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僻地宿場町のお奉行様 今日も妖怪変化相手に御沙汰を下し候  作者: ふーろう/風楼


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本日三話目の更新です

 遊教が宿場町にやって来てから何日かが過ぎた日の朝。


 蝉の声と町を流れるせせらぎの音を楽しみながら朝餉を食んでいた善右衛門は、開け放たれた戸の向こうの、隣家を視界に収めるなり首を傾げて……そうして小さく悩んだ後に、目の前に座るけぇ子へと疑問の声を投げかける。


「遊教が住んでいるはずのあの隣家、今朝も昨日も一昨日も異様なくらいに静かだが……何かあったのか?

 遊教が住んでいるのに静けさに包まれているなど、まずあり得ないはずなのだが……」


 善右衛門のそんな声に対しけぇ子は少し困ったような、戸惑うようなそんな表情を見せてから口を開く。


「えぇっとですね……以前、善右衛門様がしてくださった遊教さんのあのお話。

 あのお話を……こう、町の皆さんにもお話したんですよ、遊教さんはそういうお方なんだって知って貰う為に。

 当然こまさんにもお話したんですが……どうやら遊教さんはその、こまさんを口説こうとしていたようでして、その折にそんな話を聞かされたこまさんは、遊教さんのことを完全に相手しなくなったと言いますか、袖にしたようなんです。

 ……で、遊教さんはそんなこまさんに振り向いて貰う為というか、見返して貰うため、真面目な自分を見せるとかそんなことを言いながら権太さん達と一緒に殺生石の探索やお仕事の方を頑張っているようなんです」


 けぇ子のそんな話を聞くなり善右衛門は大きな溜め息を吐き出す。


 遊教らしいと言えばらしいが、全く何をやっているのだろうかと呆れて……そうしてから善右衛門は、けぇ子に言葉を返す。


「……なるほどな、あいつらしいというか、なんというか。

 相変わらずのようで何よりだ」


 皮肉と呆れを込めてそう言った善右衛門は、もう一度小さな溜め息を吐いてから言葉を続ける。


「ところで探索の方は良いとして、遊教の『仕事』とは一体何をやっているんだ?

 ……この妖怪だらけの町で坊主の仕事と言っても、やることが無いだろう?」


「最近は主に鬼祓いをなさっているようですね。

 聞きたがる子がいれば念仏を唱えたりもしてらっしゃるようですよ」


「念仏はまだしも鬼祓いとは何を馬鹿なことを……。

 ん? いや、そうか、妖怪が居るのであれば、鬼も居る……のか?」


「……『居た』と言うのが正確な所でしょうか。

 鬼はもう、何百年も前に滅んでしまった者達ですから……」


 そう言ってけぇ子は、けぇ子が知る『鬼』についてを語り始める。


 真っ赤な肌を持ち、巨躯であり、怪力であり、角が生えていて、何もかもを食らう鋭い牙が生えている。

 人に近く、妖怪にも近く、独自の文化を持つ、かつての日の本に住んでいた一つの『種族』


 その性格は暴虐と呼ぶにふさわしく、自分達以外の全ての生き物を痛めつけ、殺し、食らうことを喜びとし、日の本各地にまさしく地獄絵図と呼ぶに相応しい光景を作り出していた。


 人と鬼は近すぎるが故に相容れず、獣と鬼は遠すぎるが故に相容れず、人と争い、獣と争い、その圧倒的な力と妖力でもって人と獣を圧倒した怪物。


 しかし鬼はやり過ぎてしまった。


 やり過ぎたが為に、人と獣が手を取り合う結果に繋がり、手を取り合った人と獣に幾度かの大戦で敗北し、その勢力を大きく削られることになる。


 有名所でいえば桃太郎が率いた犬変化、猿変化、雉変化による連合軍。

 一寸法師と名乗った鼠変化と人の姫が率いた連合軍。

 坂上田村麻呂と、その妻であり鶴変化である鈴鹿姫が率いた連合軍。

 

 そうした連合軍との大戦で、その数を大きく減らすことになった鬼達にとどめを刺したのが―――。


「―――かの頼光四天王となります。

 源頼光様率いる、熊変化、鷹変化、狐変化、狸変化の連合軍は、かの悪鬼、酒天童子率いる鬼の軍とぶつかりあい、激しいぶつかりあいの末に頼光様とそれぞれの妖怪達の長を酒天童子の下へと送り届けることに成功しました。

 そうして酒呑童子が討ち取られ、鬼の軍は……最後の鬼の軍は壊滅することになったのです。

 それから数百年が経って、もう鬼なんて何処にも残っていないのでしょうけれど、それでもかの鬼の恐ろしさは代々言い伝えられていますから……鬼祓いを、鬼除けをしてくださるのはありがたいことだと思います」


 そう言って説明を終えたけぇ子と向かい合いながら善右衛門はふーむと唸り声を上げる。


 色々と自分の知らない話というか、自分の知る常識とは全く違う話をされてしまったなと、けぇ子の話を飲み込みながら困惑し混乱する善右衛門。


 そうして唸り、かなりの間唸り続けた善右衛門は、


「まぁ、妖怪がこうして目の前に居るのだから、そういうこともあるか」


 と、そんなことを呟いて、この件に関しては深くは考えないようにしようと、心に決めたのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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