第21話《大掃除→チート能力?発動》
ついにそれっぽくなってきました。
ダラダラ書きすぎてここまで長かった……。
私は帰宅し、その後すぐに三人で契約したばかりの物件に足を運ぶ。そこはエマさんのパン屋から五軒行った所にある石造りの一階建ての家だった。
私は受付で貰った鍵を差し込み、ドアを開ける。
ガチャ、ギィ…
「お邪魔しまーす…」
「あら、貴女の持ち物なのにお邪魔しますも何も無いじゃないの」
お姉ちゃんが可笑しそうに笑う。
「一年くらい誰も住んでなかったから結構汚れてるねぇ」
エマさんの言う通り、中は埃っぽく天井には所々蜘蛛の巣が張っている。備え付けの家具があると聞いたがパッと見た感じ劣化して今にも壊れそうだ。
これはまず大掃除だなぁ、と思いながら中に入る。
と、そこで私はある事に気付いた。
「…エマさん、この家…家って言うより…」
「あぁ、ここは元々飲み屋だったからね。店をやるのに大きな改造が必要無いから良いと思ったんだよ」
やっぱりだ。中に入ると大きな空間に胸くらいの高さの丸テーブルが数個置かれていて、左奥にカウンターがあり、その後ろには大きな棚があった。
「…そんな事まで考えてくれてたんですね、ありがとうございます」
ペコリ、とエマさんに頭を下げる。
「あらら、やめとくれよ!この店に人が入ってくれてあたしは嬉しいんだ。ここら辺には空き家なんて無いから、妙に寂しくてね…」
「エマさん…」
「そうよマシロ。それより掃除するんでしょ?」
「う、うん。出来れば早めに開店したいから今日にでも…」
「手伝うわ!」
「ほんと?ありがとうお姉ちゃん」
人手は多い方が良い。一人だと何日掛かるか分からない。
「あたしも手伝いたいんだけど店があるから…悪いね」
「いや、全然大丈夫です!」
「掃除道具は何でも持って行って良いからね」
「ありがとうございます!」
とりあえず三人で家に帰り、掃除用具を持ってお姉ちゃんと共に店に戻って来た。
「とりあえず窓開けよっか」
店にある窓を全部開け、空気の入れ替えをする。
「そしたら…まずは汚れを落とそう」
私はハタキとホウキを手に部屋中の蜘蛛の巣や壁の埃を落としていった。お姉ちゃんには奥のキッチンをお願いしてある。
粗方終わった所で要らない物の処分だ。備え付けの壊れかけのテーブルは処分、それからカウンター後ろの棚はまだ使えそうなので移動させたい。
「マシロ〜、埃は掃いたけどこの後どうする〜?」
「家具を移動したいから手伝ってー」
そう伝え、とりあえず一人で運べるテーブルなどを外に出そうと持ち上げる。
ヒョイッ
「わっ!?っとと、軽っ!」
結構重そうに見えたのだが、見た目に反してテーブルはかなり軽かった。それほど劣化してたのだろうか。
「私も手伝うわ」
戻って来たお姉ちゃんが別のテーブルに手を掛ける。
「って、重…い…マシロ、力持ちね…」
「え?」
「これ結構重いわよ…」
そこで私はステータスの事を思い出した。あの時から少しはレベルアップして体力などが上がっているかもしれない。魔力以外は平均以上らしいので、もしそうならテーブルが軽いのにも納得が行く。
「ハァ、ハァ…終わったわ。次は何する?」
「えっと、そこの棚をキッチンの方に移動させたいんだけど」
「それなら任せて」
そう言ってお姉ちゃんは床に手を着く。と、同時にメキメキッという音がして床から根の様な物が伸びてきた。
「えええっ!?」
驚く私をそのままに、お姉ちゃんはキッチンへの扉を開けて棚を移動させる。棚には太い根が沢山絡み付いて持ち上げていたのでそのまま根を伸ばして移動させたのだと思う。
「終わったわよ」
お姉ちゃんは両手を叩いて埃を払いながらそう言った。その横には未だ太い根がある。
「お姉ちゃん、それ…」
「え?あぁ、今消すわね。ちょっと掃除が大変になっちゃうけど許してね」
お姉ちゃんは根に触れる。その瞬間、サァッ…と根が消える。床に穴が空いた形跡もない。
「お風呂の時も思ったけど、どうやってやってるの?」
「風化よ。もう出しちゃった物は自然には無くならないから風化の魔法を掛けるの。これも地魔法ならではなのよ!」
お姉ちゃんが自慢げに言ってくる。空気にふわりと溶けて無くなっているように見えたのは風化だったらしい。
「それで、この後どうする?」
「あ、えっと、そうだなぁ…」
やる事は沢山ある。だが順番を間違うと後々面倒になる事もあるから慎重に考えなければならない。
「天井の残りの細かい埃は私が風で飛ばすから、壁をブラシで水洗いして欲しいかな。乾燥は最後にやるからそのままでいいや」
そう言って私はバケツに魔法で水を入れる。
「分かったわ!」
お姉ちゃんはそう言うなり早速取り掛かってくれる。ありがたい。
私も早速作業に取り掛かる。
二人で無心で壁を洗うこと数時間、日が傾いてきた所でやっと終わった。
「はぁ〜っ…疲れたぁ〜」
「やっっっと終わったぁぁ…」
お姉ちゃんが出した木の根に二人で座って一休みする。この作業かなり腰と腕にクる。
「はぁ…でも予想してたより全然早く終わって助かったよ…本当にありがとう…」
「お役に立てたなら良かったわぁ…」
常にパワフル!って感じのお姉ちゃんも流石にグッタリしている。非常に申し訳ないので最初のお客様はお姉ちゃんにしよう。それで全部私持ちにしよう。…今、借金まみれだけど。
「んーっ…あ、そろそろ夕飯の時間ね」
伸びをしてお姉ちゃんがそう言った。確かにそろそろお腹が空いてきた。
「うん、今日はここまでにしとく」
「続きはまた明日…って言いたいんだけど明日は仕事なのよね…ごめんね」
お姉ちゃんが申し訳なさそうに言う。
「全然!むしろ貴重な休日にこんな手伝って貰っちゃってごめんね」
「それは私が好きでやったんだから良いのよ。さ、とりあえず帰りましょ」
「うん」
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「いらっしゃ…あら、おかえり」
「ただいま。もう閉める?」
「予約のお客さんが来る筈だから、それが来たら閉めるよ」
「わかったわ。それまで明日の仕込み手伝うわね」
「ありがとう。ところでマシロ、掃除は捗ったかい?」
「お陰様で明日一日やれば掃除は終わりそうです」
「そうかい!そりゃ良かった!」
「夕飯までゆっくりしててね、出来たら呼ぶわ」
お姉ちゃんはそう言って工房に行ってしまった。
手伝いたかったが勝手の分からない人間がちゃんとした料理を作るのは流石にアレだと思ったのでお言葉に甘えて部屋に戻る事にする。
「ありがと、じゃあまた後で」
二階へ上がり部屋のドアを開け、そのままベッドにダイブ──したかったが少し埃っぽかったので思い留まった。とりあえずエマさんに貰ったお下がりの服に着替え、ハーフアップにしてた髪を崩し一つにまとめる。折角やって貰ったけど仕方無い。
「ふぅ…」
さて、今やらなければやらない事は三つ。
店の掃除、店の開店、それから召喚魔術を使用できるようになる事。
とりあえず今は召喚魔術の練習をする。
「このレシピ?は、その内作るとして…こっちだよね」
私はカタログと書かれた別冊を取り出す。
「そう言えば魔力も通してないのに何故かミネラルウォーターはあったよなぁ……あ、増えてる」
捲った1ページ目には
《ミネラルウォーター》
・しっかり浄化された綺麗な水。無味。
【内容量】500ml
【必要MP】1
《醤油》
・大豆等を原料として発酵させた液体調味料。
・塩気が強い。
【内容量】1L
【必要MP】5
《味醂》
・本みりん。
・焼酎にもち米・麹を加えた醸造酒で混成酒。
・甘味が強く調味料として用いられる。飲用可。
【内容量】1L
【必要MP】5
《料理酒》
・料理専用の酒。飲用不可。
【内容量】1L
【必要MP】3
《酢》
・酸味のある調味料の一種。
【内容量】1L
【必要MP】6
「醤油あるの嬉しいな〜。やっぱ日本人は醤油なきゃダメだよね」
続いて2ページ目に視線を移す。
《白砂糖》
・甘味のある調味料の一種。 糖の結晶。
【内容量】1kg
【必要MP】2
《塩》
・塩味を付ける調味料。多種多様に使用される。
【内容量】1kg
【必要MP】2
《黒胡椒》
・未熟なツタ植物の実を乾燥させた香辛料。
・香りが強く多様に使える。
【内容量】100g
【必要MP】3
《白胡椒》
・完熟したツタ植物の実を乾燥させた香辛料。
・香りは薄く、食品の味を引き立てるのに使う。
【内容量】100g
【必要MP】4
《味噌》
・大豆等に塩と麹を加えた発酵食品。
・塩気が強い。
【内容量】500g
【必要MP】4
「こっちは固形の調味料?かな」
ところで気になる事がある。このそれぞれ横に書いてあるマークだ。
「まさか、ね…いやアレだけ大変大変って言ってたしそんな…」
そうは言いながらも恐る恐るミネラルウォーターの横にあるマークに魔力を込めた指で触れてみる。
するとそのマークが発光し、そのすぐ後にもう片方の手を置いていた下、机の上に大きくなった同じマークが現れた。驚いてサッと両手を引っ込める。
「!」
声も発さない内にマークの上には見慣れた円錐の容器が出現していた。
「ぺ、ペット…ボトル…」
そう、よく見るペットボトルに入った水だった。ラベルには美しい山が描かれている。
見たままの大きさは500ml。この”カタログ”と全く同じだった。
「もっと難しいと思ってたのに、こんなにあっさり…?」
正直、図書館で読んだ本に心を砕かれて、この世界で召喚魔術を使うのを若干諦めていた。
本当に飲めるのか確かめる為に慣れた手付きで蓋を開け、飲み口を口元に近付ける。
ゴクッ
「………水」
当たり前の事だがつい口にしてしまう。まさかこの世界でペットボトルに入った水を飲めるなんて思ったいなかった。と言うか既製品のまま出てくると思わなかった。
「つまり、他の物も同じ感じで出せる…」
やっぱりこれはマークではなく魔法陣。しかも本で読んだ通りなら、始めからしっかり私に合わせて作られた魔法陣…。
「ふ、ふふふ…やっと、やっとチート能力だぁ〜〜っ!!」
ここに来てやっと、何も勉強せずに召喚魔術が使えるという異世界感溢れるチート能力を手に入れた。
能力と言って良いのかはよく分からないがとりあえず恐らくチートなのだ。
この世界には異世界らしく調味料類が少ないと思われる。塩以外もあるけどやたらと高額だ。
「これなら本当に料理人として生きていける!…気がする」
そんなに甘くない?いえいえ私異世界転移者ですよ?チートして稼ぐくらいしなきゃ割に合わないですって。今のところ、JKにしては借金過多だし。
「これってレベルアップしたら増えてく仕様なのかな?ステータスも見たいし明日は朝イチでギルド行かなきゃ!」
やる気に満ち溢れながら今後の予定を立てていたが、下から夕飯が出来たと声が掛かったので中断してリビングに向かった。




