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第5話《再開と慣れない呼び名》

 街で一通り買い物を終わらせたところでエマさんが「そろそろ帰ろうか」と言ってきた。

 ギルドでの出来事がショックすぎてまともに街を見れずに終わってしまったのは本当に申し訳ない。


「すみません、エマさん…」

「やぁだ、謝らないで。誰だってショック受けるわよ」


 さすがにこのままでは申し訳なさすぎるので、気を取り直してエマさんに質問してみた。


「ところで召喚術師ってそんなにレアなんですか?」

「えぇ、世界全体で見たって20人もいないんだから。マシロはすごいのよ!だからそんなに気にしないでね」


 うっ…また気を使わせてしまった…


「は、はい。もう大丈夫です」

「それなら良かった!」

「そういえばこの街の名前って…」

「あらやだ、まだ言ってなかったのね。ここはウィートレードよ」


 ここはウィートレードという比較的大きな街で、ノルヴェール王国の南東に位置しているという。

 国境と国の中心部の丁度境目辺りにあり、特に治安が良いことで有名らしい。


 かなりいい街に転移してきたんだなぁ…そこだけは感謝。

 …あれ?そういえば私、フルネームが書かれた紙をエマさんに…


「ぁっ…」

「?どうしたの?」

「あ、え、エマさん…その、さっき測定したやつ…私…名前…」

「??名前がどうかしたのかい?」


 エマさんは不思議そうな顔でこちらを見ている。

 買い物袋を片手に持ち、先程の紙を広げてもう一度見てみるが…やはり名前の欄に谷崎真白とあった。


 ちゃんと見てなかったのかな…?


「い、いや何でもなかったです」

「もしかして具合でも悪く…」

「いや!大丈夫です!そのようなことは断じて!」


 迂闊だった。今回はとりあえずセーフ判定として、今度からは気を付けないと…


「大丈夫ならいいんだけどね。ほら、そろそろ着くよ」


 見えてきたのはエマさんのパン屋だ。よく見ると店の前に誰かがいる。


「…あ、おかえりエマさん」

「あんたリッタのとこの…リアだっけ?待たせて悪かったねぇ、寒かったでしょう」

「いや大丈夫。今着いたところだから。」

「そうかい?あ、そうだ今パン持ってくるからちょいと待ってておくれ。マシロはそこに荷物置いとくれね。」


 エマさんはそう言い残すと早々に家の中に入っていってしまった。

 残されたのは私とリアム君。


「えーっと…あ、家具。運んできてくれてありがとうございます。」

「これも仕事だから。」

「遠かったですよね。」


 リアムくんの傍には荷台と、荷台に繋がれた馬が一頭いた。

 エマさんに買ってもらった家具は既に下ろされている。


「リアム君…さん?も家具を作ってらっしゃるんですか?」

「一応ね。…敬語やめない?俺だけこれだと落ち着かないよ。」


 自分が敬語になるという選択肢は無いのかと思いつつ穏便に答える。


「でも私より年上でしょうし…」

「マシロだっけ?何歳?」

「17歳です。」

「俺は18。1つしか変わらないのに敬語なんて使われても困るよ。それに呼び方、リアでいいから」

「じゃあ…リアって呼ぶ」

「マシロは?何か呼び名とかないの?」


 おいおいおい見かけによらずよく喋るな。めっちゃ馴れ馴れしいじゃん。何か?この世界では普通なのか?


「うーん、特には…」


 名前自体が短いし特に呼び名はない。

 あるとすれば谷崎なので『谷ちゃん』とか『ざっきー』などと呼ばれていたこともあるが、今は真白としか名乗っていないので伝えるわけにはいかない。


「じゃあ俺が考えるよ。呼び名くらい無いと寂しくない?」


 いや別に。

 ここはどんなに短い名前でも呼び名を付けたがる世界なの?何その世界。


 心の中でツッコミを入れまくる私の前でリアム君改めリアはうーん、と考え込んでいる。

 そのうちに私を真っ直ぐ見て、こう呼んだ。


「シロ」


 私は犬じゃない。


「シロ…」

「どう?気に入らない?」


 気に入らないわけではない。わりと嬉しかった。

 ただ性分なのかついツッコミを入れてしまうんだ…許せリア…。


「ううん、嬉しいよ。ありがとうリア」


 そう答えるとリアは得意げに笑った。


 ここまでで私が貰ったものは大きく三つ。

 衣食住、家具、そして慣れない呼び名だった。

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