【THE考察】冒険者ランクについて考察をしてみよう
おはこんばんちは、でもんです(年齢バレる)
さて、今回は珍しく小説ネタのエッセイを書いてみたいと思います。
テーマは『冒険者ランク』です。
異世界テンプレでは王道とも言える冒険者ギルドにおけるランク制。
このランク制がある世界観を起点にボトムアップで、ランク制が導入された背景から冒険者ギルド、最後は職業としての冒険者について考えてみたいと思います。
まずは定義からですね。
何を語るにも導入にあたっては用語定義は大切です。
【定義:冒険者】
冒険を生業とする人。
冒険とはダンジョンの探求、魔物の討伐から、護衛、未踏破地域の探索、暗殺、失せ物の捜索、特定資源の採集など多岐にわたるものとする。
【定義:冒険者ギルド】
冒険者に対し、「冒険」を斡旋する機関。
【定義:ランク制】
冒険者が冒険者ギルドに所属する際、その冒険者ギルド内における位置づけを階級的に表現する制度としてみます。
作品によって多少誤差はありますが、いわゆるS級、A級とかミスリル級などで表現される世界においては上記のような考え方で表せるかと思います。
そして、なぜランク制が導入されているのかという背景を考えることで、主人公が生活する社会の構成は大きく変わってくることになります。
① 冒険者ランクは何のための制度なのか?
ボトムアップで考察ということで、冒険者ランクが何のための制度なのか、なぜそういった制度が発生したのかという考察の起点となります。
ここでは大きく2つの可能性を検討します。
(1)取引先のランク分けとして利用
冒険者ギルドにとって冒険者は一種の発注先として考える世界である場合に採用される制度になります。
現代社会で考えると、「発注与信」にあたる概念ですね。
冒険者ギルド内における冒険者(取引先)の信頼度から、そのランクを定義するため、場合によっては冒険者が自分がどのランクに位置づけられているか知ることはできません。
この世界では、「冒険」の斡旋は掲示板に貼られるようなことはなく、個別のブースで発注担当(ギルドの受付)から、仕事の紹介を受けるような取引形態が想定されます。
「あなたに紹介できる依頼(案件)は、こちらになります」
「是非、お願いしたい依頼があるのですが、引き受けていただけないでしょうか」
こういった会話がブース内で広げられることでしょう。
ただ、ここまでくるのはエリート冒険者となります。
取引先のランクでしかないランク制の世界では、冒険者になるというハードルが低くなります。
そして新人冒険者や実力の無い冒険者は日雇い労働のような案件しか回ってこないことでしょう。
日雇いの冒険者は屋内の個別ブースで仕事をもらえることは出来ません。
専用の受付窓口がある建物の外で、早朝から並ぶことになります。
きっと、このような世界では冒険者の地位は低いでしょう。
「今日は薬草採集5名、炭鉱警備2名、城壁外周の警備12名、以上だ!」
「待ってくれ! 朝から並んでいたんだぞ。昨日は薬草採集、11名だっただろう!」
「昨日の冒険者が1.5日分の採集をしてくれたんだ。だから今日は5名で十分という判断になっている」
こんな毎日を送ることになります。
仕事にあぶれた者たちは安酒を飲むか、鍛錬を積むか、冒険ではない日雇いの肉体労働へ向かうか。
いつか上の仕事が取れることを夢見て日々を送ることになります。
日雇いに近い形態の冒険者ギルドは公営となるかもしれませんね。
労働をしてもらい、収入を確保してもらうというのは治安政策の一環です。
新人レベルでできる冒険は国が用意する。冒険者から見ると本末転倒な世界なのかもしれません。
取引先を管理するランクとなった場合、上述した政策的な位置づけの仕事を除き、冒険者ギルドは民営であることが想定されます。 冒険者ギルドの業務は「冒険」を受注し、「冒険者」へ発注する商社的な形態か、「依頼主」と「冒険者」を引き合わせる仲介業としての2形態が存在することまで、考慮していくと面白いかもしれません。
地域間、国家間をまたがったグローバルな冒険者ギルドだったり、冒険者ギルド協会といった職域における連合組織が時代の経過とともに生まれてくるのでしょう。
主人公が登場する世界は、どのくらい冒険者ギルドが組織化された時代設定なのかと考えていくと、冒険者ギルド定番の「いらっしゃいませ、冒険者の登録ですか?」というイベントも、より深みが増しそうです。
(2)資格としてのランク制
物語としてはこのパターンの方が多いのではないでしょうか。
冒険者ギルドに登録すると最初はE級や木級といった、いかにも初心者っぽいランクからスタートし、その貢献度や活躍からランクが上がっていく世界。S級、SS級は世界に数人しかいない、みたいな心をくすぐる設定となります。
冒険者に仕事を斡旋する際に受託側の冒険者がその資格を保持していることを条件とする社会というものが、この場合の社会背景となることでしょう。
このランク制ですが、大きく2つの形態が考えられます。
それは国家資格なのか民間資格なのかの違いです。
(2)-1. 国家資格としての冒険者ランク
国家資格とした場合、国家間の連携というものがどこまで進んだ世界なのかによって、それが国家内独自のランク制度なのか国際的な資格となるかは変わります。
ただ、まだ戦争による紛争解決が当たり前という国際政治が未成熟な時代では国際的な資格となるのは難しいと思われます。
そうなると国家間で協定が結ばれていればA国のランクSは、B国ではランクCとして扱うということができたり、国交の全くない国では自国のランクが全く通用しないといったことが考えられます。
そもそも、国民に移動の自由があるような世界自体、かなり成熟した世界のため、実際は国をまたがった冒険者の活躍というのは難しい気はします。
「A国冒険者、ランクはBだ。よろしく頼む」
「なんだ、その資格は? とりあえず冒険者登録したいのなら木級から始めろ」
「ちょ、ちょっと待て。ランクBだぞ……上から3番目の資格だ。なぜ木級など一番したから始めなければいけないのだ?」
「はぁ、知らんよ。そんなものはここでは役に立たん。まずは木級、木級で一定の依頼数を1年以内にこなせば1年後は自動的に鉄級に昇格する。その後も依頼数と昇格試験、それと業務経験年数で昇格していく仕組だ。上から3番目だと白銀級。順調にいって20年後だな」
国家資格だと、きっとこんな杓子定規な運用になりそうですね。
特例的な運用というのは癒着、腐敗の温床になります。
よって国家資格の場合、業務経験年数など実力以外の条件が紐付く。そんな世界観でも面白そうです。
「20年後? 引退している年じゃ無いか?」
「そうだぞ。普通に活躍した冒険者が引退前に到達する名誉的なランクが白銀級だ。その上のクラスになると国王の推薦が必要になってくるからな。そう簡単にはなれるもんじゃない」
「うがぁぁぁ」
一方で国家資格である以上、冒険者業というのは専門性のある集団とも言えます。
専門的な学校を卒業することで初めて得られる資格だったり、何かの業務に一定期間就くことで得られる資格なのかもしれません。
「村から出て冒険者で名を上げるんだ!」
「でも学費が出せないの」
「母ちゃん、奨学金制度っていうのがあるんだ」
「冒険者なんて命の危険がある仕事なんでしょ、卒業してすぐ死んじまったら借金だけが残るじゃないか」
「だったら冒険者大学校を目指すよ。ここだったら国の運営だし、学生の間も公務員として給与が出るんだよ」
「そこに行くためには予備校に通わないといけないっていうじゃない。そんなお金、どこにも無いのよ」
こうして、幾多の若者が冒険者の道を諦めていくのかもしれません。
裕福な商人の子息や貴族だけが目指せる職種になり、集まる依頼というのも、エリート集団に相応しいものだけだったりする。
そんな世界観も面白そうですね。
(2)-2. 民間資格としての冒険者ランク
こちらは(1)の世界観と少し似ていますが、冒険者ギルドが独自に冒険者ランクの資格を発行して運用する世界観になります。
そして、もっと阿漕な世界かも。
民間資格となると、いくらでも設定が可能です。
この世界では民営の冒険者ギルドがいくつも乱立しているため、どの冒険者ギルドでランクを取るか……といったことも大切になります。
「うちだったらS級は、2週間の合宿で取得可能です!」
こんなうたい文句で研修だけで利益を出す冒険者ギルドも出てくるでしょう。
世界的に名の知れた大手ギルドのランクであれば、どこでも通用するかもしれませんし、どれだけ実力があっても零細ギルドであれば、価値はありません。
通信が発達していない社会では「口コミ」は非常に狭い地域限定のものとなるため、民間発行の冒険者ランクというものは、実運用上、無意味なものになる可能性も高くなります。
民営の資格がある世界では、冒険者の地位はあまり高くないと思われます。こちらも(1)の世界観と同じですね。
そして冒険者ギルドが収益を上げるため、良質な冒険者を抱え込むための制度とも言えます。
現代社会における民間資格と同じ概念ですね。
ここまでの考察で、そもそも冒険者ギルドという組織は成り立っていくのかという点について考察する必要がありますね。
② 冒険者ギルドの成立
(1)国営(公営)の場合
前述しましたが冒険者ギルドが国営の場合、それは公共事業的な側面が強くなります。
国家機関の一つとなるため、様々な制約の中で運営されることになるでしょう。
ただその設立背景により国とギルドの力関係は大きく変わります。
元々、民営あるいは互助組織的だったギルドを国が吸収したようなケースでは、初代ギルド長が存命だったり初代ギルド長の薫陶が行き届いた2代目ギルド長くらいまでは国家の影響が少ない気がします。
「国がなんと言おうと、俺たちは誇りある冒険者ギルドだ!」
「おー」
こんなノリがいつまでも続けばいいのですが、黄金時代は必ず終わりを告げます。
危ないのは3代目ギルド長くらいからでしょうか。
下手をすると国から役人が送り込まれてきます。
国家財政の危機から経費削減の波が押し寄せるかもしれません。
「なんだよ、なんでこんなに報酬が少ないんだ!?」
「国からの通達で報酬率が下がったんです」
「はぁ? 国なんて関係ないだろ。こっちは命がけで仕事をしてきたんだぞ」
「私の一存ではどうしようも無いんです……」
こんな会話、ギルドのカウンターでして欲しくはないですね。
公営の場合、場合によっては冒険者は準公務員的な扱いになります。
安定した身分と引き換えに月額報酬制となるかもしれません。
「え、ちょ、ちょっと待てよ。ドラゴンだよ? ドラゴンを討伐してきたんだよ?」
「ですので、危険手当(A)が今月支給されているじゃないですか?」
「いや、これっぽっちということはないだろう」
「ですが、たった1日で討伐してしまったじゃないですか。危険手当(A)は日当扱いなので、今回は1日分の支給です」
「じゃ、じゃぁ、1ヶ月戦い続けていれば?」
「1ヶ月分、出ましたね」
「かー、なんかそれおかしくないか?」
「規則ですので」
優秀な人材が流出していきそうですね。
国家機関の場合、独立性の維持、人材の確保と流出の防止が時代の経過とともに重要課題となっていくでしょう。
(2)民営の場合
民営の場合、重要なのは独占企業なのかオープンな市場なのかという点になります。
市場を独占できている場合は、冒険者の立場は弱くなり、冒険者ギルドの立場は強くなります。
一方で、国家とギルドの関係は微妙となり、やがて国家機関に吸収されていく可能性も高くなりそうです。
オープンな市場の場合は、大手から零細まで、その社会的地位はピンキリです。
市場の競争原理が働き、零細ギルドが淘汰されていくそんな光景が目に浮かびます。
都市部では複数の大手と、再委託先となりそうな中堅、さらに安く仕事をこなす弱小ギルドがしのぎを削り、中規模な街では中堅ギルドがお互い仕事を譲り合いながら自分たちのテリトリーを守り、競争できるほど市場がないような小さい街では1ギルド独占あるいは大手の地方支部が進出みたいな状況も想定できるでしょう。
やがて優秀な人材の確保から、民営組織でも月額固定報酬+インセンティブのような体系を導入するギルドが出てきそうです。
「御ギルドを志望したのは、ギルドとしての将来性と若い人材を積極に活用とするというギルド理念に共感したからです」
冒険者登録が、面接になる日も近いかもしれません。
もはや、冒険者とは何なのでしょう。
そんなことを考える必要が出てきそうです。
③ 冒険者とは一体……
冒険者のランク制から考察をしてきたのに、いつのまにか企業の採用面接に挑む若者像が浮かんでしまいました。
これというのも、冒険者という冒険を生業とする職業が冒険者ギルドに所属するという概念とうまくリンクできないことが原因なのかもしれません。
ということで改めて冒険者とは何でしょうということを考えてみたいと思います。
冒頭に定義した「冒険を生業とする人」というのが一般的な職業として成立するものなのでしょうか。
現代でも「冒険家」という職業は存在します。
ですが、国家の労働市場を構成する職業としては、エンタメ的な分野の職業とも言えますし、活動できる市場というのは非常にニッチなものではないでしょうか。
ファンタジーの世界ですので、「ダンジョン」「魔物」といった存在があることから冒険者という職業が成り立ちそうにも見えますが、そもそも「ダンジョン」「魔物」が治安を脅かす存在であれば、その掃討は国家の仕事となります。
そう考えてしまうと、前述したような国家機関としての冒険者ギルドが必要となり、冒険者は公務員扱いになるのが自然ではないでしょうか? こういう組織、どの国にもありますよね? そうです。警察組織です。
国が関与しないまでも地域組織として最低でも自警団的な位置づけで、治安を維持することとなります。
果たして冒険者という職業は成り立つのでしょうか。
あるいはダンジョン自体が希少性のある存在であれば、冒険者という職業が成り立つかもしれません。
これは、ダンジョンを金鉱のような位置づけで考えると面白いかもしれませんね。
危険と隣り合わせに、貴重な資源を算出するダンジョン。
一攫千金を夢見て全国から若者が集まる。
こんな世界であれば冒険者は成立するかもしれません。
冒険者ギルドの位置づけも、ダンジョンの権利者が運営する算出した資源の買い取り組織という形が自然かもしれないですね。
ゴールドラッシュならず、ダンジョンラッシュの街。
魔物や資源が産出し続ける限り栄えた黄金時代。
そんな活気ある世界だけに限定した職業なのかもしれないですね。
考察していくと、冒険者の否定みたいな締め方になってしまいました。
ファンタジーの世界で当たり前のように冒険者ギルドがあり、冒険者ランクがあるというのは、実際はかなり歪な世界観と言えるのかもしれません。もちろんフィクションですので、深く考えずに楽しむというのも大切ですが、こうやって考えていくのも、物語の世界の楽しみ方の一つだと思っています。
私が作家としてキャラクターや世界を作る時、なんらかのフィクション的な要素を元に、そこに生きている人たち、その社会構成、世界というものを創造していきます。
キャラクターは、なぜその職業に就いて、なぜそのような行動原理を持つのか。
キャラクターに生命を吹き込むというための課程として、非常に重要な考察だと思うのです。
読者に裏設定に近い情報をすべて説明する必要はもちろんありませんが、冒険者ランク制度というものが存在する理由を説明しきるだけの背景というものを考察することで、「美人受付嬢」の前に並ぶ新人冒険者の姿が輝いてきたり、テンプレ的な新人いびりの冒険者が存在できる理由なんかも変わってくるのではないでしょうか。
つらつらと書きましたが、読んでいただきありがとうございます。
小説を書くということの楽しさを、こういった言葉遊び的なエッセイも含めて、誰かと共有できてたら、とても幸せだと思い、今回、書いてみました。
また何か思いついたら書いてみます。
ではでは!!!
こういった考察、大好きなのです。
古くはガンダムはなぜ人型なのかと弟と激論したりしていました。
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