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第20話《商業ギルド登録》

しばらく間が空いてしまいすみませんでした。

 商業ギルドはマルシェを抜けた先にあった。それなりに大きい二階建ての建物だ。


「あたしはこっちで手続きしてくるから、二人はそっちでギルド登録しておくれ」

「分かったわ。マシロ、行きましょ」

「うん」


 お姉ちゃんに促されて二つ隣の受付に移動する。


「こんにちは、この子のギルド登録をお願いしたいのですけれど」

「畏まりました、では此方の書類に必要事項のご記入とサインをお願いします」


 受付の女性に紙と羽ペンを渡される。

 書類内容はいくつかの記入項目と商業ギルドに登録する上での同意項目だった。


「えーっと?職業、経営内容、店舗形態…」


 私は自分の職業を思い出す。召喚術師でいいのだろうか。それってこの仕事に関係無いのではないだろうか。


「あの、この職業って…」

「そこに書かれた職業がお客様のステータスの職業欄に追加されますので、今お考えの職業をご記入ください。後々変更があればどの項目も更新が可能ですのでご安心くださいませ」


 受付の女性は丁寧に説明してくれる。

 更新出来るならとりあえず今は、と私は料理人と記入した。


「経営内容…は、飲食店でいいのかな」

「うーん、どちらかと言えば飲食業かしらね?」


 横からお姉ちゃんが訂正してくれたのでそれを書く。


「この店舗形態っていうのは…?」

「商業ギルドでは移動店舗、小規模店舗、中規模店舗、大規模店舗の四つの種類に分けられています」


 受付の女性は説明を続ける。


「移動店舗は行商人や屋台など、特定の店舗を持たない店舗形態です。小規模店舗は個人経営レベルの店舗のことで、中規模店舗、大規模店舗となるに連れて店舗数と従業員が増えていきます」


 ほー、なるほど。


「小規模店舗は店舗数一軒で店主含めた従業員5名まで。中規模店舗は店舗数二〜五軒、もしくは店主とは別に従業員が6〜30名まで。大規模店舗は店舗数六軒以上、もしくは従業員が30名以上と定められています」


 一度も突っかからず、噛むこともなくスラスラと受付の女性は言い切りそこで説明を終えた。今のところ滑舌王者だと思う。


「ありがとうございます、じゃあ私は小規模店舗ですね」


 そう返しながら記入し、下の同意項目に目を通す。契約書は隅から隅まで目を通せ、と施設のお母さんに口酸っぱく言われたものである。

 契約内容を簡単に要約すると、


 ・登録の際に登録料が掛かること。

 ・年会費が掛かること。

 ・年会費は店舗形態によって変わること。

 ・年会費は登録日から一年以内に支払うこと。

 ・儲けの5%を税金としてギルドに納めること。

 ・税金は月末に支払うこと。

 ・以上を違反すれば商業ギルドからの除名処分、または罰金が掛かるので気を付けること。

 ・犯罪を犯すと内容によっては登録抹消だけでなく以後登録禁止になること。

 ・個人の諍いにギルドは責任を負わないこと。


 らしい。

 同意項目にチェックを入れ、最後に自分の名前を書いた。


「これで大丈夫ですか?」

「えーと…はい大丈夫です。では登録料と年会費を先にお願い致します。お客様は小規模店舗ですので…登録料銀貨3枚と合わせて銀貨8枚です」

「あ…」


 そういえばお金なんて持ってない、と思ったがお姉ちゃんが立て替えてくれた。借金が溜まっていく。


「少々お待ちくださいませ」


 受付の女性はそう言い残すと後ろの棚からカードのような物を取り出し、何かゴソゴソとやってからこちらに向き直った。


「では商業ギルドの簡単な説明をさせて頂きます」

「はい」

「商業ギルドは国を超えて繋がる大規模組織です。人種差別は致しません。大は小を兼ねる、ということで小規模店舗形態でも移動店舗と同じことをして頂いて結構です。登録解除の際には商業ギルドでの手続きをお願いします」

「分かりました」

「ではこちらがお客様のギルドカードになります。身分証明書になったり入国税免除になったりするので無くさないようお願いします。再発行には銀貨一枚掛かりますので」


 そう言われて渡されたのはICカードくらいの光沢のある白い木製のカードだった。名前と職業、それから赤色の丸い封蝋のようなマークが施されている。

 手に持ってみると、何故か裏がほんのり温かい。ひっくり返して裏を見てみると、正方形の中にマークが入った焼印が押されていた。


「これは…?」

「飲食店のマークよ」

「飲食店の?」

「えぇ、経営内容が大まかにマーク分けされてるの。表のは店舗形態で色分けされてるのよ」

「一覧表ありますのでよろしければどうぞ。マークについて詳しく載っていますので、ご覧になってみてください」


 受付の女性が一枚の紙を差し出してきた。マークについての一覧表らしい。


「ありがとうございます」


 受付の女性から紙を受け取ったところでエマさんから声が掛かる。


「終わったかい?」

「終わりました。エマさんの方は…」

「あぁ、マシロが決めなきゃいけない所もあるから呼びに来たんだよ」

「そうだったんですね、分かりました。じゃあ、ありがとうございました」

「またいつでもどうぞ」


 受付を後にし、エマさんが居た受付に移動する。


「で、ここなんだけど。どっちが良いとかあるかい?」


 エマさんが指差すのは”ローン/一括”と書かれた欄。


「あたしが一括で払おうと思ったんだけどねぇ、流石に承諾得ないとダメだと思って」

「!?いや、私がローンで払いますから!」


 言い出したのはこの二人でも、この先やっていくのは私なんだから私が払うに決まってる。買って貰った店で経営なんてどこの甘ったれ嬢ちゃんだろうか。


「うーん…本当にいいのかい?」

「勿論です」

「そんなに言うなら…。ところで返済間隔はどうする?それから何回払いにしようかね?金貨50枚だからそれなりに早く返せるとは思うけど」


 エマさんは”ローン”に丸を付けながらそう言った。


「きっ!?…んか、50枚…」


 私の感覚で50万。家にしては破格の値段だけど一文無しの今の私には辛すぎる。


「………一ヶ月間隔の50回払いでお願いします…」


 しっかりガッツリ働こう。そう心に決めた日でした。



 ▶••┈┈┈┈••◀▶••┈┈┈┈••◀



「…あ、すみません先に戻ってて下さい」


 三人で帰宅途中、ふとある事を思い出して二人にそう告げた。


「何かあるの?」


 お姉ちゃんが聞いてくる。


「ちょっと図書館に寄りたくて…」

「分かったわ、じゃあ先に戻ってるわね」

「うん、ありがとう」


 二人と別れて、昼間教えて貰った図書館へ方向転換する。しばらく歩くと図書館が見えてきた。


「う…わぁ…」


 大きさはよくある市営図書館と変わらなかったが、木造建築で中央が二階まで吹き抜けになっていた。

 手すりや本棚には美しい彫刻が施されている。

 何と言っても本が○リー○○ターみたいなtheファンタジー感溢れる物で興奮が止まらない。


 あぁ、私本当に異世界に居るんだ…異世界より異世界感がある…魔法世界最高…。


「じゃ、なくて早いとこ探して帰らないと…」


 私は魔導書の使い方…というより召喚術の使い方が書かれた本を探しに来た。一応職業召喚術師なのに使い方がサッパリな上に周りに知ってそうな人が居ないから本に頼るしかない。


「うーん…そうは言っても場所の目処が立たないなぁ…」


 誰かに聞けないか、と見回すがこの時間だからか人が居ない。そんな中、ふとカウンターがあるのを見付けた。カウンターには人が一人、本を読み耽っていた。恐らく職員だと思うが、此方が近付いても全く視線を上げようとしない。


「あの…」


 恐る恐る声を掛ける。


「…あ、はい?すみません、何かご用ですか?」


 そこでその人はやっと顔を上げた。フードを被ってたので分からなかったが女性だった。女性の息を呑む程美しい青紫の瞳と目が合う。見た事が無いような美しさについ凝視してしまった。


「あのー、ご要件は?」


 女性に声を掛けられハッとする。やばい、私、不審者だ。


「す、すみません。召喚術の使い方とか書かれた本ってどこかにあったりしますかね…?」

「あぁ、それなら魔術のコーナーですね。そこの階段上って右です。どうぞごゆっくり」


 女性は簡単に場所を言うとまた読書に戻ってしまった。とりあえず場所が分かったので言われた所を探してみる。そこには様々な魔法に関する書物が保管されていた。どの本も背表紙では分からないので一冊ずつ表紙や中を見て確認していく。


「…あ」


 二十冊程確認してようやくそれらしき本を見付けた。表紙には”初めての召喚魔術”の文字。

 その本を持って窓近くの椅子に腰掛け、ペラリとページを捲る。


 ”まず始めに、召喚術師とは才能が無ければなることが難しい職である。才能の無い者がなろうとするなら並大抵の努力では無理だ。それでもなろうとする貴方の為に分かりやすく解説するのがこの書だ。是非頑張って欲しい。”


 へー。


 ”【召喚術師とは】

 ・召喚術師に似た召喚士という職があるが別物。

 ・召喚士はそれなりに数が多く、一つの召喚魔術を用いて魔物や精霊などを従者として召喚する者。

 ・一方召喚術師はその難しさから希少であり、多数の召喚魔術を用いて対象に応じて何でも召喚する者。”


 他にも召喚士って職があるんだね。つまりサモナーって事だよね、カッコイイ。


 ”【召喚魔術について】

 ・召喚魔術では特定の道具を用いた儀式か、魔法陣を必要とする。

 ・そこに魔力を流すと召喚魔術が発動する。

 ・一見簡単そうに思えるが、儀式では一寸の狂いも許されない。魔法陣では多少狂ってもいいが、対象を召喚する為の文字列やマーク、その配置、最小魔力で済み尚且つ自分の魔力に合う物を考え作らなければならない。多大な知識を必要とする。”


「うげぇ…」


 つい苦い声が漏れる。正直勉強は好きではない。興味のある事ならいくらでも脳に詰め込めるが、それ以外となるとすぐに飽きてしまう。


 ”召喚術師、とは言っても召喚の対象との相性はある。どんなにやっても召喚出来ない物も一定数存在する。”


 万能じゃないじゃん…さっき何でも召喚するって書いてあったくせに。


 ”そこでまずは簡単な魔法陣の形から覚えていこう。”


 お、参考書っぽい。


 ”【基本の魔法陣】

 ・正確な二重の円を描き、中に必要な記号と文字を書き込む。

 ・五芒星を陽、六芒星を陰とし───”


「………」


 飽きた。


 何だか嫌になってしまった私は本を元の場所に戻し、一階に下りた。

 チラッとカウンターの女性を見る。先程は瞳の印象が強く気付かなかったが、女性自体も整った顔立ちをしている。緩いウェーブの髪はグレーで、その顔立ちに映える。


 本当に綺麗な人だなぁ…。


 そう思いながら足早に図書館を後にした。


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