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1話 ここから世界は動き出した

「はぁ……はぁ……」

 寒い。手足の先っちょから体の芯まで冷たくなる。手袋やブーツはビシャビシャになり本来の役割も果たせていない。

 みんなと逸れてどれくらい経っただろう。こんな遠くまで来るんじゃなかったかなぁ。

 段々と足取りが重くなり息も掠れてくる。

 辺りは吹雪に覆われ10メートル先ですら見ることができない。


「おじさーん!みんなー!私はここだよー」

 必死に叫ぶが誰一人としてその声に気づくことはなかった。

 どうしよう。

 このままだと死んでしまうことを本能が告げていた。一刻も早くこの吹雪を凌がないといけない。


 あそこだ!!

 見つけたのは建物。倒壊しており今にも崩れ落ちそうだがやむを得ない。吹雪を凌げるならなんでもいい。

 私は最後の力を振り絞って建物を目指した。

 ……この時、腰につけていたAIを感知するレーダーが赤く点滅してるのを私は気づくことは出来なかった。



「よし、ここならなんとかなりそう」

 無事建物までたどり着き思わず安堵の声を漏らす。

 にしてもすごい建物だなぁ。ものすごく高い。

 三角錐のようなこの建物の中は崩落した天井から光がさし中を照らしている。

 リュックサックからタオルを取り出し体を拭いていく。ビシャビシャになった衣服も干し着替えを取り出しせっせと身だしなみを整える。


「いや〜、今回は流石に死ぬかと思ったなぁ」

 実際危なかった。この建物を見つけられなかったら今頃どうなっていたか分からない。

 ここは旧時代の建物のようだ。旧時代とは人とAIが戦っていた時代以前の事を指す。

 この旧時代の建物こそ私の探しているものだ。旅の行く先行く先で毎回立ち寄っている。

 ……もう、みんなには会えないのかな。そんな不安が募る。


 この世界で1人になる事は死を意味する。

 AIとの戦争の終戦から約200年経っているらしいけど未だにAI達は世界中で暴れ人類を殺している。

 いつ死んでもおかしくない。

 おじさん達もある程度は探してくれるだろうが見つからなければ見捨てられるだろう。そういう世界だ。

「まぁ、運も良い事だしここまま探索しようかな」

 そんな独り言を呟く。

 とりあえずやる事もないし探索。懐中電灯をもって薄暗い建物の中へ入っていく。

 何かいいものあるかなぁ。


 奥に進むと大きな広場のようなところに出た。

 真ん中に積み重なった瓦礫には天井からの光も相まって幻想的な風景になっている。


 カラン

 突然そんな音が響いた。

 広場に足を踏み入れた時にやっと私はレーダーの反応に気づいた。

 即座に腰にかけている護身用の小銃を手に取り当たりを見渡す。

(気づかなかった)

 しかし、特に何を起きず不思議に思っていると瓦礫の下に人のような物が見えた。

 人型のAIだ、珍しい。人の体には不相応な長い2本のプラグが腰から伸びている。これがなかったら人間と言われても違和感なんて感じないだろう。

 以前にもこのタイプのAIを見たことがあったからすぐ分かった。あの時はもう壊れてて何も分かんなかったけど。



 AIにも2種類いる。旧時代に作られた人型と戦争の際にAI自身が作った戦闘用AI。

 人型には戦闘機能は無く戦争によりほとんどが壊され活動停止に至ってるらしい。

 こういう情報はこういう旧時代の建造物などで得られるため見つけたら寄るようにしている。

 まぁ解読できる人もたくさんいる仲間の中で私とおじさんくらいなものだけどね。

紙とかあったらみんなに伝えることできるのに。とても口頭で伝えきれるものでは無い。昔の言語は多かったみたいだしね。

 それはそうとその人型は瓦礫に押しつぶされ身動きが取れなくなったのかほとんど活動を止めてるみたい。

 あぁ、びっくりした。死んだかと思ったよ。

 思わず死を覚悟したね。


「人間……?」

 とりあえず他に何かないかと動き出した時そんな声が瓦礫の方から聞こえる。

 誰だ?こんなところに人間がいるとは思えない。いるとしたら物を奪うことで生計を立てている盗賊たち。だか動いていないとはいえAIが近くにあるのが分かっていながらこんな場所をわざわざ選ぶだろうか。


 それに聞こえた声に害意は感じられなかった。むしろ話しかけるのを躊躇った後のような弱々しく小さな声だった。

「誰?」

 意を決して私は返答する。

 色々な可能性を考慮しある結論に至る。

 話しかけて来たのはAIだ。

 他の可能性もある。実際AIが人類に話しかけてくるのもおかしな話だ。なにせ人類を崩壊に導いたのはAIなのだから。


 私もそうだと普段なら思いすぐさま逃げ出すだろう。だけど私の直感がここに留まれと強く主張する。なにか面白い事が起こりそう、そんな直感。

 そんな時瓦礫に埋もれていたAIが這いずり出てくる。

 改めて見てみると綺麗な容姿をしてる。透き通るような白髪は腰あたりまで伸び辺りの風景も相まって神々しさを放っている。

 ていうか無事だったんかい。


「そうだね。うむ、マキナと呼んでくれ。」

「マキナ(機械)とは安直な名前だね」

「まぁ確かに。でもいい名前だと思わないかい?何よりしっくりくる」

 彼女はふふと微笑みながらそんな事を言ってくる。まぁ本人がそれでいいならいいか。


「私はエリー、よろしく。で、マキナは私に何が用があるの?」

「いやー。気づいたらこんなところに居てね。話し相手くらいにはなって貰えないだろうか?」

 え?

 AIの方から対話しようとしてきた。なにそれ、ありえない。

 普段なら絶対にそんな事を言わない。人間を見つけたら発砲してくるのがAIだ。

 そんなAIが対話しようと話しかけてきた。

 それって……それって……。



 すっっっごく面白い!!!!

 いつか話せないかと思っていた。

 どういうことを思っているのか凄く気になっていた。

 なんで私たちを襲うんだろう。どうして人間が滅ぶまでに至ったのだろう。なんで戦争を起こしたんだろう。

 ものすっっっごく気になる!!!


「もちろん!!いっぱい話そ!」

「おお、やけに積極的だね。もっと気味悪がるかと思っていたのに」

「気味悪がる訳ないじゃん、こんな面白いこと」

「そ、そう?」

 マキナは少し困惑したような声を漏らす。


「ねぇ、いろいろ教えてよ。私いろんな事知りたいの」

「いいけど私分からない事結構あるよ。記憶失ってるからね、ほとんど答えられないと思うけど......」

「へ?」


 記憶失ってる?

AIが?

 それじゃあ教えてもらう事出来ないの?

 なんでなんでなんで、なんでそんな事になってるの!

 AIは自身のメモリーに記憶を保持している。記憶を失うなんて普通は起きない。損傷してたらおかしくないけど普通に受け答え出来てる。


 面白い!

 なんて面白いんだ!

 あぁ、やっぱり世界は面白い。わかんないことがいっぱいある。なんて面白いんだ!

 スっと手を伸ばしマキナに問いかける。

「ねぇ、あなた私と一緒に来ない?私はあなたにすっっっごく興味がある」

「あぁ、まぁ良いよ。君について行くと面白そうだ」

 マキナは私の手をギュッと握って薄く微笑んだ。

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