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僻地宿場町のお奉行様 今日も妖怪変化相手に御沙汰を下し候  作者: ふーろう/風楼


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もやとの対決


 善右衛門の放った一撃を受けて、岩はそのひびを大きくし、致命的な音を上げ始める。


 びしり、ばしりと響くその音は、ひびが大きくなるにつれて大きくなっていって……そうして岩が砕け散るかと思われたその時、岩から滲み出ていたもやが、砕け散るのを防ごうとしているのか、岩に抱きつきながら悲鳴のような声を上げる。


『もう、もうやめておくれ!!

 せっかくここまで戻したのに、せっかくあと一歩で復活出来たのに!

 酒でも肉でも金銀財宝でも、お主の望むものをくれてやるからやめておくれ!!』


 涼やかで潤いを含んだその声は、言葉に出来ない程に美しく、常人であればもう一度是非に耳にしたいと、一度どころか何度でも耳にしたいと、そう思ってしまうような声だった。


 ……が、善右衛門の耳はそうは捉えなかったようで、とにかく不快で仕方ないと言わんばかりの表情となった善右衛門は、その声の一切を無視してもう一撃を加えてやろうと錫杖を振り上げる。


『や、やめておくれ! やめておくれ!! やめておくれ!!!

 何故尚も手を出そうとする! 何故我の言葉に耳を貸さぬ!!

 何でも望むものをやるというのは嘘ではないぞ! 夢幻の類などではない、手にとれて、しっかりと口に出来、ちゃんと使うことの出来る本物をくれてやると、そう言っておるのだ!!』


 その声を受けて、更に不快そうな表情となった善右衛門は、錫杖での一撃を……先程残った力の全てを使った為に鋭さも迫力も失われた、鈍い一撃を放つ。


 善右衛門のその一撃を、妖力か何かでどうにか受け止めて防いだもやは、更に声を……泣き声交じりの声を上げる。


『嘘ではない! この期に及んで、こんな状況で嘘を言う程愚かではない!!

 お主の望むものを、望むだけくれてやるから! 我はそれだけの力を、九尾を有した妖であるとお主も知っておろう!!

 どうかどうか慈悲を、一時の慈悲を我に……!!』


 一撃を防がれてふらりとよろけた善右衛門は、息を整えながら体を休めて、更なる一撃を放つための力を溜め込み始める。


 そんな善右衛門の聞く耳の無い様子を……一切の慈悲を持たない様子を見て、もやはひぃひぃと聞くに堪えない泣き声を上げ始める。


 その声を受けて、もやを哀れに思ったのか、それとも鬱陶しく思ったのか、仕方なしといった態度で善右衛門が口を開く。


「……そんな力があるのなら、そんなことが出来るのなら何故古の時代にそうしなかったのだ。

 俺はお前のことを詳しくは知らんが、それでも今に名が残る程に高名であったのならその機会は十分なほどにあったはずだ。

 その力でもって人々を救い、人々を富ませ、人々を飢えから助けていたのなら、今頃お前は人々に神として崇められ、神の座とやらに至っていたのではないか?

 ……だがお前はそうはせずに好き勝手に暴れて末に後世に悪名を残し、あまつさえ死して尚、毒だ瘴気だといったものを撒き散らしている。

 そんなお前の言葉を信じられるものか、同情や情けを抱くものか。

 全ては自業自得、お前のやってきたことがこの結末を招いているのだ。

 いい加減十分過ぎる程の時を生きたのだろうし、すっぱりと滅んで地獄に落ちるが良い」


 淡々とした態度で、一切の感情を込めずにそう言った善右衛門に対し、もやは激しく憤り善右衛門に襲いかかろうとする……が、すかさず善右衛門の足元に控えていた八房が、


「ひゃわん!!」


 と、吠えてもやを威嚇する。


『今は善右衛門の手番がゆえ大人しくしているが、この八房、いつでもお前を噛み砕く準備は出来ているぞ』


 と、言葉ではなくその神力で、迫力でもってもやに伝えた八房は、周囲に漂う瘴気をわざとらしい仕草で吸い込んで、自らの力へと変えてみせる。


 その様子を見てもやは、目の前にいる者達が自らにとっての天敵であることと、自らがどうしようもない程に追い詰められているとようやく気付いて……深く深く絶望する。


 今まではその色香で、妖力で、口車で、様々な窮地を乗り越えて来た。

 だがそれらが通じないとなったら一体どんな手が残されているというのか、どんな手を打ったら良いと言うのか。


 大体において何だって神が人に手を貸しているのだ。

 神なら神らしく天上に住まって、人の有り様を見下していればいいものを。


 この地は右を見ても左を見ても神神神と、神ばかりで、ありえない程に神が多すぎる。

 ……なんだってこんな地にやってきてしまったのか。

 海を超えて東の地に行けば不死の伝承があるなどという与太話、信じなければ良かった。


 ……ああまったく、我が一体何をしたというのだ、我欲のままに生きて何が悪いというのだ。

 我にはそれに相応しい力があり、力に相応しい地位と名誉と財貨を望んだだけのこと。


 我は悪くない、全く悪くない、我の邪魔をするこいつこそが悪なのだ……!!



 と、絶望の果てに考え込み、そんな結論を出したもやは、善右衛門へと襲いかかろうとした―――その瞬間、八房に噛み砕かれ、本体である岩を善右衛門に叩き砕かれ、悲鳴を上げる間もなく雲散霧消してしまうのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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