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されど、見えない影よりも

 吹っ飛ばされたのにも関わらずしつこく起き上がるロボットたちに向けて、ロッタは白銀のトンファーを構える。

 これは……トイレでアンジェが言っていた〈武核クオーレ〉ってやつだろう。

 俺――というかルーチェの場合は篭手だったが、ロッタはトンファーが武器なのか。


 立ち上がり、覚束ない足取りで向かってくるロボットたちを睨みつける。

 相手は生身の人間じゃない。今のロッタの一撃程度じゃ、壊れるどころか僅かな時間稼ぎにしかならなかったようだ。


 どうして襲ってくるのか理由は分からないけど、ロッタだけに戦わせるわけにはいかない。

 だから、俺も武器を――と、思ったのだが。


 あれって、どうやって出せばいいんだ……?


 俺が篭手を顕現させたときは完全に無意識だったし、自分の意思で出す方法が分からない。

 こんなことなら、もっと詳しくアンジェから教えてもらっておくべきだった。


「何してるのよ、ルーチェちゃん! 早くしないと!」


「わ、分かってる!」


 ロッタに急かされ、俺は焦りながらもきつく目を閉じる。

 右腕に意識を集中させ、何度も脳内で強く念じる。

 本当にこれで上手くいく保証など、どこにもない。

 でも、今の俺にはこれくらいしか――。


「ふふっ、やっぱりルーチェちゃんはそれよねっ」


 ロッタの笑い声に訝しみ、目を開く。

 すると、俺の右腕にはあのときと全く同じの篭手が装着されていた。


 まさか、本当にできてしまうとは。

 慣れるまでにはもう少し時間がかかりそうだが、とりあえず方法は少し分かってきた。

 まずは、あの奇妙なロボット集団を――ぶん殴る。



     §


 それから、ほんの数分。

 ロッタと二人で、執拗に襲ってくるロボットたちを殴り飛ばし。

 やがて、ついに壊れてしまったのか動かなくなった。


「……全く。何だったのよ、一体」


 倒れたロボットたちを見下ろしながら、ロッタは苛立ちを隠そうともせずに言い、トンファーを消す。

 ルナと一緒に歩いているときに遭遇した二人の男は、ただ俺たちをナンパしただけだったとは思う。

 だけど、このロボットたちは、明らかに違う。


 もしかしたら、ルーチェが生きていることを知った何者かが、俺を襲うために……?

 あくまで、俺の推測に過ぎない。

 でも、もし本当なら、一体どこでそれを知ったのか。


 いや、ナンパしてきた男たちですら噂で聞いたと言っていたくらいだし、そうでなくても俺が普通に街を歩いているところを目撃した人なんて何人もいるだろう。

 いくら考えようと、現状じゃ容疑者を絞ることなど到底不可能か。


「ルーチェ君、ロッタ君、何があった!?」


 そんな思考に耽っていると、不意に俺たちを呼ぶ声がした。

 後ろを振り返れば、慌てて駆け寄ってくるリコルドの姿が。


「妙な物音がしたから来てみれば……一体、これは……?」


 倒れている十体ものロボットの残骸に気づき、怪訝そうに眉根を寄せた。

 ロッタが、つい先ほど起こった出来事を説明する。

 とはいえ、俺たちですらよく分かっていない状態で、困惑するばかりである。


 ロッタの説明を聞き、リコルドは自身の顎に手を当てて考え込む。

 そしてその場にしゃがみ込み、何やらロボットの様子を調べ始めた。


「量産型自動兵器――通称・AMpgA。君たちも知っての通り、我々は授業でこの機械人形を使用し、鍛錬に励んでいるわけだが。本来、こうして勝手に人を襲うことなどあるはずがない。あるとすれば、何者かが君たちに襲わせたのか……いや。だが、何のために……?」


 ボソボソと、リコルドは考察を口にする。

 そうか。ロッタはこのロボットたちを見たとき何か知っていそうな様子だったけど、それは授業で何度も見ているからだったのか。


 リコルドの考えが正しくて、本当に俺たちを狙って襲わせるようにしたのだとしたら。

 その理由は、やっぱり一つしかないだろう。

 俺たちを、じゃない。

 正確には、ルーチェが生きていることを知った者による、俺をピンポイントで狙い撃ちにした犯行だ。


 ついに動き出したと見て、間違いはないはずだ。

 そうなると問題は、誰がやったのか。

 ロボットたちがここにやって来たということは、俺がここにいることを知っていた者、ということになるのだろうか。


 ……あれ。

 もし、その推測が合っていたとしたら。

 ルーチェの命を狙っている、その何者かっていうのは――。


 ――この学校の中にいる……?


 いや、他のクラスは今は授業中のはず。

 だとしたら、同じクラスの誰か、ということになるのか……?


 まだ結論を出すには早い。

 ただ、これからも暫く学校生活を送っていくのだから、なるべく警戒はしておいたほうがよさそうだ。


「この問題は、他の先生方と話し合う必要がある。君たちも、くれぐれも気をつけておいてほしい」


「う、うん、分かった」


 リコルドの忠告に、俺とロッタは頷いて答える。

 そして、リコルドは急いで校舎の中へ戻っていく。


 学校生活くらい、もっと平和に過ごせると思っていたのに。

 ルーチェの姿になっても尚、俺には安穏は許されていないらしい。


「えっと……まあ、気になるけど、リコルド先生たちに任せてれば大丈夫よね」


「そう、だね」


 何だろう。少し、嫌な予感がする。

 まだ、この程度じゃ終わらないような。

 むしろ、今のはほんの序章でしかないような。

 そんな、胸騒ぎが――。


「ねえ、今日は一緒に帰らない?」


「……え?」


「ほら、あんなことがあったばかりだしさ。ルナちゃんと、三人で!」


「ああ、うん。もちろん、いいよ」


 ロッタの提案に、俺は笑って承諾する。

 胸騒ぎの原因は不明だが、今気にしていてもしょうがないか。


 それにしても、ロッタはルナとも知り合いだったのか。

 ま、二人とも誰とでも仲良くなれそうなタイプだろうしな。俺と違って。


 そうこうしていると、学校中に鐘が鳴り響く。

 一時限め終了のチャイムで、今から本来の休み時間が始まるのだろう。

 現に、さっきまで静かだった校舎は徐々に生徒たちと思しき喧騒が聞こえるようになってきた。


「よし、せっかくだからもっと遊びまくるわよ!」


 ロッタは叫び、俺の手を引いて駆け出す。

 本当に、明るくて元気でいい奴だ。


 俺は手を引かれたまま、無意識に口角を上げていた。

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