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僻地宿場町のお奉行様 今日も妖怪変化相手に御沙汰を下し候  作者: ふーろう/風楼


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善右衛門と遊教

本日四話目の更新です

「だーーっはっはっは!

 こいつ、こいつ……! やりやがったぞ! こいつめ!!」


 善右衛門からこれまでの事情を聞いた遊教は、道の真ん中であぐらをかきながら大きな笑い声を上げる。


 笑って笑って笑い続けて、堪えきれないとばかりに錫杖を何度も地面に叩きつけ、己が拳で地面を殴り、その顔で大声で、全身でもって笑った遊教は何度かの深呼吸をしてから、遊教にしては真面目な、緩んだ表情を作り出して善右衛門へと向き直る。


「あーあー、全く。うちのお偉いさん方がこの話を聞いたらどんな顔をするやらなぁ。

 ここ数ヶ月の大騒ぎとお偉いさん方の頑張りは全部無駄でしたと、そういう訳か!

 しかもそれをよりにもよってあの不信心者の善右衛門がなんとかしちまうとはなぁ……あーあー、全く、この世は諸行無常だねぇ」


 そう言って首を傾げて、傾げた顎をあおり上げて唸る遊教を見て、なんとも言えない表情をした善右衛門が言葉を返す。


「……先程からお前は一体何の話をしているんだ?」


「いやいや、そりゃぁあれだよ、善右衛門。

 九尾の狐の話だよ。

 九尾の狐……いやさ殺生石は、拙僧のような信心者達が封印し、管理し、監視していたものなんだよ。

 それが突然全国各地から消え失せちまって、結果神社も寺も幕府も、かしこき所すらも何処もかしこもが大混乱!

 やれ九尾の狐の復活だ、やれ末法の世が訪れると大騒ぎをしてな、それで今各所で信心者達が大慌ての大捜索をしている所だったんだよ」


 なんとも言えない表情をし、様々な感情を込めた声を吐き出す遊教に対し、善右衛門は胡乱げな表情を浮かべ……そうしてからため息混じりの言葉を返す。


「……それはあれか? いつものほら話の類か?

 お前のほら話は荒唐無稽ながら無害が故に許せていたが、幕府だのなんだのと、お上の名前を出してのほら話は全く笑えんぞ」


 そんな善右衛門に対し、遊教は「待て待て待て!」と片手を上げて善右衛門を制し、そうしてから言葉を返す。


「いやいやいや、今回ばかりはほら話じゃぁ無ぇよ。

 はるか昔、妖狐と人との間に生まれし安倍晴明が、鬼神と人との間に生まれし上総権介の力を借りて行った大討伐以来……神道、仏教、陰陽道はそれぞれの方法で九尾の狐を復活させないようにと尽力して来たんだ。

 まー……殺生石を利用して力を得ようとした馬鹿とかも居て、勢力それぞれの思惑もあってごちゃついたこともあったがな……そうした勢力争いを嫌った玄翁様が殺生石を砕き、それぞれの勢力がそれぞれの方法で管理せよと別け撒いてからは、何処の勢力も封印、管理に徹していたんだよ。

 ……いや、本当だから、ほらじゃねぇから!

 善右衛門、てめぇ、少しは友の言葉を信じる努力をしやがれよ!!」


 遊教の話が進めば進むほど、その顔をなんとも酷い形に歪めた善右衛門に対し、そう声を上げる遊教だったが、善右衛門はその疑いを拭いきれずにその表情を変えようとはしない。


「……そもそもだ、遊教。

 『狐と人の間に子が出来た』という時点でもう疑わしいにも程がある。

 話にならんぞ」


「いやいやいやいやいや、巫山戯んなよ善右衛門。

 そんな美人の狐の姉ちゃんをはべらせておいて、なーにを言ってやがる。

 すげぇ美人じゃねぇか、滅法矢鱈の美人じゃぁねぇか!

 これ程の美人、お江戸でも京でもお目にかかれねぇぞ!!

 出来るだろ、これだけの美人相手なら子は出来るだろ! むしろ拙僧が作りてぇ!!」


 と、遊教がそう言った瞬間、善右衛門の履いていた草履が遊教の顔面にぶち当たる。

 遊教の顔を足蹴にし、そのまま足でもって突き倒した善右衛門は、そうしてから遊教に対し冷たい視線を浴びせかける。


「当人を前にしてお前は一体何を言っているんだ。

 相変わらず礼節というものを知らんようだが全く……程々にしておけよ」


 そう言って善右衛門がこまの方へと視線をやると、こまはその顔を赤く染めて、その顔を両手で覆い隠しながら……ちらちらと善右衛門の方へと熱い視線を送って来ている。


 そんなこまを見て善右衛門は、そうされた所でどうにも元の、狐姿の方がちらついてしまうなぁ……と、そんなことを思ってしまうのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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