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文芸系の小説

ウサギと星

作者: 蜜柑プラム

 カメにかけっこで負かされたウサギが何やら大きな声で騒いでいます。


「おい、カメのくせに調子にのるなよ。おいらはなぁ、たまった録画を観てて徹夜明けだったんだからな。だから途中で寝ちゃったんだぞ」


 カメは余裕たっぷりの顔で答えます。


「ぼくだって推しのドームツアーの遠征から帰ってきたとこだったんだからね。そんなの言い訳になんないよ、のろまなウサギくん。ふふっ」


 ウサギはじだんだをふんで、悔しくてたまらない様子です。


「お前な。もう一回勝負しろよ。お互い万全な状態でやろうじゃないか」


 カメは迷惑そうに答えます。


「ウサギくんみたいにひまじゃないんだよ。まあ。どうしてもって言うならさ、やってあげなくもないけどさ、どうしよっかな」


「ひまだろ?お前がひまじゃないとこ見たことないぞ。逃げてんじゃねぇよ」


 カメは腕を組むようなそぶりをして、あごに手をそえるようなそぶりをして、


「うーん、今月いろいろ立て込んでるんだよねぇ。でもまあ、どうしてもって言うならさ、条件付きで勝負してあげなくもないよ」


「なんだよ、条件て?」


「星くんに勝ったら勝負してあげる」


 ウサギは「星?」と首をかしげて、


「星って、夜しか出てこないで、鳥より高い所でチカチカしてるあいつか?」


「そうそう。星くん、彼どうせひまだよ」


 ウサギは少し考えてから、何やら納得したようです。そして、得意げに答えます。


「よし、いいぜ。今夜勝負してくるよ。星に勝ったらおいらともう一度勝負だからな。約束だぞ」


 カメはあいかわらず余裕な声で言います。


「せいぜいがんばりなよ」


 ウサギはぴょんぴょん跳ねて立ち去っていきました。カメはやれやれとつぶやいて、のそのそと池に帰っていきました。




 夜になりました。

 ウサギは星のところまでやって来て言います。


「やい、星! おいらとかけっこで勝負しろ」


 星はウサギを見下ろし、あくびをしながら答えます。


「なに? 何時だと思ってんの? 眠いんだけど」


「お前、夜型じゃないのかよ。なんでもいいけど、勝負しろ」


 星はあきれた顔をして言います。


「ほんとウサギってひまだよね。別にいいけどさ、おれ最近おなか出てきたし、たまにはいいかも」


「よし、ならやろう。向こうの丘のてっぺんに先に着いたほうの勝ちだ。いいな?」


「はいはい分かった、それでいいよ」


 ウサギは「よし」と気合いを込めました。星は眠たそうな顔でウサギを見ていました。



 よーい、ドン!


 ウサギのかけ声で競争はじめです。

 ドンと同時にウサギは丘を目指して軽快に跳ねて行きます。

 一方、星はというと、あくびをしながら跳ねて行くウサギを見下ろしたまま、じっとしています。


 ウサギはしめしめと思っていました。星が走っているところなんて見たことがなかったのです。だからきっと簡単に勝てるはずだと、そう思っていたのです。




 夜空の下、

 野草をかき分けウサギが丘の登り坂にさしかかった時でした。

 突然、空にキラリと、一筋の流れ星が光りました。ウサギは思わず足を止めて輝く流れ星を見上げました。

 またたく間に走り過ぎていくその星はとってもきれいです。ウサギはその流れ星から目が離せません。

 やがて流れ星は丘のてっぺんへと真っ直ぐにおちていきました。


 ウサギはとても幸せな気分になって、そこの草むらに寝転がって星空を眺めました。ホーホーとフクロウの鳴き声がとても心地がいいです。

 そしてそのまま眠ってしまったのです。そう、また眠りました。




 ウサギはチカチカとまぶしい光に目を覚ましました。


「う、なに? あ、星さんだ」


 星がウサギの上に浮かんで光っていました。


「なに寝てんだよ。おれもうゴールしたよ」


 ウサギはおだやかな声で言いました。


「もうね、競争とか勝負とかどうでもよくなったよ。星さんのおかげで、自分のちっぽけさがよく分かったよ」


 星はウサギのキャラ変に少しあっけにとられました。


「へえ。確かに、ウサギがおれと勝負するって言った時、こいつアホだなぁとは思ってた」


「ははっ。だよね。はははっ」


 ウサギは気分がよさそうに「じゃあ」と言って去って行きました。

 星はなんのこっちゃと、あくびをして空に帰っていきました。




 次の日です。

 ウサギはカメに会いに池へとやって来ました。


「カメくん、こんにちは」


 カメは池からけだるそうな顔を出しました。


「ウサギくんかぁ。星くんとの勝負どうだった?」


「負けたよ。でももう勝負とかどうでもいいんだ。今までえらそうにしてごめんね」


 カメはウサギのキャラ変に少しとまどいました。


「へえ。なんか雰囲気変わったねウサギくん。じゃあぼくと君の勝負はぼくの勝ちってことで決まりだね」


 ウサギはおだやかな声で言います。


「うん。おいらはどうでもいいよ。それよりカメくんも星さんとかけっこしてみたらどうだい?楽しいよ?」


 カメは自慢げに答えます。


「あぁ、星くんとはもう勝負したよ。で、勝ったし」


 ウサギは驚きました。


「え? 勝ったって? 絶対ウソだろ?」


 カメはにやりと笑いました。


「勝ったよ。夜が明ける少し前にスタートしたんだ。朝になったら星くんは消えちゃうからね。ふふっ」


 ウサギは少しの間かんがえて、カメが星に勝った理由を理解しました。すると、またもや悔しさがわき上がりました。


「おいカメ! お前ってやつは、卑怯だぞ! やっぱりもう一回勝負しろ!」


「お先に失礼。ふふっ」


「おいカメ! もう一回だ!」


 飛び跳ねながら叫ぶウサギをよそに、カメはゆらゆらと池に沈んでいきました。とさ。



おしまい

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