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※この作品は「怖話http://kowabana.jp/users/12608/stories」や作者ブログ「夜行列車https://yakou-ressha.com/」にも掲載しています。


※「首くくりの町」「山に入れなくなった話」「外国人労働者」「深夜ラジオ」という作品を先に読んでいると、この作品がより楽しめるかと思います。

秋の気配が強まり、吹きすさぶ風も冷たく、そろそろ紅葉も見頃かなという季節。

俺はいつものように会社のパソコンでネットゲームに勤しんでいた。

同じようにパソコンに向かって、今夜に迫った納期を前に鬼気迫る雰囲気でマウスとキーボードを乱舞させている同僚をチラ見して、俺はモニターに目を戻した。


「…………」

冷たいなんて思わないでほしい。

俺と同僚では抱えてる案件が違う。

今更手伝いを申し出たところで、案件の詳細やら残っている作業の説明を受けている間に夜になってしまうだろう。

俺だって昨日までは納期に追われて徹夜で仕事をしたのだ。

どちらかが納期に追われていても互いに不干渉。

これが俺と同僚の暗黙のルールだ。

クリエイターの矜持なのだ。

そんなアホなことを考えていたら、デスクに置いて充電していたスマホがヴヴッと震えた。

見るとLINEの着信通知が表示されている。

送り主は篠宮さんだった。


「…………」

珍しいなと思うと同時に、あの時の記憶が蘇る。

悪夢のような体験から2年とちょっと。

それきりすっかりご無沙汰していた。

仕事の話かと思いLINEの通知をタップしてメッセージを表示する。

電話してもいいかと送ってきたので、こちらからかけることにした。

連絡先から篠宮さんの名前を探し出し、通話ボタンを押す。

2、3回のコールの後、篠宮さんが電話に出た。


「どうも篠宮です」

「ああどうも、前田です。ご無沙汰しちゃってすいません」

「いえいえこちらこそご無沙汰です。突然ご連絡しちゃってすいません。お時間大丈夫ですか?」

大丈夫ですと返すと、篠宮さんは早速要件を伝えてきた。


篠宮さんの要件はこんな感じだ。

篠宮さんの実家である九州の篠宮神社にどこぞの神様が訪ねてきて、篠宮さんのお母さんに頼みごとをした。

タラチヒメ様に用があるのだが、タラチヒメ様に無視を決め込まれて困っているので、篠宮さんのお母さんにタラチヒメ様とコンタクトを取ってほしいとのこと。

篠宮さんのお母さんもタラチヒメ様と直接面識があるわけではなく、俺を通して軽く接触した程度なので、タラチヒメ様に呼びかけたところで同じく無視されて終わりだろう。

篠宮神社に俺の故郷の山を遥拝(ようはい)?する祭壇を設けて、俺を依り代にして呼びかけるので、俺に篠宮神社に来てほしいのだそうだ。


「…………」

マジか。

タラチヒメ様に呼びかける。

そのために俺を使いたいと。

「………遥拝ってなんすか?」

とりあえずそう聞いてみる。

「遠くから拝むことを遥拝っていうんです。普通は祠や御社を立てるんですけど、今回は簡易的に祭壇を設けるだけですね」

「それで俺は、何のために?」

「依り代っていうんですけど、要はタラチヒメ様に縁のある前田さんを通してタラチヒメ様に呼びかけるんです」

「イケニエ的な?」

「違いますよ笑。あえて言うなら御神体の代わりですかね」

「マジっすか」

「マジもマジ。大マジです」


なにやらわけがわからない話だが、要は俺に九州に来いと言ってるだけだ。

仕事は片付いてるし、助けてもらった恩もある。

俺に否やはなかった。

「わかりました。とりあえず行きますよ。詳しい話は直接で大丈夫です」

「よかった。取材の名目でチケット取るんで、前田さんの旅費もウチで出せますよ。なので身体だけで来てもらえれば大丈夫です」

できる限り早くということだったので、明日の朝イチの飛行機を手配してもらった。


篠宮神社に到着したのは夕方前だった。

冷たい風が吹き抜ける境内の真ん中あたりに、大きな神棚のような祭壇が設けられている。

なにやら準備する神職さんの中に、ひときわ小柄な影が3つ。

巫女の格好をした女性と、少女と老人。

巫女さんの隣には神主の姿も見える。

「ただいま」

と篠宮さんが声をかけると皆が一斉に振り向いた。

軽く会釈する神職さん達。

無表情に見つめる少女。

そして両親と思しき神主と巫女が篠宮さんに歩み寄って話しかける。


篠宮さんが俺のことを紹介してくれる。

神主であり父親の篠宮父は軽く頭を下げてからにっこり笑って、

「こんにちは。前田さんのお話は伺ってますよ。今日は遠いところをお越しいただいてありがとうございます」

と言った。

そして巫女の女性も優しい笑みを浮かべて、

「こんにちは、前田さん。いつぞやはお電話で失礼いたしました」

と言って軽く頭を下げた。

この人が篠宮さんのお母さん。

あの時の謎を解き明かしてくれた恩人だ。

俺は2人に丁寧に頭を下げて挨拶を返した。


「こちらが…」と篠宮母が少女に俺を示しながら言う。

少女は無表情に俺を見て、

「面倒をかける。よろしく頼む」

と言った。

この少女が例の神様なのだろうか。

全く想像がつかない。

見た限りは只の無愛想な少女だ。


はあ、と返事するも俺は未だに何が何やらわかっていない。

篠宮さんが飛行機でしてくれた説明も、頭には入っているが理解はできていない。

目の前で着々と準備が進んでおり、この後すぐにでも儀式が始まるだろうということだけは分かる。

「あの…俺は……何をすれば?」

誰が答えてくれるのか不明だったので、篠宮父と篠宮母と篠宮さんに目線を泳がせつつ聞いた。

「具体的にはご祈祷に同席していただくだけです。おそらく数分で終わりますから、立ったままでその場にいてくれれば大丈夫ですよ」

と篠宮母が言った。

今回の祈祷は神主ではなく篠宮母が行うのだそうだ。

「前田さんとご縁を持っているのは私ですから、私がご祈祷を通してタラチヒメ様に呼びかけさせていただきます。前田さんにはもしかしたらタラチヒメ様から接触があるかもしれませんが、基本的には何もしないで大丈夫です」

接触……。

「あの、そもそも何でタラチヒメ様に呼びかける必要が?」

と聞くと、今度は少女が口を開いた。

「私が答えよう。先日、私の眷属がうっかりタラチヒメの山に入ってしまってな、帰ってこない。タラチヒメは人間は食うが眷属は食わない。そのうち戻ってくるだろうと思っていたのだが、一向に戻ってこんのだ」

タラチヒメ様を思いっきり呼び捨てにしているこの少女、やはり神様なのだろう。

俺にはとてもじゃないが恐ろしくて呼び捨てになんてできない。

タラチヒメ様の狐目を思い出して背筋が凍る。


少女の説明は続く。

「タラチヒメと話そうと呼びかけても一向に答えない。そこでお前を通してタラチヒメを見たことのある、この神社の神嫁を頼ろうと思って訪ねてきたのだ」

カミヨメ?

なんだそれ。

すごい人なのか、篠宮母は。

「神嫁でもタラチヒメと直接の縁がなければダメだということで、お前を依り代にタラチヒメに呼びかけることにした。タラチヒメはお前を眷属と思っている。お前の呼びかけなら応える」

なんと。

眷属とは。

畏れ多いことだ。

それにしても。


「…………」

少女の姿をしたこの神様の要件はわかったが、俺は大丈夫なのか?

少女の話は要するに、

「オメエんとこの親分の屋敷の庭にウチの若い衆が入り込んじまって帰ってこない。だからオメーが親分にナシをつけてくれ」

と言われているようなものだ。

俺は組事務所に入ったわけでもないのに。

でもまあ子分っちゃ子分か。

いや、俺の立場は子分どころか、見逃してもらっただけの三下にすぎない。

二度も無断で山に入った俺は、タラチヒメ様と目があっただけで無礼討ちにされても文句は言えない身なのだ。

今度は食い殺すとも言われている。


「…………」

でも、眷属か。

もし本当にそう思ってくれてるなら。

「…………」

わかりました、と言って少女に頷く。

「よろしく頼む」

と少女は言った。

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