おいでよ、文芸部へ!
私は所謂貧乏人だ。大好きなアニメの原作を買うお金どころか毎日の食費代も危うい。最近は週刊誌も立ち読みできないように封がされてある。当然スマホも持っておらず、周囲の人と話が合わず孤立している。イジメにすらあっていない。存在そのものが空気だ。
いつものように机に突っ伏して寝ている私。あぁ休み時間なんて一瞬で終わってしまえばいいのに。つまらない。早く家に帰ってアニメを観たい。でも本当は原作を読んでみたい……
そんなこんなで学校が終わって書店による。最近お気に入りのアニメの原作が連載されている週刊誌の値段はワンコイン程度。それが毎週払えたらいいのにな! また原作も10巻以上出ている。到底手が出せない。頭の中でアニメのOPが流れる。読みたい。すごく読みたい!
「篠崎さんって週刊ステップ読むの?」
気が付くとクラスのオタクグループが私を囲んでいた。これまた厄介な……本当は関わりたいが彼女らはクラスから浮いていて煙たがられる存在であったからだ。たまに消しゴムのかすを投げられているのを見かける。それには理由があるのも知っている。彼女らが放課後に図書室で活動している“文芸部”だ。
「わぁ、じゃあ文芸部に来なよ! 何が好き? 推しキャラは? BLとか好き?」
質問が止まらない。しかし、非常にムズムズした感覚がある。
(うわぁーめっちゃ話してぇー……)
私は心の底でそう思った。でもやっぱり異端者扱いされるのは嫌だなぁ。友達は欲しいけど、何となく私のプライドがそれを許さなかった。しばらく黙っていると、彼女たちは口をそろえて
「あ、そうそう『止めの刃』全巻そろってるよ!」
と言った。な、何だと!? それは今私が読みたいアニメの原作ではないか!! ……ということで、勢いで入ってしまった文芸部。帰宅部だった私が放課後に初めて入った図書館には彼女らしかおらず、キャッキャと漫画やアニメなどの話で盛り上がっている。うわ、混ざりたい!
「新しい部員を紹介しまぁす! 篠崎さんでーす♪」
拍手や割かし大きめな声で歓迎してくれる部員たち。オタクって案外明るいんだ。噂には聞いていたけれど、賑やかだなぁ……根暗な私についていけるかな。周囲を見やると、さっそく見つけた『週刊ステップ』そして『止めの刃』。
「読んでもいいですか?」
「わぁあああ! 私その漫画すっごい好き! ぜひぜひ、沼にはまれ~」
沼とは? ……まぁいいか。読んでみる。面白い。一気見していると時間があっという間に過ぎた。そして帰り道の方向が同じ神崎さんという人と歩いていたらこう言われた。
「周りからどう思われようと、好きなことを好きと言えればそれだけで幸せ。文芸部は私たちにとって大事な場所なの。あそこは私を明るい人間に変えてくれた。篠崎さんのことずっと気になってたの。もしかしたら私たちと同じなんじゃないかなって。あ、おせっかいだった?」
「ううん! すごく楽しかった……私お金ないけど、部活に入れるかな?」
「持ち込み制だから、おしゃべりや漫画は無料でできるよ。会費とかないし、おいでよ」
「……ありがとう!!」
それから私は毎日放課後に文芸部に通う事になった。中には私に大量のお菓子やパンなどをくれる人もいて生活も助かっている。そんな私が、ある日机で突っ伏している生徒を見かけた。その子のかばんには『止めの刃』が入っていた。すかさず私は狸寝入りしている彼女を起こして
「おいでよ、文芸部へ!」
と声をかけた――