうやら、前学校のプールで地面に足がつく高さだったので平気だったが、足がつかない深い所は泳げないらしい。
「なら、俺が親が手伝おっか?」
「お願いします」
そして、俺は美音の手を繋ぎ、どんどん深い所まで誘導した。
浮き輪があると、あまり練習にならないので、浮き輪は浜辺に置いてもらった。
「そうそう、最初はプカプカ浮く感じだぞ」
「ちーちゃん先輩!絶対離さないで下さいよ!」
「分かってる、わかってる」
繋いでいる手には痛いほど力が込められていた。大丈夫だから、力を抜けと言っても、やはり分かっていても難しいようだ。
「そうそう、足を延ばせば、浮くから」
「浮きません、沈んじゃういます!」
「うーん、やっぱりどこか力を入れすぎなんだよ」
そもそも、泳ぎの練習は海で最適じゃないかもしれない。
波があって、先から上手く泳げていない、先程から美音の口に海水が入りそうな場面もあった。
「みーちゃん、今度プールで泳ごっか?そこで、練習しよう。海はちょっと、難しいかも」
せっかく、海に遊びに来たのに、練習なんてしたくないだろう。そう思い手を放そうとした時。やっと、足を着いた美音が慌てた様子でしがみ付いてきた。
「...?」
「プールは行きたいです!でも、ちーちゃん先輩が嫌でないなら、もっと、私に泳ぎを教えて下さい......それに、せっかくちーちゃん先輩と手を繋げているのに」
ギュッと俺の腕にしがみついてくるもので、色々と当たっていた。そっちの意識になってしまい、最後らへん美音が何を言ったのか耳に入らなかった。
「分かった、練習続けようか?すこし離れよう?これだと、やりずらいよ?」
「...もうちょっとだけ、お願いします。ちーちゃん先輩に離れたくないです」
「そ、そうか」
やはり海が怖いのだろう、俺の腕から離れようとしなかった。
でも、顔を見てみると怖がる様子もなく、顔が赤かったのだ。
だが、美音に離れたくないと言われた時は、結構ドキッとなった。
「ちーちゃん先輩、さっきプールで教えてくれるって言ってましたよね?」
「そうだね」
「な、なら。2人だけで行きませんか?」
「そうだね。練習に行くから、2人だけで行こうか」
俺がそう言うと、美音は嬉しそうに笑っていた。
だが、すぐにどこか少し暗い表情になっていった。
(私ったら、これは抜け駆けですよね...少しあーちゃん達に悪い事した気がします)
美音が2人きりって言ってしまった事に、少し罪悪感を覚えていた。
「その時は、ビシバシ教えてやるよ」
「あはは、お願いします。ちーちゃんの」
「ん?」
すると、美音は少し真剣な眼差しで見つめて来た。
「...大好きです」
その言葉に俺は周り見開いてしまった。
だが、すぐに美音は顔を赤くして、自分の言葉に訂正を加えた。
「ち、違います!そう言う意味で言った訳ではないです。と、友達としてです」
「そそそうだよな。あはは、俺ったら何を勘違いしてるだ。みーちゃんみたいな可愛い子が、こんな俺みたいなダメな奴に「ちーちゃん先輩!」はい?」
「先輩は、ダメな人ではありませんよ。これだけ覚えて下さい、私にとって先輩は光です!決してダメな奴だと思ってません」
「そうか、ありがとうね」
「はい!」
俺は美音の頭を撫でると、気持ちよさそうに笑っていた。
俺はこの時違和感を覚えた、何故こんなに息苦しいのか?最近、美音に関わらず、灯里達と一緒にいると、心が息苦しく感じる。




