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あえて、開けないままで

 ――昼休み。


 今頃ルナとロッタは一緒に昼食をとっているはずだが、そんな二人を置いて俺は一人で屋上にやって来ていた。

 元の世界で俺が通っていた学校の屋上には行くことができなかったけど、この学校では大丈夫なようだ。


 屋上には、俺以外には誰もいない。

 だからこそ、アンジェは人目を気にせず自由に空を飛び回っている。


「一人でたそがれちゃって、どうかしたんですかー?」


「いや……ちょっと考え事をな。あいつらと一緒だと、考え事をする余裕すらなくなっちまうんだよ」


 普段の口調が出てしまわないよう気をつけて喋るのは、かなり神経を遣う。

 元々俺は人付き合いが得意ではないし、こうやって誰かを欺いたりすることも苦手なのだ。

 少しルナたちと会話をするだけでも異常なまでの疲労を伴うため、休憩の時間が必要なのである。


「大変そうですねぇー、お疲れさまですー」


「……何で他人事なんだよ。ま、あいつを絶対に守るって決めたんだから、今更いいんだけどよ」


「……」


 俺の返答に、アンジェが何やら真顔で俺を見つめてくる。

 試しに睨み返してみても、一切動じない。

 いつも笑顔でおちゃらけているくせに、時々こうして真面目そうな顔になるのが不気味だ。


「……何だよ」


 たまらず、苛立ちを隠そうともせずに問いかける。

 すると、そこでようやく気づいたのか、はっとして再び腹立つ笑顔に戻った。


「えっ? あ、ああ、すいませんすいません。ちょっとだけ、気になることがありましてー」


「……気になること?」


「はいはいー。いいですか? 訊いちゃっても」


「そりゃあ、内容による」


「ほんとですか!? 今、何でもって言いましたよねっ?」


「何でもとは言ってねえ」


 この世界の精霊であるはずのアンジェが、何でそのネタを知ってるんだよ。もちろん、本人もそのつもりじゃなくて偶然なのかもしれないが。

 アンジェはこほんと咳払いをし、気になっていることとやらを口にした。



「ルーチェさん――いえ。コウさんって、何があったんですか?」



「……は?」


 その質問を聞いて、俺の喉から無意識に発せられたのは、そんな一文字だけ。

 別に、上手く聞き取れなかったわけでも、言葉の意味が理解できなかったわけでもない。

 むしろ、嫌というほど質問の意図が理解できてしまったから、俺は動揺を隠すことすらできなかった。


「ルナさんに対する気持ちもそうなんですが……何だか、女の人の泣き顔みたいなものにすごく弱い。いや、弱すぎるような気がします。女が苦手、女に弱いっていうのもあるとは思います。でも――昔、何かがあったことは間違いないですよね?」


「……」


 俺は答えない。答えられない。

 女が苦手。女に弱い。もちろん、それだって間違いじゃない。

 だけど、俺の行動理念と思考の大半は。

 あの記憶によって形成されていると言っても、過言ではないかもしれない。


「……馬鹿のくせに、よく見てんだな」


「ばっ、馬鹿じゃないですよーっ! こんなにも一緒にいるんですから、唯一無二の相棒ってやつですよ。もう、心の恋人も同然ですよねん」


 アンジェの軽口も、今の俺に暴言を返したり軽く流す余裕はない。

 ただ屋上の柵に手を乗せ、俯き気味で遠くの街を見下ろすばかり。


「それでそれで、どうなんですか? この完璧美少女ちゃんが癒してあげますよん」


「……言っただろ。俺が答えるかどうかは、内容によるって。お前のそれは、俺にとって最も答えられない質問なんだよ」


 俺は、まだアンジェのことを心から信用しているわけじゃない。

 そんな相手に、自分の心の一番深い場所を掘り起こさせたりはしたくなかった。

 俺の闇に、触れてほしくなかった。


「それに、お前だって自分のことを隠してんだろ。お互い様だ」


「むー、それもそうですけどぉ」


 できるだけ、誰にも話したくはない。

 話したところで何かが変わるわけでもないし、同情や心配なんか全く求めていない。

 そんなことをするくらいなら、自分の中で閉じ込めておいたほうがいいに決まっている。


 不満そうに唇を尖らせるアンジェに背を向け、校舎の中に戻る。

 再び顔を出してくる記憶に、顔を顰めて頭を押さえながら。



「……どう思ってるのか知りたかったけど……ま、しょうがないか」



 そんな諦めにも似た呟きが、後ろから聞こえた気がした。



     §



「あっ! もう、ルーチェ、どこ行ってたの?」


 急いで教室へ戻ってシンミアから貰った弁当を持ち、早歩きで校庭へ向かうと、俺が来たことに気づいたルナが非難を込めた声をあげた。

 ルナとロッタはベンチに腰かけ、膝の上に弁当を置いて昼食の時間を楽しんでいた……はずだが。

 お互いベンチの端と端に座っており、俺が来るまであまり会話らしい会話をしていなかったように思う。


「……仲、悪いの?」


 ほぼ無意識に、そんな問いが口から漏れた。

 するとロッタは立ち上がり、慌てて手を横に振る。


「ち、違うのよ!? あたしたち、基本的には仲いいの。基本的にはっ!」


「……基本的に?」


「妹の自慢話とか、うちのルーチェはあたしのここが好き、あたしはルーチェのここが好きっていう惚気とか、挙句の果てに自分の体の自慢までするのよ? 主に無駄肉の塊を!」


 思わず、口角が引きつるのを止められない。

 確かに自慢話とか惚気話とかばかりされちゃ、俺も少しイライラするかもしれない。

 どれだけ妹が好きなんだ、こいつは。


 ただ、ロッタの憎悪は主に最後に集約されていたような気がする。

 無駄肉……。よほど巨乳が羨ましいと見える。


「自慢なんてしてないよー。ルーチェが来るまで二人で話してようかって思って、話を振ってあげただけなのに」


「他にも、もっと何かあったでしょ……」


 ロッタは呆れて溜め息を漏らし、再びベンチに座る。

 ま、こうやって言い合いができるのも仲がいい証拠だろう。


 俺はそう結論づけ、ルナとロッタの間に座り。

 三人で、昼食を開始した。

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