ギャルゲの主人公はやはりモテるのである。
最悪のクラス分けの結果、郁人は幼馴染の美月と別れて、一年一組の教室に向かうこととなった。今からの予定は、最初に張り出されていたクラスに行き、そこで説明を受けて、体育館に向かい入学式が行われる。
郁人は教室の扉を開き中に入ると、すでにクラスに居た女子生徒達の視線が郁人に向けられる。気まずさから、視線を逸らし黒板を見て、そこに書かれていた窓際最後尾という最高のポジションである自分の席に向かい席に着くと、待ってましたと言わんばかりに、先ほどから視線を向けていた女子生徒達が、一斉に駆け寄り、郁人の席を包囲する。
「どこの中学校出身なの?」
「趣味は?」
「彼女いるの?」
そう矢継ぎ早の質問攻めに、困惑の表情を浮かべる郁人なのである。郁人は、持ち前のスキルコミュ障が発動し、あ、いや、その、という言語しか発せないでいた。
そして、郁人は本気で困るのである。困る理由は、男子生徒から向けられる殺意の波動を感じていること、そして単純に、どうして、こんなに女子生徒達は一斉に自分に話しかけてくるのかという困惑からだった。
(なんで、俺にこんなに話かけてくるんだ? 中学の頃も入学式は、女子に囲まれ……質問攻めにあったな。やはり……あれか? 揶揄われてるのか? いや……いじめなのかもしれないな。中学の頃も、女子に揶揄われていたし……男子からは……中学の頃は美月とクラスがずっと別だったから……学校では三年間ぼっちだったな……いや……教室でぼっちになったのは美月とクラスが離れた小学校五年からか……」
郁人は過去の嫌なことを思い出した。女子からは、子供の頃から揶揄われてきたと思っている郁人にとって、女子生徒が単純に好意から自分に話しかけているという考えに至らない超鈍感野郎な郁人なのである。
「はいはい~、皆さん~、とりあえず落ちいてくださいね~。イケメンさんが~、困っていますからね~」
そう言って、女子生徒達を、郁人から引きはがしにかかる美少女が現れた。セミロングゆるふわヘアーの小柄な美少女である。女子生徒達は不満の声をあげているが、郁人は正直ありがたいと思った。そして、その小さな美少女に礼を言おうと思ったが、なぜか、小さな美少女は女子生徒達を一列に並ばせ始める。
「はいはい~、順番に並んでくださいね~、接触は一人十秒までですよ~。じゃないと時間きちゃいますからね~」
(え? 何? 女子達を解散させてくれるんじゃないのか? ていうか接触ってなんだ!? 意味わかんないんだが!? ていうか、みんなきれいに一列に並んでるな。さすが日本人……ていうか何この状況!?)
一人混乱する郁人に向けて、親指を立てて、やってやったぜと、絶壁な胸を張って、ドヤ顔してくるゆるふわヘアーな美少女に対して、郁人はなんて言っていいのかわからずただ困惑するのである。
「あ!! そういえばですね~、わたしぃの名前は細田 宏美っていいます~。これからよろしくお願いしますね~」
「はぁ? えっと、朝宮 郁人だ……その……えっと……よ、よろしく?」
唐突に自己紹介してくるゆるふわな美少女に、困惑しながらも返事をかえす郁人に対し、満面のニコニコゆるふわ笑顔を浮かべるゆるふわな美少女は、列の整理をしていた。いつの間にか手にはストップウォッチを握っている。
「はい~、よろしくですよ~、では~、郁人様って呼ばせていただきますね~。後のことは全て~、わたしぃに任せてくださいね~、わたしぃ、こう見えて~、こういうの得意ですからね~。郁人様のファンクラブ会長になってあげますからね~…わたしぃに全てお任せですよ~!!」
「は? ファンクラブ? 何言ってるんだ? ていうか……普通に名字で呼んでくれないか?」
「……郁人様……大丈夫ですよ~!! わたしぃに全て任せてくださいね~。じゃあ。まずは一人目ですよ~」
「人の話を聞いてくれ……その様つけやめてくれないか……あと、名前で呼ばないでくれ」
「郁人様!! なにしてるんですか~!!! ほら~、最初の方ですよ~!!」
郁人の発言を完全無視するゆるふわ宏美に流されるままに、一人目の女子生徒と無理やり向き合わせられる郁人なのである。そして、ゆるふわ宏美は無理やり郁人の手を出させ、女子生徒と握手させるのである。戸惑い困惑する郁人に対して、女子生徒は顔を真っ赤にして、固まってしまう。
(いやいや、相手嫌がってるだろ? 何だこの状況? どうなっているんだ? 罰ゲームか!?)
「あ……朝宮 郁人様……私……郁人様を生涯推します!!」
(え!? 押す? 何どういうことなんだ!?)
女子生徒は顔を真っ赤にして、そう言って、口元を手で覆う、そんな女子生徒相手に困惑する郁人なのである。そして、はい~、十秒立ちましたよ~。離れてくださいね~。とゆるふわ笑みを浮かべて女子生徒を引きはがすゆるふわ宏美なのである。そして、次の女子生徒が郁人の前に立つ。そして、ゆるふわ宏美に無理やりその女子生徒と握手させられる郁人なのである。
「……郁人様……これから、全力で応援しますね!」
(え!? 応援って……なにを!? 部活はやってないし、やらないんだが!?)
教室は完全に、混沌と化していた。列をなす女子生徒達に、次から次と握手する郁人なのである。そんな郁人に、嫉妬と殺意を向ける男子生徒達である。この状況に完全に困惑し、全く理解できない郁人である。
そんな郁人を置き去りに、ニコニコなゆるふわ笑顔で女子生徒の対応するゆるふわ宏美なのである。しかし、郁人は、さすがに、このままではよくないと思ったので、ゆるふわ宏美に思い切って尋ねることにしたのである。
「あのさ、ほ、細田さん? これどういう状況なんだ?」
「フフフ、宏美でいいですよ~。どういう状況と言われましても~、こういう状況ですね~。郁人様は、そんなことよりですね~、ちゃんと握手してくださいね~、ほら~!! 笑顔で対応しないとダメですよ~!!」
「いや、そう言われても……全く状況がよくわかってないんだが……」
「郁人様は~、にっこり笑顔で握手すれば大丈夫ですよ~。そしたら~、みんな幸せになれますからね~。いいですか~?」
ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべながら、郁人にそう言い放った。そこには有無を言わさない気迫があった。その気迫に負けた郁人は、何一つ状況がわからないまま、次々と女子生徒と握手する。完全に状況がわからない郁人だが、とりあえず、流れに身を任せて、女子生徒達と次から次に握手する。
なぜか、握手するたびに、女子生徒から、歓声があがり、男子生徒からは殺気と罵声が飛ぶ。
(いじめか? これは新手ないじめなのか? 俺……これは確実に高校でもぼっち確定なんじゃないか?)
ニコニコしているゆるふわ宏美に、郁人は再度、疑問をぶつける決意をする。なぜなら、このままでは完全に男子生徒に嫌われ、女子生徒にはおもちゃにされると思ったからである。
「ほ、細田さん……本気でこの状況を説明してもらいたいんだが?」
「宏美でいいですよ~。普通に握手会ですよ~。そんなことよりですね~、にっこり~、笑顔ですよ~」
「いや、握手会って……なんで俺がそんなことをしないといけないんだ?」
「それは……郁人様が……郁人様だからですかね~。無駄話してる暇はありませんよ~、はい、次きますよ~!!」
ゆるふわ宏美は、一瞬言葉を詰まらせて、何かを考える素振りを見せるが、すぐにゆるふわ笑顔に戻り、早く握手してくださいね~!! という無言のゆるふわ圧を発するのである。もはや、郁人はゆるふわ宏美の謎のゆるふわ圧に完全に屈した。意味は全然わからないが、とりあえず、握手するしかないようだと悟ったのである。
そして、心を無にして、次から次と女子生徒達と握手する郁人の前に、一人の美少女が現れる。黒髪ロングヘアーに小顔で、大きな瞳に長いまつげ、スタイルがとても良くて、胸はゆるふわ宏美と比べては天と地の差であり、物凄く豊満であった。そんな美少女は、清楚よろしくと、郁人に握手を求めてきた。とりあえず、郁人は機械のように美少女の握手に応じるのであった。
「そのぉ……ひさしぶりだねぇ……郁人君」
少し顔を赤く染めて、笑いながらそう郁人に挨拶してくる美少女に対して、機械的に握手をこなすモードから意識を戻し、美少女の発言に疑問を持つ郁人は、視線を美少女の顔に向け、少し思い出そうとしたが、全くその美少女の事を覚えていなかった。
(……誰だ!? 昔会ったことあったか?)
さすがに、覚えてないというのは、失礼だと思った郁人だが、この美少女になんて言っていいのかもわからない。困っていると、ゆるふわ宏美が終わりですよ~と引きはがしてくれた。美少女は、清楚笑顔を浮かべて、手を振りながら、また、後でねぇと小声で言い放って去っていく。全く記憶にない郁人は、もう一度、必死に彼女のことを思いだそうとしたが、やはり全く思い出せなかった。
そうこうしているうちに、教室に担任だろうと思われるスーツ姿の女性が扉を開き、教室に入ってきたことで、みんなが一斉に席につくことになる。とりあえず、よくわからない握手会は終わったと郁人は安心していたが、この後更なる問題が郁人を襲うのであった。
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次は美月ちゃん視点です。幼馴染は最強なのですよ。