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第3話《腕のいい家具屋と少年》

 エマさんに案内されたのは二階の一番奥の部屋だった。


「ここは日当たりもいいからきっと気にいると思うよ。うちの子も昔からここがお気に入りだったからね」


 ドアを開けて中を見て納得する。南に面した部屋なのか窓からは日光がこれでもかというくらい入ってきている。

 角部屋だから2箇所に窓が着いているのも魅了的だ。


「こんなに良い部屋…本当にいただいてもいいんですか?」

「気にすることないよ。ここは元々うちの長女の部屋だしね。ここ十年くらい年に二、三回くらいしか帰ってこないんだ」


 なんでも長女さんは隣国で大きなパン屋を営んでいるそう。


「うちを継がせようとも思ってないし、あっちも帰ってくる気はないだろうしねぇ。お互いおかげさまで忙しいからさ」


 エマさんは長女さんを誇りに思ってるんだろう。

 より一層幸せそうに、ニコニコと笑いながら部屋の中に入っていく。


「一応いつも掃除はしてあるんだけど。娘が家を出る時に家具類は大体そのまま持ってったから、ベッドと備え付けのクローゼットくらいしか…」


 確かにガランとしている。


「とりあえず布団を干そうか。家具についてはまた考えるから。掛け布団持って着いてきておくれ」


 そう言ってエマさんは私に掛け布団とついでに枕を持たせた。

 エマさんは敷布団を軽々持って部屋を出ていく。慌てて私も着いて行った。


 エマさんに連れられてやってきたのは庭らしき場所だった。

 この家、大きいとは思っていたけどこんな広い庭まであるなんて…。


「じゃ、そっちの棒に掛け布団引っ掛けてくれる?枕はそこの網に置いてね」


 私が言われた通りに作業している間に、エマさんはさっさと敷布団を干し終わっていた。

 さすがである。


「ん〜、今日は一段と風が気持ちいいねぇ〜」


 エマさんが思いっきり伸びをする。


「最近じゃ魔物も出ないし、平和が続いてるんだよ。そのせいかねぇ」


 あ、魔物いるんだ。やっぱりファンタジーな世界観なんですね。


「あの、ここら辺ってどんな魔物が出るんですか?」

「ん?ここら辺かい?ここいらじゃキラーラビットとかブルーラット、それにドローススフォックス…あとは鳥系の魔物が数種ってところかね。細かいとこが気になるなら後で図書館にでも行ってみるといいよ。案内してあげるからさ」


 ふむ、やっぱりRPG的な名前がついているらしい。考える方も大変だなぁ…。


「ありがとうございます。そうさせていただくことにしますね」

「じゃ、図書館は後で行くとして…買い物にでも行こうかね。ついでに街を案内してあげるよ」

「いいんですか?」

「もちろんよ!ここは良い街だからきっとマシロも気に入るわ」


 エマさんは「じゃあ早速準備しなきゃね」と言って私の手を引き家の中へ入った。


「暖かくなったとは言え、まだこの時期は急に肌寒くなることがあるからこれを羽織っていきなさいね」


 エマさんが渡してきたのは大判の茶色いストールだった。


「じゃ、行こうかマシロ」

「はい、エマさん」


 エマさんに連れられて来た街の中心部までは20分ほどだった。

 その間にエマさんは色々な人から


「やぁエマ!その可愛い子誰?」


 やら


「おいエマ、どこでそんな可愛い子拾ってきた?」


 などと声をかけられており、その度に


「手を出すんじゃないよ!この子はあたしの可愛い可愛い4人目の娘なんだからね!」


 というような内容を返しており、かなり嬉しかったが少し恥ずかしかった。


「エマさんは色々な人と知り合いなんですね」

「そうかい?」

「えぇ。ここまでで随分多くの人に声をかけられていましたし」

「うちの街にはこんな可愛い子そうそういないから、珍しかったんだろうよ」

「そんなこと…」

「ま、これでうちの子だってことは認識させられただろうし結果的に良かったね。いくら可愛くても手は出してこないと思うよ。出したらあたしの拳が飛ぶからね!」


 アッハッハ!と、楽しそうに笑いながらそう言うエマさん。意外にもアクション系でした。


「は、はは…」

「おっと、目的地に着いたよ」


 エマさんは「リッタ!リッタいるかい!」と言いながら店らしき建物の中に入っていった。

 ドアはオープンなままなので中の様子が見える。


「エマじゃないか。珍しいな、ここに顔を出すなんて」


 そっと建物の中を覗くと、そこには長身の中年男性が立っていた。


 あの人がリッタさん?


「ちょっと欲しい家具が何個かあってね。ほら、あの子のを買いに来たんだよ」


 エマさんは私の方を見る。続けてリッタさんと思わしき人をこっちを見た。


「あ…初めまして。マシロといいます」

「随分可愛い娘さんを連れてきたじゃないか、エマ。どうしたんだ?この子」

「草原で拾ったんだよ。可愛いだろ?うちの4人目の娘さ」

「ちょ、草原って…。気にしない性格はいい事だと思うけど大丈夫なのか?誘拐騒ぎになったりしないよな?」


 リッタさんは普通に常識人らしい。エマさんが良い人過ぎて気にしていなかったけど普通はそうなるよね。


「あたしが大丈夫だって言って大丈夫じゃなかったことってあるかい?なかったろ?ん?」

「ま、まぁそれはそうだけど…」


 エマさんが挑むようにそう言うとリッタさんは言葉に詰まった。


 強いです。


「あ、えっと、マシロ?ちゃんだっけ。僕はこの家具屋の店主のリッタです。よろしくね」


 リッタさんは続けて言う。


「ちょっとビックリしたけどエマの連れてきた子なら大丈夫だろう。疑ってごめんよ」

「いえ、そんな…」

「さ、中へどうぞ。どんな家具をお探しですか?」


 いきなり家具と言われても…どんな物が必要かも考えてきていない。

 助けを求めるようにエマさんを見ると、エマさんはニコリと微笑んで答えた。


「そうさねぇ…まずはこの子一人分くらいの机と椅子。そこから考えようか」

「机と椅子ね。ちょっと待っててな」


 そう言い残すとリッタさんは奥の方に消えていった。


「マシロ、ここら辺の家具見てな待ってようか。何か気に入ったのあればあたしが買ってあげるからさ」

「えっ、そんな。さすがにそこまでは…」

「いいのいいの。家族が増えた記念よ」


 買ってもらうわけにはいかないけど、家具はちょっと見たかったので回らせてもらうことにした。


「あ…」


 店の中の家具はそれぞれが個性を持ち立派だったが、その中でも目を引いたのが何かのツルで編まれたテーブルランプだった。

 木の枝のような焦げ茶色を基調とし、ところどころ黄緑がかっている。

 丁寧に作られたであろうそれは、明かりがついていないのに暖かみを感じた。


 きっとランプはオレンジ色なんだろうな、なんて考えているとリッタさんが戻ってきた。


「お待たせ、これなんかどうかな?昨日出来上がった自信作なんだ」

「あら、いいじゃないの。マシロ、どう?」


 リッタさんが持ってきたのは、木の自然な色味が生かされたカントリー調の机と椅子のセットだった。


「わ…素敵…」


 私が思わずそう呟くと、リッタさんとエマさんは顔を見合わせて微笑んだ。


「じゃあこれ買おうかね」

「えっ!?いや…」

「あれ?気に入らなかった?」

「そ、そんなわけないです!とっても素敵です!…でも、私にはもったいなくって…」

「なら是非使ってよ。その方が嬉しいな」


 二人に言われてこれ以上断る方が申し訳ないと思った私は「じゃあ、すみません…お願いします」と答えた。


「お買い上げありがとうございます。それぞれ銀貨7枚と銀貨6枚です。…って言うところなんだけど、セットで買ってくれるから金貨1枚でいいよ」

「あら、そんなに負けて商売は大丈夫なのかい?」

「心配されなくてもおかげさまで十分儲かってるからな」

「じゃあお言葉に甘えて、はい金貨1枚ね」

「確かに。じゃあこれは後でうちの奴に運ばせるから夕方には家に戻っててくれな」

「あら、誰か雇ったの?それともついに奥さんでも出来たのかしら?」

「残念ながらうちの弟子だよ。僕も少し前に拾ったんだ。おい、リア!ちょっとこっち来てみろよ!可愛い子がいるぞ!」


 リア?…女の子かな。同い年くらいなら友達になれるかもしれない。


「何?リッタさん」


 だが出てきたのは男の子だった。恐らく歳はそんなに離れていないだろう。


「こいつが僕の弟子。リアムって言うんだ。いい名前だろ?僕がつけたんだ」

「あらまぁ。嫁もいないあんたが弟子とはねぇ…」

「関係ないだろっ!」


 エマさんとリッタさんが会話する中、私はリアム君と目が合う。


「初めまして、マシロです」

「俺はリアム。リッタさんがリアって呼ぶから女に間違われるけど男だから」

「あ、はは…」


 ちょっとムスッとしているところを見るとかなり間違われたらしい。


「リア、この家具後でエマの家に運んでおいてくれ。場所はわかるよな?郊外の方のパン屋」

「もちろん。この街じゃエマさんのパン屋を知らない人はいないよ」

「まぁまぁ、嬉しいこと言うわねぇ〜」

「それじゃ、また後で」


 リアム君はそう言うと奥に引っ込んでしまった。


「マシロ、あたしらもそろそろ行こうか」

「あ、はい」

「何だ、もう行くの?」

「マシロにこの街を案内するからね」

「なるほどな。ここはいい街だよ、是非楽しんでね!」

「ありがとうございました。そうさせてもらいます」


 私たちはリッタさんの家具屋を後にした。

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